サトリ男の勘違い
芦屋は放送後、すぐに先生に取り抑えられた。その時の先生の怒りは恐ろしいものだった。だが、芦屋はずっと笑っていたから気味が悪い。
「竜二。俺はどうしたらいいんだ?」
俺が問いかけると、隆二は首を傾げながら考える。
「芦屋と同じように緊急放送しちゃえばいいと思う」
確かにそれが手っ取り早いかもしれんが、芦屋の様に先生に取り押さえられる所までセットなんだよな。
「それは辞めとこう。他にはない?」
俺は、クラスメイトの心の声と格闘中の為、解決策を考えることすらままならない。
「んー。山岸さん本人に芦屋の放送が嘘だと周知してもらう」
確かにそれが1番いい選択であり、周りも信じてくれるだろう。
だが、この作戦には穴がある。
「俺は山岸さんに会うことは出来ないよ。ストーカー男を被害者に合わせると思うか?」
「確かにそうだな。じゃあ俺が行ってこようか?」
それもまた難しい問題だ。俺達と同じ中学の人間は、竜二との関係性を分かっているから弾き出されてお終いのはずだ。
「俺らが友達と知っている人がいれば通してはもらえないと思う。取り敢えずは山岸さんが芦屋の発言が嘘だと広めてくれるのを待とう」
それ以外に選択肢は無いので、竜二も納得した。
この世の中時間が解決してくれることもあるはずさと、軽い気持ちで生活することにした。
一週間後、気づけば俺に対する悪いイメージが払拭されていた。
どうやら山岸さんが、自分のクラスで「あんな奴と付き合ってないし、山口君はストーカーじゃない」と言ったそうだ。
本人がそう言ったとしても並の人間では信じて貰えないだろうが、成績優秀で人当たりが良い山岸さんだから出来たことなのだろう。
後は俺が解決するだけなのだが、芦屋にどのような制裁を与えてやろうか悩むな。
プライドが高い芦屋には公開謝罪とか良さそうだ。などと考えていると、慌ただしい心の声が聞こえてきた。
(伊吹に早く伝えないと。もう学校に来てるのか?)
この心の声は間違いなく竜二のものだろう。俺に早く伝えないといけないものとは何なのだろうか?
ガラガラガラ。ドンッ。力強く開けられた教室の扉の方をクラスに居る全員が見る。そこには、息を切らした竜二が立っていた。
「伊吹! 芦屋が山岸さんを呼び出して大変なことになってる。俺のものにならないなら殺すとかなんとか……とにかく早く来い」
殺すだと? そんなことさせて良いわけがない。山岸さんは、心の声が聞こえない唯一の人なんだ。俺の心の救いを失うわけにはいかない。
俺は、急いで席をたち竜二の立っている方に近づく。
「山岸さんはどこだ? 急がないとまずいことになる」
「学校の中庭にいるよ! 俺はもう走れそうにないから急いで行ってあげてくれ」
「分かった。ありがとう!」
俺は感謝の言葉を伝えると、中庭に向かって走る。
間に合うだろうか? という不安もあったが、今はそんなことを考えている時間が無い。走り続けることだけを考えれば良いんだと何度も言い聞かせる。
だが、目的地に近づくにつれ、俺の呼吸も限界を迎えそうだ。それでも、ガムシャラに走る。
中庭に辿り着くと人だかりが出来ていた。こいつらは、ただの傍観者か……気味が悪い。
「見ているだけなら道を開けろ! 邪魔だ!」
俺は、息を切らしながら叫ぶと。傍観者達は、怪訝そうな表情を見せながら道を開ける。
すると、目の前には山岸さんと何かを持っている芦屋の姿があった。
本当に人を殺す気があるなら、あれは刃物だろう。なりふり構っている暇はない。
俺は、芦屋を目掛けて走りスピードを殺さず、飛び蹴りをかました。
飛び蹴りは、芦屋の横腹に直撃し2m程吹き飛んとんだ。
「山岸さん怪我はない?」
これで完璧だと思っていたのだが、山岸さんはキョトンとした表情を見せる。
「山口君は何で飛び蹴りなんかするの?」
助けるために飛び蹴りをしてみたのだが暴力は良くないことだよね。
「山岸さんが刺されそうになっていたから助けようと思ったんだけど……暴力は良くないよね」
すると、周りを囲っている傍観者たちは声を合わせて
「「「「え!」」」」と言う。皆が何故、驚いているかが分からず立ち尽くすことしか出来ない。
「私は、彼が山口君に何かしようとしていたから止めただけよ」
うん……。早とちりが過ぎたかな? そうなると竜二が全て悪いな。後で何か奢って貰おう。
「そうなんだ。ていうことは、死体蹴りした感じかな?」
「彼は戦意を喪失していたようだし、そうなるわね」
芦屋には悪いことをしてしまったと思い。
「さっきはごめんな」
俺は謝罪の言葉を入れ、倒れ込んでいる芦屋に近づく。
すると、禍々しい心の声が頭の中で響いてきた。
(山口だけは絶対殺してやる。もう少しで山岸を殺せていたのに邪魔しやがって)
やっぱり、山岸さんは狙われていたんだね。守れて良かった。
芦屋は俺が手を貸すのを待っているようで、その場で寝転んだままだ。
どうしようかと悩んだ挙句、周りに最も被害を与えないやり方で終わらせることにした。
俺は軽い足取りで芦屋に近付き手を貸す。
すると、芦屋は自分の手に握りしめたカッターナイフを振り回してきた。
俺は手を引っこめることで、カッターナイフを躱す。
次に芦屋は起き上がり、俺の腹を目掛けてカッターナイフを振るう。
芦屋の振るったカッターナイフは、俺の左腹に刺さる。
「ぐっ」
思ったよりの痛みで苦痛の声を漏らしてしまう。だが、これで俺の勝ちだ。
俺は、カッターナイフを左手で握りしめ。右手で、芦屋の顔にパンチを入れた。
すると、芦屋は握りしめていたカッターナイフを離す。
その後、芦屋の腹部に蹴りを入れると、膝をついて倒れた。
「芦屋が居たぞ! 早く取り押さえろ」
先生の声が響き渡る。やっと、先生が来てくれたみたいだな。後のことは先生に任せよう。
「山口! 出血量が多すぎる。早く救急車を!」
先生ありがとう。また病院でと心の中で言った後に、気を失った。




