第39話 ギルドマスター
・2023/09/09
一部修正&登場人物の名前変更
だけど、私のやるべきことは変わらない。
半年の間に手に入れたスキルや装備のお陰で現実味は帯びてきたから、魔王教団の幹部連中でも“雷の仮面”になら勝算はある。
そのために得たのが新たな力!
いつの間にか増えていたり、SPを大量に消費して手に入れたスキル・称号・装備を一挙に紹介しようじゃないか!
『〈称号:白の殺戮者〉……永瀬雪菜の二つ名。短期間に多くの魔物を見つけ次第殺しまくったことで付けられた。魔物発見時から短時間の間に行った最初の攻撃に補正(小)』
『〈称号:幸運が仕事しない憐れな少女〉……【幸運】系スキル持ちにも関わらず、それを実感する出来事に恵まれない。何でなのか神様にだって分からない。かわいそうに、かわいそうに……。自身の運に補正(極微小)』
『〈固有スキル:白の加護〉……自身が受け入れた対象に特殊な加護をもたらす。(現在の対象者:リリィ、クラリス)』
『〈ユニークスキル:バリアー〉半透明の防御結界を展開する。込めた魔力によって規模・強度が増大』
『〈ユニークスキル:魔力最大値増大〉……自身の内包する魔力量の最大値が段階的に上がる』
『〈魔力制御〉……魔力を扱う際の効率・制御を高める』
『〈風系魔法耐性(大)〉……風系魔法に対して非常に大きな耐性を持つ』
『〈直感〉……第6感を駆使し、あらゆる物事に対する前触れの察知や、物事の確信に至るまでのプロセスの短縮などの効果がある』
『〈想像反映(小)〉……自身のイメージをスキル・魔法に反映しやすくする』
『〈危機察知〉……自身やその周りに対する危険が迫った時、その危険度の分だけ警戒値が上がる』
『〈魔力感知ペンダント〉……周囲の魔力の流れを感じ取れる』
『〈浮遊リング〉……装着したものに浮力を与える(任意)。リング状の部分はある程度大きさを変えられる』
『〈賢者のローブ〉……最高品質の素材で作られた魔法使い用の白いローブ。金色の装飾部分には特殊加工した伝説の金属オリハルコンを使用しており、付与された魔法効果によって決して破損することは無い。魔法関連全般スキルに補正(中)。環境負担軽減。自動魔力回復(小)』
『〈神鳥ヴァルクスの長杖〉……Sランク魔物、神鳥ヴァルクスの素材を惜しみなく素材とした杖。死霊系魔物への攻撃に補正(大)。邪気感知。魔力制御上昇(中)。魔法系スキル補正(小)。呪い無効』
『〈炎獄のハルバード〉……伝説の金属ヒヒイロカネを素材として作られた炎属性を持つハルバード。槍部分と斧部分の間に推進装置があり、装備者の炎系魔法の力を吸収することで、攻撃の際に加速することが可能。炎熱集中(中)。炎熱拡散(中)。自動修復(小)』
こうして見ると、短い間にかなりパワーアップできたと思う。
特にスキル【風系魔法耐性(大)】、【直感】、【危機察知】と私が身に付けている浮遊リング、魔力感知ペンダントは対“雷の仮面”を意識している。
例え後手に回ったとしても、これだけのスキルや装備があれば直前に気付くことだって可能だ。奇襲してきた“雷の仮面”の出鼻さえ挫けば、懐に入り込んで短期決着させることも夢じゃない。
次に魔法方面。魔法使いタイプの私には特に必要なスキルたち。
【魔力制御】や【想像反映(小)】なども非常に便利なスキルだけど、この半年で溜めてたSPを1番消費したのが【ユニークスキル:魔力最大値増大】。名前の通り、自分が内包する魔力を多くしてくれる魔法使いにとって喉から手が出るほど欲しいスキルだ。
この世界の魔力を持った人の魔力量は生まれた時点でほとんど決まってしまうらしい。あとは成長するごとに徐々に増えていく感じ。例外は魔道具の補助や、特殊なスキルによる増大ぐらい。
私は一通りの魔法を使うことができる。これは普通なら本物の天才にしかなしえないことだ。それをチートで無理矢理叶えただけ。
優先順位とかあるから、まだまだスキルレベルが低い魔法系スキルもあるけど、将来的には最低でもみんなLV.6にまで上げる予定。時空系魔法は消費SPが半端じゃないから、出来たらいいな~程度。
そんな私が気になり始めたのが自身の魔力量。
城に通い始めてからしばらく、宮廷魔法使いのニコラさんから魔法の手ほどきを教わっている途中で気付いたことだけど、魔道具で私の魔力量を計測してもらったところ、平均より随分上であるらしいとが判明したのだ。
マッドバッド戦の時に、初歩の初歩とはいえ『ウィンド』をずっと連発できたのはこのおかげだった。
だけど、平均より多い程度じゃダメ。
私が相手にしようとしているのは魔王教団の幹部。
それを相手にする時、戦闘の最中に魔力が切れて魔法を使えなくなるのが最も大きな問題。接近戦も練習しているけど、魔法と比べて荒削りな部分が目立つので過信はできない。あくまで私は魔法使いタイプだ。
そこで【魔力最大値増大】の出番だ。
このスキル、レベルじゃなくてフェイズっていう数値で段階を表している。
念のため2段階目を解放した際に、ニコラさんに頼んでもう1度魔力を計る魔道具を使わせてもらったけど……相当増えていた。
ニコラさんも「こんな短期間で倍近く魔力が増えるなんて、一体何をしたの!?」と問い詰めるほど。
もちろん秘密な訳だけど、ニコラさん的に魔法使いとして魔力の増える方法にはクワッ!と見開いたちょい充血気味な目で肩を掴んで揺すられまくった。
……普通に怖かったです。
余談だけど、後日そのことがクラリスの耳に入り、涙目になるぐらいこってり絞られたとか……
冒険者の秘密を詮索するのは御法度だもんね。
そんな感じで【魔力最大値増大】をフェイズ3まで解放した結果、戦闘中に魔力が無くなる心配はかなり減ったと言っていい。今後増やす分考えると大赤字もいいところだけどな!!
尚1つ、私にケンカを売ってきている称号があるけどあえて無視する。
ええ、初めてですよ? ここまで私をコケにしたおバカさんは。
そんな半年間の苦労をしみじみした気持ちで思い出していた私は、美味しい紅茶と茶菓子によって心を癒やされていた。
「単純なクッキーかと思いきや口に入れると簡単に形を崩し、バターの風味を広げる。一緒に出された紅茶とも相性がいいし、高いんだろうなー」
「……そう思うなら、もう少し遠慮してもいいんじゃないかな?」
「私の辞書にそのような言葉はありませんので」
「だよねー。初めてあった時からユキナさんは私相手でも変に緊張せず自然体だったし、遠慮なんて言葉似合わないもんねー」
「王族全員と話し合いしたら、どんな人が相手でも緊張しなくなると思いますよ? たった2回の話し合いだけで【精神耐性】のスキルを手に入れてしまうぐらい緊張しっぱなしだったのに比べれば、ギルドマスターとの話し合いなんて楽なもんすよ」
「ごもっともな意見だねー……」
脳内回想している間に所は変わってギルド長室。
机を挟んだ向こう側では、レーヴァテイン王国の冒険者ギルド王都本部ギルドマスターであるユフィさんが私と同じクッキーを頬張りながら、うんうんとやけに納得顔で頷いている。
「……何で納得顔なんすか? ギルドマスターなんて立場なら、王様との話し合いとかたくさんして慣れているでしょう?」
「まあねー。私ったら今の王様が赤ちゃんの時から知っているから。知ってる? あの子ったら私が抱っこしてあげた時、おっぱい吸おうとしてきたんだよ? こう、むちゅ~!って。いやー、まさか女として初めて艶めかしい声を上げた相手が赤ん坊の頃の王様とか、恥ずかしいねー」
「たぶん1番恥ずかしいのは王様だと思うんで、その話は墓場まで持って行ってください。私が聞いたのは無しにすんで」
「あっははは。その頃には王様の方がとっくに死んじゃっているだろうし、時効になるんじゃないかな? それで今日の会話もキレイさっぱり忘れて子孫にこっそり教えちゃうのが目に見えてるよ!」
「その時は数少ない生き証人としてユフィさんが暴露したことを、今の王様の墓でぶちまけます。『あのギルドマスター、あなたの黒歴史を子孫に話しちゃったよ?』って。……化けて出てくるんじゃないですか?」
「やめて。あの子の奥さんにうっかりそれ言ったら、滅多に使わない王様特権使って半年も禁酒令を言い渡されたんだよ。怒ると怖いんだ。そんなことしたら、本当にあの世から戻ってもおかしくない。もうお酒飲めないのやだ」
「自業自得じゃないっすか」
実はユフィさん、ハーフエルフ(エルフと人間との間に生まれた子)だから寿命が長く、ここのギルドマスターも40年近く在任しているという話だ。見た目20代後半にしか見えないのに……これが“ふぁんたじ~”の力か。
何も怖くないとばかりカラカラ笑っていたのから一転、超が付くほど真顔になって震え出したのを見ると本来ならお婆さんと呼ばれるくらい長生きしているようには思えない。精神が成長するのも遅めなのかな? 小説とかでも精神は体に引っ張られるみたいな表現が多いし……
そうするとスキルの効果で不老な私も、100年経っても今のまま残念な性格ってことに――いや大丈夫だ! 自分を信じろ! きっと14歳の体なまま貫禄ある雰囲気に………………あ、ダメだ。そうなった自分が想像できねえ。
「……どうしてこんどはユキナさんが落ち込んでいるの」
「大人になるって意外と難しいんだなー、と」
「意味分からないよ」
物理的にも精神的にも大人になれそうにないって意味だ。
「話を戻すけど、Dランク昇格の件は問題なく通したよ。元々昇格用の魔物にレイジボアを選んでいるのも “慢心”や“油断”を取り除くのが目的だから。ユキナさんがその辺を理解しているのは短い付き合いでも分かる。さすがにAランクの魔物を狩ってくるのには驚いたけど」
「好きで遭遇してるわけじゃないんだけどなー」
冒険者としてDランクに上がるためには、地味に大変な条件がある。
1つ目が、最低半年のEランク冒険者としての活動だ。
昔は実力があればすぐに昇格試験を受けられたみたいだけど、短い期間で冒険者のランクが上がった人に限って死ぬことが多かったそう。
ようは基礎が疎かだったせいで、応用に活かせなかったと。
私もこの半年で徐々に冒険者として大切なことを学んでいった。頭で分かっていても、実際にやってみなくちゃ分からないことだってあるし、戦闘なら身体に覚え込むことも必要だ。魔物の攻撃を咄嗟に避ける時とか、考えてから行動するまでのタイムラグが慣れるとどんどん減っていった。
2つ目が昇格するのに必要な達成依頼の種類と数がかなり増えたこと。
採取系、雑用系の依頼だけでなく、護衛依頼や調査依頼まで受けなければならない。さらに討伐依頼も何でもいいわけではなく、試験を受けるために必ず1度は倒さなければならない魔物が何体もいる。
正直、状態異常攻撃をしてくる魔物が多かった。普通の冒険者は苦労しそうな魔物ばかりだ。
護衛依頼もホントしんどかった。
……何で護衛の私がみんなの夕食を作らなくちゃいけないんだ! お裾分けが美味しかったから? んなもん知るか!
結局、押しに負けて作った私も悪いけどさ。
最後、3つ目が件のレイジボアだ。
絵に描いたような狂暴な見た目のイノシシだけど、こちらから手を出さなければ向こうも襲ったりしてこないんで、資料で魔物の特徴とかを調べない冒険者に限って倒そうとするらしい。
敵意を向けた瞬間、戦闘態勢になることも知らずに。
何とかして討伐に成功しても油断はしちゃいけない。
動かないからと不用意に近づくと、最後の力を振り絞って反撃してくるのだ。
ギルドや先輩からそれとなく注意を受けていたにも関わらず、倒した喜びのままレイジボアに駆け寄った冒険者は大抵大怪我することとなる。
そういった“慢心”や“油断”を無くさせるため、意識させるためにちょうどいいのがレイジボアだったって話なんだけど……
「見つけてどうしようか考えている最中に、急接近したスラッシュパンサーがレイジボアの首をチョンパするとか予想できないっすわ……」
せっかくの試験用の魔物を目の前で奪われ、しかも次のターゲットに様子を窺っていた私を選ぶとか不幸以外なんでもない。
相変わらず【幸運(大)】が仕事してない。
そんなもんだから、レイジボアの死体をギルドに出したあと、ギルドマスターであるユフィさんに事情を説明して、昇格していいのかやり直さなくちゃいけないのかを伺うハメになったんだ。
「スラッシュパンサーが出るのはもう少し先の山岳地帯のはずだし、個体数もかなり少ないのにどうしてあの場所にいたのか……調査しないといけないことが増えちゃったねー。……ねえ、教会でお祓いでもしてもらったら? トラブルに巻き込まれる頻度が多すぎると思うんだけど? 近いうちに魔王教団とも何かありそうで心配になるよ?」
「お祓いしても意味なさそうなんで、いいっすわ」
私、そういう星の下に生まれたらしいんで。
「目が死んだ魚みたいになってるよ?」
ほっとけ!
~おまけ~【ギルド内にて、例の称号を見た時の反応】
『〈称号:幸運が仕事しない憐れな少女〉……【幸運】系スキル持ちにも関わらず、それを実感する出来事に恵まれない。何でなのか神様にだって分からない。かわいそうに、かわいそうに……。自身の運に補正(極微小)』
雪菜「……」
雪菜「………………」
雪菜「――フッ」
雪菜「クソガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
――ガスガスガス!(←ギルド・パスを何度も脚で踏みつける音)
モブ「「「「「ええぇ~~~! 一体何が!?」」」」」




