第45話 旅立ち
・2023/09/16
一部修正
朝。今日も清々しい目覚めを――
「ユキナお姉さ~~~ん! 朝ですよ~~~!!」
――おくれないのは予想済みだぜ。へへへ。
バフンッ!と、もう何十回目になるか分からないリリィによるフライングボディアタックを受ける私。
リリィがいつも以上に張り切った結果、着地の瞬間にベッドが悲鳴を上げる。
勘弁してリリィ。このベッド、半年前に初めて王都をリリィと一緒に回った際に手に入れた高級ものなんす。
悲鳴を上げるにはまだ早い段階なんすよ……
「おはよリリィ。今日はいつも以上に元気だね?」
「うん! ……だって、今日でしばらく会えないんでしょ? だから……」
……分かっている。私も寂しいから。
このダイブで起こされるのも、もしかしたら今日で最後になるかもしれない。次にいつ王都に帰って来るか分からないから。
だって今日は、
「……いつもありがとう。さ、朝ごはん食べに行こうか」
「はい」
私の、旅立ちの日だ。
あの日、魔王教団と戦うため、そして裏切り者を見つけ出すための作戦決行の前日、会議中に起きた謎の爆発音と大きな揺れ。
そして、私に増えた謎の称号。
会議室の人たちが慌ただしく動く中どうにも先程の爆発音と揺れ、そして称号の件が関係あるように思えて、ヘルプに称号のことを聞いてみた。
『〈称号:無自覚の英雄〉……意図してやったわけでもないのに、多くの人々を結果的に救った者に送られる称号。他人からの第一印象に補正(小)』
『〈称号:討伐(雷の仮面)〉……魔王教団幹部、“雷の仮面”を討伐した者に送られる称号。【風系魔法】に補正(小)』
意味が分からない。
いつの間にか私が雷の仮面をあの世に送ったことになっているのか? その雷の仮面を倒すための会議中だったんだぞ?
頭の上に大量の?マークを出しながら待機していると、ようやく詳しい情報が判明した。急いで部屋に入って来た伝令曰く、
「緊急事態! ザッカニーア侯爵邸にて謎の大爆発を確認。死者・行方不明者は多数にのぼる可能性大。【水系魔法】が得意な者の協力を求む!」
――とのこと。
ザッカニーア侯爵邸かー。すっげー聞き覚えあるなー?
というか、少し前に私が忍び込んだ場所じゃんかよ。
………………
これ以上、ヘルプに聞きたくない。なのに頭の中でヘルプに聞いてしまった。
そして、予想外過ぎる真実を知った。
『〈一連の件の真相〉……裏切り者であるザッカニーア侯爵は魔王教団の奥の手である爆弾にて、建国パーティーに出席していたほとんどの王族・貴族を亡き者にしようと企んだ。しかし時限式のその爆弾が爆発する前に、永瀬雪菜が【アイテムボックス(大)】に収納したことで一時的に爆弾のタイマーも止まる。その後、侯爵邸に宝箱を置いたことで再び中の爆弾が起動。侯爵が部屋に戻ったタイミングで爆発した。ついで侯爵邸で酒を浴びるように飲んで完全に油断していた“雷の仮面”とその部下たち、同じく裏切り者であった一部の貴族たちも即死。結果的に永瀬雪菜は魔王教団と裏切り者をいっぺんに始末した……結果としては……誠に遺憾ながら』
「やっかましいわぁあああああああああああああああああ!!」
最後の一文だけ悪意を感じる!
会議室の中にいた全員が突然叫んだ私を目を見開いて見ていたらしいけど、その時の私はそこまで気にする余裕がなかった。
ツッコミどころは多いけど、結果として明日の作戦で始末する奴らが死んだのはこの際いい。それ自体は喜ばしいことだから。
――結果だけを見るならな!
だけど、私が気にしたのは侯爵邸で働いている普通の人まであの爆発で死んだんじゃないかってこと。あの屋敷で働いている=全員悪人ってのは浅い考えだ。中には告発したくても権力を使われ、脅されて、無理矢理従わされた人だっていたかもしれない。
そこまで気付いて血の気が引いた。
あれ? この場合その人たちを殺したのは、結果だけを見れば私になるのか? ……誠に遺憾だけど。
そこから先の記憶は曖昧だ。気絶はしていなかったけど、意識がクリアに戻った時はソファーで寝かせられていたし。
おい、仕事しろよ【スキル:精神安定】。
後に会議室にいた知り合いの人たちに聞いたところによれば、突然、奇声を上げたと思ったら、白目を剥いて意識朦朧の状態になったもんだから皆さん大慌て。遠距離からの呪いか!?とプチパニックになった模様。
マジでご迷惑をおかけしました。
それから様子を見に来た王様と2人きりでさっき知り得た真実を打ち明けた。
その時【ヘルプ】にいろいろと確認を取って気付いたけど、“雷の仮面”や裏切り者たちが死亡したことで例の干渉が無くなったみたい。
お陰で調べ物が楽になると王様は喜んでいた。
ついでに死亡者のことを確認して、死んだのが全員魔王教団とその関係者、“顔の仮面”のユニークスキルで顔を変えた犯罪者ばかりと聞いてほっと一安心。犯罪者なら何も心は痛まないからね!
それから1週間。私はトリストエリア聖国へ行く商人の護衛依頼を受けた1人として、馬車で出国予定だ。
あと数十分もしたらこの王都を離れる。
かれこれ半年以上いたから、離れるのは辛い。
昨日の時点で知り合いには声を掛けた。
エミリーさんやギルマス、屋台のおっちゃん、亜人組の4人、屋台のおばちゃん、王族の人たち、居酒屋の兄ちゃん、ミルカさんとウェルナーさん、屋台のおっちゃん(その2)、屋台のおっちゃん(その3)。みんな、別れを惜しんでくれた。屋台の人がやけに多いけど……
ち、違うんだからね!? 私は別に食いしん坊って訳じゃないんだから(ツンデレ風)!? ……うん。私のキャラに合わん。
と、そんなことを振り返っている内に出発の時間だ。時間ギリギリに着くのや遅刻はダメ絶対。冒険者の基本です。
そう、お別れの時間でもある。
「カイルさん、リサさん、リリィ。今までお世話になりました。こっちに来て、最初に会ったのがアナタたち家族で良かった」
「それはこちらのセリフですよ。何度でも言いますがアナタが助けてくれなかったら死んでいたかもしれないんです。リリィとも仲良くしていただいて、本当に感謝しかありません」
「また、戻って来るんですよね? 部屋は掃除しておきますから、いつでも戻ってください。料理の腕も上げますから」
涙ぐんで見送るカイルさん&リサさん夫婦。
私ったらお金払っての居候の立場だったのに、途中からお金の受け取りを拒否されたんだ。その時の言葉は一生忘れない。
――お金なんてもういいですよ。
――だってユキナさん、もう家族じゃないですか。
一生忘れられない。絶対に忘れてなんかやんない。
それ程、心に残る言葉だった。
「ユキナお姉さん……」
今にも泣きそうなリリィが服の端を引っ張る。
「また、会えるんだよね?」
「絶対に戻って来るよ」
「お手紙も出してくれるんだよね?」
「うん。旅行先でのこととか、いっぱい書いて送るよ」
「私、ね?」
「ん?」
「ユキナお姉さんのこと……大好きだよ」
「……私も、大好きだよリリィ」
屈んでリリィを抱き寄せる。
「だから、さ。みんなを幸せにしてくれる笑顔で送って。その笑顔を思い出すだけで、私も笑顔になるから」
「……うん!」
目に涙を溜めながらも、とびっきりの笑顔を見せてくれたリリィ。
私が見えなくなる最後まで腕を大きく振って「いってらっしゃい!」と見送ってくれた。必ず戻ると、心に決めた瞬間だった。
これで第1章は終わりです。いかがでしたでしょうか?
今後の予定については、後で書く活動報告で。
皆さんからの感想や評価が作者のやる気に繋がります。




