第71話 現実で通せんぼされると普通はむかつく
夜中ですが新章開始です。
・2024/06/30
一部修正。
【side.ステラ】
私はステラ。聖国で見習い聖女などをやっていた者です。
現在は様々な事情と私自身の決意からただのステラとして尊敬する、そして親友でもあるユキナ様と旅をしています。
正直に言うとユキナ様との旅に、ほとんど強引といっていい手段で付いていくことには少なからず葛藤はありました。
今までの見習い聖女としての生活を捨てることになりますし、ユキナ様の目的は世界中を回ること。次にいつ聖国に訪れるか分からない・親しい人たちと再会できるか分からないというのは不安です。
しかし私はユキナ様と共に聖国で過ごした短くも濃厚な期間を思い出し、もっと側にいたいと願うようになりました。この人の親友として、他の国でどのような出会いをするのか、どのような事を成すのか、自分の目で確かめたいと思ったのです。
まあ、1番は私がユキナ様と離れたくなかったからですが。
そんな決意を胸にご同行したユキナ様との旅が始まってそこそこの日数が経ちました。馬車でのんびりと進み、立ち寄った村で宴会をし、野営中に襲ってきた魔物を退治し、ついに国境付近の街にまで辿り着いたのです。
あとは1度王国を経由してから帝国に入る予定でした。
……予定、だったのです。
ですが今、私の目の前で起こっている光景はほんの数日前には予想していなかった――というより予想できるはずがない光景です。
だって、目の前に広がってるのは……
「ユキナ様ぁあああああああああああああああっ!! おやめくださいいいいいいいいいいいいいいい!!」
大量の魔法を希少な聖獣に対して打ち込みながら、どんどん森林を破壊していくユキナ様という光景なのですから!!
あぁ、なんということでしょう!
ついさっきまで仲良くしていた聖獣に親の敵かと睨んだ瞬間、突然このような凶行に走ったのです。
飛び交う大量の魔法。
逃げ惑う聖獣たちの悲鳴に似た鳴き声。
破壊されてく森。
怒りのオーラが溢れるユキナ様。
むなしく響く私の制止の声。
なぜ、こんなことになったのか。
どうしてよりにもよってこの森で騒動を起こしたのか。
考えても答えは出ませんでした。
……教皇様、見習い聖女の皆さん、申し訳ありません。
もしかしたら、再会するのは想像より早いかもしれません。
――私とユキナ様がお縄についた状態で、ですが。
現在、私たちがいるのは『聖獣の森』。
今もなお親友によって破壊されているのは、国際法によって保護と管理がされた不可侵の領域。数多の希少な素材を持つ植物・聖獣が生まれる場所。決して穢してはならない楽園です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
〈数日前〉
【side.雪菜】
「ぶえっくしょおおおおおいっ!」
「……ユキナ様? お風邪ですか?」
「いや、そんなはずはないんだけど……誰か噂してるのかな? いや、普通に噂ぐらいしてそうだわ……聖国内で」
「ふふ、確かにそうですね。聖都を出ていくつかの村や街に立ち寄って、もう明日には国境に差し掛かりますから。いろんな人たちがユキナ様の噂をしててもおかしくな――ふぇ、くちゅん! ……どうやら私も噂されているようですね」
「……何て可愛らしいクシャミ。これが乙女力の差か?」
聖都を出てから早いもんで2週間近くが経った。
明日は国境を越える予定なんで、【土系魔法】で作った簡易の家で野宿の準備をしている。いつもより早いけど、明日は朝一で出るつもりだからな。
本当なら少し離れた所にある国境から1番近い街で体を休ませたかったけれど、ちょいと気になることがあったんで旅の途中から人目に付きにくいルートを選ぶことにしたんだ。
見張りって結構疲れるから宿でゆっくりしたかったのにな~。
【アイテムボックス】にベッド含めて家具一式が揃ってるんで、野宿だろうがなんだろうがフカフカのベッドで眠れるのが救いか。食事も、調理セットや食材が十分あるので毎日美味しいものが食べられる。一般冒険者じゃこうはいかない。合同依頼で野宿する度に「いいなー」って視線を向けてくる。
楽できるところで楽して何が悪い!
そんなわけでステラをベッドに寝かしつけ、不寝番の私は外で眠気と暇との戦いに身を置く。私がフカフカベッドに潜り込めるのは2時間後だ。今日の夜は珍しく冷えるから余計恋しくなる。
「ブルルルッ」
ふと、馬の鳴き声が聞えてきた。
聞えてきたのは【土系魔法】で作った家の隣。そこには同じく【土系魔法】で作った馬小屋があり、旅のお供となった馬車を引くための馬――松風3世(雪菜命名)がこちらを見つめていた。
「オマエも明日は早いんだから、お休み」
意味は通じてないだろうけど、思いは伝わったらしい。松風(以下略)は目を閉じて大人しくなる。
途中の村でわざわざ買った藁も敷いているし、水もエサもたくさん用意した。がんばったご褒美用に新鮮なニンジンだってある。一緒にいるようになってから、付き合いは短いが信頼されるぐらいには大切に扱ってきたつもりだ。
「今度は馬用のブラシでも買おうかな?」
そんな感じに次の街で買う松風用の物を考えたり、ステラと見張りの交代をしたりして夜を過ごした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「思った通りだわ。うっぜー」
こちら現場の雪菜でーす。
私は今、少し前から気になっていたことの確認も兼ねて絶賛忍者ごっこしながら国境門の中にある事務所を覗いてます。
「ユキナ様とステラ様は必ずここを通ろうとするはずだ」
「途中で我々に気付いてしまったのが痛かったが……」
「どっちにしろ、誠心誠意どれ程おふたりが聖国に必要なのか伝えるしかあるまい。私たちが国境門に居座る事を許可されたのは1週間。その間に通ろうと馬車で来るのを待って説得する。それだけだ」
事務所の中に明らかに装いが違う連中がおる。
つーか国境門守ってるはずの人たちからも煙たがられてる。
いつからか私たちのことをつけてきた連中。悪人ではないけどうざったい存在。“ユキナ様とステラ様は聖国に必要なんだ!”ってのを最近の信念に加えた教会の派閥が1つ。
教皇さんからも出発前に注意しとけ言われたから【ヘルプ】に時々確認してたけど、しつこいったらありゃしない。村や街で私らに無理して接触しようとすると衛兵さんに通報されかねないから、街道で待ち伏せしたり早馬で追いつこうとしてきたんだよ。その度にルートを変えたり、スキルの練習も兼ねて幻影の囮を作ったりして撒いた。
これが犯罪組織だったら問答無用で半殺しにすればいい。
でも相手は少し行き過ぎた行動をしているだけで決して悪人ではない。ウザいからと物理的説得をすればこっちが衛兵のお世話になる。
だからといって、善良な市民として「争いは好みませんよ。うふふ~」な感じで通ろうとすれば馬車の進行方向でひれ伏したり、涙流して足にしがみつくかもしれない。ぶっちゃけ気持ち悪い。
「……いったん戻るか」
近くの街で数日過ごすことも視野に入れよう。
実際、連中が変なことをしてきたら正当防衛でボコボコにしてもいいけど、聖国での私のイメージはできるだけ壊したくないからなぁ。
信じられる? 小さい子供にまで人気なんだぞ私? 国境門で騒ぎがあれば耳に入るだろうし、ただでさえ変な称号まで付いているのに、そこに『称号:暴力系聖女』とか付いたら目も当てられない。
Q.何で松風3世? 1世と2世は?
A.雪菜「小学校の図工で作った粘土の馬が初代松風。中学の美術で作った木彫りの馬が松風2世。名前が決まらなかったんでソコから取った」




