何気ない日常
指の赴くまま書いてます
山ほどノートが積み重なっているある和室の角に一人の少女がいる。
少女は、顔に本をかぶせながら椅子に腰かけていた。
彼女の周りは凛としているような、はたまた甘いようなそんな空気が漂っていた。
この部屋はどこ見渡してもノートばっかりだった。
憑りつかれたように彼女はこのノートに小説を書いているのだろうか。
「はぁ...」
少女は大きなため息をしながら起き上がり、ふらふらと歩きだした。
とてもだるそうにキッチンに向かうと戸棚からシリアルを取り出し無造作にテーブルにおいて
冷蔵庫から豆乳を取り出した。食洗機からくまさんの器とお気に入りのスプーンを取り出した。
シリアルを器に入れ、豆乳を注いだ。器とスプーンをもって自室に向かう。
少女の机の上にはパソコン一式が置いてありすべて高性能なものばかりだ。
少女は椅子に座ると器を机に置き、先ほど顔にかぶせていた本にしおりを挟み、スプーンでシリアルを口に運びながらパソコンを起動する。
パスワード入力してメールの確認をした。早急に返すべきものは無さそうなので執筆作業を始める。
少女の名前は篠宮 凪。高校生でありながら若手大物作家だ。
凪は幼少期の頃からその才能の片鱗を見せていた。僅か二歳四か月あまりで言語をマスターしていた。
五歳の時すでに義務教育の範囲の学習は終わっていた。
そう、凪は俗にいう天才だった。だが、そのせいで中学生までに友と呼べるものが居なかった。
それを見かねた凪の両親が単位制の高校を提案したのだ。だが、凪は提案を受け入れずどうせならと通信制の高校に進学した。そして現在、課題を早々と終わらし、小説を書き続けている。
~五時間後~
ふぅ…と息を吐いた。
時計を見ると午後二時を示していた。めんどくさそうな顔を浮かべながら食べ終わった器一式をキッチンに運ぶ。すると、自室からメールの通知音がした。すぐさま確認しようと自室に向かていたが角に足の小指をぶつけてしまった。「いっ…」なんとも地味でありながら唐突に襲ってくる痛みにその場でうずくまる。痛みに耐えながらメールを確認する。
to:篠宮 凪
from:おにさん
進捗どうですか?
「うぅ.......」
眉間にしわが寄る。おにさんというのは少女、篠宮凪の担当編集者さんだ。なぜおにさんにしているのかは言うまでもなく、原稿の催促に来るからだ。一か月前おにさんにしているのが彼にばれたが「い」が抜けてしまった。と言い訳をして事なきを得た。
to:おにさん
from:篠宮 凪
原稿用紙ざっと二十枚分くらいです。
適当に返信をし、作業に戻る。
~翌日~
おかしい。
違和感を覚えたきっかけは些細なことだった。
朝起きると部屋が綺麗になっていたのだ。いや、伝え方としてはこれでは間違っている。
正確には「埃が消えていた。」部屋にある大量の本は動かされた痕跡もない。
寝起きで働かない脳で可能性を考える。
「親でも来たのかな…」
ボソッと声に出すと状況を納得できた。
執筆作業に取り掛からなければいけない、おにさんにまた怒られる
少し震えながらパソコンを起動し、執筆作業に取り掛かる
何時間が経過したのだろう。凪は一息ついて食事の準備をしようとキッチンに向かう
パタパタと戸棚や冷蔵庫を開けるが、シリアル以外何もないことに気が付く
「最近買い出しサボってたな、、」
仕方なく出かける準備をする
「お風呂にも入らなきゃ」
風呂はシャワーでいいか、面倒だし、そう思いながら脱衣所に向かう
創作意欲が出ている時に風呂に入るとスマホを持ち、何十分か長居してしまうので
スマホは必須だ、メモ帳を開きつつシャワーをする
今回は何も思いつかなかったからよかった
小説家は何をしていても小説家なのだった
何か起きるとかそういうのもなくても自然と情景が浮かびあがる
急にアニメのシーンが出てくるのと同じだ
凪の場合はアニメのシーンのようなものが浮かび上がってきてそれを文字にするタイプだ
他の小説家の友達はいないためみんながそうなのかはわからない
ピピピピ
アラームが起動した
今日は友達とゲームをする日か
通信制の学校で友達ができた、ほぼネット内の友達と言っていいほど
会うのは年に数回あるスクーリングの日だけ
そもそも友達は凪のいるところから飛行機を使わないと会えない距離だ
午後10時ゲームをしながら友達と話す
課題がわからないとかたわいもない近況報告とかだった
二時間くらいゲームをした後、執筆作業に移る
友達と話ながら作業をする
同時に課題について教えているが教えるのが得意ではないので難航してしまう
それもまた人生経験というものなのだろうか
そうこうしているとメールがきた
親からだった、珍しい時間に来るなとは思ったが内容を確認する
to:篠宮 凪
from:お母さん
最近のあなたはどこか抜けているところがあるから大丈夫?
食べ物配達で送るから明日には届くと思うわ
シリアルばかり食べないでちゃんと食べなさい
心配性は相変わらずだな、、、お母さん
急にだまってどうしたの?と友達が言う。
ちょっと母親からメール来ただけと返してまた作業に向かう
今返信したらこんな時間まで起きてと言われてしまう気がしたからだ
深夜2時
友達はいつの間にか寝てしまっていた
なんとなく通話をつなげておくのも申し訳ないので切る
今日はここらへんでやめておくかな
作業を中断して寝ることにした
翌日11時
まだ眠かったがインターホンが鳴ったので起きる
お届け物でーす。と配達員が慣れた様子で言った
段ボールを中に入れてもらう、重すぎて持てなかった
昨日母親が行ってた食べ物のようだ
中身を確認する
レトルト製品、野菜、レンチンの米、手紙
手紙はあとで見るとして他を冷蔵庫や戸棚しまう
今日は何にしようかな
とりあえずレンチンの米とレトルトの商品でいいか
食事がすんだらまた執筆作業だ
かたかたとタイピングしている音が部屋中に響く
凪はこのタイピングの音が好きだった
だからこそ物書きを始めた時は親にねだって高いゲーミングPCを買ってもらった
初めてパソコンを触ったのは14歳、そのころはまだ自分のパソコンじゃなく、親のお古だった
小説が特別好きだったわけではなく
ただ何かを打ち込む作業が好きだっただけだ
なので、中二病と言われる病になったときはお古のパソコンにいろいろ書いていた
いまはもう使えないのでその内容は見ることもできない
心底ホッとした
物思いにふけっている間にご飯食べ終わった。
普通のご飯はちゃんと食器を洗わないといけないところが面倒だが、
一人暮らしに食洗器は大きすぎる気がしてしまう
洗い物を片付け作業に戻ろうとしたとき
急に電話が鳴った
fromおにさん
終わった気がした
恐る恐る電話に出る
「はい、篠宮です」
「お疲れ様です、小野寺です、先生、進捗、大丈夫でしょうか、今回ちょっと先生の感じが出ない作品になってしまってるので」
「大丈夫です。締め切りは、、たぶん大丈夫ではないと思いますが」
「締め切り守ってほしいですけど、わかりました。今回の作品一緒に頑張るりましょう」
「はい。。。。」
そのあとは今の進行状況の報告だった。
一時間くらい経っただろうか、電話を終え作業に戻る
文字を書くのは好きだが今回のテーマ青春と恋愛は自分には合わないような気がしている
文字というか物語を書いている時の高揚感が今回の作品には出てこない
当然といえば当然なのかもしれない、凪は恋愛というものがよくわかってない。
生まれてこの方異性と会話をしたのは編集と家族以外ほとんどいないのだ。
なのに恋愛とか青春の話を書けという編集も編集だが、、、これまでにない作品を出してみる
そして世の中には恋愛なんてしなくても恋愛小説を書いている人もたくさんいるのだ。
だから大丈夫と、はじめは思っていた。いろいろな参考資料を見ていく中でこれはいけないと思った
無理だという気持ちがあったが、企画進行していたのでもう止められないところまで来ていたのだ
今更辞めるといえない、でも作業は滞ってるのが現実、少しづつ書いてはいるが、やっぱり恋愛は難しい
なぜ主人公は桜並木で出会った黒髪の美少女に一目ぼれするのかとかそういう定番があることはわかっているがわからない。そんなことを思っているが大体は定番のネタをいrておく方が読者も読みやすい。
が、紆余曲折あって付き合えなくしてやる。これは定番に見せかけた定番壊しだ。なぜなら、主人公に自分を投影して、小説を楽しむ輩が一定数いるがあれをしたら一緒に悲しくなってくれるようなそんな話にしたいと思っている。性格が悪い?そんなことは知っているのだ。でも編集がOK出したのですべては編集責任!!って思っていたら執筆作業が今日のノルマを超えた。大体一日作文用紙10枚分書こうと思っているのだが、今日は筆が乗る日だな。
筆が乗らない日は確かにある。あるが、無理やり書こうとは思わない。凪は凪なりの作家のプライドがある。無理やり書いた作中の描写や言葉は面白くないからだ。それを自分は許せない。つまらない作品を書いても自分以外はあまり気にしないし、ずっと面白い作品はその分売れるのだ。別にお金に困っているわけではないが、学業をあまりしないで執筆作業をし、友達も少ない凪にとって小説だけが生きがいで、小説だけが自分の存在意義だと思っているからだ。つまり面白い作品を書けない自分には存在意義がなくて落ちこんでしまう。そういう日は外の空気を吸って海に行く。凪は凪なりに青春を小説に捧げ、小説に青春をもらっている。
凪は椅子に凭れ掛りながら「疲れたな」とつぶやいた。
今日の作業はこれくらいにしてまた今度やろうかな。締め切りは延びたのだ。まだ余裕はある。
今日の夜ご飯は久々に外食でもしようかと思って立ち上がった瞬間それはやってきた。
ピンポーンと音がしたと思ったらガチャガチャドアを開けようとする。
「凪ちゃーん、いるんでしょー?」
声の主は凪の部屋の隣の小林あかねさんだった。
「あかねさん、無理やり部屋に入ろうとしないでください、ドアが壊れます」
凪は丁寧にでも諭すように言った。
あかねさんは黒髪でぱっちり二重の可憐という言葉がよく似合う女性だ。
普段はOLをしている24歳、独身、きれいで胸もでかいのになぜか恋人は作らない主義の方だ。本人曰く女の子と話してる方が楽しいし、私には凪ちゃんがいるもんとよくわからないことを最後に言っていた。
「何しに来たんですか?」凪が聞く「今日疲れちゃったから凪ちゃんに癒されようと思って」と当然のことのように言ってきた。
ちょうど今晩は外食をしようと思っていたんですがと話すと、
あかねさんはとても目を輝かせて一緒に行く~と言った。
なんだかんだで凪もあかねさんは好きなのだ。
ちょっと待っててくださいと言い、作業途中の原稿を保存してPCをシャットダウンする。
外出用に買ってもらったワンピースに着替え、デニム素材のジャケットも羽織る。
まだ夜は冷えてしまうといけないから。財布の残高を確認してコンビニで降ろした方がいいのか考える。一応降ろす方向性で決まり、小さめのカバンを手にとり、玄関で待たせていたあかねさんに声をかけた
「おまたせしました」
「今のなんかメイドさんみたいだね」
あかねさんは取り繕うことを知らないのか?と何回目かの疑問をいまだに思いつつ、自分の部屋の鍵を閉める。あかねさんは一回自分の部屋に戻って猫の餌を与えてくるといった。
待ってる間にしてくれば良いのにとつぶやいたら
でもそしたら凪ちゃんの部屋の空気を堪能できる時間がとかなんとか言い出したのでちょっと引いてしまった。なぜ私はこんな女性と友達みたいな関係を築いてるんだろうとまた何度も考えてることを思ってしまった。あかねさんの部屋の前で待つ。待ってる間にメールが届いてないか確認した。新着メールなし、迷惑メールもなし。そもそも迷惑メールが来るようなところには何もしてないんだが一応ごく稀に一件来ていることがあるのだ。どこからメアドを手に入れたのかわからない編集部の人間から凪の小説をもとにした漫画化しませんかと案内が来たりする。漫画化するには原作が最近は重要になってきているが、漫画を描く前提の小説は凪はあまり好きではない。正直凪は文学専門、ライトノベルなんてものは基本書かないのだ。今はライトノベルのようなものを書いてはいるが、基本は文学、おじいちゃんや中年が書くようなものを書いている。
「おまたせー」
あかねさんが戻ってきた。
コンビニに寄りますというと快くいいよ~と返事をしてくれた。
お金を無事降ろせた後どこの店に行こうかという話になった。
「あかねさんの行きたいところでいいですよ」
「凪ちゃん高校生だから居酒屋はあんまよくないし~ファミレスでいっか!」
そこはちゃんとしてるんだなと思いながらファミレスに向かった。
道中にあかねさんが最近あったことをいろいろ教えてくれた
上司から指名されてグループのチーフになったとか会社の愚痴のようなものを
そうこうしている間にファミレスに着いて従業員に席に案内され、窓際の席に座った。
「凪ちゃんどれにする―?」
あかねさんはメニューを見せながら言った
「メニューの数はそこまで多くないけど、毎回悩んじゃいますね、あかねさんは決まったんですか?」
「いつも頼むのじゃ味Jけないし、今回はステーキにしようと思う~」
「じゃあ私もそれにします」
最近どうなの?ちゃんとご飯食べてる?とあかねさんが言った。
一応、、食べてはいます。(レトルトとかだけど)
ほんとに~?と言ってくるので仕方なく正直に話すとあかねさんは
「仕事終わりなら一緒に食べれるし今度から夜ご飯だけは一緒に食べよう??」と言ってきた
「ちなみになんですけど拒否権って、、」
「あると思う?これ断るならお母さんに伝えるからね??」
「それだけは、、、」
と渋々了承したところでステーキが運ばれてきた
おいしそうだね~あかねさんが少し声高に言った
そうですねとそっけない感じで凪は言う。
最近の悩みとかあったりするの?
ステーキを食べながらあかねさんは聞いてきた
「最近の悩みですか、そういえば今回のテーマのことなんですけど、、」と凪は返す
「なるほどね、青春と恋愛ねぇ、、確かに凪ちゃんのイメージにはないね」
「そうなんですよ」
「ちなみに好きだった人とか今までいたことあるの?」
「一応幼稚園の頃にはあった気もします」
「なるほど、、凪ちゃんの恋愛事情に関してはあんまり聞いたことないね」
「結局今回も担当さんに意見言えなくてこんなことになってるの?」
「一応書いたことないし青春とは無縁の生活してるとは伝えたんですけど、、そんなことないって言われちゃったんですよ」
「とりあえず、お姉さん的には恋をしてみてもい年ごろだとは思う、でもたぶん凪ちゃんの周りには大人しかいなくて、同級生とのかかわりが薄い気がするからそこをどうにかしなくちゃいけないね」
珍しくあかねさんから真面目なアドバイスがきて驚いた。
「あかねさんから見ても少ないというか薄いと思いますか」
「うん」
即答されてしまった。まぁ事実なのかと思い咀嚼することにした
その問題が分かっても、正直同級生とどう絡めばいいかわからない。
結局話しやすいのは大人なのだ。
最後のステーキの一切れを食べ終わりあかねさんが言った
「そういえばゲームしてるのよね友達と」
「ええ、そうですけど」
「その友達とほかの同級生も一緒に遊びに行くとかどう?、簡単に言えば合コンみたいな」
「合コン、、、」
「ちょっとハードル高いか、カフェでお茶するとかそんな感じをイメージしてるんだけど」
「なるほど、そうやって人間関係って構築するんですね」
「凪ちゃんって小説以外に関してはほんとに、、、」
「もう会うの辞めます?」
「ごめんごめん、でも同年代友達はちゃんと大事にした方がいいよ」
「はい」
なんだか人生相談をしてる気がしてきたがまぁ、いいとしよう