第50話 見習い聖女ステラ
・2023/12/27
一部修正
短めです。
「いやー本当に助かったよ。普通のオークなら何も問題なく倒せる実力は持ち合わせているんだけど、あの亜種がやたら強くて」
「アナタが来た時は奥の方で高みの見物を決め込んでいたようなんだが、最初の襲撃では猛威を振るいましてね。こっちの攻撃は効かないし、正直死ぬかもと思っていました。馬車だけでも逃がしたかったのですが、オレたちが唯一倒せたオークが中距離でやたら物を投げてくる個体でして。初っ端で馬を攻撃されたのは痛かったです」
オーク共との戦いが終わり、今は戦後処理。
功労者の私には休んでもらって、オークの死体の処理を悪いと思いつつやってもらっている。
もちろん最初は遠慮したよ?
でも「自分たちの気が済みません!」って押し切られて……
仕方ないので、ここまでの経緯を簡単に聞いている。
そうそう。魔石の回収もそうだけど、1番大切なのは血抜き作業。
私の取り分はオックスオークも含めて6体だからね! 売らずに食べますよ! 元々が大きいから傷ついてない箇所だけでも十分お肉が採れるし。
あ、私と一緒に来た斥候の人には先に戻ってもらってる。
オーク共のことで事情説明せなあかんし、依頼中に発生したことだからこっちの馬車の人たちとのすり合わせもある。
で、馬車の中にいた人たちだけど……
「もしかして、聖国の人?」
中に入っていたのは3人。大人の女性が2人と、私とそう年が変わらなそうな女の子1人。いずれも白いローブを着ている。
いや、女の子の方は少しだけ豪華かな?
その女の子は戦闘が終わり安全を確認したら、すぐに馬の方(馬車の陰で分からなかったけど倒れてた)に向かって何かし始めた。
「気になるか?」
私の視線から女の子が気になっていることに気付いたんだろう。事情の確認をしていた兄ちゃんが話しかけてきた。
「あの子は“ステラ様”。オレらの護衛対象で見習い聖女ってやつさ」
「……は? 見習い、聖女……?」
私がなぜか持っている【称号:聖女】と関係あるのか?
ちょっとヘルプ。見習い聖女って何さ?
『〈称号:見習い聖女〉……熱心に神に祈りを捧げる女性に与えられることがある称号。【光系魔法】の熟練度に補正が掛かり、確実に回復魔法を使えるようになる。【称号:聖女】の一歩手前の状態。一定水準以上の回復魔法が使えるようになり、信仰心が高いと【称号:聖女】に変化する』
………………んん?
すんません。ここに信仰心の欠片も無いのにイキナリ“聖女”なんて称号貰った少女がいるのですがー?
どこぞの神に恨み言は吐いても、感謝の言葉なんざした覚えないっす。
しかも私、【光系魔法】のレベルも4に達していないから回復魔法使えないよ? 何かの間違えじゃねーの?
いかん。話題を変えねば。
「み、皆さんやっぱり冒険者だったんですか?」
最初に会った時、本当に冒険者か自信を無くした理由について尋ねる。
この人たちの服も戦闘を意識してのものだけど、根本の部分でデザイン性というか、使われている素材が違うように思えたんだ。
それにどっか神聖さも意識した感じみたいで……
「もしかして聖国で活動している冒険者と会うのは初めてか? なら疑問に思うのも当然だな。まあ、そんな難しい話でもないんだが――」
そこから話してくれたことを要約すると、こうだ。
まず冒険者には2種類いる。
1つが、世界中を旅しながら自由に冒険者業を楽しむタイプ。国にも縛られずに自分の行きたい所に行く。私がこれに当て嵌まるかね?
一応拠点はレーヴァテイン王国ってことにしているけど。
もう1つが、いわゆる地域密着型。生まれ育った国から滅多に出ることもなく、気に入った村や街を拠点に活動するタイプ。ギランさんがこれかな?
割合的にはこっちが1番多いみたい。
そして、この冒険者たちは後者だ。
普段はトリストエリア聖国の聖都で活動しており、今回みたいな聖国にとって重要な人物の護衛でもない限りまず他国の土を踏むことはない。
別に王国を含めて他の国に全く興味がないわけでもないけど、特に理由のない限りは国内で活動する方が性に合っているらしい。
私が疑問に思った装備にしても、素材から作り手まで生まれも育ちも聖国!な魔物や鍛冶師を頼っているので聖国の色が強い装備になるそうな。
ちなみにこの装備事情、何も聖国だけが特別というわけではない。
国によって特色、出没する魔物、出土する鉱石にも違いがあるから、地域密着型冒険者の装備を見ればどの国出身なのかある程度予想がつくらしい。
とりわけ聖国の装備は神聖さを意識したものが多く、他の国の装備と比べて1発で「あ、コイツ聖国の冒険者か」と分かってしまう。
以上、冒険者の丁寧な説明終わり。
え? 何で要約したのかって?
説明の最中にする装備の自慢話が多すぎたからだよ。
「はっ、はっ、……すみませーん!」
一通りの話を聞き終えた後、可愛らしい声が聞こえた。
振り向けば、件の見習い聖女が小走りでこっちに来る。
「あの! この度は助けていただきありがとうございました。私、ステラと申します。聖国にて見習い聖女をやらせてもらっております。本日、アナタと出会えたことに神へ感謝を」
そう言って子供らしい咲いた花のような笑顔のリリィとはまた違った、慈悲深い微笑みを私に向けてくる見習い聖女のステラ。
近くで見れば金髪碧眼の整った顔立ちの子だ。年は……やっぱり私とそう違わないように思える。僅かな差で身長は勝っているな。セミショートの金髪はすごくサラサラで、白い神官服(?)と相まってメッチャ似合っている。
「あー、いや、たまたまなんで。倒した魔物も貰えますし」
「それでも、です。私は【光系魔法】の盾で馬車にいる私と付き人を護ることしかできませんでした。それだって、あの恐ろしい亜種の魔物を相手にどれだけ持ったか。不甲斐ないばかりです」
あ、到着した時に見た馬車を覆ってた光の盾ってこの子の魔法だったのか。私の【バリアー】とはまた違ったタイプの盾なんだろな。
「護衛のリーダーさんから、このまま状況が好転しなければ最悪、私1人でも1番体力のある方に担がせ逃がし……残りを囮にするとも言われました」
護衛依頼を受けた冒険者の最終手段だな。
優しそうな子だし、聞かされた時は辛かっただろう。
「そんな時、アナタが現れました。私とそう年の変わらない方が魔物を圧倒する姿には感動しました。白いローブをはためかせ、武器を手に魔物を葬る姿……素敵でした。改めて、本当に助けていただきありがとうございます」
グフッ! おめめキラキラですやん。周りに星のエフェクトが……
やめてー。私が悪魔だったら一瞬で浄化されてまうー。
「布教のために初めて王国へ参りました。拙いながらもがんばった帰り、魔物に襲われ、絶望し、しかしアナタに出会えた今日という日を私は決して忘れません!」
「もうやめてぇえええええええ! 褒め殺しとか慣れてないんだよう!」
スキルの効果があっても精神に来るわ!
それからしばらく。
斥候の人が呼びに行った馬車が到着し、助力を願ったことによる報酬の分配の件で呼ばれるまでずっとキラキラな目で見られることになった。




