プロローグ 異世界転移と不正入学
「お、こんなトコに宝箱あんじゃん!ラッキー♪」
俺はレノン、16才。
ランゲル冒険者養成所の77期生だ。
真夜中の11時、俺は一人でダンジョンの4層を探索している。
なぜ、真夜中にソロで迷宮探索をしているのか。それは、友人たちで「毎晩一人ずつダンジョンを攻略して、何層まで行ったかを競おうぜ!」と、肝試しの約束をしてしまったからだ。
昨日は、仲間内で一番ビビりのチュガが6層まで攻略した。これは、俺は最低でも7層までは攻略しなければならないことを示す。
まあぶっちゃけ9層までは大した敵は出てこないので、気はかなり楽だ。その上、現在攻略中の4層で宝箱も見つかった。そんな訳でかなりワクワクしているのだ。
「それっ!よし、開いた!さーてさて、中身は何k──しまった!」
──宝箱だと思って開けたものはミミックだった。俺としたことが、浅い階層で宝箱を見つけたと思って油断しすぎたようだ。
しかも......これは、この階層で出るミミックの中でも最悪のヤツだな。
第4層で出るミミックは3種類ある。うち2つは、毒霧のミミックと電撃のミミックだ。正直こいつらは大したことはない。この階層のミミックの電撃を受けたところでヒールをかければ全回復できるし、毒霧にしたってキュアポーションを飲みさえすれば良い。
問題は残りの1つのミミック。コイツを開けてしまうと、30日間異世界に飛ばされてしまうのだ。
深層のミミックで異世界に飛ばされようもんなら、1日の滞在で廃人と化すような環境に数年間置かされることもあるらしい。それに比べたら4層のは期限は30日だし、環境だってそこまで悪くないという噂だ。
そう考えたらまあ問題はなくはないのだが・・・他のミミックと不利益の程度が違いすぎるだろ。
「何で、何でこのミミックなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
◇
ミミックを開けてから十数秒後。転移時特有の目が回るような感覚は収まり、視界もはっきりとしてきた。
俺は椅子に座っていた。辺りを見回すと、同年代っぽい30人近くの人が皆同じ服を着て座っている。
部屋の前方の壁には深緑色の板が貼り付けてあり、その板にはでかでかと「朱雀西高等学校入学おめでとう!」と書かれてあった。
どうやら俺は、異世界の学校に、ちょうど入学式の日に転移してきたらしい。しかも一年生の教室に。
だいたい状況が把握できてきた頃、担任の先生と思われる人が教室に入ってきた。そして程なく、生徒たちの自己紹介が始まった。
・・・待てよ、これ結構マズい状況じゃないか?まず、転移者である俺はおそらく入学者名簿に乗ってない。つまり、何も対策しなければ俺はいきなり不法侵入者という事になってしまう。
しかも、自己紹介をした人たちはみんな苗字持ちだった。これはこの学校の全生徒が貴族であることを意味する。
貴族の学校に入学式の日に不法侵入。そんなことをすれば、即刻処刑されても不思議ではない。
それだけは、何としてでも避けたい。さてどうしよう?刻々と自分の席の番が近づいてくる中、俺はこの場を切り抜ける策を練り上げた。
その策は、俺がこの学校の生徒のふりをすること。長期だったらどっかでボロが出てしまってもおかしくはないが、まあ30日くらいなら何とか凌げるだろう。
自分の前の席、早乙女詩音さんの自己紹介が終わったところで、担任の教師に一つの魔法をかける。
イージーマリオネット。その名の通り、威力と自由度を下げる代わりに発動を簡易化した初級の操作系魔法である。元の世界ではこの魔法は緊急時以外の使用を法律で禁止されていたが、まあ異世界だしちょっとくらい大丈夫だろう。
これを使い、俺は担任の教師に自分をこの学校の生徒だと認識させた。そして、教師が持つ入学者名簿を俺が見やすい角度に向けさせた。
ええと......この並び、50音順なんだな。早乙女詩音の次は、志田花音か。名前の音感から察するに、この世界では苗字を先に名乗るんだな?ならば、俺の苗字は......ええと、ええーっと......
マズい。苗字の案が浮かばない。焦りが募る中窓の外に目をやると、一本の満開の樹が目に入った。
「鑑定」
焦りからかこの場で何の役にも立たない鑑定スキルを使ってしまった。だが、それが幸運を読んだ。鑑定で読み取れた樹の名前は、桜。そう、桜だ。これを苗字にすれば50音的に辻褄が合う。
「俺は桜田レノン。公爵家の三男で騎士志望だ。一応、火属性の魔法が得意だ。よろしく。」
しまった、勢い余って「桜」の後に「だ」までつけてしまった。まあ語感は悪くないのでよしとするか。
安堵のため息をつき、あとは穏やかな気持ちになって後の人の自己紹介を聞く。
何人かマトモに自己紹介をしようとせず入学早々担任に怒られていたが、あいつら大丈夫なんだろうか。
そんなことを考えていると全員の自己紹介が終わり、教科書配布、担任の話と過ぎていった。
終業のチャイムが鳴り、何とか誤魔化し通せたようだと安堵したその時、上着のボタンを全部外した数人の男達がこちらに近づいてきた。
全員、自己紹介で担任をキレさせた奴らだ。






