第29話 知らない天井だ(そりゃそうだ)
・2023/07/22
一部修正。
すごくフワフワした感じだ。半分夢の中にいるみたいで、何か暖かいものに覆われているような……
あー柔らかい。極上のマシュマロみたいな、温もりのある暖かさだ。
こうやって顔を近づけて匂いを嗅ぐと、まるでお日様のような……ような? あれ? 息が苦し――
「……ふごっ!? ゴホッゴホッ! 窒息するわ!? ――って、ん? 布団の中? 私、いつの間に寝ていたんだ?」
ガバッと上半身を起こせば、自分がキングサイズかってくらい大きなベッドの中にいると気が付いた。
どうやら寝ぼけて、これまた大きな布団に顔を押し付けすぎて鼻やら口やらを塞いでしまったらしい。息が苦しいはずだよ。
「………………知らない天井、だな」
せっかくだからネタに走ってみたけど、本当に知らん天井だ。
「確か……ああ、そうか。脱出できたのか」
目をこすって、寝ぼけた頭を必死に回転させる。
あー、だんだん思い出してきた。
貴重なSPを全部使って取得した【アンロック】と【時空系魔法LV.2】の2つであの牢屋から出ることに成功したまでは良かったんだけど……
「【時空系魔法】、半端なく効率悪いし構築難しすぎだろ……!」
意識を失う少し前、見事脱出に成功した私は転移直後に強い日差しと風を感じ、外にいることを確信して……――あれ? 何か日差しは強いのに肌寒くない? 普通見上げることで見えるはずの雲が割と近くにない? というか、地面が無い!! ――と、目玉が飛び出そうになるほど驚愕することとなったのだ。
自分の置かれた状況を理解した私は、それはもう激しく混乱しましたとさ。
いや、本当。再度トラウマが刺激されたせいもあって。
恥ずかしながらちびりそうになった。14歳でお漏らしとか黒歴史確定だ。それこそ、目撃者は抹殺するレベルで。
パラシュート無しのスカイダイビングとか寿命が縮まるわ!
心構えなんてなかったから、心臓止まりかけたぞ!
こうして落ち着いて考えることができたから原因を探れる。
大体の予想は付くけど……【ヘルプ】さん?
『〈空にいた理由〉……結論から言えば、『長距離転移』を発動するうえで構築に必要な“高さ”が抜け落ちていたことが原因。転移場所を指定するX軸とY軸はギリギリ問題なかったものの、高低差Z軸が構築の際にあやふやな状態だったため、転移した3人がそれぞれメチャクチャな高さで放り出されることとなった』
うん。そうだよね。平面じゃなくて立体で考えなきゃね。
けどさ? 言い訳になるけど初めてにしては上出来じゃない? 単純にイメージしてはい終わり、とはいかないんだから。こっち来てから一番頭使ったぞ。
「そのあともヤバかったしなー」
ただでさえ空中に投げ出されて混乱しているのに、長距離での転移×3人分の魔力を消費して魔力枯渇する寸前だったからな。
感覚的に普段の10分の1の魔力も身体に残ってなかった。それほど強くない魔法を1回分使えるかどうかの魔力しか。
だからこそ、落下途中でリリィも一緒に落ちていることに気付いた時は無我夢中だった。平泳ぎを意識した人生初の空中遊泳――というか、ルパ〇ダイブ風なポーズで一刻も早くリリィの元へ向かうため筋肉痛覚悟で手足を動かした。
やっとのことで泣きながら手を伸ばすリリィを抱きかかえることに成功。安心したのか気を失ってしまったリリィの安全を第一に優先して、最後の意地を振り絞り【風系魔法】を発動。見事地面への激突を逃れた。
異世界転移初日に盛大に地面に激突して無事だった私はともかく、例え抱きかかえて地面との間に私を挟んだとしても衝撃は伝わってしまうだろうリリィのことを考えれば、最後の魔法は必要不可欠だったからね。
無事に地面に下りて最初に出迎えたのは例の王女クラリス様。
ぶっちゃけ素で忘れてた。同じように転移したんだから、同じように空中に投げ出されてたかもしれないのに。
純粋に心配で近寄って来たクラリスの顔見ると、後ろめたさが半端じゃない。むしろ怒ってくれた方が気持ち的にありがたい。
言いたいことはたくさんあったけど、そうも言ってられなくなった。
魔力枯渇だ。
血の気が引いていくというか、視界が点滅してインフルエンザに掛かったようなダルさが一気に襲い掛かってきた。鏡を見ればその時の私の顔は蒼白になっていたんだろうと分かかるくらいヤバイ状態。
それから言うべきことだけ言って、意識が途切れて……
「気付いたらベッドの中だった、と」
改めて自分が寝ているベッドの周囲を見れば、ちょっとした子供のスポーツが出来るんじゃないか?ってぐらい広い部屋だ。何か高そうな絵も飾ってあるし、地球にもありそうな高級ホテルの一室らしさがある。天井に掛かっているのとか、もしかしてシャンデリア? 初めて見たぞ。高級感ありすぎて蛍光灯派の私は逆に落ち着かない。
窓を見れば空が完全にオレンジ色になっている。
お昼ごろに誘拐騒動があったから、あれからもう5、6時間は経っていると思った方がいいな。あと数十分で夜になるだろう。
――いや、待て。そんなことよりも……
「そうだリリィ! リリィは無事なの!?」
こうしてはおれん! すぐに探さねば!
「うっ!? まだ頭がふらつく」
ベッドから降り、ドアの所まで行こうとしたけどクラっときた。
多少は回復しているけど、まだ魔力枯渇の影響があるみたい。ヒラヒラした飾りが多い服に引っ掛からないか心配に――って?
「あれ? 私ったら寝間着姿?」
今の今まで気付かなかったけど、私ったらフリルがついた可愛らしい寝間着姿だ。意識失うまで着ていた中古のワンピースはどこへ?
――コンコン
「お客様、お目覚めになられましたか? 入っても?」
「え? あ、はい」
ドアをノックする音がして、若い女の声が聞こえてきた。
反射的に答えちゃったけど誰だ?
「失礼いたします」
入って来たのはメイドさんだ。秋葉にいるなんちゃってメイドじゃなく、実用性重視のメイド服を着たマジもんメイドさんだ!
茶髪を後ろで三つ編みにした、できる女の雰囲気を醸し出す女性。見た目の年は20代後半かな? ツリ目だけど美人さんだ。
やだ、ちょっと感動しちゃう!
「ユキナ様。私、王城に仕えておりますフィオラと申します。別室にてクラリス王女とユキナ様のお連れの方がお待ちかねです」
クラリス様と……リリィが?
「つきましては、こちらで用意させていただいた服を着ていただきたいと存じます。ユキナ様の衣服はただいま洗濯中ですので」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ユキナお姉さ~~~~~ん!!」
「げっふ。おぉ、リリィ! 元気すぎるぐらい元気だな」
でも出会い頭でロケット頭突きは勘弁な。私じゃなかったら、病み上がりの状態で喰らうとベッドにリターンしてしまうから。
メイドさんが来て早々、半強制的に着替えさせられた私。
現在はお値段を聞くのが怖い服着てます。白をベースにした清楚な服で、アルビノの私にも似合っている。
……私ったら地味に合う服が無いからな。ファッションセンスは諦めてたんだけど、こうして似合う服着るとニマニマしてくる。
さすがに1人で歩くのはまだ危ないから、メイドさんに支えてもらいながらアホみたいに長い廊下を進むことになった。
そして歩くことしばし、通された部屋には私の想像する王女様が着るようなドレスを着たクラリス様と思わしき人物(変装後の姿とじゃ印象が違いすぎて自信がない)と、私同様オシャレな服を着たリリィが出迎えてくれたのだ。
「ユキナ様、お目覚めになられて本当に良かったです。魔力枯渇で倒れられた時はわたくし……すぐに医務室で魔力回復薬を飲ませて安静にするよう指示を出しましたが、お身体の調子はいかがでしょうか?」
「万全とは言えませんが、目覚めたばかりの時よりマシになってきているんで大丈夫かと。この服といい、いろいろお世話なったみたいで」
「そんなことありません! ユキナ様はわたくしの恩人なのですから!」
そう言って微笑むクラリスは間違いなく王女だった。
服装と相まって王族オーラが滲み出てる気がする。
にしても……
(変装している時は帽子のせいで分からなかったけど、まるで日本人みたいな黒髪だな。手入れも行き届いているから綺麗だし)




