第36話 初代国王
・2023/08/19
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あまりにも予想外過ぎる言葉に一瞬意識が飛んだ。
異世界? 日本? 何で私しか口にしない言葉が出てくるのさ。
「ごめんクラリス。どうも聞き間違いしたみたいで。実際は何て言ったん?」
「異世界――つまり、こことは異なる世界から来た方で、おそらくは日本・日本などと呼ばれる国の生まれですよね? ――と」
………………
「アイェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!! ナンデ!? 異世界&日本ナンデ!?」
おかしいでしょ!? 質問形式だけど、完全に確信している目だよ!
「ユキナの目は赤く、肌も髪も白いので最初は分かりませんでした。初日の夕食の席では“もしや”と思っただけでした。ですが、先日のウェルナー様との会話でユキナが日本人、もしくは日本に長期間住んでいた方の可能性が高いと判断したのです。そして、今の会話で確信に変わりました」
「あれで!?」
え!? 初日から疑われていたの? つーか、昨日のウェルナーさんとの会話で日本人疑惑? どこだ? 国の名前で日本を使ったのは間違いないけど、異世界で分かるはずないし。それ以外は……
ぐるぐると思考が混乱してきたところで、隣に座っているリリィが身を乗り出すようにして私の服を引っ張り文句を言う。
「もぉおおおおおおおおおっ! だ・か・ら! さっきから何で王女様の言っていることユキナお姉さんだけ理解しているの!?」
「いや、だから、ね? リリィこそ何言っているのさ? クラリスはさっきからずっと同じように喋って――」
「残念ながら違うのだよユキナ殿」
王様が申し訳なさそうな顔になっていた。
「ついさっきから、そして今も、私とクラリスはこの世界の言語ではなく日本語で話しかけておったのだ。だから日本語を知らぬリリィ殿には、私たちが未知の言語を使っているように聞こえるのだよ」
「………………え?」
「異世界からやってきた方は言語が自動的に翻訳されるそうですから、最後のダメ押しの確認で試したのです。現在、日本語を扱えるのは王族のみ。ならば、王族でないにも関わらず日本語の意味を正しく理解されているユキナは……」
「え? は? え~~~と……つまり、どういうこと?」
いや、本当は頭の中で理解し始めているんだけど、オーバーヒート寸前と言いますか。次に出てくるだろう言葉を聞くの怖いというか。
「結論から言えばこの国、レーヴァテイン王国を造ったのは異世界からの転移者と呼ばれる存在。日本人の日下部剣二様なのだ。そして直系の王族は初代国王である剣二様の子孫にあたる。剣二様の残された遺書には自分以外の将来現れるかもしれない転移者、もしくは転生者と呼ばれる存在についての記載があった。王族は、数百年前からそのことを伝えられ、“いつか”のために探していた」
「ユキナ、それがアナタだったというわけです」
「え、えええええええええええええぇっ!?」
数分後、ようやく頭の整理が完了した。
「あの、ユキナ? 大丈夫ですか?」
「まあ、一応。何と言うか、これまであった大量のピースが全部いっぺんに組み合わさったというか……」
むしろ納得してスッキリした部分もある。
「ねえ、クラリス」
「はい。何でしょうかユキナ」
「これはあくまでも真実を知った私の予想でしかないんだけど、この国の制度とか考えたの、その初代国王である剣二って人でしょ」
もうね、全ての謎は解けた!ってやつだよ……
「じっくり王都の街並みを見て、これまでに聞いたレーヴァテイン王国の情報を思い出して、妙に日本――私の生まれ故郷に近いと思ってたんだ。そして、この世界に来る前にあのクソ神が言っていたことから “私の前にも日本人がこの世界にいたんじゃ?”って考えたわけ。時間がある時に図書館とかで調べようとしたけど……」
確定した情報から、どんどん推測が思い浮ぶ。
「私のいた時代はたぶん剣二さんとそんなに変わらない。異世界と地球とで時間の流れが大きく違うのか、それとも担当した神の気まぐれなのか、今となって知ることもできないし、どうでもいいことだけど」
具体的に剣二さんが何歳で異世界転移したかは分からない。でも間違いなく高度経済成長期よりあとに生まれた人だ。
戦争が終わって人々の暮らしが豊かになったことで、ようやく様々な分野のことを考える余裕が生まれたから。道徳心とか学校制度とか、こう言っちゃ悪いけど昔の日本人が1人で考えたとするには無理がある。
今と考え方が根本から違っていたりするもん。
中学校で習った歴史の授業が地味に役立った。
「知識チートのバーゲンセールにも程がある。私のにわか知識なんて必要ないぐらい、剣二さんはこの国を発展させる基礎を作ったんだね」
一世代で終わることじゃないから、何世代も掛けて実行したはずだ。
「当たらずとも遠からずってところだと思うんだけど、合ってる?」
「……すごいですね。一部分からない言葉がありましたが、ほぼ全問正解です。これから説明する予定だったことの半分が無意味になりました」
「うむ。同じ日本人の中でも異世界を舞台にした物語を複数読んでいる者であれば、説明の際に理解の早さが段違いとは剣二様の手記に書いてあったが……」
異世界転移・異世界転生の話なら腐るほどあるからね。
というか、今の王様のセリフ……やっぱり剣二って人、私とそんなに変わらない世代だったみたいだな。
そうでなきゃ「異世界を舞台にした物語を複数読んでいる」なんてことを残すとは思えないし。
「王様やクラリスたち王族の黒い髪は日本人譲りのものだったんだね。どうりで懐かしい気持ちになるはずだ」
「その通りです。剣二様はこの世界に来るにあたって、神への願いの1つとして“自分が生きた証が長く残ってほしい”と願いました。それから剣二様がご結婚され子供ができると、生まれた子供は皆、剣二様と同じような黒い髪となって生まれてきたのです」
「直系の子孫は全員が黒い髪をしていてな。スキルの力とはまた別の神々の力が働いているのだと考えられる。異世界から来た者が持っているであろう言語の自動翻訳もスキルとは別の力だと聞いておる。ユキナ殿、よろしければ教えてくれませんかな?」
「王様の言う通りです。私の持つスキルに言語理解や自動翻訳の類いはありません。スキルとは別の力が働いているんでしょうね」
ここまで来たら気になっていたことも聞こう。
「王様、どんな場面で私のことを疑い始めたのか教えていただけませんか?」
「うむ。ユキナ殿も気になっていたことだろう」
「初顔合わせでの夕食の時、反応が変だったのはなぜですか?」
こればかりは考えても答えが出なかった。
「そうですね……ユキナは、食事の時に何と言って食べ始め、何と言って食べ終えていますか?」
「『いただきます』と『ごちそうさま』だけど?」
「それは、日本での風習ですよね? では、一般的にこの国では?」
――あ!?
「リリィ! ちょっと質問!」
「え? なーにー?」
さっきから私たちの会話が分からなくて空気になってたリリィが、若干不貞腐れたような顔で私の方を向く。
ゴメンなぁ。今度何か奢るから許して。
「今の今まで気付かなかったけど、リリィたちって食事の時に何か言っていたりする? 最初の方と最後の方で」
「最初と最後? 『美味しそう』とか、『美味しかった』じゃなくて?」
「……あー、やっぱりそういうことか」
意識していなかったけど、幼稚園・小学校・中学校と弁当や給食で食べる前には「いただきます」と言い、食べ終わった時には「ごちそうさま」と言うことが当たり前になっていた私。
けどそれは日本でのこと。異世界ではそんなの無い。
「王族は建国時から剣二様が教えた『いただきます』と『ごちそうさま』を幼い日より当たり前のこととしておりました。しかし、王族以外では側近の者たちしか知らないのです。だからユキナが自然に言った時は本当に驚きました」
だろうね。あの時点ではただの新人冒険者でしかなかった私が、王族とほぼ同時に「いただきます」って言ったんだ。そりゃ驚く。
護衛の騎士や給仕も知っているだろうけど、正しく意味を理解している人はいないみたいだし、見よう見まねでやったら違和感が出てくる。
それを本当に自然とやってのけたのが私だった。
「他にも細かい日本の話は残っているのですよ。ユキナがウェルナー様との会話で魔王の定番文句だと言っていた『世界の半分を~』も剣二様の手記に残っていましたから。……中には詳しいことが書かれておらず、理解できないものもあったのですけど、ユキナだったら分かるでしょうか?」
「どうだろうな。ちなみに、なんて書いてあったの?」
「まったく意味が分からないのだと『YES!ロリータ NO!タッチ』というものや、『インド人を右に』という暗号めいたものが……」
「王族の方々は一生知らなくてもいいことだよ」
おい剣二さん、何を究極レベルで役に立たないネタを後世に伝えてんの? ネタは言うその時まで大事に仕舞っとくから意味があるんだぞ!




