第30話 友達
・2023/07/27
後半部分大幅修正。
私の気にし過ぎか。
日本にいた頃じゃ、外に出れば見かけた黒髪がこっちじゃあんまり見ないし、同じ黒髪でもタイプが違うというか。青みがかった黒髪だったり緑色の色素が入っている黒髪だったりと、本当の意味で日本人と同じような黒髪に会わなかったからホームシックの感じが出てきたんだろ。
まぁ一時期、黒髪の女性に憧れた頃があったのも原因かな?
「みんな黒い髪なのに、なんで私だけ白いんだろう……」と、まだ純粋な子供時代に羨ましがってたんだ。
「ユキナ様? どうされましたか……?」
おっと、深く考えてたからボ~としていたか。
「……すごく綺麗な髪だな~と。そんなことを」
「まあ。ふふふ、ありがとうございます」
実際、ツヤがあってサラサラしていて、長い髪だからそれがよく分かって、有名女優とかの人がするようなシャンプーでもしているのか?
離れてるのに微かにいい匂いが……
「ユキナ様。改めて、レーヴァテイン王国の第2王女として感謝します。魔王教団の計画的犯行によって後手に回り、己の運命を覚悟した中でユキナ様たちとの出会ったのは奇跡です。家族も感謝しており、是非2人に挨拶したいと」
真剣な顔で感謝してくるクラリス様。
しかし、奇跡ときたか。誘拐犯にドロップキックかましたり、蛇のオッサンを弄ったりしたうえでの出会いだったんだけどねえ。
でも最後の言葉が気になるんだけど……
「………………家族って言いますと、まさか?」
「はい! わたくし以外の王族です」
「なん、だと……!」
つまり、王様もいるってことか!
アカン! 王様1人と会う想像しただけで胃の調子が悪くなるのに、ファミリー全員が私に会いたいだと!?
どんな対応しろってんだ! ちょっとクラリス様? その「ユキナ様とリリィ様のこと、両親や兄弟に紹介したいです!」みたいな笑顔やめて! 14年しか生きていない女子には、ちとハードル高すぎますよ!
「わたくしの護衛の騎士も感謝の言葉を伝えたいと言っておりますし、せっかくですから私的な夕食の席にどうでしょう? 料理人には腕に寄りを掛けてもらい、今日はいつもより豪華な献立になる予定なのです。美味しい料理を食べながらなら緊張もされませんし、話もしやすいのでは?」
緊張MAXでまともに話せるとは思えないんだけど!?
だが美味しい料理というワードが心を揺らす――ものの、同い年のクラリス様1人となら何とかなる私のコミュニケーション能力も、王族複数人を相手にいつまで持つか。ボロが出そうで怖い。そもそも緊張で味を感じない可能性も……
よし、断ろう。
強制じゃないなら無理に行く必要はない。美味しい料理の数々と王族の人たちと会ってやらかす可能性、2つを天秤に乗せれば後者に傾く。
クラリス様は残念がるかもしれないけど、今日はイベントが起こりすぎて脳の許容量を遥かに超えている状態だ。【演算処理】のスキルでもカバーしきれん。王族との話中にオーバーヒートするかも。
よし断るぞ。口を開いて言葉を言うんだ!
「大変申し訳ありませんが――」
「ユキナお姉さん! 王族の人たちが食べている料理だって! 王様とも会えるんだよ! お父さんやお母さんに自慢できるし楽しみ!」
「――迷惑にならないのであれば、御一緒に夕食を頂きたいと思います。私も、挨拶ぐらいはするべきだと思っていましたので」
「そう言っていただけると、こちらも嬉しいです。楽しみにしてくださいませ。……フィオラ、各自への連絡は任せます」
「かしこまりました」
天秤の前者側にリリィの笑顔が乗りました。はい。一気に傾きましたよ。リリィを悲しませるとかないっす。
私の胃、明日まで無事でいられるかな?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕食の席の初っ端で結論が出た。
私の胃、明日まで持ちそうにない。
「このような私的な夕食の席でなければ頭を下げることが出来んのでな。王としてではなく、父として、ユキナ殿に感謝する」
この国の王様、現在私に頭下げてます。ついでに他の王族も。
心の底から感謝しているのが分かる。
「いえいえいえいえ! こっちとしては、成り行きと言いますか~、偶然と言いますか~。どうか頭を上げてください!」
アンタ王様でしょ! この国のトップでしょ!? そんな普通なら絶対に関わらないような人にこんなことされるとか、いたたまれないわ!
私の胃がマッハでダメージ受けてるぞ!!
「ユキナ殿は謙虚ですな。だが、あえて断らせていただく。先に言ったように、これが公式の場で臣下たちの前であれば王として頭を下げるわけにはいかん。だからこそ、家族で取る夕食の席で頭を下げるのだ。ユキナ殿は私の大切な娘を救ってくれた。そこで最大限の感謝をしないなど、先祖に笑われてしまう」
謙虚じゃねえよぉおおおおおおおおおお!
本心から言ってんだよぉおおおおおおおおおお!
お願いだからもう勘弁して。胃が……キリキリと。
夕食への参加が決定してしばし。私とリリィが案内されたのは、パーティーなどで使われるような場所ではなく、あくまでも王族同士で私的な報告会を行ったりご飯を食べたりするための部屋だった。
いや、庶民の私からしたら十分すぎるぐらい広いのですがね?
部屋に入ればそこにはもうクラリス様以外の王族がスタンバイ。こっちを興味深そうな目で見ていた。
この時点で、私の精神に甚大なダメージ。
私たち3人がそれぞれ席に着けば、自己紹介から始まる。
私は無難に。リリィは元気よく。
次に自己紹介したのは王様。
名前はロミナス=ウェルター=レーヴァテイン。
堂々とした佇まいで、一目見れば「あ、この人が王様だ」ってのが分かるほどオーラが半端じゃない。
それからどんどん王族の紹介が続く。
王妃のクラウディア様。お兄さんで次期国王のジュリオ様。お姉さんのエメリス様。リリィと同い年のケイシス様。
1人ずつ確認して分かったけど、クラウディア様を除いてみんな特徴がある。普通なら気にしないような特徴が。
(みんな同じ黒髪なんだな)
髪型や髪の長さの違いこそあるけど、王妃であるクラウディア様以外が純粋な黒色の髪をしていたのだ。
クラウディア様は王都でもよく見かけるような金髪(手入れの違いからか輝いて見える)だけど、それが4人も子供がいるのに1人も遺伝しないなんてあり得るのか? 確率的には2分の1だと思うんだけど。
ま、そんな疑問は些細なことだ。
今の私は余計なことを考えてはいけない。明鏡止水!
みんな王様に続いて感謝の言葉を述べるもんだから、心を無にして対応した。……そろそろ胃の痛みが誤魔化しきれなくなってきたんすよ。
胃薬が切実に欲しい。薬、一通り買っておけばよかったな。
隣にいるリリィを見ればいつもの笑顔。王族の自己紹介を聞きながら、チラチラと料理に目がいっているのが丸分かりだ。カワイイ。
せめてリリィが食事を終えるまでは意識を持たないと……
がんばれ私。ここさえ乗り切ればお楽しみの夕食タイムだぞ!
『〈ヘルプよりお知らせ〉……熟練度が一定に達しました。【スキル:精神耐性(小)】を習得しました』
な!? この状況で新たなスキルだと!
しかも効果が私の思っている通りならありがたい。願いが通じた? 神はいたのか! あ、いたか。この世界じゃ普通に。
心なしか胃の痛みが治まってきた。効果出てるみたいで安心。
「ユキナ様、もしかして無理に口調を丁寧にするよう意識してませんか? 少しぐらいなら問題ありませんし、もっと楽にしてくれていいんですよ? 娘と年も近いようですから、仲良くしてほしいですし」
「そうです。一緒に閉じ込められていた際は、もう少し砕けた感じではありませんでしたか。あのくらいでいいんですよ?」
胃の調子を確かめていたら、クラウディア様とクラリス様がそんなことを言ってきた。意識するなって方が無理なんだけど……
「……クラリス様はそれでいいんです? だって、私……」
今日会ったばかりだし、貴族でもないぞ?
「関係ありません。わたくしたちは今日お会いしたばかりで、わずかな時間しか過ごしていませんが、そんなこと関係ないのです。クラリスという個人が、ユキナ様と仲良くしたいのです。……その、お恥ずかしながら王族ということで中々同年代でも気軽に話をすることができる方が少なくて……。お友達になることは、できませんか?」
「………………TOMODATI?」
え~っと、何だっけ言葉の意味?
ともだち……トモダチ……友達???
「なん……だと……!?」
自分の顔が劇画風になっているのではと錯覚するぐらいの衝撃を受ける。
友達というのはあの友達のことを指すのか!?
一緒に外で遊んだり、家でゲームしたり、お泊まりで女子会して恋バナとかでキャーキャー言ったりするあの友達!?
苦節14年。年齢=友達0の年数である私に友達だと?
他でもないガチ王女様が私のファーストフレンド!?
どどどどど、どうすればいい? どうしたらいい。
私ったら一生友達なんてできないと思っていたから、できた時の対応なんて本気で分からないぞ! 誰でもいいから助言くれ!
唸れ私の想像力! もとい妄想力!
頭の中で具体的にイメージする。
最初に出てきたのは、この世界に私を送り込んだメガネの神。
『そうだね。相手も緊張しているようだし、そこにつけ込んで――』
んな陰険なやり方、性に合わないわクソメガネ!
『ひどい!』
想像の中でメガネの神の顔に蹴りを入れ追い返した。
「つけ込んで――」って、発想がゲスいんだよ!
次に出てきたのは……おぉ! 古本屋の爺さん!
『今はともかく、昔のユキナちゃんは友達が欲しかっただろう?』
うん。小学生までは確かに友達が欲しかった。
でも、周りの反応とか私自身の性格とかあって途中から諦めた。中学に上がる頃には古本屋の爺さんも何も言わなくなったっけ?
正確には、聞かないようにしてあげてたってのが正しいけど。
『なら初心に戻ればいい。異世界とやらで日本にいた頃のしがらみを捨てればいいのさ。もう1度やり直したっていいんだよ。大切なのは1歩を踏み出す勇気だから』
――!? そうだ。日本にいた頃のアレコレなんてこの世界じゃ関係ないんだ。極端な話、小学校に入学したばかりの頃みたいに「友達100人作るぞ!」と叫んだっていいんだ!
ありがとう爺さん! やっぱ私、アナタと出会えたのが1番の幸運っす!
『ふふ、役に立てたようで良かったよ』
『……私の時と随分反応が違うじゃないか』
オメェ、まだいたのかクソメガネ! とっとと消え失せろ!
頭の中で繰り広げられていた真面目な茶番を終わらせ、クラリス様を見る。
揺れる眼差し、何か言おうとするけど開かない口。
……何だ。あっちだって私と変わらず不安だったんじゃん。
それだったら、踏み出すしかないよね。勇気ある一歩を。
「…………はぃ」
「え?」
うっ! 自分でも予想以上に小さな声になった。
「えっと、だから……友達……なろうって話。“はい”って……」
「――! はい……はい! よろしくお願いします、ユキナ!」
「こっちこそ。……よろしくね、クラリス」
初めての友達との名前の呼び捨ては、悪い気分じゃなかった。




