第47話 モテ期?
説明回です。
・2023/12/23
一部修正
話は変わるけど、この世界の商人は基本尊敬される職業だ。
地球と異世界での地元以外に行く商売に関する大きな違いを上げるなら、魔物や盗賊の存在・高速で長距離の安全な移動の有無・護衛の必要性・商品に関する情報の正確さ、などなど。思いつくだけでも多い。
商人――今回の例として日用品と食料を取り扱う店の人たちを参考にすると、まずどの村・街にどれだけの商品が売れるかを正確に把握しなければならない。
災害による被害や生き物による悪影響、その村・街の独自の文化、その他必要な情報をスマホでのやり取りやネット探索で簡単に知らべられる日本とは違い、集めようにも独自に持っている伝手や情報網が無ければ商人にとっては話にならず、その情報だって最低でも数日の遅れが出る。
そこから必要なもの、不必要なものに分け、半分博打の賭け(という名の商売)に出る。その賭けで良い戦績を残せるだけの運・頭脳・思い切りがなくちゃ、そもそも商人としてやっていけない。
――電話一本で状況確認も、商品の発注も、取引先の状況も分かる地球がおかしいんだよね……
移動に関しても問題は山積みだ。
さっき上げた大きな違いのほとんどがコレになる。
商人になったばかりの人、もしくは突然店を受け継ぐことになってノウハウが完璧ではない人は、私が最初に訪れた村から王都に向かうのに使った定期馬車便を利用したルートでしか商売をすることができない。
これは商人としての経験が未熟の状態で独自のルートを使った移動が危険であり、そんな商人を死なせないための措置でもある。
ここで疑問に思うだろうことは、最初から腕利きの信用できる護衛が何人もいる定期馬車便だけを使っていればいいだけの話なんじゃ? ってこと。
回答としては“そんなに甘くない”である。
確かに定期馬車便を使った方が護衛を雇う手間も掛からず安全性も増すが、あくまでも定期馬車便は決まったルートを決まった通りにしか通らない。
だけど、商人としてはそうもいかない時の方が多い。
先回りして、自分の店の商品を売るも良し。手にした情報から商機を見つけ出して、1日でも早く最短ルートで向かうも良し。ルート全部の村や街を回るのではなく、特定の条件に合った村や街だけに絞ることで移動時間を短縮して、金銭を余分に使わないようにするも良し。
どんな風に商売をしたいかによって、やり方が変わって来るのだ。
異世界独自の問題は、魔物と盗賊による脅威も含まれる。
魔物や盗賊だって、いろいろあるのだ。
魔物だったら数が少なくて弱そうな獲物ばかりがいれば、多少の危険を冒そうと道を進む馬車を襲うこともある。失敗した時の危険より、成功した時の食料の大量ゲット(この場合、商品だけじゃなくて商人も含まれていたりする。“新鮮な肉”という意味で。グロイっすわ~)の方が比率として高ければ、その可能性は高くなる。
盗賊も最低限賢ければ国の事業でもある流通をどうにかしようとは思わないが、残念なことに全員がそうでもない。中にはそんな簡単なことも分からず調子に乗って襲うDQN系盗賊もいる。
そこで登場するのが、依頼として護衛をする冒険者たち。
商人が集める情報の中には冒険者の評判もある。これはどの冒険者なら実力もあって信用できるか、どの冒険者は実力も信用も足りずとてもではないが自分たちの護衛を任せられないか、その最終的な判断をするのに必要になる。
ここで護衛を変にケチるかどうかが、自分の命運を決めることもある。
よくある昔の商人の話では、いつも通っている安全なルートだからと少し腕に自信のある従業員を同行させただけで馬車を進めていた所、普通に腕の立つ冒険者たちなら問題なく捌ける――しかし、少し腕が立つだけの素人ではどうにもならない数の魔物に襲われ、結果的に命は助かったものの瀕死の重傷を負った。と、こういう実話がよく語られている。
つまり、この世界でのある程度成功を収めている商人というのは、イコールで頭がよくて機転も効き、危険を覚悟で村や街に必要な物を届け、買い付け、生活を支えてくれる度胸のある人であり、お金もあることから異性にとっては優良物件となる。
物語とかで貴族と結婚して玉の輿に~ってあるけど、現実的には余程その人のことが好きか、意地でも貴族になってやる!って野心でもなきゃ上手くいかん。
だって一般人――この場合平民は貴族と生活が根本の部分で違うから、結婚した後の貴族としての教養で躓いてしまう。生活がガラリと変わってホームシックになる人は少なくない。華やかな貴族生活に憧れていた人は、理想と現実の違いに嫌気がさす。
この世界においての玉の輿は一般的に貴族ではなく大店の跡取り、もしくはある程度将来が約束された若手商人となる。
ここまで引っ張って何が言いたいかといえば、異世界に来て半年もして、馴染んできたからこそ逆に分かることもある。
地球(というか先進国)の技術が異常に進んでいるんだよ!
世界が離れて初めて分かる異常性! スマホもネットも交通手段も、何から何まで進歩し過ぎぃ!
たまに商人と一緒になった時なんかで、自分がどれだけ苦労して成功しているかの体験談を聞くたびに「あ~日本だったら、こんなの簡単に済むのにな~」って先に思っちゃって、イマイチ共感しづらいんだよ。むしろ、申し訳なさが来ると言いますか……
そして何よりもここ最近で困っているのは……
「それで、どうですユキナさん? ここ数日で親しくなったようですが、うちの息子の嫁にでも? いえ、先程の料理人云々も捨てがたいのですけどね。身内の自慢になりますが、これで中々できた息子なのですよ。浮気の心配もありません」
「父さん……ユキナさんはその気がないって言ってるだろ?」
「え~と、まあ、はい。その通りです。申し訳ない」
3ヶ月ぐらい前からかな?
王都でもそれなりに有名になってきて、私の時代が来たぜ!と思ってたら、婚約者になってほしいって商人まで来たんだよ。
来てほしいのは時代であって、オメーらいらんわ。
理由は商人視点で私が優良物件だから。
第一に【アイテムボックス】の件
ブラッディベアーをギルドで出した時点で存在は知られていたけど、冒険者として活躍するうちにその容量も知れ渡った。
なんせ私のスキルは【アイテムボックス(大)】。容量無限で時間停止のオマケ付き。1度に大量輸送・食材劣化防止が可能なら、あらゆる可能性が出てくる。
(小)の人は探せばいる。(中)もいないことはない。実際、大きな店では好待遇で雇うか身内として囲われたりもする。ただし、(大)が滅多なことではいない。いたとしても大抵、王族などの権力を持つ人が囲っている。
ならば、喉から手が出るほど私が欲しいと思うのが性。
気持ちは分かるけど迷惑でもあるんだよなー。
第二に、生活に必要な魔法が一通り使える。
商人が馬車に載せる荷物は売り物だけではない。当然のことながら、生きるために必要な水を多め、夜に火を起こす道具、緊急事態を知らせるための発煙筒、自分たちの食べる食事などがあるため、意外と馬車に積める量は多くない。
じゃあ従業員の中に魔法の使い手がいれば? それも様々な魔法の使い手が。
【水系魔法】、【炎系魔法】、【土系魔法】は飲み水問題や陣地作りに役立つから引っ張りだこ。例えばどんな人? ……私とかだよ。
第三に、貴族とコネがある。
もうこれについては何も言うまいよ。
私なんて貴族どころか王族とコネ――どころか親しくしてるんだし、そんな私を嫁として迎えれば王族だけでなく他の貴族にも覚えられる。
王族と仲良く話したことの中から、例えばクラリスの欲しがっているモノを誰よりも早く取り寄せて売り込めば、そして王族・貴族の御用達商人になれれば、将来は約束されたも同然だ。上を目指したい商人としては王族・貴族と親しい関係者が身内にいるだけで商機なんて転がって来るし、万が一の時の後ろ盾になってくれるかもしれない。
これら3つの要素を踏まえてクエスチョン。
Q.【アイテムボックス(大)】を持ち、一通りの魔法がかなり使え、王族と親しく、冒険者として強く、料理も得意で人格も問題点のない美少女がおります。商人のアナタならどうしますか?(配点100点)
A.自分、もしくは息子・孫の嫁に!!
こういうことっすわ。
ぶっちゃけ今までの人生で恋愛の“れ”の字も無かったから、認識が甘かった。私みたいな奴と結婚したいとか思う物好きいねえだろって。
しかも、この世界では何かに縛られず自由に生きたいと思って自重無しにはっちゃけたので、知ってる人は私のスキルも予想がついている。
一応言い訳すると、この半年は対“雷の仮面”を意識していたんで、周りの目が~とか気にせず試せるものは何でも試していたんだよ。決して「隠すのめんどいっすわー」とか思ってないからね? 本当だよ?
(しっかし、結婚か……)
………………
ダメだな。まったくそんな自分が想像できん。
自由気ままに友人たちと笑って過ごすのが私に合っている。
人生長いんだし、もしかしたらこんな残念な私でも本気で好きになるような物好きが現れるかもしれん。その時は……やんわり断ろう。
ま、どう考えても確率低いけど。
はい! この話終わり!
片づけ終了。馬車の上へGO! 出発進行!




