SS 胃袋を掴もう作戦!
・2024/06/14
一部修正
「事態は思ったよりも重い」
薄暗い部屋の中、私たちは作戦会議をしていた。
机に座っている私は俗にいうゲン〇ウポーズ。
ちょっぴりカッコイイよね。中二心もくすぐられる。
「私が聖国に来て、何やかんやで聖女となってそれなりに経った。市民からの反応は上々と言えよう……だがしかし!」
目を力強くクワッ!
「ステラ以外の見習い聖女たちとの距離が……遠い! これは由々しき問題だ。小さい子にまで微妙な顔されるとか年齢お姉さんとしては地味に傷ついてまう。よってここに『人類御飯計画』を立案する! 意見ある者は挙手!」
「あのーユキナ様? この場には私とユキナ様しかいないのですが。とりあえず言いますと、カーテンだけでも開けましょう? 他の見習い聖女の皆さんと仲良くしたいというユキナ様のお気持ちはよく分かっていますので、私では理解できない悪ふざけはこの辺りにして具体的に考えるのがよいかと」
シャッと、ステラがカーテンを開ければ窓から差し込む光によって部屋が明るくなる。雰囲気ぶち壊しだ。
「ちょっとステラー。ナチュラルにツッコむのやめようぜー。大マジメに考えてるからこそ、その前くらいおふざけしたいやもーん」
当たり前っちゃ、当たり前だけど、聖国にはステラ以外の見習い聖女たちが何人もいる。見聞を広めることも含めて布教に行っていた子たちはみんな帰ってきた……若干1名を除いて。
まあ、それでですね? 元からいた見習い聖女の子たちからしたら青天の霹靂、帰ってきた子たちからしても“訳分かんないよ”状態の出来事が聖国の場所は聖都で起こった。
はい。ぶっちゃけ私のことですテヘッ☆
複雑な気持ちなんだろうね。
ステラは事情知っているうえに聖国に入る前から私と知り合って仲良くなったけど、他の子はそうじゃない。
教皇と錬った時間稼ぎの計画は、情報漏洩を防ぐために極一部の人にしか知らされていない。まだ子供といっていい年齢もいる見習い聖女たち全員に、今の時点で教えるわけにはいかなかった。少なくとも私が聖国を出るまでは余計な不安となる問題は作らないようにするというのが教皇の考え。
で、そうなってくると……
【例1】
~ある日のお昼時~
『今日の昼飯何にしよ~♪ ……ねえステラ? せっかくだから他の見習い聖女の子を誰か誘って食べない? いい機会だし、これを気に親密度アップだぜ!みたいな。最初だから2人ぐらい欲しいな』
『そうですね。誰がいいでしょうか? 今の時間いる方だと……あ! ユキナ様、ちょうどあそこに2人いますよ』
『お! ラッキー! へーいっ彼女たちー! お茶でもどーお!?』
『あら? ステラと………………!?』
『せ、聖女ユキナ様!?』
『これからお昼食べるんだけどさ? せっかくだし聖女繋がりってことで親睦深めようと思うんすけど。どうっすか? 今なら何と私のおごり。とくと味わうがいい! ユキナちゃん特性しゃきしゃきレタスとハムの――』
『す、すみません。急用があるので私はこれで!』
『お昼は別の機会にでも!』
『――サンドイ……っち、だょ』
『『それでは!』』
――タタタタタッ!
『……』
『……えっと』
『………………グスッ(orz)』
『ユキナ様しっかり!』
【例2】
~とある朝、廊下にて~
『ふあ~ぁ。今日のお祈り(本当は呪い)も終わったことだし、二度寝でもしようかな? 予定だと午前は自由時間だったでしょ?』
『二度寝はあまり褒められませんよユキナ様』
『そんなこと言ったって、昨日の夜は私が目を通しておかないといけない資料を確認してたから眠いんだも――あぶっ』
『キャッ』
『あ、ごめん。よく見てなかったわ。大丈夫?』
『はい大丈夫です。こちらこそ前を見てなくて申し訳――って、あ、あなたはもしや、聖女になられた、ユキナ様で?』
『うん? まあ、そうなんだけどさ。それより――』
『ももももも、申し訳ありません! 全面的に私が悪かったんです! そのようなつもりじゃなかったんです! 信じてください!』
『うぇ!? し、信じるけどさ。あのー』
『ししししし失礼しますぅぅぅぅぅっ!』
――ダダダダダダダダダッ!!
『……』
『……あの、ですね……』
『………………しくしくしくしく』
『ユキナ様お気を確かに!』
と、こんな感じになったわけだ。
理由は分かるけど納得はできない。あ、ヤベ。思い出したらまた涙が……
「ユキナ様、ハンカチをどうぞ」
「天使かよ」
涙を拭き、ついでに鼻水もかんだところで作戦会議を再開。
ちなみに私の涙と鼻水で汚くなったハンカチは後日、邪な心を持った奴が触れないぐらい清潔にしてから返すと約束した。
一瞬それだと私自身が手で触れられなくなるんじゃ? と思ったけど大丈夫。こんな純粋無垢でピュアな心を持ったゴッデスな私が汚れた心など持ってるわけn――すみませんウソつきました。自分でこんなアホなこと思ってる奴が何をもって純粋無垢か。リリィやステラと比べたら私の心なんてどっか隠れた場所にカビがついてるレベルだっての。
おっと、また心の中で脱線しちまったぜ。
「それでユキナ様。その『人類御飯計画』とは何をするのですか?」
「……意外と覚えてるなステラ。いったんその計画名は忘れて」
語呂が良かったから言っただけなんだよ。
「簡単に言えばさ、今まであの子たちが食べたことない珍しいものを作って、まずは胃袋から掴もうって作戦なんだわ。ステラにはそれを届けて自然に食べさせて貰いたいの。私が持って行っても先の二の舞だから、ね」
「今まで食べたことないもの……ですか? 少し難しいのでは? 他国に行ったりする関係で皆さんそれなりに多くの種類の食べ物を食されています。アレンジ料理ならいけると思うのですが……」
「ところがギッチョン。事前にある程度調べてみた結果、1つだけ思い当たるものがあったんだなーこれが」
「そのようなものが?」
「ふっふっふ。そ・れ・はー……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【side.ステラ】
「皆さん? 入ってもいいですか?」
「ステラ……」
「あらステラさん? こっちに来るなんて珍しい」
ユキナ様と一緒に作った秘密兵器の入ったバスケットを片手にお邪魔した部屋は、見習い聖女たちが私的に集まってお話などをする広いお部屋です。以前は私もよく利用していました。ユキナ様の付き人になってからあまり来る余裕がなかったのです。
……逆に他の見習い聖女の皆さんはここ最近、暇があればこの部屋に集まっているみたいですね。
理由は何となく分かるんです。
突然現れて聖女となったユキナ様の件で思うことが多く、だけど1人で考えるだけでは何も変わらず、みんなで集まる機会の多いこの部屋に来たまでは良かったけど中々悩みが前進するような話題も無く手詰まりに。そんなことをずっと繰り返しているのでしょう。
皆さん、本当に優しい方ばかりですから。
普通だったら嫉妬の1つ2つしてもおかしくないのに。
そんなことするような子たちじゃないいから余計悩んじゃうんですよね。
「今日は皆さんに差し入れです。人数分ありますよ」
バスケットからまだ熱さを残すそれをテーブルに置きます。
「? ステラさん、これは一体……?」
「“フルーツグラタン”という料理だそうですよ」
「………………え? フルーツのグラタン!?」
皆さん驚いた顔で料理を見つめます。
フルーツグラタンが入っているのは簡単に食べられるよう1人分に分けてよそった小皿です。その見た目は一年を通して暖かい聖国ではまず食べないであろう、冬の時期の料理――グラタンにそっくりですが中身がまるで違います。
具材は聖国で取れた各種フルーツを一口サイズに切ったもの。黄色いのもチーズではなくカスタードクリームを使っています。アクセントとして上にちょこんと乗ったミントがカワイイです。
それらのことを説明して早速勧めます。
やはりというか最初はフルーツグラタンという料理名に、今まで食べたことがない未知のものに対して躊躇していましたが、私と同い年の子が意を決したように口に含めば……
「美味しい……!」
当然そのおいしさに驚く訳です。
そこから全員が手をつけて小皿の中身が無くなるまであっという間でした。本当に美味しかったですからね。
ちなみに私はユキナ様とご一緒に試食した段階でかなり食べています。少し……その、体重が気になってしまうところですが。
ユキナ様も初めて作られるものなので色々と試行錯誤されていました。
少しでも美味しいと言ってもらえるように味だけでなく見た目も考えていました。ユキナ様の住んでいた国では『見た目で食べる』という言葉があるそうです。素敵ですね。
そんな真剣にユキナ様が作られたからこそ、余計美味しく感じるのでしょう。側で調理風景を見ていた私には分かります。
「あの、ステラ……」
食べ終わった子の1人がおずおずと聞いてきます。
ユキナ様とぶつかった子ですね、
「これ、作ったのって、もしかして……」
「はい。ユキナ様ですよ! 皆さんともっと仲良くしたくて、でも自分のせいだと分かってるから涙目で落ち込んで、それでも諦めたくないので胃袋から先に掴むことにしたそうです。私にも、最初は誰が作ったか言わずに食べさせて欲しいって」
特に口止めはされていないので素直に言います。
むしろぶっちゃけろ、とユキナ様からも言われているのです。
「……っぷ」
「ふふ。ふふふ」
近くから笑いを堪えきれなかった子たちが口元を押さえています。
2人はユキナ様からの昼食の誘いから逃げてしまった子たちでした。
「それ、言ってもいいのですか?」
「食べたあとなら言っていいそうです」
「打算的な人、なのかな?」
「むしろ打算上等だそうです。本当にどうしようもないこと以外でウソはつかないと。『真っ向勝負で美味しいもの作って、先に胃袋を掴むぐらいぐらいしか思いつかなかったんや! 数日も考え抜いた結果がこれだ! 笑いたくば笑え!』と」
「………………あ~あ」
「私たち、何してたんでしょう?」
「何だかいっぱい考えていた自分がバカみたいに思えてきましたわ」
「冷静になれば簡単だったんですよねー。変に考えたり避けたりせず、まずはユキナ様と会ってお話しすれば良かったんですから」
「いつの間にか、私たちの方から歩み寄るっていうことを忘れていました。ステラを見ていれば、ユキナ様が眩しいぐらいに良い人なのは分かってたことなのに。……ねえステラ? ユキナ様とみんなでお話しする席を設けたいんだけど、協力してくれない?」
「もちろんです!」
ユキナ様。作戦は大成功ですよ!
皆さんからはもう、悩んでいる雰囲気はありませんから。
私は部屋から出ると小走りでユキナ様の待っている場所に向かいます。
きっと、ソワソワした様子でお部屋の中を歩き回って待っているだろうユキナ様の元へ。少しでも早く知らせるために。
その後のことは、望んだとおりの結果になりました。
数日後には私も、ユキナ様も、そして見習い聖女の皆さんも、笑いながらテーブルを囲んでお茶をする光景が見られるようになったのです。
みんな仲良くなれるって、本当に幸せですね……
――“アタシのこと忘れるんじゃないわよぉおおおおおおおおおおお!!”
…………幻聴が聞えました。
ごめんなさいヴィヴィアン。あなたはまだ帰ってきていませんでしたね。
け、決して忘れていた訳ではないのですよ? ただ、その、いい話で終わったものだから、ちょっと記憶から薄れてしまっただけで……
――もうっ、早く帰ってきてくださいよ。
一体どこで何しているのですか!?
~おまけ~
【その頃のヴィヴィアン】
少数民族Aヽ(#`Д´)ノ「待てええええええええええ! 果樹園荒らしたのはオマエかああああああああ! 大人しくお縄につかんかーい!!」
少数民族Bヽ(#`Д´)ノ「う~らららららららら!!(火の付いた松明を振り回している)」
ヴィヴィアン(#゜Д゜)「だから誤解だって言ってるでしょうがよぉおおおおおおおお!! アタシの話聞けやちくしょう! うわっ火ぃ投げた! てか地面が爆発した!? アタシら殺す気なのアンタたち!? やり返すわよごらぁあ!」
このあと、めっちゃくちゃケンカした(ヴィヴィアン談)。




