表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルビノ少女の異世界旅行記 ~私の旅は平穏無事にといかない~  作者: 影薄燕
第1章:レーヴァテイン王国(後編)
55/145

SS 第2王女クラリス

・2023/10/27

→一部修正


 連続投稿SS第2弾。


 少し涼しくなってきた頃、レーヴァテイン王国の王城では公務を終えた第2王女クラリスがティータイムを楽しんでいた。


「ねえ、エリザ。料理長さん、また腕上げたんじゃないかしら? このパイ、前に食べた時より美味しいわ」


「それは良かったですね。まあ、理由は分かりますが。どこかの誰かさんは見ているこちらがお腹いっぱいになるぐらい、料理を美味しそうに食べていましたから。以前料理長にお会いした時、『あれだけ美味しそうに食べてもらえると作り甲斐がある』と言っておりましたから腕を上げたのでしょう」


「まぁ」




 しばらく前までは誘拐を企てた魔王教団が捕まっていないのもあり、ここまで落着いて休憩を取ることもできなかった。

 自分を狙った相手が未だ野放しだというのは、半年の間で随分とクラリスを精神的に追い詰めていたのだ。大切な友人の雪菜が定期的に会いに来てくれなければ鬱になっていてもおかしくなかった。


 しかし、もうそんなことを心配する必要は無い。

 その友人である雪菜が“雷の仮面”を誰もが予想だにしなかった形とはいえ討伐し、さらには裏切り者までもついでとばかりに吹き飛ばしたのだから。



 本人は釈然としないとでもいうのか、アンニュイな表情であったが。



 いや、クラリスたちも分かるのだ気持ちは。

 この半年で雪菜がどれだけエリザやニコラから教えを請い、冒険者として魔物を退治してスキルを習得し、経験を積んだのかは良く知っている。全ては“雷の仮面”を倒すためだ。

 ……その倒すべき敵が決戦の日を目前にして、自身のやらかしのせいで木っ端微塵に爆☆発!したと知ればどう思うか?


 事情を知る王族ができたのはひたすら偉いぞ~!と褒めながら美味しいものを食べさせるぐらいだった。

 尚、雪菜の機嫌は一時間後に戻った。

 何てチョロイ女だろう。




「そういえば……どう? 噂の拡散の方は?」


「順調です。今では我々が意図的に流した話以外にも市民が想像を膨らませたことで、滑稽なものから逆に真実に近いものまで幅広く広がっております。ここまでいくと、どれが本当でどれがウソかは当事者でなければ分からないでしょう」




 王都で噂されている侯爵邸大爆破の一件は、王族にとって非常に喜ぶべきことと、少々困ってしまうこと両方の事態が同時に来ていた。


 喜ぶべきことは当然、“雷の仮面”と裏切り者を犠牲無しに打ち取れたことだ。


 国王たちの予想では少なくない人数の犠牲が出てしまうのを前提に、遺族への金銭の受け渡しや王都での被害による復興金なども用意していた。それが丸々無くなった。喜ばない方がおかしい。

 何より、“雷の仮面”という魔王教団の中でも表立って活動している危険人物を王国が倒したという事実・・は国際政治の面でも有利になる。



 では少々困った事態とは?

 何を隠そう、無自覚でやらかした雪菜の件である。



 王国側でも極一部しか知らない、雪菜が“雷の仮面”と裏切り者の双方を倒した(と、言っていいのか判断に迷うが)という真実・・は話し合いの結果、最終的に公表されないこととなった。


 過程を無視して結果だけを見れば雪菜がしたことは大々的に美化しつつ公表して、表彰式、爵位の授与、王族一同が後ろ盾であることの発表、その他の報酬など一通りしても文句などない程すごい功績なのである。


 だが、そうなってしまうと困るのは雪菜だ。


 第一に、雪菜の当面の目標は旅行だ。世界中を見て回ることだ。具体的には普通に観光地で買い物をしたいし、屋台で買い食いもしたい。

 だというのに、そこまでされたら目立ちすぎてしまう。

 それこそ他国でも。


 古今東西、有名になった人の前には様々な者たちが寄って来る。中には一生関わりたくない面倒な輩まで。

 王族が後ろ盾にいると言っても近づく者は一定数いるのだ。雪菜はラノベでそういう展開になり困る主人公を何人も見てきた。


 さらに、魔王教団に狙われる可能性が高くなる恐れもある。


 今回の件で雪菜がしたのは悪く言えば不意打ちだ。正面から堂々と戦って勝った訳ではない。

 雪菜自身は半年でかなり強くなった自覚こそあるが、同時に自分と同等の強さを持つ相手との戦いの経験が無いに等しい。ぶっちゃければ、いまいち自分の強さに自信が持てない。

 そんな状態で自分から危険を呼び寄せるマネは避けたかった。


 だからこそ、報酬の話が出た時に王様にお願いした。



 ――この件は公表しないでください。マジお願いします。



 ……と。


 そして王様は雪菜の意見を尊重することにした。


 具体的には金銭だけ秘密裏に渡し、雪菜の件は国の中枢に属する一部の信用できる人物たちの中でだけ語られることとなった。

 あとはどうしても漏れてしまう噂から雪菜に辿り着けさせないために、新しい噂を故意に複数広めた。聞こえてくる噂の中にいくつか真実を紛れ込ませることで、どの情報が信用できるものか判断できなくするために。




「そう。……これも初代国王である剣二様の残してくれた『木を隠すなら森の中。人を隠すなら人の中。思春期男子の宝を隠すなら本の中』という言葉のお陰ですね。日本には本当に為になる言葉が多くて助かります」


 微妙に違う。

 どうして最後に余計なものを付け加えた剣二……


「……クラリス様。前々から思っていましたが、最後の例えだけ他と、その、何か違いません? そもそも思春期男子の宝って何ですか?」


 この世界では製紙技術はまだ発展途中である。

 地球ほどの大量生産が難しいため、昔に比べれば安くなったものの需要が少ないモノに使うにはもったいなく、気軽に購入できる値段でもない。


 エロ本の制作など尚難しく、概念自体一般には広まっていない。

 そのため、一般には思春期男子の宝=エロ本の方程式が成り立っていない。


「きっとわたくしたちには理解できない深い考えがあるのでしょう」


 この場に雪菜がいれば、こう言っただろう。



 ――絶対深く考えずに適当に付け加えたぞソイツ?



 ……と。


「あ~あ、ユキナからの手紙はまだかしら?」


「……クラリス様、まだ数日しかたっていないのに手紙も何もありませんよ。待っていればその内来ますから」


「分かってます。それでも、早く来てほしいのです。言ってしまえば、わたくしのせいでユキナを半年以上王国に縛っていたのですよ? ユキナには最初の目的である旅行を楽しんできて、その様子を手紙に書いてほしいのです」


「正確には“雷の仮面”のせいです。それにユキナ殿も『気にすんな。友達、なんだろ?』と言っていたではありませんか。……それと言いづらいですが、恐らく聖国でも何かに巻き込まれる気がしてなりません」


「……必ず巻き込まれますね」


「やけに確信した言い方ですね」


「最近“友情パゥワァー”なのか、ユキナに関してだけ妙に勘が働くのです。絶対に聖国でもこちらが予想できないようなトラブルを起こすか、気付かない内に大きな渦の中に飛び込むに違いありません!」


「………………そう、ですか」



 ――それ、遠回しにユキナ殿が普通に旅行を楽しめず、碌に観光できるか怪しいと言っておりませんか?



 そんなことを言いそうになったエリザは、しかし寸前のところで口を閉ざす。

 口に出したら余計そうなりそうな気がしたのだ。


 剣二が日記に残した言葉の1つ“フラグ”の概念は、いまいち王族に伝わりきっていなかった。


 雪菜がトラブルに巻き込まれる確率が上昇した!

 雪菜は嫌な予感を覚えた!



~あとがき劇場~


雪菜(・ω・)「被告人、初代国王剣二」


剣二(; ・`д・´)「は、はい!」


雪菜(・ω・)「今更説明する必要もないし、ぶっちゃけ追及するのも一周回って面倒になった。だが……これだけは聞いておくぞ?」


剣二(; ・`д・´)「………………(ゴクリッ!?)」


雪菜(・ω・)「弁明――もとい、言い訳はあるかね?」


剣二(*´∀`)「異世界だからと思って、ふざけました!」


雪菜(・ω・)「有罪」


剣二(ノД`)・゜・。「無罪を主張しますぅ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ