第42話 建国パーティー(後編)
・2023/09/14
一部修正
――例の話。
それを聞き、私は姿勢を正す。
「準備ができた、ってことですか?」
「あぁ。建国パーティーはちょうどよかったのだ。何せ、どのような形であれ人が大勢動くのだからな」
「外からだけでなく、内側でも……ですよね?」
「具体的なことはパーティーが終わってからだが、明日中には優先順位が決まる。ユキナ殿やウェルナー殿には苦労を掛けることになるがな」
「ウェルナーさんは?」
「宝物庫から選んだ魔道具の最終調整をしておる。“雷の仮面”用に開発した新しい研究成果を試すのが待ち遠しいそうだ」
「騎士やBランク以上の冒険者の人選も?」
「問題ない。明後日、決着を付ける。……念のため聞くが、やはり【ヘルプ】なるスキルの結果は今日も同じだったかな?」
「はい。間違いなく“雷の仮面”と裏切り者はこの王都にいます。今もどこかに潜んで。明後日の強制調査と殲滅戦は任せてください」
「無理だけはしないでくれ。娘が悲しむからな」
「……善処します」
そう、明後日には“雷の仮面”と裏切り者を探し出すために王都全域で強制捜査が行われ、大規模な戦いとなる予定だ。
その作戦には私も1枚噛ませてもらう。
普通だったらありえない作戦かもしれない。
クラリスが誘拐されたばかりの頃ならばともかく、確証も無いのに王都中の裏路地の建物から貴族の屋敷までを強制捜査するなんて。
しかも、建国パーティーを理由に集めたレーヴァテイン王国中の騎士たちと、ギルドマスターを通して信用できるとされたBランク・Aランク冒険者まで助っ人にしての大捜査など前代未聞。魔王教団の関係者を捕まえるためとはいえ、他国からの評価に繋がるかもしれない。
でも、王様は――
「『家族を幸せにできない者に、国民を幸せにすることなどできないと知れ』――建国から伝わる剣二様の残したお言葉の1つだ」
覚悟を決めた顔でそう言ってのけた。
その国その国で優先順位とか違うだろうけど、日本人の感覚からすれば確かに家族をないがしろにするような王様に自分たちを上手く統治してもらえるか甚だ疑問だろう。
剣二さん、何でこんなまともな言葉も残しているのに「ギャップ萌え」とかの言葉まで後生に伝えたし……
まぁ確かにクラリスの安全が確保されなきゃ、ずっと『籠の中の鳥』のままになってしまう。
実は第1王子様と個人的に話す機会があった時、酒を飲みながらそんなことを愚痴っていた。……半分以上がクラリスの自慢だったけど。
まあ、王様がそんな思いきったことを決めた原因は私にもある。
というのも、しばらく前に王様に【EXスキル:ヘルプ】のことを話したからだ。それは、あることに気付いたから。
ヘルプでも魔王教団関連のことは分からない。
どれだけやっても謎の干渉を受けてしまう。
でも、干渉を受けるまでにはタイムラグがあった。
“雷の仮面”と裏切り者の居場所に対するヘルプの回答。すぐに聴き取れなくなったがハッキリ分かったこと。
『……現在レーヴァテイン王国王都の――』
ここから先はジャミングされたような音しかなかった。
だけど分かった。今も王都にいることだけは……!
「あの時、ユキナ殿が自身のスキルについて話してくれたから決心出来たのだ。感謝する。」
「わたくしも母として礼を言います」
「今はまだいいです。全部が終わって、クラリスがまた王都を視察できるようになって、それからなら感謝の言葉は受け取ります」
明後日だ。明後日でこの半年の成果が報われる。
“雷の仮面”との戦闘を意識してスキルを鍛えた。
ニコラさんやエリザさん、ウェルナーさんと作戦当日の行動予定について何度も話し合った。場合によっては連係できるように、お互いの手の内を隠さずに半日以上話しこんだりした。
その結果が、明後日で決まるんだ。
「ユキナ殿、明日はゆっくり休んでいただきたいと思っている。……まだ先程からの疲れが抜けきれておらんのだろ?」
「あははは、実はそうなんですよ。せっかくですから少し風に当たってきます。ワイン飲みながら休めば大丈夫だと思うんで」
それでは後程と、王様と王妃様に言ってその場をあとにした。
そんな、そこそこカッコよく王様たちと別れて数分。
もうね? 私ったら、ホントおバカ。
「迷った……!」
14歳で迷子です。しかも城の中で。
いやちゃうねん? 最初は普通に夜風に当たろうとベランダ的な場所に行ったんだよ。王都の夜景も見れるスポットに。
若い男女がラブコメしていました。
完全に2人の世界に入っていて側に行くなんて無理っす。
しかもスキルの効果で耳が良くなっているから、会話も聞こえるし。
砂糖吐くかと思ったよ。
ブラックコーヒー飲んでも、今なら微糖より甘く感じる自信がある。
なのでUターンして城の中庭で休むことにした。
城の広さ舐めてました。帰り道分かんない。
よくよく考えれば、毎回城に来てからはメイドさんたちか、エリザさんなどの騎士が案内してくれていたんだ。
城で働いている人の前で粗相がないようにと意識がそっちにばかりいって、道を覚えることにまで頭を使っていなかったことが裏目に出た。
しかも私がいるエリア、どういう訳か騎士どころかメイドさんまでいないから道を聞くこともできない。詰んでしまっている。
――今日の建国パーティーで注目された美少女(笑)がワイン片手にウロウロ。見つかったら何言われるか分からないな!
「う~~~、困ったぞ…………ん?」
本気でどうしようか悩んでいると、ドアが半開きで中が少し見えている部屋が。もしかして誰かいる?
このままじゃ迷子のままだし、聞いてみるか。
「すみませ~ん。誰かいますか~」
ドアの隙間からそ~っと顔を覗かせれば……誰もおらず。
「なんでやねん」
ただの閉め忘れかよ。
「てか、この部屋……もしかしてプレゼントの保管部屋?」
見渡せば部屋の至る所に豪華な花束から王都で有名な菓子の入っていると思わしき箱。いかにもな小さな宝箱まである。
時間潰しでメイドさんに聞いたけど、建国パーティーに出席する貴族には王族への贈り物を持ってくる人も少なくない。別に強制でも何でもないけど、贈り物を送った方が印象が良くなるから、普段関りが少ない人でも持ってくるらしい。
「しっかし、こんな大事なものを預かっている部屋に1人もいないってどうなんだ? 私じゃなかったら危ないだろうに……」
職務怠慢か? それとも連絡ミス?
どちらにしろ会場に戻ったら王様に知らせておくか。
それにしても、
「贈り物多いなー。量があるから床に置いてある物まであるじゃんか。きちんと整理しておかないと躓くかもしれな――あ」
部屋の中を見て回っていたら何かに躓いた。
転ぶことは避けたけど、バランスを崩した瞬間、未だに残っていたワインがグラスから飛び出し宙を舞う。
数秒間スローモーションになったような感覚で私は見た。
前のテーブルに置いてあった小さな宝箱にワインがぶっかかるのを!!
(あ、あああああああぁぁぁ~~~~~!?)
やっちまったぁあああああああああああああ!
急いで確認。キレイでおしゃれな宝箱がワインの色に染まってる。
宝箱の下にある紙には『ルミアン=ザッカニーア侯爵より』の文字が。
侯爵!? え~と確か、挨拶のせいで精神の限界が近づいてきた時に来た嫌な雰囲気の初老がそんな名前だったような?
「ど、ど、ど、どうしよ。どうしよ。どうしよう!?」
ヤバいよ。ついにやらかしちゃった。こんな時どうすれば? 謝る? 許してくれるかな? もしかして怒られるかも? 優しそうな人ほど怒ると怖いって言うし。こんな状況で私にできることは……できることは……!
証拠隠蔽。
宝箱を宝箱を【アイテムボックス】の中へ。
やったね♪ 完全犯罪だよ♪(私は正気じゃない)
「とにかく時間を稼ぐんだ……!」
とにもかくにも会場にいるだろう侯爵を探し出して、密かに謝らないと!
ユキナ ハ モノスゴク コンラン シテイル。




