第58話 現実でガチ土下座されるといたたまれない件
・2024/01/19
一部修正&加筆
1度あったことはまた起こるし、2度あることは3度あるともよく聞く。でも正直、何のことでも3度目は経験したくないなー。
だってそこまで行くと、半分呪いみたいじゃん?
そんなことを、ボンヤリした頭で考えた。
「………………知らない天井だ」
うん。ガチで知らん天井だもん。前にも言ったことあるけどネタでも何でもなく知らん天井だ。
間違っても私の泊まっている宿屋の天井じゃない。宿屋の天井にこんな神様っぽい絵がたくさん描かれていたら眠れないわ。
「……ここどこだ?」
どうにも頭がうまく働かない。半分寝ぼけてるみたい。
『〈現在位置〉……聖国の大教会・神殿部“聖女の間”』
【ヘルプ】からの音声に首を傾げる。
どうしてそんな所にいるんだよ?
(えーと、んーと、確か……?)
宿屋に戻ろうとして、周りが騒ぎ出して、急患っぽくて……それで【ヘルプ】に確認したら、ステラが事故で数分以内に死ぬって出て――ッ!
「そうだステラは!! ――いつっ!」
ぐぉおおお~~~!
大声出したら頭が~~~! クッソ痛てえ~!
なんか探知を初めて使った時の痛みに似ているような……?
――コンコココココココココココココンッ!!
「失礼いたします!」
キツツキかと勘違いするような高速ドアノックが聞こえたかと思えば、バンッ!と大きく音を立てて部屋の奥にあった扉が開かれた。
つーか、あれ? もしかしてステラの付き人の1人?
「お目覚めになられましたかユキナ様。ステラ様をお救いになって急に倒れられたと聞きました。身体に不調はございませんか?」
「え、その、頭は痛いけどそれ以外は。あの、それでステラは……?」
段々と思い出してきたけど、ステラは大丈夫なのか? 助かって目を覚まして感動の場面!となったところまでは思い出せるんだけど……
ステラに会いたいな。つーわけで付き人さん、肩かしてー。
「そうでした! 今すぐお呼びしますので少々お待ちを!」
「いや、歩けるんで肩を――」
「失礼します!」
言うが早いが回れ右してシュババッと部屋から出ていく付き人さん。
おい、もう少し説明しろや。話を聞け。空しく伸ばされた私の腕を見ろて。
(……でもあの様子だと、ステラは助かったみたいだな)
起こした上半身を再度ベッドに沈める。
(確か気を失う少し前に【ヘルプ】が随分いっぱい言ってたような……)
アイテムボックスから久々に冒険者身分証を取り出して確認する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◦ユキナ=ナガセ(永瀬雪菜) ◦14歳(?)
◦発行:レーヴァテイン王国 ◦Dランク冒険者
〔称号〕
異世界転移者、神の加護を持つ者、永遠たる白の少女、真・聖女、幸運が仕事しない哀れな少女、白の殺戮者、限界を超えし者、絆の救世主、神々に気に入られた者、爆走聖女、無自覚の英雄、討伐(雷の仮面)
〔スキル〕
・EXスキル:ヘルプ、SPマスター、不老
・固有スキル:生存本能、逃げ足、幸運(大)、白の加護
・魔法スキル:炎系魔法LV.6、水系魔法LV.3、風系魔法LV.6、土系魔法LV.4、光系魔法LV.7、時空系魔法LV.2
・ユニークスキル:防御力上昇(極大)、状態異常完全耐性、闇系魔法無効、ハラスメント・カース、アンロック、バリアー、限定・超高速思考、限界突破、魔力最大値増加(フェイズ3)
・スキル:アイテムボックス(大)、遠見(中)、探知(大)、演算処理、聴覚強化、思考加速、耳栓(大)、精神耐性(中)、精神安定、危機察知、直感、魔力制御、想像反映(小)、隠密(大)、気配遮断、跳躍、無音、鉄人料理人、風系魔法耐性(大)攻撃力上昇LV.4、速度上昇LV.5、行動速度上昇(小)
〔装備〕
魔力感知ペンダント、浮遊リング、賢者のローブ、神鳥ヴァルクスの長杖、炎獄のハルバード
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ん~? やっぱ見慣れない称号とかスキルが増えてる。
【行動速度上昇(小)】は単純に早く行動できる、前から取ろうかなと思ってたスキルだ。脳の電気信号に作用してんのかね?
それ以外は1つずつ確認していくしかないな。
『〈ユニークスキル:限定・超高速思考〉……短時間だけ、人の限界を超えた思考の加速が可能になる。ただし、脳への負担が重大』
あー、倒れた理由はこれっぽいな。
【探知】の時に世話なった【演算処理】のスキルでも処理しきれない程の負担が、脳味噌に掛かったのが原因と見て間違いなさそう。
本で見て知っていたけど、記憶の隅に留めとくだけにしたやつだ。
日曜の仮面なヒーローに例えるなら、頭の中だけクロックアップみたいな? 【思考加速】を遙かに越える早さで考えられたし、そりゃ鼻血出るって。日本だったら緊急入院だって。
これのお陰でステラを助けるのに間に合ったけど、よっぽどの事態にならない限り封印決定だ。諸刃の剣はあとが怖い。
『〈称号:絆の救世主〉……大切な者のために、他の一切を無視して心から助けようとした証。一定以上の絆を持つ人のピンチを感知可能』
地味に嬉しい称号だな。効果も含めて。
“一定以上”の範囲が曖昧だけど、これってようはリリィやクラリスがピンチの時も、どんなに遠くに私がいようと感じ取れるってことでしょ?
時空系魔法の長距離転移があるから、鍛えれば心配事が1つ減る。
『他の一切を無視して~』って言うのは……あとで確認しよう。蹴り飛ばした馬車の持ち主誰だろ? 弁償っすかね?
『〈称号:限界を超えし者〉……人が到達し得るLV.7魔法系スキルに達した者に与えられる称号。LV.7になったスキルの固有技能に目覚める。スキル:限界突破を取得する』
やっちまったぜ案件その1。
ついに来ちゃったよ【光系魔法】のレベル7。
これ取得するのにごっそりSP使ったからなー。“雷の仮面”関係で大量に取得したSPがたった12SP! また節約生活じゃ!
称号の効果にある“固有技能”ってのは、咄嗟に使った『ビヨンド・ヒール』のことだろ。あれ、イメージと関係なく頭に浮かんだ回復魔法だし。
他にもあるけど、魔力消費がバカにできない。全部試すには時間も場所も何から何まで足りん。残念だけど後回しにするほかないな。
『〈スキル:限界突破〉……身体能力・称号効果・各種スキル・武器の特性などの能力を一時的に限界を超えて上昇させる。使用後、一定時間能力値が減少。クールタイム24時間』
称号の効果でおまけのスキルまで手に入れちまった。
よく分からんけどこっちも諸刃の剣みたいだな。あれか? ガ〇ダムでいうトランザムをイメージすればいいのか?
『〈称号:真・聖女〉……【光系魔法LV.7】に達した【称号:聖女】を持つ者に与えられる称号。聖女に関連するその人物に適した称号を2種類取得。【称号:聖女】の効果に加えて、回復魔法の消費魔力減少(大)』
やっちまったぜ案件その2。
地雷がさらに進化しよった。今からBボタンの連打で進化無効にできません? 無理っすか? ですよねー。アッハッハッハ!(ヤケクソ気味)
でさ? ここからが別の意味で問題なのよ。
【称号:真・聖女】の効果に、称号を2種類取得ってあるじゃん? 頭に響くからと思って声出さないようにしていたんだけど……
『〈称号:神々に気に入られた者〉……様々な神々とコネを作りやすくなります。やったね!』
「いらねえええええええええええええええええええええええええ!! んでもって、最後の一文がウゼェエエエエエエエエエエエッ!!」
しかも“コネ”って!
もっとマシな言い方無かったのかよ!?
そしてそしてーーー……もう1つぅ!
『〈称号:爆走聖女〉……未だかつてこんな聖女がいただろうか? 最早何も語るまい。急患の元へ駆け付ける行動に補正(中)』
「だ・か・ら! いらねえっつってんだろうがよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! やかましいわぁあああああああああああああああ! んでもって、語れぇええええええええええええええええええええっ!!」
『最早何も語るまい』って、称号の説明なのに語らないって、職務放棄じゃねえの!? 一体どうなってんだよ!?
こんなの人様に見せられないよ! 恥ずかしすぎる!
「――っ!! う~~~、叫びすぎて頭が~~~!」
ズキンズキンと痛む頭を抱えてしまう。
――タタタタタ ――バンッ!
「ユキナ様!」
勢いよくドアを開けて入ってきたのは元気な様子のステラ。
見た目の汚れも無くなったんで、綺麗になってる。
「……無事で良かったよステ――「ご無事でなによりですユキナ様ぁああああああああああああ!!」――らっ!?」
なるべく笑顔で迎え入れようとしたら、ステラがロケットのごとく突っ込んできた! おい! 私一応ケガ人扱いだぞ! 落ち着け!
「深くて冷たい生と死の狭間の中に差し込んだ光によって救われ、それを為したのがユキナ様で、いっぱいお礼を言いたかったのに突然お鼻から血を流されて倒れて! つい先程まで心配で心配で胸が締め付けられる思いだったのですよ!!」
「ぢょ、わたじの首が、じめつげられで……!」
キマッてる! 首に回されたステラの腕でキマちゃってるから!
い、息が! アンタ、私を締め落とす気じゃないだろな!?
「よかったですよおおおおおおおおおお! ふぇええええええええええええええええええんっ!」
「ぐ、ぐうぇぇぇ……」
マズ、脳に酸素が届かなくなって、ブラックアウトしそ――
「こら落ち着かんか」
パコンッ!といい音がなったかと思ったら、締め付けが弱まった。
見ればステラが頭部を抑えて呻いている。
開いた視界から見えたのは70代ぐらいのお爺ちゃんだった。手に分厚い本を持っているから、アレで軽くステラを叩いたんだろう。
「痛いです教皇様!」
「こちらのお嬢さんは痛いどころでは済まなそうだったぞ?」
いいぞ。もっと言ってやってお爺ちゃん。
てか教皇様っすか。聖国のトップじゃないっすかヤダー。
よく見れば質の良さそうな、それで悪趣味に見えない豪華な神官服を着ている。十字架が描かれた大きな帽子も相まって重そうだけど大丈夫なのかな?
「申し訳ございません。確か……ユキナ、というお名前で間違いありませんでしたね。私はこの聖国で教皇などというものをやらせていただいている“グレゴリール=ルドヴァガンダ”と言います。どうぞお見知りおきを」
「これはどうも。ユキナ=ナガセです。初めまして」
随分とゴツイ名前の教皇さんと挨拶を交わしつつ、内心は焦っている。
思い出すのは王国での王族たちとの初顔合わせ。
何とな~く、その時の空気に似たものをヒシヒシ感じるぞ?
「まずはステラを救ってくれたことに私からも礼を。かなり危険な状態だったと聞きました。命を失うギリギリだったと。見習い聖女たちは私にとって孫も同然。感謝してもしきれません」
「いえいえいえ! お気になさらず!」
王国で培った私の強固な精神力舐めんなよ?
例え教皇がお礼を言ってきてもビクともせんわ!
「それで、お互いに話し合うことは多々ありますが、その前にどうしてもアナタに私から1つ言わなければならないことがありまして……」
はて? 一体何を――はっ!? まさか、例の蹴り飛ばした馬車の持ち主が苦情を言いに来たとか!? 思ったより早く来たな弁償案件!
「……分かりました。それで、どういった要件でしょうか?」
できるだけ余裕を持つように、教皇さんの言葉を待っていたんだけど……一瞬で余裕が崩れた。
――ガバッ!!
「どうか! どうかこの老いぼれの最初で最後の頼みを聞いてくださいませ! 是非とも! 是非ともぉおおおおおおおおおおおおお!!」
「ブフゥッ!?」
教皇さんが土下座しただと!? 見たことないくらいビシッとした完璧な土下座! アカン!? 強固になったはずの精神にヒビが入る!
「ちょちょちょ! 何やってるんですか! 私に何させる気――」
「どうか、この国の、聖女になってくださいませえええええええっ!!」
orz




