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話は進みませんが、トカゲの紹介だけとにかくしときます
木々の隙間から揚々と暖い日差しが溢れ、少しだけノスタルジーな気分になるような景色を味わいながら、肉の焼ける臭いでタツキは起き上がった。
「え、なにそれ」
目の前で焼かれている謎の大きな肉を見て、少しだけ怖くなったタツキはとりあえず聞くことにした。
「起きたか、昨晩襲って来たウルフの肉だ。旨いぞ」
「いや、爆睡してたんだけど?寝込み襲われてたのかよ…」
「大丈夫だ。その為にこいつが居る」
随分と慣れた手つきで肉をそぎ落とし、木の枝を削った棒に刺して渡してくる美しい少女は、なんてことは無かったという具合に涼しい顔をしていた。
「あ、あぁありがとう」
「食べながらで構わないが、ここから近くの町に行って宿を取ろうと思う。まずは身体を洗いたい」
「あぁ…うんそうだね」
俺の返しが適当なのは一緒に食事を取っているトカゲが丸々一匹を物凄い勢いで食べているからだ。
まさに猛獣といった感じで肉が噛み切られていく様を見るとなんとも言葉に出来ない気持ちになってくる。
「ラージス国からの追っても無いようだし、暫くは大丈夫だろう。町に行けばギルドもあるし金も降ろせる。装備も新調しなければいけないし、ここから1週間程で行けるだろうからそれまではコイツで飛んでいくが…おい聞いてるか」
「あぁうん聞いてる聞いてる」
ワオ、その大きさ丸呑みしちゃいますか。それ人1人分ありそうだけど突っかからないんですかね。
「はぁ…とにかく飯を食べ終わったら行くぞ」
「あぁうん。分かったぜ」
あ、こっち見た。
いや俺餌じゃ無いですよ?
寄るな寄るな寄るな、怖いって。寄るな!!!
自分の何倍もある体格のトカゲがチロリと舌を出し入れしながら寄られる俺はさながら蛇に睨まれたカエル。
顔と顔がくっつかんばかりにまで近づかれた俺は心の中でルナイルに助けを求めていた。
助けて!!ルナイルさん!!だずげでえええええ!!!
苦手という訳じゃ無いが大きさが大きさだ。もしこいつが子犬くらいの大きさだったら迷わず撫で回していたであろう。
頭の中でアラートが鳴り響く中、事態は動いた。
思い切り顔を舐められた。
「------!!!」
声にならない声を上げるも容赦なく顔を舐め上げ続けられる。
舌で味の下調べってか。ははっ。
面白くないわっ。
「仲良くなりたいんだよ。タツキはずっとコイツに変な距離置いてたから気にしてたんだ」
「あっ!んん”!そゆこと!?」
なんだ。そういう事なら結構可愛いじゃん。
「名前は?」
「ワッフル」
「ブフッ!!!」
「私の可愛い召喚獣の名前を笑うな…と言いたい所だが流石に名付け親の私もどうかと思う」
名付け親ルナイルかよ!
「ワッフルさん?くん?仲良くしようぜほれほれ」
未だ顔を舐められ続けられるので、少し押し退けつつ、首を撫でてやる。
するとどうだろう。目を細め気持ち良さそうしながら尻尾をフリフリと揺らすではないか。
か、可愛い…!
「可愛いだろう?私がまだ小さい時に初めて契約した召喚獣だ。あまりの可愛さに当時病みつきになっていたワッフルという菓子の名をそのまま付けたんだが、余り周囲の人間には受けなくてな」
「俺は可愛くて良いと思うぜ。なあワッフルちゃん」
「そいつはオスだ」
「………」
「………」
「本人?が気に入ってたら良いじゃないか、なあワッフル」
頭も良いのだろう。俺から離れて身体を擦り寄せるように今度はルナイルの元でキュイキュイ言ってる。
「ありがとう。さあそろそろ出発しよう」
「ちょっと待って。俺さ、また首にしがみ付かなきゃいけない?」
ワッフルの背中には一人がちゃんと騎乗できる鞍が装着されている。
初めはあんな高度も時間も飛ぶとは思っていなかった為、首にしがみついときゃ良いだろ?みたいな感じだったのだが、あの山脈でのアクロバティックな軌道を描かれると、安全具の無いタツキは次こそは振り落とされる自信があった。
「そうか、なら少し狭いが2人でここに座れば良いだろう」
「そうさせてもらうぜ」
ルナイルが指さした鞍に対し、期待通りだと満足そうに頷いたタツキはワッフルに跨った。
続けてルナイルが後ろから抱きつくように跨り手綱を握る。
待て、めちゃ恥ずかしくないかこのポジション。
それはもう密着という文字ほど似合うものはない具合にぴったりとルナイルとくっついていた。
「さて、では行くぞ」
当の本人は気にしていなさそうだから気まずくは無いが、タツキは女性に対する耐性というモノは持ち合わせていない。
苦節17年。一度もモテた事の無いタツキは女性と話すだけは大丈夫だが、ボディタッチや思わせぶりな行動をされると直ぐにドキッとしてしまう。
「ハ、ハイ」
「はは、まだ空を飛ぶ感覚には慣れないか。ほら、緊張をほぐせ」
胸の辺りを軽く叩いてくる女性は気づかない。
緊張している理由が自分という事に。
こうして、また違う意味で空で死闘を繰り広げる一日になったのだった。