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第60話 天山

・2024/01/24

 一部修正&あとがき追加



 みんなー! 旅行大好き! 聖女ユキナちゃんだよ!

 今日は1人で登山なんだけどー、そこでたくさんの豚さんたちと遭遇! キャー恐ーい! 誰かー! 助けてー!☆(キラキラ




「なんて言うと思ってんのかああああああああああああっ!!」


「ブヒイイイイイイイイイイイイ!?」


 苛立ちすぎて頭のおかしいプロローグが一瞬流れたけど、んな可愛らしい状況じゃねーよ。今の豚公みたく体を半分にぶった斬る超スプラッター系だよ。血しぶきスゲーよ。それを数えんのもバカらしいぐらいにやってんだよ!


「ブッヒ! ブヒブヒ!!」


「ブモオオオオオオオオオオ」


「ブヒイイイイイイイイイイイイイン!!」


 一体何匹目なのか? というか、どこから湧いてきたのか?

 ワラワラと私に襲い掛かるオーク共。


「ブヒブヒうっせええええええええええええええええええっ! この辺魔物いないんじゃねーのか!? おもっくそいるじゃんか!!」


 今、私がいるのは“天山”と呼ばれる異世界版富士山。

 そう。トリストエリア聖国が作られる切っ掛けになった1つの山。


 そこで大量のオークに襲われ、ずっと戦闘している。


(それもこれも、あのメタボ卿のせいだ!)


 原因は数日前にあった聖女としてのお披露目。それが終わって、疲れ果てながらステラと教皇さんの3人で部屋に戻ろうとした時だった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「おや? そこにいらっしゃるのは1週間前に突如として現れた聖女様ではないですか。先程のお披露目ご苦労様でした」


 もう今日はさっさと寝てしまいたい衝動にかられながらも、今後のことについて事情を知っているステラと教皇さんの3人で話し合うため、1度最低限の挨拶回りだけして部屋に戻ろうとしていた。

 そしたら廊下の向こうからこっちに向かってくる数人の神官たち。


 ……今までの勘からして碌でもない連中っぽいな。

 というか、ほぼ全員の目にあからさまな侮蔑や憎しみが込められていた。そんな眼差しの先にいるのは――何でか私。


(ちょっと教皇さん? 何なのさ、あの集団)


(……敵対派閥の者たちでございます。タカ派とも言いますな。十数年前、つまりは聖女がいなくなった頃から勢力を拡大してきた一派です。いろいろと言ってきておりますが、簡単な話が自分たちで大教会を牛耳りたい連中の集まりです。ユキナ様を聖女とすることに真っ先に反論してきました。ご注意を)


(私も会うたびに言葉の棘を刺されました。どうして同じ教会の者なのに、仲良くすることが叶わないのでしょうか? 私には、あの方々の気持ちが分かりません。今この時ではない、どこか遠くを見つめているみたいで……)


 うっわ~~~、マジでかぁ。

 派閥どうこうの話は聞いていたけど、実際に見るとお腹に重たい物が落ちたような感覚になる。特に中央の人が生理的にも受け入れがたい。


(……あの真ん中にいるメタボ親父は?)


(マッケンシー枢機卿。敵対派閥のトップです)


 聖職者にしては随分と太った奴だなー。教皇さんより年齢は少し下ぐらいだろうけど、醜さのせいで余計老けて見える。


「おやおや。随分とまあ、ヒソヒソ話をされていたようで」


「ユキナ様はアナタ方と会うのは初めてですからな。枢機卿のことなど、簡単な説明をしたまでですよ」


「ほっほっほ。それはありがとうございます。しかし、1度で覚えられますかな? 聞けば元々は冒険者の方だとか。それに人族とのお話ですが……まぁ珍しい容姿をしておいでで。ご家族はどこの誰か窺っても? 辺境の中の辺境から聖国に来たので?」


「これこれ。あまり人のプライバシーを探ろうとするでない。ユキナ様のような少女にはみたいな保護者が必要だと思っていましたが……どうやら正解だったようです。枢機卿ともあろう方が年若い少女に興味がおありだとすれば、とてもではありませんが目が離せませんね」


「ほう。このすでに枯れた私が少女に興味があるように見えるので?」


「おや? 違うので?」


「フフ。フフフフフフフ……」


「ハハハハハハハハハハ……」


 …………ヘヘヘ。空気が重たいぜ。


 この廊下だけ重力が数倍になってない? 酸素濃度低くない?

 見ろよ。ステラはいつもの笑顔に見えるけど、微妙に顔が青いよ。手足が小刻みに震えているよ。小声で「ユキナ様助けて」って言ってるよ。


 何だかんだで敵対している派閥同士のトップだけあるわ。

 表側の声はそれ程でもないけど、裏側の声がドス黒いもん。

 今でもお互いに罵倒し合ってる。大体の内容が、枢機卿側が私の粗探しも兼ねた非難。教皇側が私を庇いつつ相手をメッタメタに非難。中心人物のはずの私が無言。ステラが「お手洗いに行きたくなりました」って呟く状況。


 頼むよ爺さん共。胃に悪いからさっさと終わらせろ。


「それでは、こちらはこちらで忙しいので失礼します」


 私の願いが通じたのか、やっと離れていく集団。

 だけど、離れる瞬間に私を一瞥したマッケンシー枢機卿の瞳は、他の誰よりも悪感情を含んだ、濁った水みたいな黒さだった。


 で、そんなことがあった翌日。

 ステラから外で信者たちと話す際の注意点について話し合っていると、教皇さんから突然お呼びが掛かった。

 はて? 今日は呼び出される用事は無かったはずだけど?


「まず結論から言いましょう。ユキナ様には天山に登っていただきたい」


「天山って確か、最初に信者たちが集まる切っ掛けになった山で、神様に近づける的なジンクスもある、あの天山?」


 別に今の私なら富士山どころかエベレストにだって、日帰りで上り下りするぐらい訳ないけど……


「教皇様。もしかして急な話でしょうか? 確かにユキナ様にはいつか天山に登ってほしいとは思いますが、今は地盤固めのために炊き出しなどの民と触れ合う機会を多く設ける話であったはずですよね?」


 ステラの言う通りだ。

 聖国に住んでる人たちにとって聖女は象徴――というかアイドルみたいな存在だ。だから私の存在を広めるために聖都だけでなく、各地でボランティア活動を最初の内はしようと決めていた。


「どうも先日のマッケンシー枢機卿が裏で動いたらしく、“聖女となったからには天山に登れるようでなければ信用できないのではないか?”といったことを広めたそうで。穏健派はまともに聞く耳を持ちませんが、中立派の者たちは一理あると、それぞれ相談していたようなのです」


 あんのメタボ、余計なことしやがって……!


「そこで私共も相談――というより、私からのお願いが先程のことです。幸いにもこの1週間の話し合いの中でユキナ様に体力も、戦闘力もあることは分かりましたので山登りなら問題ないのではないかと思案しました。いかがでしょう?」


「山登るぐらいならご想像通りだけど、どうやって証明するの? まさかあの枢機卿一派が監視についてくるとか言わないよね?」


「いえ、そちらは考えが。天山の頂上には神へ祀るための様々な道具が設置されているのです。それらは定期的に交換することになっているので、ユキナ様にはいくつか新しい物を持っていただき、帰りに古い物を持ち帰ればいいでしょう」


 あー、仏壇のお供え物変えるようなもんか。

 山の頂上にあるから、日本の神社みたく毎日のように掃除や供え物ができないんで、一定期間ごとに新しい物にするっていう。


「じゃあ行きます。そんでうるさい連中を黙らせましょう」


「ありがとうございます。それでは天山までの移動などの準備をしますので、2日後の出発で。ステラ、今日明日で天山のことやお供えについて説明を頼みますよ」


「お任せください!」


 両手を胸の前でグッと握るステラをどこか微笑ましく見てた時は、遠出のおつかいにいく依頼を受けるようなもんだと考えてたんだ。



 ――それがさ……



「これで終わりだあああああああああああああ!! 『テンペスト・フレイム』ぅうううううううううううううっ!」


「「「「ブッヒイイイイイイイイイイイイイイイイン!!」」」」」


 最後に残ったオークの集団は、苛立ち全部をぶつけるような大魔法で跡形もなく消し飛ばした。

 さすが【炎系魔法LV.6】相当。渦巻く紅蓮の業火が豚共を火葬した。かなり魔力喰う魔法だけど、ユニークスキルの影響で魔力の心配はほぼ無い。


「………………やっと終わったぁ」


 【探知】で調べても、目視で見ても、魔物の姿形は見えない。


 最初の内はオーク数体で「おっしゃ! 肉ゲット!」って思ってたけど、途中からはそんなこと考えなくなってた。襲い掛かるにしても限度があるだろうよ。しばらく豚肉食べたくないっての。


 これ、私じゃなくて普通の冒険者だったら死んでたかもしれないぞ? 天山への移動中に立ち寄った村で、最近多くなったと思っていたオークが全然見かけなくなったという話を聞いたけど、こんな所にいたんだな。

 住処にでもしようとしたのか?


「さっさと頂上行って帰ろ」


 念のために魔力回復薬を飲んだら、【風系魔法】で脚を浮かせてスキップしながらピョンピョンと山を登っていく。

 え? ズルい?

 オーク共のせいで普通に上ってたら日が暮れるんだよ。元々スキルの力フル活用して、日帰りで済ます予定だったんだからいいやん。


 そうして山を登り始めて数時間、ようやく頂上に到着した。


「ハァ、ハァ、さすがに疲れた」


 体力あってもノンストップだしね。

 ……私、無事に帰れたらステラに膝枕してもらうんだ(フラグ)。


「おーおー。思った以上に立派な祭壇だな」


 教皇さんに聞かされていた祭壇は、想像を超えて立派だった。

 大きな祭壇には神様の像数十体・聖杯・人工の花・よく分からん装飾品いっぱい、と中々に豪華だった。この内聖杯と花と装飾品数点を取り換えるのが最後の仕事だ。せっかくだから交換ついでに神様の像を含んだ祭壇全体を【水系魔法】の『クリーン』で綺麗にしてみた。うむ、ピッカピカやな。


 これで私の仕事は終わり……だけど。


「やっぱりこんな高い山の頂上に着いたらやるべきだよね~」


 では息を吸ってぇ! せーのーーーっ!


「ヤッホォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」



――ヤッホオオオオオオオオオ



――ヤッホオオオオオ



 んししし。気分いいな。1度やってみたかったんだよ。

 それでは最後にもう1度だけ……


「ヤッ――」



『やっほー。雪菜くん元気にしてたかい?』




 ――は?



『ようやく干渉しやすい場所に来てくれたね。キミをその世界に送ってからそこそこ経ったと思うけど今どうだい?』


 天から、おかしな、声が、聞こえる。【探知】、反応、無し……


『それで積もる話はあるけど、まずは――』


「……ぎ」


『ぎ?』



「ぎにゃあああああああああああああああああああああああああああああああっ!! お化けええええええええええええええええええええ!!」



 全力疾走! 怪奇現象から緊急離脱ぅ!!


『……は? ちょ、ちょっと待て! なぜ逃げるんだ!? 私はキミの近況を聞きたいだけで! こら待ちなさい! この世界の神がキミに――』


 無視だ。無視だ。無視だ!

 謎の声に耳を傾けるな私! 呪われるかもしれないぞ! 神鳥ヴァルクスの長杖を装備! お願い! 私を悪しき存在から護って!!



『お願いだから待って! キミと顔を繋ぎたいって神様が後ろに控えているんだ! それに忠告だってあるんだぞ! 今、キミのいる国で不穏な力の流れが10年以上前から発生して――っておーーーーーい!!』



 テレレンッ♪

 ユキナ ノ SP ガ 増エタ! ヤッタネ!

 ユキナ ノ SAN値 ガ 減ッタ! ヤッチマッタゼ!

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