SS 宮廷魔法使いニコラ
・2023/11/11
→一部修正
宮廷魔法使い。
それは、その国に所属する魔法使いの中でもトップクラスの実力を持ち、自らその狭き門を駆け上がった者、もしくは国の上層部からスカウトを受けた者を指す。
魔法に自信があり、本気で国に仕える気がある者はその門を叩いた後、様々な課題が与えられる。
大半の人物はここで振るい落とされ、残った者はさらに課題を与えられる。それに合格した者だけが宮廷魔法使いの資格を与えられるのだ。
スカウトは常人以上の力を持つと国から声が掛かる。
受けるかどうかは本人次第だが、“国からスカウトを受けた”という事実はそれだけで魔法使いとして将来を約束されたことを意味する。スカウトを受ければ宮廷魔法使いとしての義務を負う代わりに、安定した収入と老後の生活が保障されるからだ。
話を蹴ったとしても、そんな魔法使いを仲間にしたいという冒険者からの誘いが多くなり、ギルドで優遇されるケースも多い。
さて、そんな宮廷魔法使い。具体的に普段は何をしているのか?
一般市民の中には知らない者も少なくない。
これは1人1人違う仕事をしている、というのが正解だ。
例えば趣味を兼ねた研究。
宮廷魔法使いは当然のことながら魔法に詳しい。
国から資金を出してもらう代わりに、その研究成果の提示を求められる。ようは国がスポンサーとして見返りを求めていることとなる。
Sランク冒険者のウェルナーもこれに当たる。
例えば騎士団と連携しての魔物・犯罪者の討伐。
これが比率としてもっとも多い仕事だ。
単純な数だけなら、冒険者が倒す魔物や捕まえる犯罪者の方がずっといる。理由としては、城に勤務する騎士や宮廷魔法使いは実力が高いが、実際に動かすとそれ相応の資金が必要になってくるからだ。
だからこそ、ここぞという大事の時しか動かない。
それだけ聞けば、まるで楽をしていると思うだろうがとんでもない。
騎士や宮廷魔法使いが動く時は大抵国家に危険があると判断された場合が多く、文字通り“命を懸けて”任務に当たらなければならない。
その後ろに国とそこに住まう民を背負う以上、他の誰よりも責任のある立場なのだ。それこそ、誰でも逃げたくなるような状況でも、逃げずに足止めに徹しなければならないこともある。
例えば王族や貴族の家庭教師。
宮廷魔法使いといえど得意な魔法、不得意な魔法はある。
その中で得意な魔法を教わりたいと思う人はかなりの人数がいる。そんな人たちに魔法を中心として自分の得意な分野を教えることもある。特に王族の教育に関わらせてもらえるというのは一種のステータスだ。みんなが羨ましがる。
……それなりの金銭が追加で出るのも理由だが。
そんな家庭教師をしている宮廷魔法使いの1人は仕事を終え、城の庭で仲間の宮廷魔法使いたちとお茶をしていた。
クラリスの護衛を務め、雪菜にも魔法を教えたニコラである。
「珍しいわね? この時間帯に私以外がいるなんて。確か2人ともそれぞれ学園に通っている少年と少女の担当だったでしょ?」
いつもならこの時間帯は1人でお茶を楽しんでいるニコラ。
今日は珍しいことに男女2人の宮廷魔法使いがいたのだ。
……何とも微妙な空気で。
同席を許されたものの、全く会話がないので切り出してみたのだが。
「あはは、実は自分が担当しているロメーオくんがどうにも使えなくて。家の人に話をして帰って来たんですよ」
参りましたね。
そういう男性の表情は、無理矢理作り出したようなものだった。それを見た隣に座る女性も苦笑いしている。
「私も彼と似たような理由なのですが、担当のジュリエッタさんが集中できておらず話を聞いたところ、恋人のロメーオくんが浮気している現場に鉢合わせてしまったようで」
「ほお、ほお。それでそれで! 2人はどうなっちゃったの!」
ニコラは驚き1割、非難1割、“ねえその話もっと詳しく教えてよ!”8割で続きを促す。
まだ若いのに、心の中は噂好きのオバサンのそれ。
スキャンダルの類いはまだまだ娯楽の少ないこの世界では貴重だ。
ニコラの頭の中では件の少年を非難しつつ、少女との恋の行方がどうなるのか興味津々で昼ドラ風の想像をするが……
(あら? ロメーオくんにジュリエッタさん? どこかで聞いたことあるような……? あ、ユキナちゃんが言ってた子たちじゃない!)
どこかで聞いたことある名だと思えば、ここ半年の間に魔法を教えてきた2人目の教え子が意味深なことを言っていた者たちであることを思い出す。
ユキナ=ナガセ。
自身の失敗の尻拭いをしてもらい、大事な教え子であり王女でもあるクラリスを魔王教団から救い出してくれた女の子。
そして、ニコラにとって2人目の教え子に当たる子だ。
クラリスのためにも強くなりたいと願った雪菜のため、王様からも許可を頂き、どんな結果になろうと一定以上鍛えてみせると誓ったニコラ。
魔法の素人だというのなら、むしろ自身の腕の見せ所だと息づき――
良い意味で裏切られることとなる。
雪菜の成長は想像以上だった。
なるほど確かに魔法に関することは知識のみで圧倒的に経験が足りない。元々魔法の才能がある状態で生きていれば感覚で分かってくることも不思議なほど知らない。まるでつい最近になって魔法に初めて触れたかのようなチグハグさだ。まずはそこから教えなければならない。
しかし集中力がある。
明確に成し遂げたいことがある人間の成長は早い。
雪菜の場合は一刻も早く“雷の仮面”を倒せるまでに強くなることだ。
ニコラもそれは知っているので、短期間で叶える願いとしては難しいと思いつつ魔法の基礎から応用まで教え、課題も出した。
その全てを雪菜はやり遂げて見せたのだ。
雪菜は冒険者であり、ニコラだけでなくエリザから近接戦闘について学んでいることもあって一対一で教えられる時間は少ない。ただでさえ未成年の女の子なのに加え、信じられないことだが昔は今よりずっと体力も無かったということも本人から聞いている。そんな中で、魔法薬を使ってまで強くなろうとする様子は鬼気迫るものがあった。
元々、強くなるための才能はあったのだろう。
この世界で強くなるには様々なスキルが必要であり、そのスキルを習得するためには本人の才能が必要不可欠である。それがユニークスキルであるなら尚更だ。一般人にも知られているような強者はそのほとんどがユニークスキルを持っている。
中にはたまたま生まれ持っただけの者もいるが
恐らく雪菜は成長系か、スキルを習得しやすくするユニークスキルを持っているのだろう。そうニコラは睨んだ。
そうでなければ如何に才能がある者が体に鞭打ち努力しようとも、たった半年かそこらで本当に“雷の仮面”に勝てるかもしれないと思わせる強さと、狙ったかのような耐性スキルを手に入れられる訳がない。
結果として半年の努力の成果を試す対象が知らない所で爆死し、これまでの修行は何だったのかと落ち込む雪菜を皆で励ますことになったが、世界中を旅するのであればその強さは必ず役に立つはずだ。
もうニコラでも勝てないぐらい雪菜は強いのだから。
さて、そんな雪菜。
当然ながらニコラに魔法を教えてもらうために王城に――もとい貴族が住む地区に良く来るのだが、とある日、何とも微妙な顔で訪れたことがあった。
何があったのか聞くと、出てきた名前がロメーオとジュリエッタ。
雪菜が「何だよどっかで聞いたようなパチもん感ある名前は?」とボソボソ呟いていたのを無視して事情を聞くと、お互いの名前を呼びながらイチャイチャしていたらしい。砂糖を吐きそうだったそうな。
それだけならニコラも「あらー♪」と若者の甘酸っぱい恋愛に、耐性の無さそうな雪菜が当てられたぐらいに思えたのだが、
――ニコラさん、知ってる? 周りのこと気にせず必要以上にイチャイチャするカップルはね、もれなく独身から爆発の呪いを受けることになるんですよ? お互いに実際は不誠実ってなら尚更。
――え? 不誠実ってどういう……?
――いずれ分かりますよ。いずれね。しっかり私は呪ったんで。
――???
そんな会話があったのだ。
意味が分からずその時は首を傾げるだけだったが……
「問題はその鉢合わせてしまったジュリエッタさんも別の少年の腕を取って、仲睦ましくしていたことなんですよ。要するに、お互いの浮気相手とイチャイチャしていた所で偶然会ってしまったという」
「え、えぇ~~~……」
さすがのニコラも引いた。
甘酸っぱい青春ではなく、ただただ酸っぱい修羅場ではないか。
「で、お互いに相手とそのパートナーを非難しながら魔法の打ち合いになって、鉢合わせた広場で何度も魔法による爆発が――」
「そして案の定、騎士の方々に取り押さえられ、でそれぞれの家に損壊した広場の修理代の要求が届き、御両親からしこたま怒られ――」
「うっわ~~~」
ニコラは二重の意味で絶句する。
お互い浮気には気を付けていただろうに何を間違ったのか鉢合わせになって修羅場になったこと、雪菜のセリフが今になって分かったことに。
(ほ、本当に関係が爆発して修羅場になったり、広場が爆発したりで不幸になってる!? 独身の人ってそんな呪いを掛けられるの!?)
んな訳ない。
そんなことできるのは雪菜だけだ。
当然のことながらニコラは雪菜が知りたい情報を(余計なこと含めて)知れる『EXスキル:ヘルプ』と、雑念が無いほど嫌がらせとも呼べる呪いを掛けられる『ユニークスキル:ハラスメント・カース』があることを知らない。
~あとがき劇場~
剣二(・ω・)「被告人、永瀬雪菜」
雪菜(; ・`д・´)「私は無実だ! 何もやっていない!」
剣二(・ω・)「まあオレはオレで異世界にいらんこと残したのは認めるが、それはそれ。これはこれ。とりあえず個人的なこと言えば……やっぱキミも異世界だからってふざけてんじゃん。宮廷魔法使いの女性に本当なんだかウソなんだか判断に迷うこと吹きこんでんじゃん」
雪菜(/ω\)「言わんといて! ついやねん! 出来心やねん!」
剣二(・ω・)「で、本題だけど。キミって確か、特定の相手に対して地味な嫌がらせをすることができる変なスキルあったよね? もしかして……」
雪菜(;゜Д゜)「な、何も知らないぞ! 貴族たちの住んでいる区画によく来る関係で件のバカップルを見かけることがあったから、その度に『ちっ! 周囲で爆発でも起きねえかなー?』とか『けっ! いつか修羅場になればいいんだ』とか『ハッ! アイツら家族にしこたま怒られねえかな!?』なんてこれっぽちしか思っていないぞ! 心の底から現実になればいいのにとは願ったけど!」
剣二(・ω・)「それスキルの成功確率、確実に上げているよね? 思いっきり発動する条件整っているよね?」
雪菜Σ(゜Д゜)「あ!?」
剣二(・ω・)「語るに落ちたな。有罪」
雪菜(ノД`)・゜・。「ちっくしょう! 覚えていろよ! 私が有罪になったとしても第2、第3の私がオマエを有罪にいぃぃぃぃぃっ!!」




