第52話 聖都へ
・2024/04/05
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私は今、圧倒されていた。
「これが……国境門……」
私とステラを含む馬車と冒険者の集団は予定通り村を出て、レーヴァテイン王国とトリストエリア聖国の国境にまでやって来た。
そして、私たちを出迎えたのは巨大な門。
地球にある観光地にも大きな門が有名な場所があるけど、写真や映像で見たそのどれとも違う圧倒的なものを感じずにはいられなかった。
今は依頼主やステラの付き人が、門の下にある受付で話をしている。
どこから来た誰なのか、それぞれの国へ向かう理由などを世間話のような感覚で聞いているのだそう。
実際は大きな街にあるような例の犯罪者を識別する玉で最低限の確認をしているらしいけど。あれって地味に時間掛かるし、1度使うと再度使用できるまでにこれまた時間が掛かってしまうという欠点がある。だから私の時みたいな事情持ちや、怪しいと思った人だけに絞らないと人の出入りが滞りすぎて物流にも影響が出るんだと。魔王教団はその欠点をついて街に侵入しているとクラリスから聞いた。
待ち時間で少し離れた場所から改めて門を見上げてみたけど、首が痛くなるくらい大きい。離れた所から見た時点でスケールが違うのは理解していたけど、至近距離で見ると色々感じるものがある。
たぶん今、バカっぽい表情になってんだろうな
「ユキナ様は初めて見られるのですね。かつては国境の近くに睨み合うよう砦が建設されていたり、普通の役場のような建物が設置されていたこともあったそうです。しかし、いつの頃からかお互いの国の技術や様式を融合させた象徴としての門が作られるようになったそうです。そのため、それぞれの国境門に違いもあるので、世界中を回りたいとおっしゃったユキナ様の楽しみになるかと」
「……うん。これは、楽しみだ」
いつの間にか近くに来たステラの話に頷く。
まだ見たことあるのがこの門1つだからどんな違いがあるか分からないけど、そんな違いを見つけてみるのも旅行の醍醐味だろうな……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そこからも概ね予定通りだった。
中継地点でもある街に2日間滞在して、自由行動を取った。
ステラでも誘って街を見て回ろうと思ったけど、どうやら予想していたよりもハードなスケジュールらしく、泣く泣く諦めることとなる。
変に言葉を濁していたけど、最近の聖国は布教活動に熱心でステラ以外の見習い聖女も各地で活動しているとか。
王国は全体的に安定して他の国よりもクセが少ないので、みんな素直にステラの言葉を聞いてくれると言っていた。
それ以外の国だと布教がしにくい環境か、クセが強いか、王国と同じく普通に活動できるけど移動が大変で時間が掛かるか、そんな状況らしい。
布教のことについても聞いてみた。
王都で暮らすようになって知ったけど、この世界には何柱も神様がいる。地球みたいに偶像とかの類じゃなく、実際に神様の世界にいる存在として。
王国では土地の関係から全ての神を祀るための教会を個々で作るわけにもいかず、大きな教会で全部の神を祀っていた。
しかし、そこはさすがの聖国。
当然のように聖都では神を祀った教会が、各神ごとに全部ある。
全ての神が重要な立ち位置なので、どの神様を崇めてもいい。“神を崇める”という共通認識があり、特定の神を不当に貶めるようなことさえなければ、聖国の名のもとに自由に神を崇め、祈りを捧げ、感謝することが許される。
聖国の根幹をなす、あり方の1つだ。
これは聖国の国民にとって誇りであり、例え世界がどれだけ変わろうとも護り続ける信念でもあると、誇らしくステラは語っていた
……地球の宗教団体に聞かせてやりてえな。
偏見かもしれんけども、私が生まれた頃から異教徒がどうちゃらと迫害したりテロ起こしたりと、めんどくさい集団って認識だったからな。
やっぱりスキルなんて特殊な力があって、何かしらの形で神様の恩恵を受けているのが大きいのか?
相手方の神様を貶す=その神様にケンカ売るってことだし。案外、昔に本物の天罰とかもあったのかもしれない。
そんなこんなで平和な2日間を経て、再出発。
ステラたちと共に聖都へ辿り着いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「皆さま、この数日間ありがとうございました」
「何度も言うけど気にしないで。こっちも楽しかったし」
「聖都の果物は特に美味しいので是非ご堪能を」
「うん。私も屋台は制覇するつもり」
聖都は事前に聞いた通り、白い建物が多い街だった。
神聖さを出すためにわざわざこんな建築様式にしているのかと最初は思ったけど、ずっと昔、まだ聖国が出来上がる前から似た感じらしい。
単純な話で、聖国で取れる石材に白いものが多いからだとか。
どうでもいいけど、迷彩効果で大人しくしていたら私なんか見つけるの難しそう。いや、誰から隠れるんだって話だけどさ?
それと、もう1つの特徴。年中通して暑い!
中継地点である街に滞在していた時はまだ我慢できたけど、昨日の時点から我慢が限界を超えたので半袖半ズボンの冒険者スタイルで過ごしている。
あれだ。世界で不思議を発見する系番組のマスコットみたいな。
機能性や丈夫さは折り紙付き。
賢者のローブにも暑さ寒さを和らげる効果は付いているけどね? 見た目とかの問題で暑苦しくなっちゃうわけ。
それにしてもステラみたいな聖職者が集まる場所だからか、神官服を着た人やシスターをさっきから見かけるけど、みんな腕も足も隠すタイプの服装だから暑そう。てか、見てるこっちが熱くなる。
「ねえ、ステラ。ステラもそうだけどさ、そういう服着て暑くないのみんな? やっぱりこの国で育っていると暑さに慣れてくるとか?」
「慣れ、は確かにあると思います。ですが私を含めて皆さんは熱心な信者でもありますので、余程のことがない限りは正装でいることが多いのです。そのため、やせ我慢をするか、冷却効果のある魔道具を身に付けている場合がほとんどです。かく言う私も……」
「普通に薄着しようよ」
日本だってガチの夏日はクールビズで半袖や薄着が認められているんだから。
「よろしければ冷却の魔道具を取り扱っている業者を紹介しましょうか? お値段にもよりますが、いろんなタイプがあるんですよ?」
そこからステラはどんな魔道具があるかを教えてくれる。服に装着するモノやペンダント型まであるそうだ。
いや、だけどさ……
「どしたの急に?」
見習い聖女ステラから、セールスマン・ステラに転職したの?
「だって、ユキナ様があのローブを脱いでしまったのが残念で仕方ないのです。せっかくお似合いでしたのに……」
あーそういえば、昨日暑いからって着替えたらステラったら“ガーーーン!!”て効果音が聞こえそうなぐらいショック受けてたもんな。
付き人の女性まで何か言いたげだったし。
その後、ローブに着替え直さないか何度も言われたし。
「私は最低限のセンスと機能を重視しているから」
賢者のローブに比べたら安物かもしれないけど、これだってお値段は安くないんよ? 私服だって夏仕様のがあるんだからさ。
「そんなことより、はいこれ」
無理矢理話を変えて、ステラへお土産を渡す。
「? これは……」
「カツサンドとチャーシュー。冷めてても美味しいし、今日か明日にでも食べなよ。また会った時に感想聞かせて」
「また会った時……はい、分かりました!」
「うむうむ」
ちょい遠回しに再会を約束させてみる。
同年代の女の子の知り合いって極端に少ないからな私。他に親しい人って何歳も年上の大人か、逆に年下の子供ばかりだし。
そう考えるとクラリスと友達になれたのは幸運だな。
……この子とも、友達になれるかな?
まだちょっと早いかな?
次会った時にでもタイミング見計らってアタックしようかな?
「じゃ。また今度ね」
「はい。また」
綺麗なお辞儀をして、後ろにいた付き人の女性たちと歩いていくステラを最後まで眺める。
「……さて、行くか」
私も後ろで待っていてくれた冒険者と依頼主に別れを告げて宿屋を探しだした。できるだけ通気性の良い宿を見つけねば!
 




