第69話 絆の勝利
・2024/03/13
大幅修正。
少し長めです。
(……マジいてー。許さないぞあの豚、満漢全席コースで料理してやる!)
ステラに治してもらったはずの体がまだ痛む。
まるで小さい頃、強い日差しの日に肌を守るためのクリーム塗るの忘れたまま遠くに行って、酷い日焼けになってしまった時を思い出す。
回復してすぐ【ヘルプ】に確認して血の気が引く思いだった。
エンジェルオークが放った魔法は雷と光の混合魔法だったのだ。それも私が身を挺して守らなかったら、この辺一帯が吹っ飛ぶレベルの。
私が重傷こそ負えど、五体満足だったのは運が良かったからだ。
まさか“雷の仮面”対策に取得した【風系魔法耐性(大)】と元々持っていた【防御力上昇(極大)】に命を救われるとは。おかげで威力が大分削られたらしい。
(最悪だ……。敵は空にいて、しかも魔法減衰領域持ち。【風系魔法】の飛行で近づこうものなら途中で墜落する可能性もある。だからって戦技系スキルじゃ距離がありすぎるせいで有効打にならないか、魔法で相殺される)
どうすればいい?
ここで私が逃げたらほぼ間違いなくそれ以外の人は死ぬ。速度のことを考えれば、一緒に逃がしてやれるのはステラ1人が限界。
【生存本能】のおかげで力はすごい漲っているけど、力押しでどうにかできる相手じゃない。ぶっちゃけ手詰まり。
何より異世界に来て初めて本格的な命の危機に陥っているからか、情熱のユキナちゃんハートに対して体が震えて思考を乱してくる。手足がブルブル震えてんぞ。情けないなー……情けなくて自分で自分のこと殴ってやりたい気分。
「ユキナ様」
心の中で自分のことを罵倒しながら嘆いている時だ。
震えていた手に、側にいたステラの手が添えられた。
「逃げても……いいのですよ」
………………は?
「短い付き合いですが、ユキナ様の考えている事ならおおよそ分かります。私たちのために――いえ、私たちのせいで悩み、苦しまれ、辛いお顔をされているのですよね」
私からしたら、そう言っているステラの方が辛そうに見えた。
泣いてるような、寂しがってるような、何かの覚悟が決まった顔。
「何で、そんな……」
「ユキナ様は、本当に優しい方です。いつも一緒にいたくなっちゃうくらい眩しいです。ユキナ様が私のことを大切に思ってくださっているように、私だってユキナ様のことが負けないくらい大切なんですよ?」
「マジで? そんなに好意の矢印大きかったの?」
「今自覚されたのですか? ……ユキナ様ってたまに当たり前のことを分かっていないことがありますよね。私が何を思っているか分かります? 最初は空飛ぶオークのことで絶望しました。けれど、そのあと見たユキナ様の顔でそんなことは隅に追いやられたんですよ」
「いやいやいや、“そんなこと”ってマズイだろ」
今でも視界の隅でエンジェルオークの攻撃を必死にかわしている冒険者と、避難している人々が見えるんだぞ?
発言には気を付けようぜ?
「私は、ユキナ様に生きていてほしいです。だから、今すぐこの場から離れてほしいのです。でも、その結果ユキナ様が自責の念に押し潰されてしまうことを私は恐れています。矛盾していますが、それが私の本心です」
真っ直ぐに目を合わせてくる。
「だからユキナ様、お好きなようにしてください。自責の念に潰されるというならば……私も一緒に背負います。例えこの場で神の元へ召されようとも」
……まいったなこりゃ。卑怯だよ。
この子どんだけ良い女だよ? 普通この状況で逃げてもいいなんて中々言えないぞ。しかも罪を感じるなら一緒に背負う覚悟があります的な? 私が男だったら口説いていたな。つり橋効果も相まって逆攻略されてたよ。チョロインだよ。
「……臆病風に吹かれて逃げるって言ったらどうすんの?」
「一切責めません」
「……何もできないのに逃げずにいたらどうすんの?」
「最後の瞬間まで側にいます。あの世までご一緒です」
「………………一緒に戦って、って言ったらどうする?」
「お供します」
それは、迷いのない目だった。
ステラは私のことを眩しいなんて表現していたけど、とんでもない。今のステラの方が何倍も眩しく思える。
「じゃあ、あのふざけたメス豚倒すまで、支えになってくれる?」
1人じゃ無理だ。まだ力が入らないから。
でも、2人なら……
「ステラの勇気、私に分けてくんない? 地獄まで付き合って」
「もちろんです!」
ここまで言わせたんだ。2人で危険なドライブとしゃれこもうか。
当然、勝つのは私たちだ。
「それで、どうなさるので? 魔法は効果ないのですよね」
ステラの疑問は最も。魔法は当てにならない。けど、スキルや魔道具の効果は使える。思考がクリアになった私はそこに勝利への道を見つけた。
「元々は私の体を軽くするためのものだったけど、ね」
【アイテムボックス】からある物を取り出す。
それは“雷の仮面”対策だったのに、結局出番のないまま死蔵していた王国なら誰でも買えるような代物――『浮遊輪』だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冒険者たちは諦めずに戦い続けたがジリ貧であった。
「クッソオオオオオオオオオオッ!! あのオーク、魔力量どうなってやがんだ! いっこうに攻撃が収まんねえじゃんか!」
「悪態突くのはあとにしろ! とにかく援軍が来るまで持ちこたえろ!」
「へっ、当たり前だ。オレには家で待っている娘がいんだからな」
「オレも恋人がいる。この戦いが終わったら結婚するんだ」
「おいやめろオマエら! 何かそのセリフはマズイ!!」
「「はんっ! 何言って――ぎゃああああああああああああああ!?」」
「フラッグぅううううううう! ハーターぁああああああああ!」
「ちくしょう。よくも2人を!」
「諦めるな! 聖女様の仇を俺たちが――」
「きゃあああああああああああああああああああああああ!? ユキナ様あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そんな冒険者たちの頭上を、何かが高速で通過する――少女の悲鳴付きで。
「おい、何かがオークの方に向かっていったぞ!?」
「今の、聖女様とステラ様だったような?」
「何でハルバードが空飛んでいるんだ?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さっきまで感じていた不安は、もうすでになかった。
「ユキナ様ああああああああああああ!! 飛んでます! 高いです! 速いです! お、落ちちゃいますぅぅぅううううううううう!」
「でえじょうぶだ。オラに任せろ」
「よく分からないけど、ユキナ様がフザけているのは分かります!」
いや実際大丈夫なはずだから。
確かに、2人でハルバードの細い棒部分に乗って空を高速飛行しているから怖いのは分かるけどね? 耳元で叫ぶのは勘弁してくれ。
(上手くいって良かった)
今、私とステラの2人は空を飛ぶハルバード上に立っている。
持ち手部分には『浮遊輪』をセットし、後ろ側の刃の部分からはジェット噴射みたく炎が後方に吹き出している。
はいそうです。空飛ぶ魔法の箒(ジェット噴射ハルバートver.)っす。
いやー本当に想像したとおりになって良かった。魔法少女というには殺意高めな見た目だけど、機能が良ければ全てよし!
さっき取得したスキルもいい仕事している。
『〈力場発生〉……自身の周囲に力場を作る』
『〈騎乗(大)〉……乗り物の操作に大幅な補正』
私と後ろから抱き着くように体を支えているステラが、不安定なハルバートの上に乗っても落ちないのは【スキル:力場】のおかげ。『浮遊輪』の効果でハルバートを浮かせて、刃部分から出る炎を推進力に飛行するなんて無茶苦茶な方法で飛んでいるにも関わらず、思いどうりに操縦できているのは【スキル:騎乗(大)】のおかげだ。
本来は浮力を発生させるという効果――つまり結果的に付けたものを軽くする性質を使って、装備した私が【風系魔法】で二次元的な動きを空中で行うためにお店で買った魔道具だったんだ。“雷の仮面”と空中戦になった時ように。
「出番ってのはいつどこであるか、分からないものだなああああああっ!!」
「カシラ!?」
ついに空飛ぶオークの元へ到着!
へっへー♪ ねえ今どんな気持ち? 自分の必殺技食らって退場したはずの女が空飛んで向って来たんだけど、今どんな気持ち?
「しょうがやきいいいいいいいい!!」
答えは炎玉の乱れ撃ちだった。短気なやっちゃ。
「――っ!? ユキナ様!」
「大丈夫だよ」
ステラを安心させるように優しく語りかける。
ここまでくれば何も心配していないからな。
さっきからエンジェルオークの攻撃はかすりすらしない。上下左右、縦横無尽に飛行しながら回避している。
【ヘルプ】を使った疑似未来予測は今日も絶好調だ。
「……すごいです。こんな簡単に回避を」
「ステラのお陰さ」
「いえ、私がしているのはユキナ様を支えているくらいで――」
「その“支え”が重要なんだよ」
仮に何かの魔道具で私の体を固定出来たとしよう。その時も、今と同じように余裕を持って回避することができただろうか?
答えは“否”だ。
1人だったら、無意識に体が感じてしまう恐怖で、いつも通りの戦いは出来なかったはず。そう断言できる。でも――
「ステラと一緒ならさ? 恐怖も吹き飛ぶんだ」
背中にステラの温かかさを感じる。
「一緒に戦ってくれる人がいるってだけで、勇気100倍だ」
そしたら、勝つしかないじゃん。
「……ステラと出会えて、本当に良かった」
「……はい」
背中に顔を埋めてくるステラ。見なくても分かる。こりゃ泣いちゃってんな。あとでいっぱい甘やかさなきゃ。
「トンカツトンカツトンカツトンカツ……!!」
おっと。【危機察知】に反応。そろそろ必殺技がくるな。
ここが正念場だ。ピンチを最大のチャンスに変えてやる。
「スキル発動」
新たなスキルが発動する。
そしてついに、私をボロボロにしたエンジェルオークの必殺技が上空にいる私たちに向けて放たれた。
「カルビ……どおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!」
雷と光の複合魔法はよけきれない程の広い範囲で、空気すら焼き尽くす勢いでハルバートに乗る私たちに襲い掛かった。
地上の人々の絶望一色の悲鳴が聞こえる。
エンジェルオークが勝ち誇った笑みを浮かべる。
私たちは何もできずに光の嵐に飲み込まれた……
「まあ偽物なんだけどね?」
「ブヒッ!?」
驚愕するエンジェルオークがキョロキョロと辺りを見回す。
もう遅いよ。完全に真後ろを取った。しかも、その必殺技を打つと数秒は何も魔法を使えないことも【ヘルプ】に確認済みだ。
『〈ユニークスキル:幻影想造〉……自身の望む幻影を創り出す。幻影の効果範囲と精度はスキル使用者の使用魔力と想像力に依存』
オメーが魔法を当てたのはユニークスキルで創った幻だったのさ!
まんまと騙されやがって! 使い慣れていないんだから、よ~く観察すればおかしいって気づいたかもしれない。だけどな豚ぁ、キサマは「勝った」と思い込んで疑いもせず攻撃をしたんだよ! よく見ずにするからそうなったんだ! どっちにしろ目の上の肉が邪魔で、きちんと見えていたのか怪しいけどな!!
炎獄のハルバート、ジェット噴射最大! 加速!
【ユニークスキル:限界突破】&【防御貫通】発動! 見ろ! これが初めて【SPマスター】の力で取得した戦技系スキル!!
「戦技――『紅蓮装甲激突』!!」
炎がハルバートごと私とステラを包む。熱くは感じない。これは敵だけを焼き、使用者たちを守るための炎だから。
思考が加速した状態でどんどんエンジェルオークに近づく。
残り5メートル。火力が増し、ステラがより一層強く抱き着く。
残り1メートル・豚は驚いて振り向こうとして――その時にはもう……チェックメイトだ。
「ブヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!?」
大きな爆発音がした次の瞬間には、視界に空が広がっていた。
振り返れば、胴体に大穴が開いたエンジェルオークがいる。どうやら戦技の威力が強すぎて貫通しちゃったみたい。
「勝った……か」
エンジェルオークから溢れていた聖なる気配はもう感じない。完全に死んだと見ていいと思い――その体から、何か力の波動のようなものが噴出した。
「キャアアアアアアアアアアアアアアア!?」
「っく、ステラ!」
波動は凄い突風みたいになって周囲へ拡散していくけど、近距離にいる私たちには溜まったもんじゃない。
とにかく吹き飛ばされないようにしていると、頭の中に【ヘルプ】からの音声が聞こえてきた。
『〈ヘルプよりお知らせ〉……熟練度が一定に達したことにより、複数の戦技系スキルを取得しました。【スキル:根性】を習得しました。エンジェルオーク討伐により【称号:天空を駆ける者】を取得しました。【称号:無自覚の英雄】が【称号:英雄】に変化しました。特殊条件クリアにより【ユニークスキル:解放の光】を取得しました。〈おまけ〉……解放された聖女の力の大量吸収により、対象者:ステラの聖女としての能力が大幅に強化されました』
すっげーいっぱいお知らせ来た!? 重要ワードもあったし! 特に最後は聞き捨てならねえ、ステラがなんだって?
「あの、ユキナ様? 今のは……」
ステラが心配そうに見てくる。
自分に何が起こったのか把握してないっぽいな。
あー、あれだ。難しいことはあとで考えよう。
「全部終わったってことだよ」
地上を見る。そこでは大歓声で人々が喜んでいた。
正直「ユキナ様」コールは勘弁してほしいけど。
後に、トリストエリア聖国で語り継がれることとなる戦いが漸く終わりを告げた。暗くなった空に浮かぶ私とステラは、ハルバートから出る炎によって照らされ、地上にいる聖都の人たちからも良く見えたそうだ。
・【スキル:力場発生】 消費SP1
・【スキル:騎乗(小)~(大)】 消費SP計4
・【ユニークスキル:幻影想造】 消費SP15
・【戦技:紅蓮装甲激突(小)~(大)】 消費SP計6
・エンジェルオーク討伐 SP18取得
《所持SP:42》
次回で2章終了です。




