第32話 エラー
・2023/08/03
全体を修正。一部文章追加。
「ごちそうさまでした」
「あー美味しかったー♪」
豪華な料理もデザートまで食べ終わって一息つく。
マジで美味かった。デザートの味とか好みだったし。
……そういえば気になったことがあったな。
「本当に私のスキルのこととか話さなくてもよかったんですか? いえ、こっちとしてはありがたいんですけど」
一応私は王族の皆さんからしたらクラリスを救った恩人だけど、未熟な【時空系魔法】のせいで危うくそのクラリスを転落死させるところだった。
たまたま転移した真下にクラリスの優秀な護衛の騎士がいたから助かっただけ。【幸運(大)】の力が今回ばかりは仕事してくれたよ。
「かまわん。そもそも絶対に必要でないかぎりスキルや称号を訪ねるのはタブーとされる。個人的な意見としては“蛇の仮面”のスキルを無効化できた理由や、スキルを封じる拘束具の効果を受け付けなかったというユニークスキルなど詳しく聞きたいがな。その辺りは我々にユキナ殿が話したいと思った時に話してくれればいい」
「ありがとうございます」
変にスキルのこと聞かれる心配はなくなったか……。王族相手に失礼かもしれないけど、まだ心からの信用はできないんだよな。
――コンコン
「失礼します」
部屋の両開きの扉がノックされ、甲冑姿の騎士が入って来た。その騎士は最初から部屋にいた別の騎士(カッコよくて若い女性。たぶんメチャクチャ強い)に耳打ちするとすぐに出て行った。
そして、その耳打ちされた女性騎士がクラリスに耳打ち。
伝言ゲームみたいになっているけど、何の情報だ?
「ユキナ、リリィ様。先ほどリリィ様のご両親に事の次第が伝えられたそうです。心配しておりましたが、城にいるなら安心できると。それと、2人にそれぞれ簡単な伝言があるそうです」
さっきの耳打ちだけでそこまで聞いたの?
「まずリリィ様。『ユキナさんやお城の人たちの言うことをよく聞くんだぞ』、『無事でよかった』とのことです」
「ぶー。ちゃんと言うこと聞くもん!」
子供扱いされてふくれっ面になるリリィ。いかにも不満ですって態度だけど、すぐに嬉しそうな表情に戻る。
父親と母親、両方に愛されているよね。
――私には一生分からないだろうけど。
「それと、ユキナにも両名から伝言が」
え? 私にも?
「『娘を救ってくれてありがとう』だそうです」
「…………あ、う……え~~~と……」
ヤバい。顔が熱い。予想以上に照れる。私はして当然のことをしただけなんだけど。うわー、3日後にどんな顔して会えば……
「えへへ」
何がそんなに嬉しいのか、リリィが腕にしがみついてきた。
守りたい、この笑顔。なんちって。
緊張の連続だった王族との食事も終わり、あとはもう割り振られた部屋で寝るだけ――と思いきや、クラリスから待ったが掛かる。
「夕食前に言っていたのですが、今日の視察の際に護衛を務めていた騎士が是非お礼を言いたいと」
「あ、あーそんなこと言ってたな。忘れていないよ?」
ウソです。完全に記憶の彼方に飛んでました。
私に近づいてきたのは、さっき耳打ちしていた女性騎士だ。
側まで来たと思ったら、片膝をついた格好になる。
「クラリス様の護衛兼『ヤマト騎士団』第2部隊隊長エリザベスと申します。この度はクラリス様を憎き魔王教団から救い出していただいたこと、心より感謝いたします。私にできることならば、お申し付けください」
「ああいや、これは丁寧にどうも」
マジメそうな人だな。綺麗だし、もっと笑えばいいのに。
エリザベスさん改めエリザさんは、何年も前から護衛騎士として側にいるようだ。公私は分けているけど、クラリスとも仲が良く、だからこそ目の前で雷の仮面に攫われてしまったのが悔しくて仕方がなかったそう。それこそ魔王教団によって最悪の事態になれば自害する心づもりだったとか。
ちなみに自害云々はクラリスも初耳だったらしく怒っていた。しょんぼりしたエリザさんもいいな。
……あ、そうだ。
「あのエリザさん? せっかくなので1つだけ私の我が儘を聞いてもらってもいいですか? 普通はこんなこと頼めないんで」
「……私にできることであれば」
じゃあ言っちゃうよ? こんなチャンス2度と無いし!
「なんていうか、こう、すごく悔し気な表情で『くっ、殺せ!』って言ってくれませんか!? ちょい上目づかいで!」
「「「………………はい?」」」
クラリス、エリザさん、そしてリリィの3人が思考を停止したような、呆れたものを見るような目で私を見てくる。
そんな目で見ないで! 仕方ないの! 日本人の業というか……“くっころ女騎士”が本当に見れるかもしれないのに黙っていることができなかったんだ! 分かってるよ自分でもバカなこと言っているって!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝。上ったばかりの太陽の光が窓から差し込む清々しい起床。私はゆっくりと上体を起こすのであった――とはならず、
「ユキナお姉さ~~~ん! 朝だよ~~~!」
「おふっ!? ……やあリリィ。グッモーニン」
リリィのダイビングボディプレスで起こされた。
「あの、ユキナ様? 大丈夫でございますか?」
私に割り振られた部屋までリリィを案内したらしいメイドのフィオラさんが、こちらを心配するような眼差しで訪ねてきた。
まあ普通そうだよね。いくら10歳の女の子の体重とはいえ、あんなルチャリブレ(空中戦が得意なメキシカンプロレス)顔負けの仕方で起こされたら、うっかり胃の中にあるいろいろなもん吐き出しちゃうかもしれないし。
私は頑丈だから全然平気だけど。むしろご褒美だけど。
一応、注意だけはするか。甘さだけでは子供は育ちません!
「リリィ、私以外の人にあんなダイブしちゃダメだかんな?」
「は~い!」
元気でよろしい。ボディプレスの件は不問としましょう。
時間は過ぎて朝食の席。本格的な城生活1日目。
クラリスも交えて優雅なモーニングを楽しんでいた。
「ユキナ、リリィ様。何か不便なことはありましたか? 何かあれば遠慮なくいってくださいね」
「偉い人がたくさん住んでいるお城の中ってことで緊張する以外は特に不便はないよ。朝ごはんも美味しいし。ね、リリィ?」
「うん! オムレツがフワフワだった!」
「良かったです」
事前に言われたけど1日目と2日目は安全を優先して、私たち3人の行動範囲はかなり制限されている。
味方側に裏切り者がいる状況じゃ仕方ないけど。最低限、城に住んでいる人たちの中に魔王教団と繋がりのある奴が混じっていないのが確認できないと、とてもじゃないが安心することはできないしね。
その関係で他の王族はあっちへ行ったりこっちへ行ったりの大忙しらしく、次に会えるのは最終日の3日目になるそう。
さすがに明日になれば行動できる範囲も広がるとのことで、気分転換もかねて城の中を少し案内してくれると約束してくれた。
……いくら食事が美味しくったって、缶詰状態だと気が滅入ってくるからありがたい。あー早くシャバの空気が吸いたいぜ。
「本当に遠慮なさらず言ってくれていいのですよ?」
「いや、本当に問題ないんだけど……」
「ごめんなさい。何だか眉間に皺が寄っているように見えたので、何かご不満な点があるのではないかと不安で」
「あー……個人的に考えなきゃいけないことが増えただけだって」
いけね、顔に出ちゃってたか。
実は昨日の夜はあることを考えすぎてあまり寝てない。起きたあともそのことばかり気にしてたんだ。
王族との話し合いも終わり部屋へと戻ったあと、魔王教団のこととか裏切り者のこととか【ヘルプ】に聞いてみることにしたんだ。ズルかろうが何だろうが、本当に困った時や大したことじゃない時にだけ【ヘルプ】頼ることにしてるけど、いつ使うの?と言われたら、今でしょ!ってことで質問。
あとは信用してるクラリスにだけ【ヘルプ】のことも含めてこっそり教えれば良いと、軽く考えてた。
だけど、それで分かったのは魔王教団が――その背後にいる何かが、予想以上にヤバいって事実だった。
『〈魔王教団及び裏切り者のいる場所〉……現在レーヴァテイン王国王都の――ZAAAAAAAaaaaa……dydyふfygyぢうほうぐyふ;おいほげ6ふぃ;えh;ぉh……ZAAAAAAAAA――プツンッ! ………………スキル使用に関して外部からの干渉を確認。逆探知……失敗。干渉された情報の復元……失敗。ヘルプによる回答は不可能と判断。申し訳ございません』
これが、最初にした質問の際に出たものだった。
同じ質問だけでなく、言葉を変えてみたり、違う質問をしてみても一緒。魔王教団関連のことを【ヘルプ】に聞こうとするたびに、外部からの干渉とやらを受けてバグったような答えしか出ない。
【ヘルプ】はユニークスキルすら超えるEXスキルだぞ? そんなスキルに干渉することができる? それはつまり、規格外のスキルに干渉する規格外の存在が魔王教団側にいる可能性が濃厚だということ。
魔王がどこかに封印されている説が、私の中で強くなった瞬間だった。
“くっころ騎士”はしてもらいました。
エリザさんは絶妙に微妙な顔となりました。




