第70話 親友(1人目)
・2024/03/17
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青い空。白い雲。輝く太陽。そして、笑顔の人々。
1週間前に起こった未曾有の危機の爪痕なんか、欠片も無い。
むしろ活気にあふれている……吟遊詩人が歌うぐらいには。
「絶体絶命の聖都。しかし、我らが聖女ユキナ様は諦めていなかった。キズを負った体をむち打ち立ち上がったのだ。側で支えるは聖女ステラ様。2人の絆の力により聖女ユキナ様の武具は空を飛ぶ力を得て、悪しき魔物へと突貫する。民が見守る中、ついに聖女ユキナ様の攻撃が魔物を貫く。地に落ちる悪しき魔物。歓声響く聖都。そして、日が落ちた空で輝く2人の聖女たち。それは奇跡の光景か、はたまた神々の祝福か。どちらにしろ言えることは1つ。彼女こそ初代聖女の再誕、我ら聖国の象徴。歴史に名を残す真なる聖女と呼べるだろう……」
「すっげーーーーーーー!!」
「おじちゃん、もう1回聞かせて!」
「聖国は安泰だな。さすがユキナ様とステラ様」
「ブフッ。と、尊い」
「おい姉ちゃん、なんで鼻から血ぃ出してんだ?」
「なあアンちゃん、今度は別のユキナ様の話聞かせてくれよ。オレ、噂話に疎くてねえ。おひねりはずむからさ?」
「構いませんよ。それならユキナ様の“除霊大戦・エルダーリッチとの因縁の対決”あたりを……」
新たな吟遊詩人の話に子供だけでなく大人も興味を示す。あのオッサン吟遊詩人、しばらくは食うに困らないだろうな。
まあ、そんなことはどうでもよくて……
「おおおおおおぉぉぉ~~~……」
吟遊詩人が言った真なる聖女像なんぞ霞んでしまいかねないような、地獄から響いてきそうなうめき声が口から漏れる。
はい。真なる聖女(笑)なユキナちゃんです。
下手に外出ると騒ぎになるんで、大教会からまともに出られねえ。
しゃーないからと【遠見】&【聴覚強化】を使って外の様子を覗いたら、吟遊詩人が私の英雄譚を歌っているじゃあ~りませんか?
生きてる内に自分の活躍が吟遊詩人から語られる精神ダメージ半端ねー。
精神耐性系のスキルがあるはずなのに、すぐレッドゾーンに突入する。
さらに異世界事情による違いは、少しでも多くの人から金をもらえるよう吟遊詩人によって話をちょっぴり脚色されること。
これが1人ならまだいい。
問題は吟遊詩人が複数いること、人から話を聞いて物語を創ること、そして――伝言ゲームみたいに話す人によって内容に僅かな違いがあるのを詩人自身が最終的に個人の解釈でまとめることだ。
結果、事実と微妙に違う物語が完成する。
さっき見た吟遊詩人なんて比較的マシな方だ。
その前に見た奴なんか、どこをどう解釈したのか私とステラが禁断の恋をしているみたいに歌っていた。さすがにキレて、風の弾丸を件の吟遊詩人の足元目掛けて放ったほど。
私とステラは健全な仲じゃボケ!!
「ま、そのステラも今忙しいからな」
忙しさだけなら教皇さんが1番だろう。昨日の時点で4徹したらしく、目のクマが病気かと疑うくらい凄まじかった。
なんせ枢機卿の一派が一斉摘発された上に非合法の実験までしてたんだ。教会内のパワーバランスの調整もあるんだろう。
でも、1番の問題は別だった。
エンジェルオークの【ヘルプ】による説明を見た私だけが知りえたこと。枢機卿たちが地脈を利用して聖女が誕生しないようにしていた件。正直あの時は私も混乱していたから話を見送った。あの状態でさらなる爆弾を放り投げるわけにはいかなかった。
だから戦いのあと教皇さんに私が知ったことを教えたんだ。
怒りや悲しみを覗かせた複雑な表情だったけど、1週間以内に必ず報告をまとめると約束してくれた。
――コンコン
「ユキナ様、お時間でございます」
ドアがノックされる。
ステラではない別の神官の声だ。
仕方ないとはいえ、寂しさを紛らわすよう重い息を吐きながら窓から離れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「本当にいいのですか?」
「大丈夫だよ。大船に乗ったつもりで任せろ」
場所は教皇の部屋――ではなく、大教会の奥にある監禁用の部屋。
普通の犯罪者ではない教会から出た刑の執行を待っている人を閉じ込め、外部の人間からの保護及び尋問するための場所らしい。
外からも様子を見ることができる、ほとんど何も無い部屋に足を踏み入れる。近くにいる看守たちがハラハラしているがそれもしょうがない。
「……今更なんの用だ聖女?」
そこにいたのは、事件の犯人とされている元・枢機卿だった。
ただし、その姿は以前と随分違う。
捕らえられている影響か、心労か、幾分か瘦せたように見える。さらに私には馴染みがない魔道具が体中に装着されていた。犯罪者にのみ使用できる――正確には作用する魔道具『裁きの枷』だ。
この世界はスキルの力で様々な力を引き出せる。中には誰もが知らないスキルの応用やユニークスキルなど対処に困るものまで存在する。そんなの持っている犯罪者がいたとして、普通の手錠でどうにかなるか? なるわけねーよバカ野郎と、そういうことだ。
そこで出てくるのが『裁きの枷』という特殊な魔道具。
実はこの魔道具、冗談でもなく本物の“法の神サマージュ”の加護を持つとんでもない代物で、付けられた人が何も罪を犯していない人なら邪魔な重しにしかならないが、犯罪を犯した人が付けるとあら不思議! スキルを使えなくなるだけでなく、一定以上の力が抑制される効果を発揮する優れものだ。
ちなみに製法は秘中の秘。ヘルプに尋ねたら一発で分かるだろうが、そこまでして知りたいとも思わない。
そんな魔道具や拘束具を元・枢機卿はこれでもかと体中に付けているんだ。自由なのは腕ぐらい。パリコレのファッションかっての。
「……ちょっとね。話でもと思ってさ」
「今更何を話すことがある? 大体のことは認めた。事実関係さえ分かればいいはずだ。あとは煮るなり焼くなり好きにしろ」
似ても焼いてもマズそうなんで却下。
「んなことはどうだっていい。私が知りたいのは結局オマエが何をしたかったかだ。それだけは誰にも言ってないそうじゃん?」
本当だったら【ヘルプ】に聞いて教皇に報告するだけで終わらせたい。
でも、事件後に変におとなしくなった元・枢機卿を見たステラが何か言いたそうにしてなぁ。気になって聞いてみたら、
「どうにも私には普通の悪人に見えないんです。何か理由があったなら、きちんと自分の口から言ってほしいです」
てなこと言ってた。
私も少し気になってたし、やりたいこともできたんで若干面倒ながら来たってわけだ。
普通ならコイツはしゃべらないだろう。
だが、私には秘密兵器がある。
――ドン
「食いねえ」
私が取り出したのは……カツ丼だ。
ジューシーな肉をトンカツにしたら、味付けした玉ねぎの上に乗せて卵をかける。出来上がったものをごはんに盛り付け完成。ポイントは濃い味付けに砂糖を加えてコクを出し、タイミングを見計らうことで半熟な卵の状態でカツを覆うことだ。上にチョコンと乗っけた青物の葉が見た目のアクセントとなる。
元・枢機卿の目が見開かれ、喉が鳴る。
そうだろう、そうだろう。一応、罪人だからな。食事も最低限の質素なものだったはずだ。そこに空気を読まず現れたメシテロなカツ丼。見た目も美味しそうだけど、匂いも鼻から入って脳を刺激するはず。
後ろの看守たちが何か言いたそうにしてるけど無視だ。
最初こそ元・枢機卿は手を付けなかったが、根負けしたのかこちらをチラチラ見て、恐る恐るスプーンですくい、口に入れた。
「………………」
しばらく無言のまま、嚙む音だけが聞こえる。
気づけば、元・枢機卿は涙を流していた。
「ワシは……最初はこんなつもりでは、そうだ、どうしてあの時もっと……う、ううぅぅぅ」
私は静かに退出することにした。落ち着いたら教皇本人に詳しいことを聞いてもらおう。あの様子なら喋ってくれるだろ。
「あの、聖女様……」
教皇の所に行こうとしたら看守の1人に呼び止められた。
「結局、何をなさりたかったのですか?」
「夢を……叶えただけさ」
それっぽいセリフを吐いて立ち去る。
言えるわけねえよ。昔の刑事ドラマで見た、取り調べの犯人にカツ丼出して自供させるシチュエーションしてみたかったなんて。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「これがまとめた報告書です」
「ども」
所変わって教皇の部屋。
教皇さんから渡された今回の件についての報告書を読む。私が【ヘルプ】で知ったことと大きな食い違いがないか確認するためだ。
「……食い違いは無いね」
「……やはり、そうでしたか」
「しかし、ずっと昔に非合法の実験をしていたなんてな」
あの枢機卿の部屋にあった地下室は何百年も前に作られたものだった。
どうやら当時枢機卿だった人が秘密裏に、長期的な計画として魔物の研究をしたのが始まりらしい。
崩れた地下室から何とか回収できた資料によれば、あの地下室が作られた頃は特に戦争が酷かった時代で、他国が聖国に何度もちょっかいを掛けていたようだ。聖国はその性質上、軍隊・騎士団を公に編成するのが難しい。でも、手をこまねいていたら攻め込まれる日が来るかもしれない。
だから魔物の研究に手を出した。禁忌と呼ばれても不思議ではない研究を。
いろいろ難しいことをやっていたらしい。実験の結果、1番数を揃えられるのがオークで、自由に操ることはできないが、ある程度であれば行動に方向性を持たせられる可能性も出てきたそう。
そう、あくまで可能性だ。そこまで研究して、そこで終わった。戦争が無くなったから、研究する必要が薄れた結果、地下室は封印された。
それを今の枢機卿が偶然発見したそう。
「お恥ずかしいかぎりです」
「……戦争だったんだ。良い子ちゃんじゃいられなかったんだろ」
当時の研究していた人たちの真意とか興味ない。
でも、始めた切っ掛けが戦争だってんなら、理由としては納得できる。戦争とは無縁の日本育ちが何を知った風な口をって思われるかもしれないけど、“話し合えば分かりあえる”なんて理想でしかない、負けたら何もかも奪われる、それが戦争なんだ。餓鬼のケンカの延長線上じゃない。勝つために使えるものは何でも使わなきゃいけなかった。そんな時代もあったんだ。
たぶん、レーヴァテイン王国の初代国王の剣二は私なんかじゃ想像つかないような、そんな戦争をいくつも見てきたんだろうなぁ。
「ユキナ様? ボーっとしてどうされました?」
「ん? あぁなんでもないよ。……ステラは最近どう?」
「ええ、ステラ様の健康に問題はありませんでしたし、他の見習い聖女たちもやる気に溢れています」
エンジェルオークを倒した時、謎の波動がすぐ側にいた私とステラを襲った。【ヘルプ】からのお知らせのこともあって、詳しく調べて驚いたもんだ。
ステラが聖女になった。
それも今までの比ではないくらい、それこそ私に匹敵するレベルで力が増していた。後日、教会で管理しているステータスを確認できる魔道具を使って調べたけど、一気にやれることも増えたみたいでステラ自身戸惑っていた。
それだけじゃない。あの日、安全の為に避難していた他の見習い聖女たちの力も個人差はあるが増大していた。教皇さんの話によると、ほとんどの子が少し修行すれば聖女になれる程だと言って喜んでいたよ。
どうやらエンジェルオークを倒した時に出た波動は地脈の悪用によって吸収し続けた聖女に至るための力だったようで、豚の中に閉じ込められていたソレが一気に放出し、見習い聖女たちに本来振り分けられるはずの経験値が戻ってきたようなのだ。
で、そんな経験値を1番に浴びた子が――ステラです。
理屈は不明だけど解放された聖女の力の一部は持ち主ではなくステラに吸収された。分かりやすく言えば、1人あたり10分の1程度の聖女としての力×数十人分(?)が本来あるべき場所に戻ろうとしたら、ステラに入ったわけになる。
塵も積もればなんとやら。ステラは本来取り戻すはずだった聖女の力以外も取り込み、他と比較できない規格外な聖女となりましたとさ。
ここでめでたし~って終わればいいのに……
「今度はステラを聖国の象徴にしようだなんて……」
「重ねて申し訳ありません」
まあ、本来はそれで別にいいんだけどね? そいつらはタカ派ではないもののちょっと空気読めなくて「ユキナ様より、ステラ様こそが聖国を代表する聖女に相応しい」とか言っちゃったらしい。それもステラの前で。
その結果、ステラはプリプリ怒ってらっしゃる。
突然の聖女の力の増加で混乱している見習い聖女たちと一緒に制御訓練をしている関係で忙しく、中々会うことが出来ない。
前に会ったのは一昨日だけど、その時は近況報告のついでに空気の読めない神官共に対する愚痴に付き合った。ストレスが溜まっていたのか、小1時間は愚痴だけで終わったっけ?
「それよりも……よろしいので?」
「ん? 何が?」
「明日なのでしょう? ここを出るのは。あの子は――」
「教皇さん。分かっているだろ? 私が聖国を出ようが出なかろうが混乱があることぐらい。だったら、最初の約束通りにするだけだ」
時間稼ぎのつもりで聖国の象徴となる聖女になった今回までの数ヶ月。元々近いうちに出る予定だったのが少し事情が変わった。
ぶっちゃけ、私とステラは有名になりすぎた。
私の支持が上がるか、ステラの支持が上がるか、違いはあれど両方の株は急上昇している。早急に出て行かないと余計な争いの元になりかねん。
むしろもろ手を挙げて聖国を出たいぐらいだ。次代の聖女は恐らくステラが担うことになるだろう。それなら、これ以上この国にとどまる理由もない。余計な連中に捕まる前に夜逃げならぬ朝逃げをする予定。
逃走に必要なルートや馬車は教皇さんがすでに用意してくれた。
教皇さんからもまた何かと理由をつけて引き止められるんじゃないかと勘ぐったが、拍子抜けするぐらいあっさり快諾した。
……本来ならステラに最後に別れの挨拶でもするべきなんだろう。本当なら一昨日会った時点で打ち明ける気でいた。
でも、言い出すことはできなかった。
言い出そうとすると急に口の中が乾き、心臓がバクバクし、言おうとするたびに会話が途切れ、すぐに時間が来てしまった。
たった一言が出ない、その理由は分かる。
想像していたよりもずっと私の中でステラの存在が大きくなっていたんだ。アレだな。もう友達超えて親友にまで格上げされてんな。
別れと出会いは旅の醍醐味なんて聞いたけど、そういうの人によりけりだなー。普通の旅行ならばともかく、私の旅は初っ端から波乱万丈になった。関わりが深い分、そこで育んだ思い出も深いものになっている。
「人生上手くいかないもんだなー」
思わず出てしまった独り言。近くにいた教皇さんは年の功で察してくれたのか、何も聞かないでくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゆっくり、ゆっくりと、雲のある青空が後ろに流れてく。
馬車の操縦なんて生まれて初めてだったけど、【騎乗(大)】のおかげかどういう風に馬を操ればいいのか感覚で分かる。
あ、そうだ。馬の名前決めなきゃ。
聖都を出てから大分時間も過ぎ、後ろを振り返っても聖都は見えない。
腕の立つ若い商人という設定で、教皇さんが前もって準備していてくれた許可証を見せたことで無事聖都の門をくぐれた。
怪しまれないようにと最初から馬車に積み込まれてあったのは教皇としてではなく、個人としての餞別らしかった。旅先で必要そうな物や食料、私が絶対に欲しがるモノや魔道具も詰め込んだと言っていた。馬車と馬もそのまま貰っていいそうだ。
さすがに貰い過ぎだし、今度会った時に出来る限りのお礼をしよう。
「その時は……ステラにもいっぱい怒られなきゃ」
最終手段として、ステラには教皇さん経由で手紙を渡してもらうことに。
内容としては急に出ていくことを謝罪するのから始まって、どれだけステラが私にとって特別か、どれだけ一緒にいて楽しかったかを過剰なくらい書いておいた。
「……絶対、また会いにいくからなステラ。その時は、また一緒に――」
――へくちっ
――ガタン!
「………………ん?」
聞こえるわけがない、聞こえたらダメな音が聞こえた気がした。具体的にはすごく可愛らしいくしゃみの音だ。
当然のことながら私がしたくしゃみのじゃない。私のは「ぶえっくしゅんっっっ!」だからな。女の子らしさは欠片もない。
「まさか……いやいや。んなアホな」
自分である可能性に気付き、けれどすぐに否定する。でも、やっぱり気になる。だってすんごい聞き覚えのある声だったんだもん。
周りを確認して馬車を止める。
荷物が置かれたスペースに近づく。置かれた荷物の中、さっきまでは特に気にしていなかったはずの大きな木箱がやけに気になった。
試しにちょっと蹴ってみる。
――ガン!
――ひうっ!?
………………あ~あれだ。もう確定っすわ。
木箱のフタを取り、中を除けば、すっげええぇぇぇ見覚えのある子が。
あぁ、教皇さん。確かにあんたの言ったとおりだよ。私が絶対に欲しがるものが入っていたよ。確信犯だろアイツ?
「……何してる、箱入り娘?」
「えっと……てへっ?」
中にいたのはステラだった。
一先ずお互いに落着いて話をするため、適当な飲み物を出してその場に座る。ステラだけは未だ木箱の中だけど……気に入ったのか?
「だ、大体ユキナ様が悪いと思うんです! お顔を見れば別れの話を切り出せずにいるのは分かりますよ? でも、だからって、手紙だけで済まそうとしないでくださいよ! 教皇様が気を利かせてくれなかったらどうしたものか!」
「聞きたいこと、言いたいことはた~~~くさんあるけれど、まず1つ。ステラ、アンタ何したくて箱詰めされていた?」
「私もユキナ様の旅にお供させてください!!」
「ぅアアアアアアアアアアアフゥォオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」
アホんだらかこの子!?
「教皇様からの餞別として乗せられた箱に私が入っていたのですから、私はもうユキナ様のものという解釈になると思いませんか!?」
「思わへんわ!!」
暴論にも程があんぞ!? 上手いこと言ったつもりか!
「聖国どうすんだよ!?」
「表向き修行の旅という名目でついていきます!」
「せっかく聖女になったのにどうすんだよ!?」
「他の子たちに託します! みんな優秀です!」
「どこまでついてくる気じゃい!?」
「どこまでもお側にいさせてください!」
あらヤダ。もしかしてヤンデレストーカーにでも進化しちゃったの? どこで育成間違えた! Bボタン、Bボタンはどこだ!?
「ユキナ様とお別れすると思うと胸が苦しいんです! もっと一緒にいたいんです! もっとたくさん笑いあいたいんです!」
そこでステラが力強い目で顔を近づける。
「聖女の使命よりもずっとずっと大切なものを知ってしまったんですから、迷惑だけは掛けませんので、責任取って仲間にしてください!!」
………………
長い沈黙が空気を支配する。
どれだけ時間が過ぎただろう? 最初にその沈黙を破ったのは、負けてしまった……私だった。
「……もう好きにして」
「……はい!」
予想外の出来事だけど、悪くないな。むしろ心が晴れやかだ。
旅の仲間――うん、悪くない。
はー、コミュ障だった頃からは考えられないなー。
「そういえば朝ごはんまだだったな。えーと……お、ちょうどいいのあったわ。はいこれステラ」
「どうも……これ、何です?」
「フライドチキン。美味しいぜ?」
「では、いただきますね」
小さな口を開いて豪快にかぶりつくステラを見る。
ふむ、ここまでお互いの想いが強いってのはあれだな。私にとって都市伝説レベルで想像付かなかった存在……
「……これからよろしくステラ。私の、初めての親友」
「――! はい。はい! よろしくお願いしますユキナ様! えへ、えへへ……親友……私とユキナ様が……えへへ」
再び馬車を動かす。
次の目的地は帝国。さて、どんな国だろうな……
「ところでユキナ様?」
「ん? どしたの?」
「これ、本当にフライドチキンなのですか? 美味しいのですが、微かに豚肉の味があるように思えて」
「エンジェルオークの翼部分だからじゃね?」




