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SS 一般の信者の場合

・2024/06/14

 一部修正


 ある日の朝。


 朝日の差し込む礼拝堂では数十人の信者たちが、祭壇に鎮座する秩序の神ティファエルの像を前に跪いて数分間の祈りを捧げていた。


「……皆様、お疲れ様でした。本日の祈りはこれにて終わりです」


 神官長の男が優しげな声でそう言えば、信者たちは近くの者に簡単な挨拶をしてそれぞれ散っていく。


「ふう……」


「お疲れ様です。聖都に来てそれなりに経ったようですが、少しは慣れましたか? 慣れない内は無理して毎日来なくともよろしいのですよ?」


「だ、大丈夫です神官長。こういうのは最初が肝心だと両親も言っておりましたし、毎日の積み重ねがティファエル様の信仰に繋がると信じていますから」


 神官長に話しかけられた男は少し前に別の街から聖都に移り住むこととなった、秩序の神ティファエルを信仰している大勢の信者の1人だった。就いている仕事もごく普通であり、一般的な家庭で生まれ育った一般人の独身男性だ。


 彼女が欲しいと思ったことはあるが、残念ながら出会いはない。

 一応“愛の神アモーラ”という存在もいるにはいるが、男は少年時代から秩序の神ティファエルの信者であり、余程のことが無ければ信仰する神の鞍替えなどしない。そもそも特定の信仰する神を別の神に替えるのは法律で禁止されている訳ではないが、周りから良い顔をされないものだ。それが聖国なら尚更。


 ちなみに、愛の神アモーラを信仰している成人ずみ信者たちの恋人・配偶者のいる割合は全体の70%との調査結果が出ている。

 多いと見るべきか少ないと見るべきか、微妙に判断に困る数値だ。


 男はティファエルの教会を出て背伸びをする。それから周りに人がいないのを確認して大きな欠伸あくびをかいた。


(やっぱり朝の早い時間はキツいな……)


 男は朝に弱かった。

 仕事に行くまでの時間ならまだしも、それよりも前に家からティファエルの教会に出向いて祈りを捧げるのは家からの距離的に考えてもキツいのである。


 無論、教会での祈りは強制ではない。


 せっかく聖都に住んでいるのだから、可能な限り自分が信仰する1柱の神のためだけに建てられた教会で祈りを捧げよう、という風潮があるだけだ。朝の早い時間帯に神官長が主体で祈りの時間を作っているのも、時間を決めて大勢で祈りを捧げるという1つの共同作業をすることによって自然な連帯感を生もうとしたのが始まりだったりする。


 男が律儀に毎朝教会へ訪れるのも深い意味はない。

 まじめに祈りを捧げた方がいいんじゃないかなー、ぐらいのフワッとした気持ちからだ。男の自宅にはティファエルの家庭用小型祭壇があるので、そっちで祈ってもいいのだ。教会に来れない信者は大体が家の中で祈っているのだから。


 ただ、


(せっかくの新生活なんだし、新しくできることは何でも挑戦してみたいからな。最低でも半年は続けよ)


 そんなフワッとした理由だった。


 男の根はまじめだ。

 ただ個性として、必要以上に私生活のことを深く考えず流れるままに行動してしまうのが偶に傷でもあった。


「家帰って朝食を済ませて仕事いくか」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 お昼どき。

 男は休憩時間に入ったので屋台の食べ物を買うことにした。


「今日は何がいいかな? いっそ果物だけにするか……」


 1年を通して暑いトリストエリア聖国では一般庶民に弁当の文化はあまり浸透していない。保存方法や具材を考慮しなければ、半日で弁当箱の中身が悲惨なこととなってしまうためだ。

 その保存方法や具材を考慮して弁当を持参している者たちもいるが、レパートリーが減ってしまううえに面倒なため時間のない人は最初から諦めていたりする。男もその1人だ。


 さらに言うと、もう1つ弁当文化が根付かなかった原因がある。

 低価格で提供する様々な屋台の存在だ。


 聖国ができあがってしばらくすれば、以前の国の悪政で苦しんでいた人々の生活もマシになっていった。ただし、今と違って他国との貿易などはまだ行われていなかったため、基本的には自国にあるものだけで生活していた。

 そして、聖国にあるもので弁当の中身に入れるのに適したモノはほとんど無かった。


 そうなると、きちんとした飲食店以外だと流水で冷やした果物や、当時はまだ高価だった冷却系の魔道具を取り扱っている屋台での飲食が、お昼時に家以外の場所で仕事をしている一般庶民の腹に収まることとなった。

 提供している屋台も需要が高くなるにつれ、1回に売る際の値段を安くしてお客により多く来てもらうようになる。競争相手の屋台もお客を取られまいと、提供するモノの質を上げつつ値段を下げるようになる。以下それの繰り返し。


 結果、現在聖国の屋台で提供されるモノは他国と比べて安く、仕事をしている者達はお昼休憩の時に近くの屋台を利用するようになった。

 冷却系の魔道具が屋台・飲食店を経営する人に安く買えるようにしたことで、屋台で提供されるモノの種類が増えたのも理由だ。



 閑話休題。



 男がどの屋台にするか吟味していると、カンカン!と金属をぶつけ合う音と周囲に響く少女の声が聞えてきた。


「炊き出しの時間だ! オメーら、胃袋の空きは十分か!」


「ユキナ様、ここにいる方々は基本的にお腹をすかせている方ばかりです。むしろ空きがないことこそ望ましいのですが?」


「いや、だって、1度は言ってみたかったんだもん。英雄な王とか普通いないし、武器の貯蔵とか……それこそ意味不明だし」


「私はユキナ様の言っていることが意味不明なのですが……」


 視線を向ければ、そこには聖都にも少なくない数いる貧民を相手に炊き出しを行っている大教会の面々がいた。


 その中でも目立つのは見習い聖女の1人であるステラと、先日晴れて今代の聖女と認定された雪菜だ。


「ステラ様は相変わらず可愛らしいし、ユキナ様も輝いているなー。オレがもう少し若ければ口説いたのに……」


 ステラは聖都でも元々人気があったが、雪菜も聖女として活動し始めてから短期間で人気が出ていた。


 今までにいないタイプの聖女であり戦闘能力も高いことも知れ渡って注目を集めていたが、所々で持ち前の男前らしさを見せたことで人気が急上昇した。今では非公式ながらファンクラブまであるという噂話。ファンクラブの会員曰く、時折見せる本当に優しそうな表情が普段とのギャップもあってキュンとするらしい。

 そしてファンクラブの者たちは、日夜陰からユキナに不埒な真似をする者がいないか監視しているという噂まである。



 なので、



「う―ん、せめてお近づきになれないものか――」


「貴様、今ユキナ様に不埒なことを考えていなかったか?」


「――ん?」


 男が後ろを向けば、そこには数人の若者が……


「怪しい奴め。ちょっとそこの路地裏で話し合おうか」


「安心なさい。何もなければすぐに解放するから」


「え!? い、いえ、私は……!」


「問答無用! 我らユキナ様ファンクラブ”ホワイト・ラブリーズ”がそこのところをハッキリさせてやろう!」


「ファンクラブ名ダサっ!?」


「何だと! 我々が三日三晩かけて考えた名前にケチをつけるとは! この会員番号5番のオレが直々に聞いてやろうぞ!」


「いやちょっと待って! ちょ、誰か助け――!」


 男はそのままファンクラブの人間に連れ去られていった。


 普通に考えれば白昼堂々の事件に見えなくもないが、非公式とはいえファンクラブの存在は市民も知っているので衛兵沙汰にはならない。周囲の人たちも「毎日ファンクラブの人もご苦労だな」ぐらいにしか思っていなかったりする。


 その後、路地裏に連れ込まれた男は聖女ユキナ様がどれだけ素晴らしいかをファンクラブの会員たちに聞かされ続け、「こういうのもいいかな?」というフワッとした理由から自らも会員になるのだが、それはまた別の話である。




 ちなみに……


「ユキナ様、先程こちらを見ていた男性が……」


「ステラ。世の中には関わったらいけない奴らもいるんだよ。さっきの男の人――というか、その人を連れて行った連中のことは記憶から可能な限り消しときな。つーかマジ記憶消去したいわ。何やねん非公式ファンクラブって? SAN値がゴリゴリ削れるっての」


 雪菜はスキルの効果で先程の会話がバッチリ聞えていたりする。


 その日の聖女様は終始死んだ魚のような目で炊き出しを行っていたとは市民談。だけど相変わらず炊き出しのごはんとは思えないくらい美味しかったとは貧民談。今日も素晴らしかったですユキナ様とはステラ談。



~あとがき劇場~


ステラ(*´∀`)「今回は一般的な信者の男性の日常から教会のあり方や聖国の文化の一部を紹介するお話でした。SSや閑話では本編で紹介できなかったお話などもします。これからもユキナ様がご活躍する『アルビノ少女』を応援してください」


剣二(;゜д゜) 「(おい。オマエの親友、当たり前のようにいるし、さりげなく作品の紹介しているけどいいのか?)」


雪菜( ;゜∀゜)「(だ、大丈夫だ。ステラはいい子だし、その辺りの匙加減は私なんかよりも上手いはず。私はステラを信じるぞ!)」


ステラ(*´∀`)「ちなみにユキナ様の非公式ファンクラブですが、私はなんと会員番号2番という栄誉をもっています♪」


雪菜Σ(゜Д゜;)「えっ!!!??」


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