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第1話 初めての喧嘩は圧勝だった

「おいテメエ、騎士志望だの火属性魔法が得意だの、本気で言ってんのか?」


「今まで厨二病な奴は何人か見てきたけど、先公の前でそれ言っちゃう奴初めて見たぜ!」


・・・なぜこの人たちはいきなり喧嘩腰なのだろう。どうやら自己紹介の内容が気に障ったらしいが。


もしかして、さっき言われた「厨二病」てのが差別を受ける類の疫病か何かなのだろうか。しかしだとしたら、どうやって判断した?


異世界に来ていきなり不治の病にかかったとか無いよな。そうだとしたらいくら何でも不運が過ぎる。


まあ、分からないことは聞いてみるしかない。


「厨二病って何だ?」


「ああ゛?てめえ何だその態度は、ナメてんのか!」


「今日16時、第4倉庫まで来い。フルボッコにしてやんよ。・・・嫌ならご自慢の『魔法』とやらで対抗したっていいんだぜ?」


この発言の後、取り巻きがどっと沸いた。何が面白かったのかはよく分からないが。


・・・しかし、初日からいきなり喧嘩かぁ。腐ってもミミック、ある程度はハードモードって事なんだろうな。


取り巻きが去った後、俺は大きくため息をついた。





16時、第4倉庫。俺が入口の所で待っていると10台のバイクがやってきた。


バイクから降りてきた10人は皆金属製のパイプのようなものを持っている。まさか、あれが武器のつもりとか言うんじゃないだろうな。


10人組のリーダーと思われる奴が口を開いた。


「お前本当に倉庫来るとか舐めてんの?」


なぜ来たのに怒られるのだろうか。


「ビビって来ないって踏んでたなら1人偵察に寄越せば済む話だろ。全員で来たってことは俺が来るって分かってたんじゃねえのか?」


そう返すと、リーダー格の奴は金属製パイプを地面に叩きつけ、


「そういう態度が気に入らねーっつってんだよ!ここはもともと俺たちがシメてんだ。それ以上ナメた口きけねーよーに──」


とか言いながら助走をつけて走ってきた。


走り方を見たところ、どう見ても「ちょっとセンスのある素人」程度にしか見えない。あれ相手なら初級魔法しか使えなくても何とかなるかもしれないな。


万が一、「あんだけイキってて初級魔法かよだっせえ!」とか言われたらその時は大人しくミミックを呪うとしよう。


「──火球」


軽めに火の攻撃魔法を入れる。

防御が間に合わなかったのか、火の球は喉に直撃。瞬く間に炎が全身に広がり、数秒と経たないうちにもがく動きさえ止まってしまった。


コイツ、もしかしなくてもゴブリン以下だ。というか火属性が弱点のスライムよりダメージを受けてやがる。


このままでは数十秒と経たないうちに死んでしまいそうだったので、急いで水魔法と回復魔法をかける。


「決着は着いたし、コイツ連れてとっとと帰れ。──ってオイ、聞いてんのか!」


今倒した男を抱えて帰ってもらうため、後ろにいた彼の仲間達に声をかけたのだが、誰一人として動く気配が無い。

というか、どういうわけか全員足が震えている。


「......ハハ、何だよアレマジモンの魔法じゃねえか」

「さすがにんな訳ねえだろ......トリックに決まってんじゃん、いや頼む、トリックだって言ってくれよぉ」

「っつってもさあ、百歩譲って火と水がトリックだったとして、あの回復は何だよ回復は。火傷はトリックじゃ治らねーだろ......」

「鉄パイプ溶けてるし......」

「庄吾......大丈夫か......」

「逃げてえのに脚が......脚が......母ちゃーん!!!」


・・・初級魔法でここまで大袈裟に反応されたら逆にイラッと来るんだがな。それでも、ひとまず相手が敵対的でなくなったのはありがたいと言えるか。


「お前、何でガチで魔法使えんだよ。マジで死ぬかと思った......」


リーダー格の男(庄吾という名前らしい)も喋る余裕が出てきたようだ。しかし、さっきから皆んなの発言が気になるな。


・・・可能性として全く考慮していなかったのだが、もしかしてここは魔法が存在しない世界なのだろうか?


試しにバイクを鑑定してみたところ、魔力残量が表示されない。元の世界なら魔道具の魔力残量は鑑定で見れたのだがな。バイクほどの大きな動力が必要なものにさえ魔力を用いないということは、本当に魔道具も、いや魔力さえも存在しない世界なのかもしれない。


「庄吾......でいいんだよな。お前魔法使えないのか?」


「誰も使えねえよ。ってか何で魔法が実在してんだよそこからおかしーだろ。」


やはり、この世界には本当に魔法が存在しないようだ。そう考えれば自己紹介を馬鹿にされたのだって辻褄が合う。


「信じるか信じないかはお前らの自由だが、俺は異世界から来た。魔法が使える理由はそれだ。そして俺は朱雀学院の生徒でもねえ。先公騙して生徒のフリしたけどな。これ、先公に言うんじゃねーぞ。」


こう言うと、庄吾はぎりりと歯を噛み締めて、

「異世界とか、いつもならその類の発言は全部笑い飛ばすんだけどな。実際に魔法かけられといて否定とかできねえし。つーかお前今何て言った?先公にも魔法かけたのか?『毒くらわば皿まで』っつーくらいだし、どうせならその話もしていけよ。」

と言った。


しまった、余計なことを口走ってしまったと思った時はもう遅かった。さっきまで脚を震わせていた庄吾の取り巻きも、なぜか尊敬の眼差しでこちらを見ている。



結局、イージーマリオネットや鑑定の話で盛り上がり、俺は庄吾とその仲間達と仲良くなってしまった。自己紹介を馬鹿にされたのも全てはこの魔法の無い世界が原因な訳だし、水に流す他ないしな。


ちなみに元の世界、つまり庄吾達にとっての異世界の話にもなったがミミックに引っかかって転移したことは適当にごまかした。せっかく見直してもらったのにまた馬鹿にされるのはゴメンだからな。



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転生彫り師の無双物語 〜最弱紋など、書き換えればいいじゃない〜

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