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まだ6月だと言うのに油蝉の鳴き声がやけに煩く感じる今日この頃、やはり6月とは到底思えない気温が日本を襲っていた。


弱冷房と書かれた電車内は本当に冷房が付いているのかと疑いたくなる程に人の数だけ蒸し暑くなり、目的駅のホームに降り立った時は、外が少し涼しく感じた。


この時期でこんなにも暑いとなれば、真夏はどれ程の人が熱中症になるのだろうと思いながら通学路をとぼとぼ歩く。


いつも通りの通学路。いつも通りの時間。いつも通りの風景。

2年間も同じ場所に向かっていれば、自然と行動なんてものは習慣化されていく。


別にそれが悪いという訳ではないが、目新しい出来事なんか無いと人間飽きという物に突き当たってしまうモノだと、高校生である自分ですら感じてしまうのだから自分は一体社会人になったらどうなってしまうのだろうかと思ってしまう。


そんな下らない事を考えていた所為だろうか、俺は普段見もしない路地に目を向けて何気なく近道になるかと入っていった。


路地は薄暗く、心なしか表通りよりか涼しかった。

初めて入る路地はなにか面白く、非日常を感じられた。


しかし問題はここからである。


非日常を感じていたら目の前に非日常な出来事が起こっていた。

目の前が赤く光り輝いていたのだ。

何故こんなにも眩しい光に、手を伸ばせば届きそうな距離まで近づかなければ気づか無かったのか不思議で堪らなかった。


思わずごくりと唾を飲み込んだ。

未知の事象に何が正解か分からない。


だが目の前に広がる今までもこれからも体験することは無いであろう光景に、風見樹という男子高校生は興奮を隠しきれないでいた。


だから思わず赤く光り輝く光の中へ、その身を投じるという失態を起こした。


気づけばそこは綺麗に磨かれた石で出来たであろう部屋の中だった。

周りには沢山の人がいて、明らかに日本人では無くて、正直ビビっていた。


突然の出来事に頭の整理が追い付かなった。


「おぉ!成功したぞ!」


「これが異世界の勇者ですかな、随分と小柄ですなぁ」


「我々には理解の及ばぬ力を持って居られるのだな」


とか感想を述べられているがしったこっちゃない。割と強面のおっさんに囲まれて委縮しない程出来た高校生活は送っていない。


目がぐるぐると回っていく感覚に見舞われながら、現在の状況を判断する頭も無く、俺の頭はパンクして只々何も考える事なく突っ立っているだけだった。


「ようこそおいで頂きました勇者様」


空白の頭に電流が走った。

そんな衝撃的なくらい初めての事だった。


一目惚れだ。


まるで黄金と思う程に綺麗な金髪のさらっとした髪の毛。

大人しそうで純粋無垢そうな顔立ち。

スラっとした体は出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるという無駄のない肉付き。

漫画のキャラがそのまま現実に出てきたような、まさに理想を具現化したような少女が目の前に居た。


「えっあっ、はい、どうも」


俺は初心だった。

理想の少女を目の前にして何も言えず、目を若干そらしながらもチラチラと彼女の方を見てしまう。


「なにか?」


俺の視線を感じてか、名も知らぬ美少女は微笑んできた。


「あっいえ!何でもないです!」


「左様ですか?ふふふ、こちらへどうぞ」


俺の頭の中はもうこの状況に陥りながらも目前の少女のことで一杯になっている。

心臓は早鐘を鳴らし、顔は熱く、手汗は凄いことになっていた。


なんて声を掛けたらいいんだ。

彼女とお近づきになる為にはどうしたらいいかと真剣に考えている間に豪華な食事の並ぶ、広い一室に案内をされる。


「ようこそおいで頂きました。こちら我々シェフが腕によりをかけてご用意させて頂いた、最高級のフルコースとなっております。他にも他国から呼び寄せた音楽隊、我がとご参加されてきたわが国きっての美女達が貴方様とのパーティーを楽しむ為に、お待ちしておりました」


「めちゃ凄いやん…」


それはもう美女だらけ。こちらを見るとキャーという歓声が沸き上がった。

なんだこれ。なんだこれ!!!

俺は熱い歓迎を受けながら、美女に囲まれ食事を思い存分楽しんだ。

食事も飲み物も最高だし、勝手に注いで来てくれるし、なんだったらあーんとかもしてくれる。


ここは天国か。

きっと俺は天国に召喚されたに違いない。

そう錯覚してもいい程に俺への待遇は良かった。


ひときり楽しんだ後、またも初めに出会った可愛い子ちゃんが部屋に入ってき、俺を呼んだ。


「部屋がご用意出来ましたのでどうぞこちらへ」


ほいほいと可愛い子ちゃんに付いていき、長い長い廊下を進んだ先、豪華な装飾を施された扉を開け、これまた豪華な家具の並ぶ部屋の中へと促され、中に入った。


「また及び致しますので、少々こちらでお待ち下さい」


アァ声まで可愛い。


扉が閉まるまでその姿を見続けていた風見であった。


「あ、名前聞き忘れた」


その虚しい声が部屋に響いた。


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