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第54話 寂しさ

・2023/12/31

 一部修正


 はあ~~~……憂鬱だわ。


 バレた時のこと考えると、ため息しか出ない。

 まさか聖女の称号がこんな所で地雷と化すなんて。


 何度でも言うけど、私ったら聖女なんてキャラちゃうねん。ステラが聖女だったら“あ~なるほどな”って自然に納得できるのに……


 ………………


「よし! 観光再開するか!」


 こんなん考えても答えなんて出ようもないし、いつまでもウジウジすんのは私に合わねえ! なんくるないさー。つーわけで、美味しいもの売ってる店で精神・肉体の栄養補給じゃ!




 やって来たのは何だかんだで訪れるのが3度目となる大きな建物。食べ物・服・雑貨・日用品と幅広く揃えています。

 はい。異世界版デパートですね。もしくはショッピングモール?


 王都にもあったけど、耐久性の高い建築方法が広まっているからこそできることだよね。じゃないと上の階の重みで危ないし。

 もしかすると魔道具を建物に取り組んでいるのかもしれない。外から見るとかなりデザインも凝っていたし。地球に近い建築技術があると言っても最新じゃないからなー、構造とかバランスをある程度無視して造ることができるなら、夢が広がるってもんだ。


「思い返すと日本じゃこんな風に冷やかししたり、買い物したりなんてなかったな。目に移るもの全部が私にとって新鮮なのもあるんだろうけども」


 王都でもショッピングはしていたよ?

 だけどそこまで物を買う訳じゃないから、楽しく見て回るのが目的だったし。

 ぶっちゃけ、物よりも食べ物の消費に金使ってたと言いますか……


 魅力的な屋台が多いのが悪いと思います(キリッ!)。


 気を取り直して。

 デパートモドキは見ていて飽きない。というのも、食品コーナーのほとんどを占めている果物がずらりと並んだ場所。そこには日によって並ぶものが違ってくるのだ。


 最初に来た時に並んでいたものが次に来た時あるとは限らない。

 どうも一般的に食べられる果物は他の店でも売っているから、その時にできた1番いい果物を遠方から取り寄せて並べているそうだ。

 なので、たまに聖国でも珍しい果物があったりするから、美味しいものや珍しいものが好きな人たちは毎日のようにここを訪れる。すると、せっかくだし他のものも一緒に買おう!となる。


 他の店でも珍しい果物を仕入れたりするんじゃって思うけど、元々の収穫量が少ないのに加えて専属契約までしている。

 専属契約とか中々難しいはずだけど、聞いた話ではここのオーナー、若い頃は随分とフットワークが軽いうえにコミュ力が高かったので、地方の現在有力者になった人や農家の人とコネがあるらしい。その関係で遠くから普通のお店に売っていないものを仕入れることができるとか。

 具体的にどのくらいの人数の人と仲良くなって、そのうちの何人が仕入れに関わっているのか知らないけど、最終的にこんな大きなお店を持つぐらいになったんだから元々才能もあったんだろ。それで友人知人も多いとか、勝ち組じゃねーか。


 うーん、素直にすごい。

 私だって異世界に来た当初よりコミュ力は上がっているけど、それだって初対面だと緊張もするし、顔にも出る。リリィみたいな素直な子供、クラリスやステラみたいな同年代の女の子なら多少なりフレンドリーになれるんだけど……


 果物コーナーを見る。

 それぞれの果物のあるカゴには名前以外に、どこが産地でどんな果物かの説明が書かれたプレートがあった。どこどこ産とか書かれててもピンとこないから、買うときは大体フィーリングで買っている。


「ちょっとそこの子、何か探しものかい?」


 たくさん並べられた果物たちを見ていたら恰幅のいいオバチャンに声を掛けられた。服装から店員さんだろうね。


「え!? いや、その……ほ、本日のおススメってあります?」


 ちょっとどもりながら聞いてみる。

 どっちみち買うつもりだったからちょうどいいタイミングだ。


「そうねえ……あ! 縁起のいいものが入荷しているよ」


 そうしてオバチャンが勧めてきたのは――


「モモ? いや違う。何だこれ?」


 一瞬だけモモに見えたけど、少し赤みを帯びているし、お尻っぽい縦筋が上の方まである。


「初めて見ますね」


「ただでさえ収穫量が少ないのだからね。これがラストだよ。名前はアモール。この筋の所に力を入れるとキレイに割れる果物でね、半分に割れると断面がハート型になるから、恋人同士や夫婦で食べると縁起がいいって言われてる」


「ほえ~。試してみたいな」


「少し高いけど気になったら買ってみな。味も美味しいから。ただ注意が1つ。半分に割ったアモールをさらに半分に割っちゃいけない」


「……どして?」


「ハートが割れて縁起が逆に悪くなるからね」


 あらやだ怖い。恋する人がいない私には関係ないけど!

 とりあえず買いだな。


 その後もちょいちょいと必要な物を買ってデパートモドキから出る。


「うっうぇ。やっぱ今日は一段と暑いなー」


 外に出た私を襲ったのは照り付ける太陽。

 憎々しいくらいの暑さにウンザリしてくる。届くなら魔法でも打ち込んでやりたいくらいだ。いや、届いたとしても実際にはやらんけども。


「う~ん……ここまで暑いとスキル取りたくなる」


 一応スキルリストを見つつ【ヘルプ】に確認をすれば、暑さ対策のできるスキルは存在した。ただし今は取りません。初期から持っている【炎系魔法】を使えば周囲の気温に干渉することもできるけど、周りにも影響出るから基本禁止だ。残念。


 SPが大量にあるんだから取得すればいいって?

 甘い甘い。ここまでの半年を思えば甘すぎる。

 私の第六感的な何かが激しく訴えている。

 ――絶対に聖国でもトラブルに巻き込まれる確率が高いとな!


 もうね? なんだかんだと言いつつ半分諦めてるんよ! 特大の地雷を抱えているんだぞ? 【スキル:幸運(大)】は基本仕事しないんだぞ? そんなどこに爆弾が埋まっているのか予想できない中でそうそうSPの消費なんざできるか! どうせ近いうちに大量消費するに決まっている!


 結果として暑さ対策は涼しい格好することで済ます。

 今更だけど、今日の私は白のワンピースに麦わら帽子の組み合わせ。格好だけ見れば正統派ヒロインっぽいけど、中身は残念の塊というこれまた地雷。


 ……異世界に来てから地雷やら爆弾やら危険物の気配が常にあるよね? そのうち核弾頭が空から降って来るような大騒動に巻き込まれそうで怖い。


 そんなことを考えながら歩けば、屋台エリアに突入。

 この数日間でいろいろ見て回ったけど、全体的に魔道具で冷やした飲み物やシャーベットなど冷たいものが多い。

 串焼き屋もあるにはあるけど、数は少ない。


 やっぱりみんな暑いと冷えたものが欲しいからだろうな。こういう所も王国との違いだ。雑貨屋でも神様を形どった像やお守りの数が多い。信者たちの国とあってその辺に掛ける思いに関しては他の追随を許さない。


 素人判断だけど、王国で売っているモノと比べても値段は安いのに質がいい。神様に関連したモノとかになれば、その神様の信者だと示す物があると値引きまで応じるという。というか実際に見た。一見優しそうなオバチャンが目だけギラギラさせてドンドン値切る姿は、日本の商店街に出没すると言われる「怪人・値切り主婦」を思い起こさせる。

 今も日本の各地で店主と壮絶な戦いをしていることだろう……


 ――っと。美味そうなジュースの屋台発見。


「オッチャン、これ1つくださいな」


「あいよ!」


 前にそのままの果実を食べたんで知っているけど、見た目は全然違うのに味は完全にパイナッポーな異世界版スムージーを受け取る。

おおっ! 木のコップメッチャ冷えとるではないか!?

 あらかじめ魔道具で氷みたいに冷やしたんだろうな。それでいて持ち手の部分は冷えていないから手が冷たくて飲みにくいって事態にもならん。


「ズズぅー……は~、うっめ~」


 やっぱ旅行のだいごみと言ったら、見知らぬ土地での新しい出会い(主に美味しい食べもの)だよな。地球みたく観光に来る人向けの施設とかはないけど自然豊かな土地は見る価値あるし、現地の人との交流もちょい私にはハードだけど悪くないよねー。


 世界旅行、たっのし~~~!!



 ――そのはず、なんだけどな……



「なーんか、寂しいんだよねー」


「ん? 何か言ったかい?」


「うんにゃ何でも……美味しかったよー」


 店のオッチャンにコップを返して、その分の料金を受け取る。

 泊まっている宿に向かう足取りがどうも重たい気がする。


「……王国の名所回っている時から怪しかったけど、本格化しちゃったな」


 1人だけで行動するのに寂しさを感じちゃうとはね。


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