最終話 異世界への帰還
俺が魔法の存在しない「地球」とかいう世界に来てから、もう29日も経った。
ミミックによる転移の期限は30日。長いと思ってたんだが、こうしてみると案外短かったな。
……そう思えるのは、何と言ってもこの世界での生活が何より楽しかったからだろうな。
「おいレノン、見てくれよ! 俺、化学の期末で85点も取ったんだぜ!」
「……は、マジかよ、85点? 前まで赤点しか取ったことなかったくせに……」
庄吾の点数に驚いたのは慎吾だ。
尚、俺はこの世界に飛ばされてからは初めての筆記試験だったので、「赤点から85点」がどのくらい凄いのかはよく分からない。
「……なーんてな。俺、90点」
おいおいおい、慎吾のやつ、びっくりするフリして自分の方が点数高いのかよ。
庄吾はといえば、悔しそうな、それでいて晴れやかな表情をしている。
「これというのも、全部レノンのおかげだぜ」
「そうそう、お前が居なかったら勉強なんて先公の愚痴としか思えないでいるままだったからな」
……思えばそうだった。
庄吾たちは、俺が転移した頃はだいたいの授業をサボっていた。
この世界では「不良」と呼ばれている類の奴らだったのだ。
けれど、俺はこの世界での「物理」とか「化学」とかを学ぶと、何故か俺の魔法のコントロールが上達することに気づいた。
恐らくは、色んな現象の原理を厳密に知れたことが、俺の魔法のイメージ力上昇に直結したのだろう。
そして、俺の魔法の上達は庄吾たちにとっていい刺激になったみたいだった。あいつら、みんな俺の魔法に興味津々だったからな。
そして、そんなこんなしているうちにあいつらも勉強が好きになったみたいだった。
それが、結果として現れたんだろうな。良いことだ。
……尤も、あいつらは今でもよく喧嘩をしているから、成績以外は不良のままなんだがな。
俺はといえば、化学のテストは70点だった。
庄吾たちには負けちゃったけど、元の世界に戻ったらワンチャン賢者扱いまであるかもな。
そう思うと、早く帰りたい気がしないでもない。
……でも、やっぱり名残惜しい。
庄吾たちと過ごした日々は、これからもずっと続けばいいのにと思うほど最高だった。
そんなことを考えていると、慎吾がある提案をしてくれた。
「なあ、今日お前この世界最後なんだろ? みんなで鍋パしようぜ!」
もちろん、2つ返事で乗った。
☆ ☆ ☆
俺たちは、第4倉庫にカセットコンロと食材を持ち込み、鍋パを始めた。
思えば、ここが最初に喧嘩をした場所だったんだよな。
魔法の有無ほどのでっかい壁さえ、あの喧嘩で乗り越えたのだ。魔法より、喧嘩の方がずっと魔法っぽい。
鍋パは徹夜で開かれた。
みんな、明日俺が元の世界に戻るのを見届けてくれるらしい。
……朝が来た。
平日だが、学校に行こうとする者は誰一人としていない。
そんな中。
俺の体が急に光り始めた。
転移が始まるみたいだ。
「みんな、ありがとな!」
その時、庄吾たちがどんな表情をしていたか。
泣いていた者もいるかもしれない。
でも、転移の光のせいだろうか。みんな、笑顔で送り出してくれたように見えた。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
「面白かった!」と思ってくださった方は、僕の別作品である「転生彫り師の無双物語 〜最弱紋など、書き換えればいいじゃない〜」も読んでみてください!
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