表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/26

♪04 自信を持つための方法

2021年10月11日(月)


 自信を持つための方法は何か。それはとにかく努力することだ。例えば、人前で歌う時に自信を持ちたいなら、普段から歌っていればいい。そうした努力を続ければ、自信を持つことができる。そんなことを誰かが言っていた気がする。

 でも、僕は本当にそうだろうかと疑問を持っている。人は誰しも、できないことに対して自信を持てない。そして、いくら努力しても、できないことなんて世の中にはたくさんある。今できないことが、いくら努力してもできないとしたら、どうだろうか。僕は、ますます自信をなくしてしまうと思う。

 今日は嵐達とカラオケに行く約束をしている。僕は九時に起きると、洗面台で顔を洗ってから寝癖を直した後、部屋に戻って服を着替えた。それから、何故か昨日外れてしまったネックレスについては、改めて鎖や留め具を入念に見て、問題ないことを確認してから着けた。

 その時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。こんな時間に誰かと思いつつ、返事をするとドアが開いた。そこにいたのは、昨夜民宿に泊まった光だった。

「太陽君、おはよう。今日って休日でしょ? この辺りの案内とかしてくれないかな?」

 あまりにも唐突というか、そもそも民宿とここは建物が別だし、普通は客がこうしてやってくることなんてない。恐らく、光が僕に会いに来て、それを両親が通したんだろう。

「いや、何で僕が案内しないといけないんだよ?」

「別に、私みたいな美人とデート気分が味わえるんだし、いいでしょ? ただ、私には彼氏がいることを忘れないでね」

 昨夜、少し話した時点で気付いたけど、光は相当なナルシストみたいだ。でも、改めて光を見た時、美人という表現は一番適格なように感じた。

 美人と呼ばれる人の基準はわからないけど、目も鼻も口も整っていて、美人と呼ばれる人の特徴をそのまま形にすると、光の顔に近いものができる気がした。茶色に染めたショートヘアもキレイだし、青いピアスを着けた耳とのバランスも良く見える。女性にしては背も高い方でスタイルもいいし、芸能人やモデルだと言われても納得できるほどだ。

 ただ、性格に難ありということで、僕が光に惚れることは絶対にありえなかった。今この瞬間ほど、異性に対する好き嫌いを外見じゃなくて内面で決める性格で良かったと思ったことはないかもしれない。

「悪いけど、この後友達とカラオケに行くから、無理だよ」

「それじゃあ、しょうがないね。私も一緒にカラオケ行くよ」

「……は?」

 光が何を言ったのか、理解するまでに多少の時間がかかった。

「カラオケって、大勢で行った方が楽しいでしょ? それに私は天才だし、何の問題もないでしょ?」

「いや、おまえの言動には問題しかないからな」

「会ったばかりの女性を『おまえ』なんて言わないでよ! モテないよ?」

 心の中で言ったつもりだったのに、思わず声に出ていた。随分と面倒な人と知り合ってしまったなと思いつつ、今から赤の他人になることはできないと諦めた。

「悪かった。十時に友達が車で迎えに来るから、その時に聞いてみるよ。断られたら、諦めてくれ」

「絶対に断られないから、しっかり支度しないとね」

 光の自信はどこから来るんだろうか。単純にそんな疑問を感じたけど、恐らく月か嵐が断ってくれるだろうと思って、楽観的に受け入れた。

 それから軽めの朝食を取った後、適当に時間が過ぎるのを待った。そうしていると、待ち合わせの十分前ぐらいに月が来た。

 月は性格なのか、いつも待ち合わせ時間の前に来てくれる。僕は時間にルーズというか、集中していると時間を忘れる人なので、こうして前もって来てくれるのはとても助かる。

「太陽さん、おはようございます」

「ああ、おはよう。そういえば、今日って誰が来るか知っているか?」

 基本的に誘われれば行くといったスタンスなので、誰が来るかというのは実際に行ってからわかればいいと、普段確認していない。でも、今日は光が行きたいだなんて言っていたし、知っているなら聞いておきたかった。

「はい、今日は太陽さんと嵐さんと私の三人ですよ」

「三人だけなのか?」

「えっと……嫌でしたかね?」

「嫌ってわけじゃないけど、僕はあまり歌わないし、月もそんな歌う方じゃないよな?」

「はい、そうです」

「それだと、嵐の単独ライブみたいにならないか?」

「やっぱり、もっと誰か誘うべきでしたかね?」

 月の聞き方は、違和感を覚えるものだった。何というか、今日誰が来るかという部分について、てっきり嵐が決めたと思っていたけど、月に決定権があるかのようだった。ただ、そんな違和感を払拭するより、今は別の問題を先に考える必要があった。

「太陽君、カラオケに行くのは十時って言ったよね? 少し早くない?」

 そんなことを言いながら、光がやってきた。月は突然現れた光に驚いた様子を見せた。

「えっと……どなたでしょうか?」

「ああ、昨夜から民宿に泊まっている……」

「私は光だよ。よろしくね。君の名前は?」

 僕が紹介する前に、光は自ら名乗るだけでなく、相手の名前を聞くというのをスムーズに行った。それを見るだけで、光は人付き合いが得意だとわかった。

「あ、その……私は月と申します」

「ルナちゃん? へえ、珍しいし、可愛い名前だね」

「あ、ありがとうございます」

「ところで、さっきカラオケに行くって話を太陽君から聞いたんだけど、私も一緒に行っていいかな? 私、今は旅をしているんだけど、こうしたきっかけで色々な人と交流できたら嬉しいと思っているんだよね。ああ、無理とか迷惑とかなら、大丈夫だからね」

 話の運び方も上手で、こんな風に言われてしまったら、月がどう返すかはわかり切っていた。

「はい、是非来てください。丁度、もっと誰か誘った方が良かったかと話していたところだったんです」

「本当にそうなの? 気を使っているなら、断ってくれてもいいよ?」

「いえ、今日は太陽さんと……この後来る嵐さんと、私の三人だけでしたから」

 月の言葉を聞いて、光は何か思うところがあったのか、妙な表情を見せた。それから、僕の顔を見た後、右のこめかみに右手の指先を当てるような動作をした。

「ごめん、KYだったね。今日は遠慮するよ」

「え、どうしてですか? 是非来てください!」

「うーん……じゃあ、そういうことなら行こうかな」

 さっきまで押し気味だった光が急に引いていて、僕としては意味がわからなかった。

「急にどうしたんだ?」

「太陽君もKY……というより、鈍いね」

「は?」

 光が何を言っているのか、全然わからなかったけど、変に詮索して角が立つのも嫌だし、ここで話は終わりにした。

 とりあえず、光が来るのを断ってくれると期待していた月は、光を歓迎してしまった。後は嵐に賭けるしかないけど、この時点で、もう僕はほとんど諦めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ