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「ルナイル無事かああああああああ!!!」


間に合った。

まだ死んじゃいない。満身創痍といった感じだが、大丈夫そうだ。良かった。本当に良かった。


対面にはジタバタしているおっきな犬がいる。

こいつがあの大きな魔力の正体。


『ありゃあケルベロスだな。雑魚だ雑魚』


「嘘つけ」


「その魔力…タツキなのか…?」


「ルナイル、生きててほっとしたぜ。足引っ張って悪かった。後でちゃんと謝るよ」


身体に付いた炎が鎮火し、怒り狂ったケルベロスは俺なんか眼中に無いというようにルナイルを睨みつけていた。

ケルベロスが地面を抉る程物凄い勢いでルナイルに突進していく。


「手前の相手は俺だ!!!」


一瞬でルナイルとケルベロスの間に入り込み、思い切り真ん中の顔を蹴り上げる。

身体強化された俺の蹴りは、魔物の戦いの中でも十分に遅れをとらない威力を宿している。

ほんの少し身体が浮いたケルベロスに、そのまま頭に対し剣を振るった。

剣術など知らない筈なのに自然と体が動く。これもあの剣のいう同期のお陰なのだろう。


元々ルナイルとの戦闘で少しだけ弱っていた為か、俺の攻撃は綺麗に入った。

吸い込まれる様にして振り下ろした剣は、なんの抵抗も無く左側の首を切り落とし、ケルベロスは大きな叫び声を上げる。


すかさず空いた左手に魔力を溜め、ケルベロスの身体に密着させ握り拳を作り魔法を唱える。


「インパクトッ!!!」


その拳から放たれる衝撃は、ケルベロスを大きく吹き飛ばした。

左手に掛かる反動を無理矢理押し付け、ケルベロスが起き上がる前に追撃を仕掛けようと距離を詰める。


しかしケルベロスはその追撃を許さない。

即座に体制を立て直し、向かってくる俺に対して、鋭利な爪で反撃をしてきた。


まさか反撃出来ると思わなかった俺は、剣を地面に突き立て減速をするも間に合わず、胸を少し切り裂かれる。


ちょっととは言えない量の血が吹き出すが、動揺する余裕もない。

バックステップと共に剣を抜き距離測る。


「首一本無くなっても生きてるっておかしくね!?」


『集中しろボケカス!!攻撃なんか食らってんじゃねェ!!』


「そりゃすみません…ねっ!!」


攻めの姿勢で再び距離を詰める。

ケルベロスはまた爪で攻撃を仕掛けてきている。

走る勢いを殺さないままスライディングの要領で懐に潜り込み爪を避け、そのまま剣をケルベロスの胸に刺し込んだ。


心臓がどこにあるとか分からなかった為とにかく深く刺し込む。

体力の血が吹き出し、ケルベロスも悲鳴ととれる鳴き声を上げ崩れ落ちていく。


勝った。

勝利を確信し剣を引き抜く。


『馬鹿野郎!!避けろ!!』


「え」


崩れ落ちながらも足で攻撃をしてくるのが見えていなかった。


咄嗟に右腕でガードするも、そのまま殴りつけられる様にして俺は吹き飛ばされた。


近くの木に叩きつけられ、肺の空気を零す。

右腕の感覚がなくなった。

咄嗟に左手で剣を拾い上げ警戒するが、ケルベロスはもう起き上がることは無かった。


「やったか…」


『あぁ、死んでる』


「ふぅー」


息を深く吐く。

初めての戦闘だ。終始萎縮してしまいそうだったが、やれば出来るもんだなと少しだけ自信がついた。


結果はボロボロだけど、死にはしなかったし、ルナイルも無事だ。


『ま、初めてにしてはまあまあだな』


「マジでありえねえ。上出来だろ」


『あ?褒めてやってんだろォ!!』


「でもよ、ありがとよ。お前居なかったらマジで死んでたわ」


『おー感謝しろ感謝しろォ!!』


本当意味不明な剣だけど、助かった。


「タツキ!!」


ルナイルが駆け寄ってくる。

よく見るとルナイルもボロボロだ。

俺のせいで一人でずっと戦わせていた事に深く反省しながら、なんて声を掛けようと思ったら。

思い切り抱きつかれた。


「ルルルルルナイルさん??」


「本当に済まない私の所為だ…私が目を離してしまった所為でこんな事になってしまった…」


「あわわわわわわ」


ルナイルがなんか謝ってくるが、頭に入ってこない。良い匂いするし、胸の鎧が取れてるから思い切り胸の感触がするし!胸の感触がするし!!


「また君に助けられた。その剣と魔力は一体?聞きたいことが山程あるよ。でも本当に無事で良かった…」


ギュっと力強く抱きしめられる中、ルナイルの身体が震えている事に気付いた。

ルナイルだって怖かったに違いない。俺が全面的に悪いのに自分の所為だと思っているし、申し訳ない気持ちが湧き上がってきて、俺もルナイルを抱きしめ返した。


「ルナイルは悪くない。悪いのは俺だ。俺はルナイルに頼り切りだったから、ルナイルにばかり負担を掛けてた。勝手に居なくなったのも俺がもっとしかっりしてれば大丈夫だった筈だ。本当にごめん」


顔をみると、綺麗な赤い瞳から一筋の涙が溢れている。

こんな状況だけど、俺は見惚れていた。

自然とお互い無言になるが、密着させた身体は離さない。

徐々に二人の顔は近付いていく。


『うぉおおおい!!!!いきなり見せ付けてくれるじゃねーか!!!おいおいおい!!!テメエには勿体無いぜェ!!』


魔剣の声に二人はビクッと反応し、そのまま慌てて飛び退く様に離れた。


「とととととにかくルナイルが無事で良かった!!!」


「あ、あああ!!タツキも無事で良かった!!!」


『オォイ!!俺を無視するんじゃねえェ』


「ちょっと黙れお前マジで」


『いやあああああああでえええええっす!!!』


うっざ。


ふとドスドスと、近付いてくる音。

そして顔を舐められる。


「ワッフル!!!お前も無事で良かった!!」


勿論無事なんてことは無く身体中傷だらけなのだが、生きている事が嬉しかった。

満身創痍だろうにしっぽを振って反応してくれるコイツはやはり可愛い。


不意に日差しが漏れる。

いつの間にか日が出て来た様だ。

長いようで短かった夜は明け、なんだか気が抜けた俺の腹から、やはり気の抜けた音が鳴り響いた。


「ふふっ、飯にしようか。幸い食材は沢山あるしな」


皆ボロボロで、この後どうやって移動するかとか考えることはいっぱい有るけれど、今は食事の準備を手伝おう。


綺麗な朝日を眺めながら、俺はこれからの異世界生活をとても楽しみになっていた。


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