第3話 お姉さんとの出会い
・2023/03/25
一部修正。
〔side.リリィ〕
私はリリィ。今年で10歳になった女の子。
今日はお父さんとお母さん、3人で森の近くに来ています!
お父さんとお母さんは元々冒険者で、私が生まれる前は真ん中ぐらいの強さのパーティーに所属していたんだって。
いろいろあってパーティーは解散。お父さんとお母さんは知り合いの伝手から王都に住むようになって結婚。
翌年、私が生まれた。
それで、何で王都から離れた所にいるかって言うと~……
何と! テッドおじさんが結婚することになったんだって!
あ、テッドおじさんっていうのは、お父さんとお母さんの所属していたパーティーの1人で、今私たちが泊っている村に住んでいるんだ。
筋肉がものすごくて力持ち。私が腕にぶら下がっても豪快に笑うの。
お父さんもマネしようとしていたけど、無理だった。
テッドおじさん、お父さんの倍ぐらい腕の大きさ違うから。だからお父さんに「気にしないで」って言ったら、逆に落ち込んだ。
お母さんが励ましてから大丈夫だと思うけど……大丈夫だよね?
最初に戻るけど、今村の近くにある森の手前辺りまで来ているんだ。
この辺って強い魔物がいないし、薬草とかが取れたりするからちょうどいいってお父さんもお母さんも言っていたけど……
「ねえー、何がちょうどいいの?」
私と手を繋いでいるお母さんに聞いてみる。
お父さんは武器に手を掛けながらキョロキョロしている。
「リリィも10歳になったでしょ? これから将来どうしたいかはまだ分からないかもしれないけど、今のうちに経験を積んでおいた方がいいと思ったの」
「経験?」
「そう。どんな形の薬草がどんな効果を持っているか、食べることができるのかできないのか、そういうことを学んでほしいの。それに王都の外に出かけるようになったら、恐い魔物とも遭遇する可能性が十分にあるわ。そんな事態になった時、すぐに動けるようになってほしいの。初めて恐い魔物と遭遇すると、足がすくんじゃったりするから」
魔物……
一応知識としては知っているし、見たこともある。
動物とは別の生き物で、弱いのは動物と大差ないけど、強いのになると本当に危険だって。大昔には国を滅ぼした魔物もいたって。
王都にはいろんな所から商人さんが来るから、たまに珍しい魔物を売っていたりする。従属契約するから安全だって話だけど、実際どうなんだろ?
お店の外に展示されている魔物はおとなしくて人とも仲良くなれる種類ばかりだって、お父さんは言っていた。
恐い魔物はお店の奥にいるから目にすることはないって。
「大丈夫よ、そんなに不安にならなくても。何かあってもお父さんとお母さんが守ってあげるから安心しなさい」
「お母さん……うん、分かった!」
それなら安心できる。
だってお父さんの剣はすごいし、お母さんの弓もすごい!
魔物が来てもへっちゃらだよね!
「リサ、リリィ、話しているとこ悪いんだが……」
お父さんが歯切れ悪そうにこっち向いた。どうしたのかな?
ちなみに“リサ”はお母さんの名前。お父さんは“カイル”って名前なの。
「あなた? さっきからどうしたの?」
「いや、オレの気のせいであってほしいんだが……冒険者時代の勘かな? どうにも嫌な予感がするんだ」
「……パーティーを組んでいた時から、良く当たる勘?」
「ああ。……リリィ。残念だけど今日は帰ろうか」
「ええぇー!?」
せっかくここまで来たのにー!?
「どうしても帰るの?」
「ごめんね。でも、本当に嫌な予感が――っ!!」
あれ? お父さんが目を見開いて固まっちゃった。
あれれ? お母さんも手が震えている。
だから、お父さんの目線の先を追って……見た。
見たらダメなものを……見ちゃった。
「グルルルルル……」
「ブ、ブラッディベアー……! 何でこんな所に!?」
それは、鋭い牙を持っていて、お父さんと同じぐらい大きくて、ものすごく恐い目で私を睨んで……
「グルゥワアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「キャアアアアアアアアアア!?」
……恐い。
恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い――!!
「リサ! リリィ! 逃げろ! ここはオレが――」
お父さんが何か言っていたけど、急にいなくなっちゃった。
代わりにブラッディベアーって呼ばれていた魔物がいた。
一体いつの間に!?
「……う、が……あ」
!? お父さんの声!
お父さんが離れた所で倒れてる!
よく見たら、お父さんの盾も壊されてる。もしかして、さっきの一瞬でブラッディベアーが攻撃して、お父さんが防いだ?
「あなた!!」
「お父さん!!」
お父さんを助けなきゃ! でも――
「グルルルルル……」
「あ、あ、ああぁ……」
ブラッディベアーが私とお母さんの方に近づいてくる。
どうしよう。腰が抜けちゃって立てない……
「リリィ、大丈夫だから。大丈夫だから!」
お母さんが私に抱き着きながら必死に「大丈夫」って繰り返してる。
ダメ、お母さんが死んじゃう!
「誰か……助けてえええええええええええ!!」
「グルァアアアアアアアアアアアアアアアア!」
私が叫んだのとブラッディベアーが飛び掛かったのが見えたのはほぼ同時。お母さんにしがみ付きながら目を閉じた。
…………
………………あれ?
痛く……ない?
ゆっくりと目を開けた瞬間、私の目に飛び込んできたのは、
「ハア、ハア、ハア……」
「グ、グルゥ!?」
驚いた声のブラッディベアーと、そのブラッディベアーから私とお母さんを庇うように背を向けている真っ白な人だった。
「あ、あなたは……」
お母さんも困惑している。私もそうだ。
だって、真っ白な人はブラッディベアーに体を噛み付かれているのに、血が出ていない。ブラッディベアーもそれで戸惑ってるみたい。
「こんの……一体、いつまで、噛み付いとるんじゃああああああああ!!」
次に見たのは信じられない光景。
さっきまで私とお母さんを襲おうとしていたブラッディベアーが、真っ白な人の手に突如現れた炎の剣で真っ二つになったから。
「ブラッディベアーを、一撃!?」
「すごーい」
ブラッディベアーが焼け焦げた臭いが周囲に漂い始める中、私たちを助けてくれた人はこっちを振り向いた。
年は私よりも3つ、4つ上かな?
見慣れない服を着た女の人は、
「ケガは無い?」
そう言ってニッコリと笑った。
それが、私とユキナお姉さんとの出会いだった。
雪菜(;^ω^)「笑顔。笑顔! ようやくまともそうな異世界人とファーストコンタクトできたんだ。逃がしたらアカン。がんばれ私の表情筋!」