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♪03 人との出会い

 人との出会いというものは、全部意味がある。意味のない出会いなんてものはない。気が合う人、気が合わない人、様々いるけど、そうした一人一人との出会いに意味があるから、全部大事にするべきだ。そんなことを誰かが言っていた気がする。

 夕方になったところで、今日のバーベキューは終わりになった。といっても、ある程度肉を食べ終わってからは、酒を飲みながら雑談するという、ダラダラした時間を送るだけだった。

 そんなことなら、家の手伝いをした方がまだマシだったんじゃないかなんてことも思ったけど、そこは人付き合いも大事だと割り切った。

 片付けも終えて解散する時、嵐が僕に話しかけてきた。

「太陽って、明日も暇か?」

「まあ、明日も休みだし、暇だけど?」

「だったら、カラオケに行こうぜ!」

 僕は歌うことが苦手だから、カラオケに行くのは断りたいところだ。ただ、既に暇と言ってしまったし、上手い断り方が浮かばなくて、諦めた。

「ああ、いいよ」

「それじゃあ、俺が車を出すから、十時に迎えに行くぜ」

「了解。寝坊しないようにするよ」

「あと、月も誘うから、よろしくな」

 月のことをあまりよく知らないけど、どう考えてもカラオケに行くような感じじゃないってことは流石にわかる。それなのに、月も行くと言われて、意味がわからなかった。でも、変な詮索は避けて、全部了承しておいた。

 それから、帰りは家が近いので、月を家まで送ることになった。

「太陽さん、今日はありがとうございました」

「いや、別に僕は何もしていないけど?」

「火起こしを率先してやってくれました! それに、お肉を持ってきてくれました!」

「まあ、それはしたけど……じゃあ、どういたしまして」

 そんなことで礼を言われる意味がわからないけど、月なりに気を使ってくれているんだろう。

「そういえば、明日はカラオケに行くって言っていたな」

「そうですね」

「月はカラオケとか、好きなのか?」

「……いえ、歌は苦手で、あまり行かないです」

 月の答えは、僕の予想通りだ。それでも行くってことは、僕と同じ理由で、上手く断れなかったんだろう。

「まあ、人付き合いって大事だし、時には行きたくないところに行く必要もあるよな」

「あ、いえ、別に行きたくないわけじゃないです。あまりそういったところへ行ったことがないので、前から行きたいと思っていましたし、苦手ですけど歌も頑張りたいです」

「そうなのか?」

 そんなチャレンジ精神があるなんて思っていなくて、驚いてしまった。やっぱり、僕は月のことを全然知らないってわけだ。

「僕はカラオケというか、歌うのが苦手だから、億劫おっくうに思っているし、付き合いとして行くって感じかな」

「え、太陽さんの歌、すごく素敵だと思いましたよ?」

 そんな風に返されて、僕は何を言われたのか、よくわからなかった。

「僕が歌っているところ、月は見たことあったか?」

「あ、その……太陽さんの声、素敵なので、きっと歌も素敵だと思ったんです! あ、いえ、それも違いまして……」

 月は焦った様子で、わけのわからないことを言い続けた。というか、そもそもで焦る理由がよくわからなかった。

 そんなやり取りをしているうちに、月の家に到着した。

「送ってくれて、ありがとうございました!」

「まあ、別に近いからな。明日もよろしく」

「はい、よろしくお願いします!」

 月と別れて、僕は色々と何だったのかと思いつつ、考えてもわからないから、すぐに考えるのをやめた。

 ただ、そこでふと首に手をやったところで、僕は気付いた。そこに、鎖の感触がなかった。

「は?」

 驚きのあまり、思わず声が出てしまった。いつも着けているネックレスがなくなっている。そのことを認識すると、僕はバーベキューをした河原まで全力疾走で戻った。

 どうしてネックレスが外れてしまったのか。何か対策することはできなかったのか。薄暗くなってしまった今、見つけることはできるのか。そんな疑問が頭の中でグルグルと回りながら、僕はとにかく走った。

 河原に着くと、僕は自分が今日どう移動したかを可能な限り思い出そうと記憶を探った。でも、河原なんてどこも小石だらけで、しらみつぶしに全部探すしかない状態だ。

 それでも、あのネックレスだけは絶対に見つけたい。ただそれだけを願った。

 すると、そんな願いが届いたのか、何かに反射するように光った部分があった。急いでそこに行くと、探していたネックレスが落ちていた。

「……良かった」

 僕はネックレスを拾うと、鎖や留め具に異常がないか確認した。でも、特に鎖が切れたわけでも、留め具に問題があったわけでもなく、見れば見るほど、何で外れてしまったのかという疑問が大きくなった。

 その時、突然女性の叫び声みたいなものが聞こえてきて、僕はそちらに目を向けた。視線の先には、上を向いて声を上げている女性がいた。彼女は、心なしか小さく見えるギターケースを背負っていて、近くにはキャリーバッグが置かれていた。

 彼女は、しばらく声を出し続けた後、深呼吸をしてから、何かテンポを取るかのように軽く手を振った。すると、彼女は、アカペラで歌い始めた。


  夢を持ったこと 何度もあったけれど

  本気で目指した夢 あったか覚えてない


 僕は異様な光景に驚いたのと、どこか彼女の声に惹かれて、その場から動けなかった。


  10年後僕はどんな風に

  変わってるかなんてわからないけれど

  いつか未来の僕が夢を目指してたと

  言えるように今 夢を目指してる


 彼女の歌を聞いて、僕は今、何をしているんだろうかと疑問を持った。未来に向けて何もしていないし、何か夢を目指しているわけでもない。そんな自分が責められているような気分になってしまった。

 そこで、彼女は僕に気付くと、歌うのをやめた。もっと彼女の歌を聞きたいと思っていたから、急に止まって驚いたし、もしかしたら僕が邪魔してしまったかもしれないとも感じて、何も言えなかった。

「もしかして、私に惚れちゃったかな?」

「は?」

「ごめんね。私、彼氏がいるから君とは付き合えないの」

「いや、全然違うんだけど……」

 彼女の言葉は、とても僕に理解できるものじゃなかった。

「それじゃあ、私の歌声に惹かれたってことかな?」

「……別に、こんなところで歌っている人がいたから、何だと思っただけだよ」

 彼女の歌声に惹かれたというのは、間違いじゃない。ただ、自信満々に言ってきた彼女の言葉を認めるのは嫌で、適当にそんなことを言っておいた。

「まあ、私もこんな田舎の河原で、誰か来るなんて思っていなかったからね」

「ちょっと待て。かなり失礼なことを言っていないか? 一応、この辺に住んでいる身として、許せないな」

「へえ、ここはそんな素晴らしい場所なんだね。じゃあ、どれだけ素晴らしいか説明してよ」

 そんなことを言われたけど、僕は言葉に詰まってしまった。ここが田舎で、都会に比べて不便な場所だという自覚はある。買い物をするにも店が近くにないとか、仕事をするにも職場へ行くのに車が必須になるとか、そういったことが都会だと少ないことも知っている。

 そうして、答えに迷っている僕を見て、彼女はわかりやすいほど深いため息をついた。

「自然が多いからだと思うけど、空気が美味しいし、夜になればキレイな星が見えるでしょ? それに人が少ないから、自由に声を出せる場所がたくさんある。これは、君に聞かれちゃったから、今後気を付けないとね。それと……上手く言えないけど、私はこの場所が好きだよ」

 僕が言えなかった、この場所の良さを彼女はあっさりと言ってみせた。

「まあ、私がこの場所に来るのは、十年振りの二度目なんだけどね。それでも、私はこの場所が好きだよ。君は好きじゃないのかな?」

 彼女の質問に、僕は何も答えられなかった。ここに来るのが十年振りで、しかもたった二度目という彼女がこの場所を好きと言ったのに、ずっとここにいる僕が何も言えないなんて、何だか混乱してしまった。

「ごめん、何か困らせちゃったみたいだね。私はもう行くよ」

「いや、別に……」

「あと、さっきの歌はただの練習だからね。天才の私が本気を出したら、あんなんじゃないから」

 彼女は自分のことを天才と言った。普通なら何を言っているのかと思うけど、さっき彼女の歌声を聞いている僕としては、否定できなかった。声を出した瞬間から、僕は彼女の歌声に惹かれていた。こんな経験、僕は今までしたことがない。

「そういえば、せっかくの機会だし聞きたいんだけど、この辺にホテルとか旅館とか、泊まれるところないかな? 今夜は泊まれるところが見つからなくて、野宿でもしょうがないと思っているんだけど……」

「は?」

「私、今旅をしているんだよね。私は天才だけど、改めて自分のことを見つめ直したいと思って、色々なものに触れる旅をしているの」

「何か、最初からずっと変なことを言っているな」

「変って何よ!」

 心の中で言ったつもりだったのに、思わず声に出ていた。彼女は怒っているアピールなのか、わかりやすく顔を膨らませた。

「そうだ! 僕の家、民宿をやっているから、そこに泊まればいいんじゃないか?」

 そんな彼女を宥めるのも兼ねて、僕はそんな提案をした。すると、彼女はわざとらしく、その場で飛び跳ねた。

「ホント? それだとすごい助かるよ! じゃあ、君の民宿にしばらく泊めてよ!」

 彼女がサラッと言った言葉の中に、僕は気になるところがあった。

「しばらく?」

「今度、この近くでお祭りがあるでしょ? それが終わるまでここにいたいの」

 彼女が言っているのは、今週末の土日にある祭りのことだろう。毎年開催している祭りに、どうして彼女が行きたがっているのかという疑問はあるけど、とりあえず僕は彼女を客として受け入れることにした。

「わかった。だったら、案内するよ」

「ありがとう。ところで、君の名前は何かな? 私はひかりだよ」

「ああ、僕は太陽だ」

「太陽君か。よろしくね」

 光と名乗った彼女を見て、僕はどこか懐かしい気分になった。

 人との出会いというものは、全部意味がある。意味のない出会いなんてものはない。その言葉が本当だとしたら、光との出会いも意味があるのかもしれない。

 そんなことを考えながら、光を家まで案内した。ここは民宿として使われることがほとんどない、空き部屋ばかりだ。だから、光が一週間ほど泊まるというのも問題ないわけで、しばらく近くにいるということだ。

 近くにいるといっても、あくまで客だし、そこまでかかわることはないだろう。そんな考えを常識的に持っているけど、何だか光に対しては常識が通用しない気もしている。

 とりあえず、僕は常識に従う日常を過ごし続けられればいい。そのためには、どうすればいいか考えつつ、光と別れた。

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