第64話 ステラとの休日
・2024/03/03
一部修正
早いもので除霊大戦から1ヶ月以上が過ぎた。
え? 早いのはオマエの時間経過だぁ? んなこと言ったって過ぎたもんは仕方ないよ。あれから目が回るような忙しさだったもん。
さっきから誰の質問に答えてんだって話だけど。
『〈先程からの質問者〉……永瀬雪菜が1人で質問と応答をしている。精神に異常があるか、ただ寂しすぎて残念な思考になっているだけの疑いあり』
やかましいわ【ヘルプ】! ああそうですよ! 日本にいた時からたまに自問自答する時がありましたよ! だって話す相手いねえもん! 今でも抜け切れてないよ! 悪うございやした!
でもさ、特に問題なく今日という日を迎えられたんだからいいじゃん。
私が戦場でエルダーリッチとかいう上級アンデッドを倒してからは、特に大ケガする人もなく無事に除霊大戦を終えることができたんだ。
しばらくは前線で戦い続けたからSPもウハウハ。
さらに前線で戦っていた人たちを中心に私の評価がグンと上昇していた。
どうもバーサーカー組は今までの聖女とは違う、実戦で臆することなく魔物と戦い続けた私のことを予想以上に評価したらしい。
脳筋ですね。私もそれの仲間入りを果たしたと。
聖都に帰ってからも歓迎の嵐だった。
エルダーリッチはアンデッド系の魔物でも片手でしか数えられないぐらいしか確認されていない個体で、普通は除霊大戦で出るような化け物じゃないって話だ。そんな化け物を一撃で倒したもんだから、様子見をしていた中立派の人たちを味方派閥に誘うことができたと教皇も嬉しそうだった。
対照的にあのメタボ卿は歯ぎしりして親の仇かってぐらい睨んできたな。さすがに怖かったよ。瞳孔開いてたもん。
そうそう。件のエルダーリッチについて【ヘルプ】で確認したけど、アイツ数百年前に伝説にもなった初代聖女様にボコボコにされた個体だった。
ゴミカスみたいに弱くなった状態で逃げ延びて、ちょうど復活したばかりだったみたい。世界情勢とかは全然分かっていなかったけど、聖女の力を感じ取ることはできたからこれ幸いと部下のアンデッドに私を攻撃するよう命令したそうだ。
そういや、舞台の俳優みたいにオーバーな動作で長ったらしく言ってたけど、結局人違いだし即座に完全に滅ぼされるだし、復活したばかりの化け物にしては随分あっけなく退場したな。これが普通の物語だったら私ピンチ! からのステラが応援! からの覚醒イベントで何とか倒す!ってなりそうだけど、残念なことに私の死霊系魔物に対する力や装備はゲームでいえばカンスト状態。ピンチになる要素が全くねえ。
……正直、エルダーリッチの奴、出て来るタイミング完全間違えたなーって思ったり。せめて私の前後だったらワンチャンあったろうに。
出オチ感が半端ないよ。どっかの雷な仮面を思い出す。共通してるのは強いはずなのに、まともな活躍する暇もなくあっさり退場したところだ。
華々しい散り方すらさせてもらえなかった。
「ユキナ様~!」
「おおっ! 待ってたぞステラ!」
奥の方から小走りで、いつもの修道女のような服装ではなく清楚な雰囲気漂う私服姿のステラがやって来た。
かくいう私も私服のワンピース姿だ。
場所は大教会の裏口。1時間前からウキウキしながら待っていた。ここ最近じゃしてなかった私の私服を見た人たちからの視線がちょい痛かったけど、そんなことどうでもいいと思えるくらい嬉しい日なのだ。
「そんじゃ行こうか。まずは馴染みの屋台から」
「楽しみですねぇ」
そう。ついにこの日が来た。
ステラと2人きりで買い物する日が。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここまで来るの……長かったよな」
バナナ風クレープを齧りながら呟く私と、
「ホントですね。いろいろありましたから」
イチゴ風クレープのクリームをペロリと舐めるステラ。
今、私たちは公園のベンチで休んでいた。
自然の風が吹いて、肌を撫でる感覚が気持ちいい。
……ステラの言う通りなんだよね。
ここまで来るのに約束から3ヶ月は経っている。
というのも、単純な話が忙しすぎたから。文字通り昼間に休める日が1日たりともなかった。そんぐらい聖女としての仕事ばっかだ。日常的に貧民への炊き出しをして、遠くからやって来るお偉いさんの相手をして、大きな街に顔を見せに行ったりしてと、そんな感じ。
今日のオフの日を作るために聖女なのだというのにブラックに近い労働をしていたというね? 最後は笑顔で教皇と交渉したっけな。
「……ユキナ様? 心の声が漏れているので敢えて言いますが、胸ぐらを掴んで『休み、当然くれるよね?』と拳を作りながら迫るのは交渉ではなく脅迫です。教皇様、首が取れるんじゃないかってぐらい縦に振ってましたよ?」
「いいんだよ。なーにが『ユキナ様。これまでの暮らしで聖国を好きになっていただけましたかな? なんならずっといてくれても構わないのですよ?』だ。軽くキレたわ。目がちょっと調子に乗ってきた奴のソレだったからお灸すえてやったんだよ」
1度釘を刺しておかないとあとが怖いからな。
「そういえば、この魔道具とかどうなさったんですか?」
「聖国で新発売されてたの見つけたんだよ」
ステラの言っている魔道具とはついこの間買ったばかりの『冷気パラソル』のことだろう。今もひんやりした冷気を出すパラソルが太陽の眩しさと暑さから私たちを守ってくれている。
「……その魔道具、この間出たばかりの新作だったと記憶しているのですが。ユキナ様、一体いつ買われたので?」
ギクッ!
ステラ、どこでその情報を!?
ヤバい。実はたま~に夜中にスキルを活用して(王国で貴族の屋敷に忍び込んだ時に使ったやつ)、抜け出して夜の散歩していたのがバレちゃう!
しかも絶対にバレないようにお店に顔を出す時は「誰だよオマエ?」ってレベルで怪しさMAXの変装しているから、基本裏路地のこれまた怪しいお店にしか行けてないし、1人で行ってたってバレるの気まずい!
ちゃうねんって。さすがに自由時間がまともにないの耐えられなかったと言いますか、とにかくちやうねんって!!
「じ~~~……」
あう、そのジト目やめてー。
何とか誤魔化さないと。え~と……そうだ!
「あーーー! あんな所に空飛ぶオークが!」
「え!? どこ? どこですか!?」
おもしろいぐらい見事に引っ掛かったステラが明後日の方向を向いた瞬間、イチゴのクレープをパックンチョ。うん。美味しい。
「ユキナ様どこにも空飛ぶオークなんていな――あ、あーーー!? 私のクレープが!? ユキナ様酷いです! 騙しましたね!」
残ったクレープ片手に涙目でポカポカしてくるステラ。
からかいがいのある子というか、怒った姿も可愛いなー。
「めんごめんご。ほら、私のクレープも一口あげるからそれで許してって。はいあ~~~ん……」
「え、その、あーん?」
小さく開けた口に私のクレープを入れる。
「美味しい?」
「……はい」
今になって恥ずかしくなったのか、ちょっと耳が赤くなってるね。
……今のって、マンガでしか見たことないような仲のいい女友達同士のやり取りだったな。そうだよ。こういうのをやりたかったんだよ。
リリィにしてあげた時とは違う温かさが胸に来る。
ところでさ、
「聖女様とステラ様が……尊い――ブフ」
さっきからこっち見てた一般女性Aさん? いい加減その鼻から流れている赤い液体何とかしなさい。そろそろ輸血が必要な量になってきてんぞ。
本日のメニューは百合の砂糖漬けでございます。(なんのこっちゃ?)




