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SS 見習い聖女ヴィヴィアン

・2024/06/14

 一部修正


[side.ヴィヴィアン]



 ようやく……


 ようやくよ……!


 アタシは、アタシは……!




「帰ってきたわよ! 聖都ぉおおおおおおおおおおおっ!!」




 両腕を天高く伸ばして、心の底から来るあれやこれやを聖都中に届けとばかしに大声で吐き出した。


 アタシと仲間たちがいるのは聖都の門、その内側。

 まあつまりは、“聖都”となってる場所の、その最初の1歩目の所に陣取ってる。

 普段だったら迷惑だしやらないわよ? アタシはみんなが憧れる聖女の候補――その1人なんだから。個々の性格や個性はともかくとして、見習い聖女として恥ずかしくないよう規則を守り、模範的でなければなんないんだから!


 でも、でもね?

 今回だけは大教会までの馬車を待たなきゃならないのよ。

 だって、


「あんの腐れオーク共、よくもアタシたちの血と涙と汗の結晶である手作り馬車を……! 神よ! アナタはどこまでアタシに試練を課すのですか!?」


 周りの目を気にする余裕も無いまま、祈りを捧げるように天に向かって吠えた。地面だけど膝をつくぐらいの必死さよ? 実際は長時間歩きっぱなしで、もう1歩も足が動かないぐらい疲労してたから立てなくなっただけなんだけど。


 届いてこの想い! いや本当に!


「おいたわしや、ヴィヴィアン様」


「作ってる最中にケガして血を流し、『もう無理です諦めましょうよヴィヴィアン様』と涙を流して、最後の最後に汗まみれで作り上げたオレたちの努力の成果が粉々になりましたからねー。あれ? 目から汗が出てきやがる」


「2度としたくない旅でした。あ、これハンカチです」


「あ、ありがとう。う、ううぅ……」


「我々の今回の旅、普通に本を作れるぐらい濃いですからね……」


「いっそ本当に本にしましょうよ! そこそこ売れると思うわ! で、その本で売り上げたお金を使って寄付なり何なりして、そのことを聖国中に広めれば、アタシたちの名声は高まるから疲労・心労と比べてもプラスマイナスはゼロ! むしろ少しプラスってことよ! そしてまた1歩、聖女への道が近づくってもんだわ。アーハッハッハッハ!!」


 アタシはただじゃ転ばないわ!

 大教会に着いたらさっそく教皇様と相談しなきゃ!


(普通の11歳ならとっくに心が折れる旅でしたのに)


(もう未来のことを考えているとは)


(ヴィヴィアン様は相変わらず心が強く、前向きでございますね)


(いや、何度も言うけどヤケクソになってるだけなんじゃ?)


(何を言っていますか! そんなヴィヴィアン様だから我々もここまで付いてきたのですよ! がんばる姿が私には愛おしく見えて……)


(アナタのは少し特殊性癖なだけでは?)


(ヴィヴィアン様が涙目で対処する姿に興奮していると知った時の、我々のドン引き具合をもうお忘れになっているか)


(たまに隣でハァハァと荒い息が聞えるこっちの身にもなれよ)


 ――? なんだか旅に同行していた人たちがヒソヒソしているけど、何か隠し事かしら? あとで問い詰めなくちゃ。


「ヴィヴィアン様、迎えの馬車が参りました」


「分かったわ。アンタたち、いい加減アタシを置いてのヒソヒソ話はやめて馬車に乗るわよ。懐かしの大教会が待ってるわ!」


「「「「「はい。ヴィヴィアン様」」」」」


 そうして動けない体に鞭打って馬車に乗り込んだアタシたち一行。


 いろいろあって他の誰よりも布教の帰りが遅くなったけどみんなどうしてるかしら? ここ最近、急に見習い聖女としての実力が上がった気もするし、その辺も教皇様に確認取らないと。


「……ステラの奴も元気かしら?」


 何かにつけ、しょっちゅう話かけてきた年上の見習い聖女を思い出しちゃう。ステラはアタシと同じで、見習い聖女たちの中でも実力もあるからどうしてもライバル視しちゃうのよね。布教の旅に出る時は「旅の間に追い抜いてやるんだから!」って意気込んだのに、逆にステラがいないせいで妙に個人修行はやる気が出なかったの。


「ライバルが側にいる環境が1番アタシに合ってるのかしら?」


「(……単にステラ様がいなくて寂しいだけなのでしょうが、ヴィヴィアン様はいつになったら気付くのでしょうか?)」


「なんか言った?」


「いえいえ。何もございませんよ」


「ふん! さーて、それなりに成長したアタシにみんなどんな顔で驚くかしら? 今から楽しみだわ。『こ、これは……!』みたいな目が点になるような表情を期待したいけど、ステラの成長しだいじゃ良い反応は得られないかもね。他の連中も本気さは一緒なんだし、もしかしたら予想外の成長を遂げている子もいるかも?」


 アタシとステラの2人が今のところ1歩リードしているけど、教皇様も慢心はいけないって言ってるし、気を引き締めなきゃ。


「鬼が出るか蛇が出るか……楽しみね」


 これからのことを考えて、アタシはニヤリと笑った。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 予想外だったわ。

 まさかアタシの想定を上回る事態になってるなんて……



「な、な、なによこれぇええええええええええええええ!?」



 大教会が近づくにつれて「あら? 工事が多いわね?」って思い始めて、より近づいて「いえ、どう見ても半壊しているっぽい家が所々にあるんだけど……」と嫌な予感がし始めて、大教会が見えたあたりで「本当に何があったのよ!?」と叫ぶ羽目になったわ。


 だって大教会とその付近が、戦場にでもなったんじゃないかってぐらい荒れてたもの! 多分修復工事をし始めて1週間してるかどうかよ? すでに直ってる場所・工事している場所の真新しさを見れば、おおよその損壊具合は予想できる。屋根の修理された建物が多いことから、まるで空から魔法が大量に降ってきたみたいじゃない!


「ヴィヴィアン様。我々が聖都にいない間に何が起こったのでしょう? 飛行魔物の襲撃でしょうか? それとも魔王教団の破壊工作なので――」


「んなこと知らないわよ!! アタシの方が知りたいっての!?」


 大教会前の広場で叫んでいたから、周囲の人たちもこっちに気付き始めた。


「あれ? もしかしなくても、ヴィヴィアン様?」


「よ~~~やく、帰ってこられたのか」


「ヴィヴィアン姉ちゃん、相変わらずちっちゃいなー」


「うむ。まるで成長していないな。背が」


「ヴィヴィアンたん。ハァハァ……」


「2、3日前なのに、もうユキナ様が帰られたみたいだ」


「あー、分かるわー」


 一部変なのがいるけど、こうやって注目されていると帰ってこれたって実感するわね。けれど背の話は余計よ。


 ところで“ユキナ様”って誰?


「ヴィヴィアン!」


 大教会からアタシを呼ぶ声が聞えた。

 見れば、同い年の見習い聖女の子が小走りでこっちに来る。


「もー、本当に遅かったね。このまま帰ってこないかと思ったもん。いろいろ巻き込まれたってことは知っていたけど、途中から連絡が途絶えたから捜索隊の編制の話まで出ていたんだよ?」


「マジで? あぁけどそっか。心配かけたみたいね。こっちも一言で言い表せないぐらいトラブルがあったのよ。……ただいま」


 そういえば途中で連絡係ともはぐれちゃったのよね。

 でも仕方ないじゃない。ようやく巻き込まれたトラブルを解決したと思えば、嵐に遭って道に迷っちゃったんだから。


 馬車と馬もいつの間にかいなくなって、途方に暮れたのよ?


 アタシの勘を信じて進んだ先で少数民族の集落に辿り着いて、笑いあり涙あり炎ありの交流の果てに馬と馬車の材料になりそうな物を貰ったくだりは、本にしたらラスト1歩手前の感動シーンよ。

 外部とも一部交流があるみたいだったから、いつか絶対お礼を言いに行くの。内容が濃すぎて一生忘れられない思い出になったわ。


「ヴィヴィアンがいない間に本当にいろんなことが起こって……。ユキナ様のことやクーデターの件はもう知ってる?」


「いやだからユキナ様って誰な――って、クーデター!? 一体どこの誰よそんなアホなことしたの!?」


 アタシがいない間に何が起こったっていうの!?


「その辺りのことも含めて教皇様とお話しして。そこで、ユキナ様と……ステラ様のことも。後数日、帰るのが早かったら会えたのにね」


 は? ステラがどうかしたの?




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 教皇様からあらかたの事情を聞いたわ。

 途中から情報が遮断されていたから、新たな聖女であるユキナって奴のことなんて知らなかった。


 さらに聞かされたのはクーデター(未遂? 何者かが枢機卿を操った?)のこと、アタシを含めて見習い聖女たちに本来の力が取り戻されたこと、聖女ユキナ様は聖国から聖女が出るまでの時間稼ぎに協力していたこと、そして……そのユキナの親友で命を救われたステラがそのままユキナの旅について行ってしまって、実質新たな聖女候補から外れたうえに次に会える日が未定であることなどを告げられた(同時に絶対に口外しないことを約束させられる)。



 結果、アタシは頭を抱えてうつむいている。



「それにしても、まだオークの生き残りがいましたか。それとも自然発生した個体か? どの道、調査する必要がありますね。ともかく、波瀾万丈な布教の旅お疲れ様でした。しばらくはゆっくりと体を休めるように――」


「ゆっくりしてられるかああああああああああああああ!!」


「うおっう!?」


 うがー!と立ち上がったアタシは机越しに教皇様の胸ぐらを掴んで前後に揺する。模範的行動? そんなこと言ってる場合か!?


「アタシのこれまでの旅なんかよりもよっぽど話題性に富んでるじゃないのよ!? 帰ってきたら出てきたのが鬼でも蛇でもなくて、翼の生えた豚ってどういうこと!? しかも、しかも! ステラの奴、何でアタシに挨拶の1つもしないで出て行っちゃうのよぉおおおおおおおおおおおおおお!」


「いや、それは、帰る、のが、遅かっ、たか、らで」


「んなこと知ってるわああああああああああっ! 好きで遅れたんじゃないのにいいいいいいいいいっ! こんなのってないわ! ステラに会ったらいっぱい今回の旅の話してやるつもりだったのにぃ。ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおお! アタシのライバルが寝取られたうわぁあああああああああああああああああん!!」


 なんだか心が暴走して自分でも何言ってるか分からないけど、とにかく気持ちを吐き出さないとやってらんない。


「ぐふっ。ヴィ、ヴィヴィアンは本当にステラのことが大好きなんだね。でも、そろそろ手を離してくれないかな? ちょっと息が――」


「決めたわ!」


「ぐえっ」


 教皇様を掴んでる手を思いっきり上げて宣言する。


「何がなんでも本物の聖女になってやる! それで次会った時にステラの奴を驚かせてやる! ついでにユキナっていう泥棒猫にギャフンと言わせてやる! 待ってなさいよステラ! そしてユキナ! アタシはただじゃ転ばない女、見習い聖女ヴィヴィアン! ぜ~~~ったいに度肝を抜いてやんわ!!」


 こうして、新たな目標を立てて今まで以上に修行に打ち込むことになったアタシ。得意の炎系魔法だけでなく、聖女に必要だとされる力の制御にも時間を割いて、聖都での生活を再開させた。


 ちなみに、あのあとさすがに怒った教皇様によって、1週間の掃除当番と行儀講座を受けることになったわ。

 ちっくしょうぅぅ……



~あとがき劇場~


雪菜(;´・ω・)「“寝取られ”とか“泥棒猫”とか酷い言われようだ」


剣二(;´・ω・)「ステラちゃんのこと好きすぎだろこの子」


雪菜(;― ―)「うーん……たぶん、そう遠くない内に会うことになりそうなんだけど、後ろから刺されたりしないよね私?」


剣二(´・ω・)「後ろから炎は飛んできそうだな」


ステラ(*´∀`)「ヴィヴィアンとユキナ様って何となく似ているでしょう? きっと仲良くできますよ。私もお手伝いしますから!」


雪菜&剣二(;― ―)(― ―;)「「いやー、どうだろう……?」」


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