SS ドワーフのマジェラ
・2023/11/15
→一部修正
ドワーフ。
褐色の肌、低い身長、そして見た目以上の筋力を持つ異世界で生きている亜人種の一種。
彼らは魔法系スキルに関して【土系魔法】以外を覚えることが難しい。
代わりに強化系スキル、戦技系スキル、そして鍛冶に関連したスキルを覚えやすいという特徴を持っている。男女で見た目に大きな差があるのも特徴である。
その種族性から、遥か昔より人々の武器を作る鍛冶師を多く出してきた。
それも“一流”が頭に付く程の鍛冶師を。
それは今でも同じ。
――カーン! カーン! ……コ~ン!
「ごぉおおおらぁあああああああああああああっ!! 新人! 何だ最後の間抜けな音は!? 途中で集中切らすんじゃねえ!!」
「す、すすす、すいません姉御!」
「何でオメェはオレが一緒になって作業している時に限って、変なタイミングで力が抜けたり、別の場所叩くんだよ!?」
「いや、だって、毎回チラッと見えそうですもん(ボソッ)」
「あ゛ぁ゛ん?」
「何でもありません!」
若干1名ヤ〇ザのような者がいるが、ここは王都にある鍛冶屋の1つ。
そして新人鍛冶師の青年に喝を入れているのは、雪菜の友人であるドワーフのマジェラだった。
「おいおい、その辺にしとけ。今日の課題はもうクリアしてんだから、あとは自主練の時間だろ? 1人で頑張らせてやれよ」
「親方!?」
奥から出て来たのは、たっぷりの髭と服の上からでも分かる程の筋肉を持つドワーフの男性。この鍛冶屋の親方だ。
当然のことながら、鍛冶の腕はマジェラよりも遥かに上である。
「……なあ? 何で毎回親方はソイツの肩持つんだ?」
「……なら毎回言うが、オマエは少しは恥じらいや周りの目ってもんを気にしろ。オレの愛する母ちゃんが勧めた作業着は? 外行き用の服は? そこの新人叱る前に直すものがあるだろ?」
「そんなもの無い!!」
「自信たっぷりに断言すんな!!」
鍛冶作業は高温の火を使う都合上、とにかく熱い。
普通なら鉄を打つ際に出る火花から肌を守るため素肌の出ない作業着を暑いのを我慢しつつ着るか、“火花程度どうってことない!”と薄着にするのが基本である。
最近では普通の服装でも熱を和らげるための魔道具が売っていたりするが、大抵のドワーフは面倒だと言って買うことはしない。
昔からの服装で作業する。
そう、男なら自身の肉体を見せるかのように薄着に。女なら肌を隠すような作業着に。それぞれに合った服装で作業するのだ。
ドワーフは種族の傾向なのか仕事以外で細かいことは気にせず、お酒が好きで、少々大雑把な性格な者が多い。
しかし、あくまでも傾向でありそれだけの話なのだ。
“羞恥心”は普通にある。
「なあよ? 母ちゃんの勧めた服はセンスでも悪かったのか? 最近じゃ昔に比べてもドワーフに似合うような服も多くなったはずだぞ? この前暇を出した時、母ちゃんと服屋に行ったんだろ?」
「親方の奥さんは確かにいろいろ勧めてくれたさ。試着だってしてみた。……そのうえで普段からこの格好の方が落ち着くって判断になっただけだ。何で買い物が終わった直後の奥さんの表情とよく似た表情に親方がなってんだよ?」
「オマエに普通の服着せるのを半分諦めたからだよ」
親方のドワーフは心の中で盛大にため息を吐く。
親方から見てマジェラの腕はいい。
男ドワーフに筋力で劣る分、技量を磨いている。
面倒見もよく、度胸もあり、顔だって整っている。
本人は自覚が無いものの、ドワーフ視点ではモテるタイプの女なのだ。
……しかし、どうにも羞恥心が足りなかった。
酒に酔ったお調子者がナンパして、そのマジェラにボコボコにされる。自分の所に来てからそんなことが何度もあった。
「またかよ」と言いたげな衛兵に頭が下がる思いだ。
中には鍛冶屋に来た新人が暴走することもあった。
(まあ前回は相手側が一方的に悪かったから大事にならず済んだが……)
それは二月ほど前のこと。
マジェラがここ数ヶ月で仲良くなったという友人たちと飲食店で飲んでいる最中、その事件は起こる。
――うっひょ~~~! もう我慢できん! 散々オレを誘惑しやがって! マ~~~ジェラちゃ~~~ん!!
そんな奇声と共にパンツ一丁でマジェラに飛びかかる男が出たのだ。
マジェラ曰く、「いつも視線がキモい男」と評していた。
どうやら街中で会う度に邪な視線を向けてくる犯罪者予備軍だったらしいが……お酒が入りすぎたせいでついに理性のタガが外れたらしい。
どこにそんなジャンプ力が!? そう思わせるほど高く、両手両足をカエルのようにくっつけ跳んでくる男。
あまりに予想外過ぎる事態に珍しく思考が止まるマジェラ。
そして……一瞬で懐に入り込み、強烈なボディブローをお見舞いする雪菜。
変態には周囲に迷惑を掛けず一撃鉄拳制裁をする。
冒険者ギルドの案件から雪菜が学んだことである。
こうして憐れマジェラに欲情した犯罪者予備軍改めただの犯罪者は、白目を剥いた状態で衛兵に連行されることとなった。
ちなみに、マジェラもさすがに本能的危機感を感じ取ったのか動揺していたので、雪菜が鍛冶屋まで付き添いをした。
(あの嬢ちゃんは「本物のルパ〇ダイブを見れたんでラッキーでした」ってよく分からねえこと言って笑ってたが……)
基本自身に関係することは豪快に笑い飛ばすことも多いドワーフだが、他人に迷惑掛ける事態にはマジメに考える。親方もその1人だ。
マジェラは本能的危機感を感じた事件があったのにまだ“こう”なのだ。
何を言おうがもう治らないのかもしれないと挫けそうになる。
雪菜が王都を出て行ったのは先日知った。
ならば、次に戻って来るまでどうにかできないかと考え――
「……新人育てたいなら、本気で格好をどうにかしろ」
やっぱり普通の格好させることを覚えさせるべきと結論づけた。
「もっと言ってください親方。オレは姉御にぶっ飛ばされたくないです。このままだと、酒を飲んだ拍子に何かしそうで恐い」
「だ~か~ら~! 意味分かんねえぇえええええええ!!」
~あとがき劇場~
雪菜(;´・ω・)「マジェラさん、やっぱり狼と化した男に襲われてるじゃないっすか……。返り討ちしてるところが“らしい”けど」
剣二(; ・`д・´)「くっ! あと少し。もう少し……!」
雪菜(´・ω・)「何やってるのさ?」
剣二(; ・`д・´)「角度を変えればギリギリ神秘を拝めそうな気がす――」
雪菜(#・ω・)⊃「歯ぁ、くいしばれぇ!!」
剣二・゜・。(´Д⊂「――るんdブベラハッ!?」
雪菜(´・ω・`)「悪は去った」




