第57話 憧れの聖女
・2024/01/13
一部修正
〔Side.ステラ〕
――暗い。
そこは、何も見えなくて、
――寒い。
そこは、冬の水のように冷たくて、
――ボヤっとする。
夢の中のように、意識がフワフワしている場所。
いつから、ここにいるんだろう?
私は――?
ああ、そうです。思い出しました。
私はステラ。見習い聖女です。
ここはどこなのでしょうか?
私はレオンくんを探しに行って、ユキナ様から居場所を聞くことができて、公園にいるレオンくんを見つけて話をして――?
それから……
――「危ない!!」
……そうでした。
公園から勢いよく飛び出したレオンくんが、急に馬車の前に出てしまい、馬が驚いて、考えるより先に体が動いて、
……そこから先の記憶がありません。
何となく、最後の記憶で頭に強い衝撃を受けた気がします。
もしかしなくても、驚いた馬の蹄で頭を割られてしまったんでしょうか?
だとしたら、
レオンくんは無事なのでしょうか?
あははは……
こんな時でも私は、自分じゃなくて他人の心配をしてしまうんですね。一応、自分のことだって大切にしているつもりなんですが。
けど、そうですか。
私、死にかけているんですね。きっと。
こんな風に考えられているのが何よりの証拠です。
大教会にある図書室の本で見たことがあります。
私たちが住んでいるこの世界で『生と死の狭間』と呼ばれる、死ぬ一歩手前の人が訪れるという暗闇の世界のことを。
誰でも訪れるわけではないそうです。
一説によると、人類に多大な貢献をした人や、もしかしたら貢献したかもしれない人。また、何かを成し遂げた人や成し遂げられなかった人。そんな人たちが寿命以外で死ぬ時に訪れることになるのではないかと考えられているそうですが……
どうやら本当だったみたいですね。
まさか自分が体験することになろうとは……
そもそも、死にかけた状態から奇跡的に生き返った人なんて歴史をひっくり返しても中々いません。
才能がある人が使える回復魔法だって、万能ではありません。
どんなにイメージしても、どんなに他のスキルと併用しても、どんなに神に祈っても、限界があります。
だから、本に書いてあることも半信半疑でした。
あくまでも、昔死にかけた人が奇跡的に助かったあとにそういうことを言っているんですよ~、って話でしたから。
簡単に死にかけの状態でも助かるなら、回復魔法の使い手は苦労しません。
まだ戦争が世界で起こっていた頃に活躍した回復魔法の使い手が記した本には、どれだけ目の前で救えたかもしれない命を救えなかったのか、その悔しさや嘆きの気持ちが書かれていました。
だからきっと、もう私は助からないんでしょう。
思っていた以上に短い人生でした。
せめて、本物の聖女になりたかったなぁ……
大好きなお母さんとお父さん。
村で優しくしてくれた人たち。
教皇様や他の見習い聖女の皆さん。
みんなに、申し訳ない気持ちが湧いてきます。
振り返ってみると、私は幼い頃とても元気に走り回っていました。
まだ聖女とかのこと、よく分かっていなかった頃です。木登りだって男の子に負けませんでしたし、かけっこでも子供たちの中では1番です。
ある日、聖女だったお母さんから昔話を聞きました。
今まで活躍してきた聖女たちの話を。
子供ながら単純に――憧れました。
純粋にすごいと、感じたのです。
その後、教会から見習い聖女の誘いがあった時は内心で飛び上がるほど喜びました。当時の聖女関連の実情を知っている人のことを考えれば、そのようなことはできないと分かっていましたのであくまでも心の中で、ですが。
そこからは一心不乱です。
毎日のように神様に祈りを捧げ、勉強し、同僚でもある他の見習い聖女の子たちと競い合いながらも、同じ目標に向かって進みました。
全ては憧れた聖女になりたいがために。
でも、もうお終いなんですね。
さっきよりも世界は暗く、冷たく、深くなっています。
おそろく、私の死がもうすぐそこまで来ているのでしょう。
――「予定が合ったら、一緒に屋台回ろうぜ」
――「……ふふ、分かりました。約束です」
――あ。最後に、ユキナ様との約束を思い出しました。
約束、破っちゃいましたね。今日したばかりなのに。
ユキナ様、怒ってしまうでしょうか?
不思議な人。温かい人。優しい人。
あの、まっすぐな目に惹かれたのかもしれません。
嫌だな。まだ、死にたくないな。両親に、村の人たちに、教会の人たちに――会いたい。ユキナ様との約束、破りたくない。
しかし、思いとは裏腹に私の意識は薄れていき――
直後――強烈な、しかし優しい光が私を温かく包み込みます。
――!? これは、一体……?
状況が理解できないまま周囲がどんどん温かい光に溢れて――私の意識は、浮上していきました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
瞼が重い。
でも、眩しいのを堪えて目を開ければ、
「………………ユキナ、様……?」
「……心配させんなステラ。この大バカ」
そこにいたのは、大粒の涙を流すユキナ様でした。
「……体は大丈夫? どっか違和感ない?」
「え? あ、はい。少々ふらつきますが至って健康です?」
なぜか質問の答えが疑問形になりましたが、仕方ありません。
だって、もし、先程までの光景が夢でないとすれば、私は死にかけていたはずで、でも、こうしてしっかり生きているわけで……
「何だ? 何が起こったんだ!?」
「き、奇跡じゃ!」
「今の光、まさか、高位の回復魔法?」
「ステラ様が助かったぞぉおおおおおおおおおおお!!」
「おーい! 急患ってのはどこに――ってアレ? 何このハッピームード? どういうこと? は? ケガ人は助かった? 奇跡が起こった? じゃあオレが持ってきた回復薬は? いらない? ウソん!?」
周りには人が大勢います。
その方々の話を統合しますと……
「もしや、ユキナ様が私を……?」
「まあ、結果的にはそうなるかな?」
未だに涙を流されているユキナ様は、数日一緒にいた時にもよく見せた苦笑いの表情になります。
(ではあの光も、ユキナ様が)
「さ、さて! とりあえず助かって良かったのはいいけど、この状況どうしよ? 宿屋に帰れるかな? まずはステラだけでも――え?」
「え?」
ユキナ様の言葉が途中で止まります。
私も、驚きで目が見開かれます。
ポタポタとユキナ様の鼻から血が流れだし、
前触れなく前のめりに倒れました。
「ユ、ユキナ様っ!?」
(;゜Д゜)ゆ、雪菜あああああああああああ!?




