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第62話 除霊大戦②

・2024/02/25

 一部修正


 そんな私の心配など知らないとばかり、除霊大戦のメンバー(聖国以外からも集まった総勢500名。内半分にバーサーカーの疑いあり)は戦いの場へと向かうことになった。山奥なだけあって馬車は使えず1時間近く歩き、ようやく辿り着いた決戦の場は私の想像していたものを遥かに超える場所だった。


「……これって、砦じゃん」


「私も見るのは初めてですが……予想以上です」


 今私たちがいるのは山の中腹当たりなんだけど、そこからもう階段や無駄を無くした斜面が広がっている。さらに先に目を向ければ、円形状に平らな大地が広がった場所がある。その大地を囲うように山を削って造り出したとしか思えない、巨大な石やレンガを重ねた砦が広がっていた。


(まるで、コロッセオみたいだ)


 ただし、規模が違う。平らな大地は東京ドーム何個分もの広さで、それを囲うようにある砦も当然同じぐらい広がっている。

 よく見れば、先に着いて準備や確認をしていたらしい先行部隊の人たちがせわしなく動き回っている。壁や階段を入念に見ていることから、戦いが始まった時に不備が出ないようにする最終確認をしているのかもしれない。


「驚かれましたか?」


 後ろから声を掛けてきたのは指揮官の神官さんだった。


「……スケールが大きすぎて、どう驚けばいいのか分からないぐらい」


「はっは! そうでしょうね。初めての人は大抵似た反応です。最初の頃はあの円形の大地だけだったそうですよ? しかし、時が経つにつれてもっと自分たちに有利な戦いをできないかと考えられた結果、大地を囲む砦のようなバリケードが作られることになったのです。今は見えませんが、大型の魔道具なども秘密兵器としてあるのですよ? コストがバカにできないので最終手段としてですが」


 もしかして巨大バリスタとか巨大な回転槍のギミックとかあるのかな? ……あるわけねーか。どこのモン〇ンだよ。古龍が相手じゃないっての。


「ずっと気になってたんですけど、そもそもどうやって大陸中の瘴気を集めて魔物化してるんですか?」


 聞くタイミングが無かったから(ただ単に忘れていたともいう)聞けなかったけど、ずっと不思議だったんだ。だって大陸だよ大陸? 前にヘルプに聞いてみたけど、私が今いる大陸の大きさってアメリカよりも広いんだよ? 具体的な数字を言われてもピンと来ないから、日本の数倍デカいぐらいのアバウトな解釈の仕方だけどさ

 そんな広い土地から一ヶ所に集めるって、人の身で出来るもんか?


「ふむ。ユキナ様は地脈のことをご存じで?」


「え~と、大地の真下を流れる不可思議エネルギー?」


 たまにラノベでも出てくるよね。地脈とか龍脈とか。


「概ね間違いではございません。地脈は場所によって常識では説明できない効果を発揮するものもあるのです。1番有名なのは“聖獣の森”ですが、ここは瘴気が集まりやすく、かつ死霊系魔物が生まれやすい土地だったのを、いくつもの大がかりな魔道具を使って今の方向にもっていったものとなりますね」


 なるほど。異世界版パワースポットと思えばいいのか。


「……この大地いっぱいに魔物が出るの?」


「その時によって違います。戦争があった時期は命がけだったそうですが、ここ100年は戦争もなく、前回の除霊大戦から今日までの事故・事件・死者・行方不明者を調べた限りでも心配はいらないかと。……むしろ私の心配事は聖女であらせられるユキナ様も前線で戦う予定だということです。やはりここは後方支援組に……」


「前線で。最初は様子見ですけど、そこからは私も戦いますんで」


「すいません。一応私も止めたのですが、ユキナ様がどうしてもと言いまして。しかし、ご安心ください。ユキナ様、本当にお強いので」


 やっと現れた聖女に何かあったらどうするんだ~って声があちこちからあったんだけど、そこは押し通してもらった。例のメタボ卿の一派も「聖女様は元・冒険者なのでしょう? ならばその強さを他の者にも見せるべきではないのですかな?」と言ってきたから、それに今回だけ便乗させてもらった。


 せっかくの大戦だ。魔物には是非とも私のSPになって貰わないと困るんだ。身動きがとりづらいからこそ、稼げる時に稼がないと!


 と言うわけで本番までの準備期間で武器の最終チェックをしたり、除霊大戦の経験者から過去の戦いを聞いたりしてればあっという間に時間が過ぎる。


「ねえ、今更だけど激励って何言えばいいの?」


「ユキナ様が言うことならなんでも、皆さんやる気が出るはずです!」


「ダメだ。参考になんねえ」


 除霊大戦開始まで残り1時間を切った。

 こっちの世界基準で昼の12時ちょうどに魔物が一気に出現するらしい。円形の大地を見れば、どうにも嫌な気配が集まり出しているのが分かる。


 戦いに参加する人たちの準備はすでに終わっている段階で、後は各自持ち場に行くだけなんだけど、その前に前々回ぶりの聖女による激励をしてほしいと教皇さんからも言われている。問題は何言ったらいいのか直前まで何も思いつかなかった点だ。


 いや、これでも考えたんだよ? 過去の聖女が行った激励のセリフなんかをまとめた資料をステラと一緒に見たりして。

 でもさ? どれも私に合っていないと言いますか……


 結論、ぶっつけ本番で何とかしよう!ということになりました。その時のしわ寄せが今まさに私に降りかかっている。何してんだ過去の私?


「ユキナ様。お時間です」


 ステラから死刑宣告としか思えない言葉が出る。


 はぁ~~~仕方ねえ。案外その時になればなんか出るだろ。


 砦みたいになっている斜面の1番上に立つ。1段下では指揮官さんとステラを含めた聖職者たちの中でも上の位の人が見守っている。

 んでもって眼下には数百人のこれから一緒に戦う仲間たち。

 私の前にはマイクに似た魔道具が。これで声を大きくするとか。



「あー、テステス。本日は晴天なり」



 マイクモドキの調子を確かめるためによく使われる言葉を言ってみた。

はいそうですよね。この世界にこんなのありませんよね。注目が一気に集まります。しかも空模様は曇天だし。


(あ~~~もうどうにでもなれ)


 頭をガシガシかきながら、思ったことをそのまま口に出す。



「どうも。大体の人には挨拶したんで知っているかもですけど、聖女なんてものやらせてもらっているユキナ=ナガセです。こんにちわ。早速だけど1つだけ先に言っとく。……最初にオメーらの戦いを見たあと、私も前線で戦う予定なんでそこんとこよろしく」



 ざわざわと、何人もの声が聞こえる。下を見れば指揮官さんが口パクで何か訴えているけど無視だ無視。



「私は聖女であると同時に冒険者だ。後ろの方で見守るなんてガラじゃない。今やっている激励のも、歴代の聖女が言った資料とか見たけど何も参考になんない。だから、私が思ったことをそのまま言わせてもらう」



 1度大きく息を吸いこんで――叫ぶ。



「聖国の象徴とか言われている聖女な私がテメーらと一緒に戦うって言ってんだよ!! どうだ! 嬉しいだろ! 返事は!?」



「「「「「お、おー……?」」」」」



「声が小さい!! それでも信者か! 聖職者か! バーサーカーか! テメーら全員これから魔物と戦うんだろ! 今からそんなんでどうするってんだ“ピー”野郎共!! もっと声を張り上げんかい!!」



「「「「「!? お、おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」



「日頃の成果を! 信仰心を! 強さを! 見せつけるチャンスなんだ! 使うとしたら今この時だ! 未来を生きる力を持つ私たちに負ける要素なんてねえ! たかが死霊系魔物相手に苦戦すんじゃねーぞ!! 全員――持ち場に付けぇえええええええええええええええええええっ!!」



「「「「「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」」」」」


 周りの空気が震える。それほどの声量だった。地響きかと思うような足音が鳴り響き、遠ざかっていく。残ったのは私のいる場所を担当する人たちだけだ。その人たちも各自の武器や行動などの最終確認をしている。


 下を見れば、キラキラと瞳を輝かせるステラと白目を剥いた指揮官さんが。他の近くにいる人も大体どっちかの反応だった。


(……ま、なるようになるさ)


 そして、あっという間に最後の1時間も過ぎ――


『瘴気の濃度が上がってきました! 戦闘準備を!』


 観測者の声が魔道具を通して響き渡る。

 それと同時に辺りに味方の殺気が満ち溢れる。うっわー見ちゃったよ。バーサーカー組の人たちの目がギラン!って光ったよ。怖えぇ……


 そうこうしている内に円形の大地に変化が起こる。


 ついさっきまでは見た目なんの変哲もない普通の地面が広がっていただけなのに、急におどろおどろしい感じになってきてる。

 ていうか、え? 地面ちょっと黒ずんできていない? 周りの空気も冷たくなってるような? うわっ!? 今見間違いじゃなきゃ地面がボコッ!ってなた! もしかしなくても気の早いゾンビでもいるの?



――ギュ



 誰かにローブの端っこを握られた。ステラだった。

 いつもより顔色悪いし、少し震えているのが手から伝わってくる。


「ステラ、大丈夫?」


「すいませんユキナ様。頭では分かっていたのですが、やっぱり、肌で感じると恐怖心が出てきて。元々、今期の除霊大戦に参加できる見習い聖女は私だけの予定だったんです。年下のヴィヴィアンがギリギリ参加できるかどうかだったらしいのですが、帰りがかなり遅くなるとのことで結局参加できないことになって。あはは、すみません。ついユキナ様のローブを掴んでしまって……」


 ごめんなさいと言って、放そうとしたステラの手を――ガッチリ私の手で掴む。ついでに反対の手でステラの頭をナデナデワシャワシャ。


「ひゃっ!? ユキナさ――」


「何も心配すんな」


 そう。心配する必要なんてないよ。


「私の目の届くとこにいる限り、ぜってー守ってやるから」


「……ユキナ様はズルいです。そんなこと言われたら、恐怖心も緊張も吹き飛ぶに決まってるではありませんか。もしも、ユキナ様が男性だったら……私、今ので落ちてますよ? 惚れますよ?」


「落ちんでいいし、惚れんでいいから」


 こりゃ。瞳をウルウルさせんな。シャキッとせんかい。



――ゥオオオオオオオォォォ



――アアアアアアアアアアアアッ



『各自に通達! 瘴気、魔物化しました!!』


 大地を見る。

 地面から映画でしか見たことないゾンビが、ミイラ男が、骸骨が、首の無い甲冑の騎士が、どんどん這い出てくる。

 空には人魂や幽霊が、うじゃうじゃと浮遊しだす。


 これが、死霊系魔物。今回の敵、か……


「やってやろうじゃんか。腕が鳴んよ!」


「はい! 共に戦いましょうユキナ様!」


 杖を肩に担ぎ、ステラと共に戦場を睨む。


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