第7話 テンプレ展開
・2023/04/01
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「そ、それでは、登録を行いますね」
私が出している残念無念な空気と、周りのテンプレ崩しどもの空気の差を敏感に察したのか、何とかしようとするエミリーさん。
うん。私からお願いしたいところだったよ。ナイス。
「では、基本的なことを説明させていただきます」
よろしくお願いします。
「先程カイルさんとの話でも出ましたが、冒険者としての登録は原則として13歳からとなります。貴族の方からの保障と確かな実力を持っている人は、特例として10歳からでも登録可能ですが、事例は少ないのでお気になさらず」
私は14歳だからOKってことね。
今の話から推測すると、本当に強くて貴族が太鼓判を押した人だけ10歳からスタートできるって話だけど……
普通なら「ありえね~」で済んでしまう話も、スキルが存在するこの世界なら変わってくる。つまり、見た目と実力が違う子が実在する。
「次に、冒険者には自己責任が付きまといます。命の危機に瀕しても、それが第3者からの悪意による結果でない限り、ギルドは責任を持てません」
うむ。悪くないな。魔物なんてのがいるんだし、死んじゃう時は死んじゃう。そこまではギルドも面倒見切れませんと。その代わり、事件や事故に会ったら警察や弁護士みたいなことをすると補足された。
「では、登録後のお話をさせてもらいます」
エミリーさんの説明を自分の中で噛み砕いていく。
ふむふむ。
冒険者のランクはF、E、D、C、B、A、Sの7つに分かれているのか。
Sランクはその中でも別格と。この辺は良く見るパターンだった。気になるのは、そのSランク冒険者が今期は多いってことかな。
FランクからEランクへの昇格条件は、採取系2つと雑用系3つの依頼達成と、Cランク以上の冒険者を監督役に特定の魔物3種を討伐すること。
テンプレ展開だと、ランクの基準だけあって、主人公が特殊個体を倒した! ギルドマスターに呼ばれる! 特別に一気に2ランク昇格! ――ってのが良くあるパターンなわけだけど、ここではその辺り厳しい。
「Fランクは本当に駆け出しの、こう言ってはアレですがド素人ですからね。Eランク――初心者になるために求められるのは最低限一通りの事ができることなんです。討伐してもらうのも個体数が多く、頻繁に出会う魔物ですから」
「もしかして、それ以外のランクの昇格でも条件が?」
「その通りです。例えば、Cランクの昇格に必要な条件の1つは一定水準以上の礼儀作法があることです。Cランクからは指名依頼などもあり、貴族の方とお話をされる確率も上がりますから。なので、野蛮な人は一生Dランクから上に行くことができません」
確かに現実として考えたら、礼儀作法は最低限必要だよな。
腕っぷしだけ良くても、それ以外のことが求められたりするのに「戦闘以外何もできません」じゃ困るもんなー。
ようは不定期で出される依頼を処理する仕事だし。得意不得意はあっても様々な種類の依頼をしてもらわなくちゃギルドの信用も無くなる、と。
他にも依頼の種類とか、売店のこととか細々と質問をした。
「他に質問が無いようでしたら、登録を行います」
「ん~……じゃ、お願いします」
ついに、登録作業に入る。
年齢・名前・受付嬢の話した注意点に同意する旨を書いて、よっしゃ終了!と思ったら、何かの魔道具を持って来て、しばらく手を置いてくださいって言われた。必要だって言われたけど、何だろこれ?
登録完了が明日になるのと関係あるんかね?
気になることはあるけど、ここでお待ちかねの買収タイムと参りましょうか!
「あの、買い取ってほしいものが2つあるんですけど……」
「かしこまりました。それではお出しください」
まずは例の花。さてさて、買い取ってもらえるか
「【アイテムボックス】ですか、うらやましいです。んん、これは……レーベの花ですね。高く売れますよ? もう1つの方は?」
「あ、結構大きいんですけど、ここで出しても?」
「ええ。この場に出せるものであれば……」
「じゃあ、早速。え~っと、ていっ」
――ドズンッ……
ブラッディベアーって3メートル以上あったはずだから、少し後ろに下がって取り出す。むう、まだ慣れてないから出すの難しいな。
それにしても、改めて見るとでっけぇー。床に置く時にドズンッ!って音したもん。半分ずつの状態でも重量感半端ないわ。
「……へ? な、なななな何ですかこれえええええええええええっ!?」
「まさか……ブラッディベアーか!?」
「はあ!? それって、昨日の朝来た早馬の言ってた?」
ギルド大混乱。うん。私は悪くない……はず!
やべ、テンプレ好きの小さな私が見え隠れしてきた。引っ込んでろっての。
「あああ、あのあの、カイルさん、これって……?」
「言ったろ? ユキナさんは恩人だって。まあ、そういうことだ」
未だに舌が回らないエミリーさん。ちょっとドヤ顔のカイルさん。困った表情のリサさん。ドヤ顔のリリィ。
うわぁ、柱でも何でもいいから隠れたくなってくる。何で? 群がってきた冒険者どもに囲まれているからだよ!
邪魔やねんオマエら! 甘いものに集まったアリか!?
「……うおぅ。オレ、ブラッディベアーなんて初めて見たぞ?」
「ふむ、傷跡から上位の【炎系魔法】で一撃、というところですか……」
「マジかよ。ただでさえ強いのに、速いうえに魔法にある程度の耐性まで持ってるはずだぞ? それをこの嬢ちゃんがやったてのかよ……」
ああもう、ホントうるせー。
待ち望んだテンプレ展開だけど、実際にやられるとウザったいだけで愉悦感に浸る暇すらねぇ。最悪なのはオッサン率が高いことだ!
エミリーさん、早く査定してー。もう帰りたいわ。
それからしばらくして、無事査定は終わった。
待っている間、別の職員からブラッディベアーと遭遇した際の詳しい話をリリィたちと一緒に聞かれることになったけど。
やっぱあそこにブラッディベアーが出現するのは生息範囲やエサとなる生物の関係でありえないそうだ。
だったら、何であんな所にいたんかね?