第27話 奇跡の大脱出!
・2023/07/19
一部修正。
魔王って、あの魔王? 昔は世界征服とか企んでいて、最近だとありきたりすぎるからって作品によって千差万別の変化が起こっている魔王?
「え~~~? マジっすか~?」
心の底から出た言葉だ。
異世界に転移したんだからラノベで読んだ展開があるのは覚悟していたけど、よりにもよって魔王やら魔王教団やらが実在するなんて……
「……よし。神を呪おう」
「ユキナお姉さん!?」
「いきなり何を言い出すんですか!?」
突然の発言に目が点になる2人。
リリィとクラリスからしたら脈絡なくいきなり「神を呪う」とか言いだした私にビックリ仰天するのは仕方ないね。
この世界、本物の神様は一応いるらしいから。
けど……違うんだよ。
「大丈夫。2人とも知らない神だから」
「そうなの?」
「ええっと……わたくし、王族としてそれなりの教育を受けているので、神の名は全員存じているのですが……」
首を傾げるリリィと困惑する王女。
違うんだよ。だって私が呪うのは、私をこの世界に招待したあのメガネの神! 魔王復活を企んでいる犯罪組織がいるとか一言も言ってなかったじゃねえか! 私が一通り旅行を終える前に復活したら、どうすんだ!
もう限界だ。あんな神、1度痛い目にあえばいいんだ!
呪ってやる! 呪いを掛けてやる……!
「タンスの角に小指ぶつけろ。タンスの角に小指ぶつけろ。タンスの角に小指ぶつけろ。タンスの角に小指ぶつけろ。タンスの角に小指ぶつけろ!!」
届け! 私のこの思い!!
「王女様! ユキナお姉さんが怖い!」
「わ、わたくしもです! 一体、何の神に呪いを掛けようと!?」
視界の端で2人が抱き合いながら顔を青ざめさせている。
きっと気のせいだな。
『〈ヘルプよりお知らせ〉……特殊条件をクリアしました。熟練度が一定に達しました。【ユニークスキル:ハラスメント・カース】を取得しました。【称号:聖女】を取得しました』
ヘルプの音声でありえないものが聞こえたような……?
きっと気のせいだな。
「タンスの角に小指ぶつけろ。タンスの角に小指ぶつけろ。タンスの角に小指ぶつけろ。オマエなんざ、タンスの角に小指ぶつけてしまえ!!」
「話変わるけど、具体的に魔王って何さ?」
あれから何分経ったか。自分の中の黒い感情を全部吐き出してスッキリした私は、この世界における魔王がどんな存在かを聞いてみた。
「魔王に関する文献は1000年以上前の物で、公式に分かっていることは少ないのです。ただその分かっていることとして、突然現れたこと。現存するどの種族の者でもなかったこと。一夜にして小国を更地に変えるような魔法を使ったことから、魔法を司る王として、いつしか魔王と呼ばれるようになったこと。残っている資料からはこれぐらいです」
「……想像以上にヤバくね?」
一夜にして小国を滅ぼすとかシャレになんねーって。
どうでもいいこととしては、魔族の王様って訳じゃないのね。
「ただ……そこから先、どうなったのかの記述が1つも無いのです。倒されたのか、封印されたのかさえ」
「え? でも魔王教団の目的って……」
「魔王の復活です。問題なのは新たに魔王を誕生させようとしているのか、もしくは魔王がどこかに封印されており、それを目覚めさせようとしているのか。組織の者たちが魔王を復活させて何を為そうとしているかも未だ不明です」
魔王教団の目的ねー。
ベタだと、やっぱり世界征服?
ヘルプに聞くべきか、聞かないべきか……
「あれ? それだと何で王女様が誘拐されるの?」
「もっとも高い可能性としては生贄でしょうか? 金銭を要求する人質としてはデメリットの方が大きいですし。かといって何らかの理由で亡き者にしたいわけでもありませんね。こうして生かされていますから。だとすると、物語であるような復活のための生贄に王族の血が必要であるとか?」
「ええぇっ!?」
「リリィさん、そんなに驚かないでください」
「でもでも! 生贄って、その生贄だよね!? 王女様、死んじゃうってことだよね? そんなのダメだよ!」
「わたくしも死にたくはありません。しかし、本格的な調査が始まる前に何らかの方法で王都から連れ出されるでしょう。わたくしを使った目的のために。恐らくは今日の内に」
「まだ脱出する手が残っているじゃん。諦めるには早いよ」
一通りの情報は集まったから、後はこの状況をどう潜り抜けるかだ。出来れば誰にも気付かれずに脱出するのが望ましい。
「それができるのならしたいですが、この拘束具がそれを許さないのです。外したくても頑丈ですし……」
そう言って王女は拘束具――不思議な素材で作られた手錠のようなモノを私たちに見せる。てか、私に付けられているのと同じだね。
随分頑丈そうだけど、魔法で破壊できないのか?
思ったからにはすぐに試してみるか。
「これは魔道具にもなっていて、その効果は――」
「『ウィンド・カッター』」
ガキンッ!と、威力や範囲を調整して発動した風の刃は私の腕を繋ぐ鎖に命中すると、硬い金属に当たったような音を響かせる。
少し傷はついたか? 魔法で何とかしようと思ったら、意外と時間掛かりそうだな。SP消費して魔法のレベル上げるか、新しいスキルを取った方が早いかも? 時間かけると別の問題も出てくるし……
「な……!? な……!?」
ん? なぜかクラリス絶句。開いた口が塞がらない様子。アンタ王女でしょ? はしたないって言われかねないし、閉じてなよ。
「ど、どうして魔法系スキルが使えるのですか!?」
逆に何で使えないと思う。
「何か問題でも?」
「問題も何も、わたくしたちの腕に付けられているのは、最近になって魔王教団が手に入れたスキルを封じる拘束具なのですよ! どうにかならないか試そうにも、そもそもスキルの発動自体ができないから諦めていたのに、一体どうやって!?」
スキルを封じる拘束具? マジかよ。これそんなヤバいものだったんだ。
でも、その効果が私に現れていないと。
………………あ、分かった。ヘルプに聞くまでもねえ。
「あー、私のユニークスキルが原因っぽいですねー」
私の持つ【ユニークスキル:状態異常完全耐性】。この拘束具が具体的にどんな力でスキルを発動させないようにしているか知らないけど、それがスキルを使用不能にする状態異常だとすれば、私には頑丈な手錠でしかない。
「ユキナ様の!? どんなスキルで――いえ、今は詳しく聞くべきではないでしょう。……ユキナ様、アナタのスキルでこれを破壊できますか? もしできるのなら、確かに、諦めるのはまだ早いかもしれません!」
驚愕の表情から真面目な――王女らしい顔つきになるクラリス。さっきまでと違って、目に輝きがある。期待されてるなー。
「可能かどうかで言えば可能ですけど、本格的に逃げるとしたら作戦練らないと。使うスキルも考えなきゃ」
さっきみたいに風の刃で何度も鎖部分を攻撃すれば、私の両腕は自由になる。クラリスとリリィもそう。問題はその方法だと断続的に鳴り響く高い金属音から、下の階にいる連中にバレること間違いなし。それは避けたい。
逃げるにしてもなぁ。蛇のオッサンやその仲間から逃げられるとはどうにも思えん。また人質を取られることだってあり得る。
少なくとも普通の方法じゃダメ。アイツらが予想できず、短時間で安全な場所まで逃げられるようにしなきゃ。
となると、図書館で調べた多くのスキル。その中で私が目を付けたものの、後回しにしてた2つを取得する時が来たようだ。
「2人とも、ちょっと大事な作業するから静かにしてて」
私が何をするつもりか分からない2人が首を傾げる。
「スキルリスト、アップ!」
【取得可能スキルリスト】 〈所持SP:10〉
・アンロック〔U〕 (必要SP:4)
・時空系魔法 Lv.1 (必要SP:1)
図書館でスキルをたくさん調べた影響でずらっと並んだリスト上のスキル。その中から目当てのものを見つけた。
1つは【ユニークスキル:アンロック】。
その効果はあらゆるモノの解錠。
ずっと昔にいた大泥棒が所持していたと記載されていた。このスキルで金持ちの家に忍び込んでは、厳重な部屋や金庫の扉を開けたらしい。
もう1つは【時空系魔法】。
その効果は時間・空間への干渉。
ユニークスキルではないけど、極端に使い手がおらず半ば伝説的な魔法となっていると記載されていた。
私が必要としているのは『長距離転移』だ。これができれば脱出マジックも簡単に。実際にやったらブーイングの嵐に襲われそうけど。
私はリストを操作して2つのスキルを取得。
ちらと見れば、リリィは私のこと信じきった目で、クラリスも縋るようなもしくは祈るような目で見つめている。
うん。失敗できないな。
勘が働いたのでさらに5SPを消費し、【時空系魔法】をLv.2にした。
これで私の所持SPは0。人生初の破産だ
私は意識を魔法の構築に集中する。
(【時空系魔法】……これ、とんでもなく難易度が高いな。イメージだけじゃ構築できない。【演算処理】が無かったら、脳味噌パンクしてたかも)
準備段階で異常に時間が掛かる。実戦じゃまず使えない。
構築も感覚オンリーだけど、激ムズのジグソーパズルをするみたいに組み立てていく。やっていて分かるのは、今の私じゃ【固有スキル:生存本能】に頼らないと発動もできそうになかったことだ。
絶賛ピンチだから大丈夫のはずだけど。
……そろそろ手錠も外すか。
「対象は私たち3人。……【アンロック】」
――ガキン! ゴトンッ……
よし! 初めて使ったけど問題なく発動したようだ。さっきまで煩わしかった手錠がリリィとクラリスの分も外れて床に落ちる。
「な! 外れた!?」
「おー! やったー!」
信じられないとばかりに目を見開くクラリスは、手錠と自分の腕を何度も交互に見ており、リリィは純粋に喜んでいた。
そうこうしている内に、ようやく『長距離転移』の準備が整う。
ぶっちゃけゴリ押しの発動だから安全性に問題ありまくりで、どこに転移するかすら私にも分からん。分かるのは長距離を移動できることだけ。
でも、その運に今は頼るしかないんだよな……
「2人とも、脱出するよ」
「「え?」」
2人が何か言う前に肩を掴んで、完成した魔法を発動させた。
「成功しろよ! ――『長距離転移!!』」
明日の投稿は本編とは特別関係ない3人称の話となります。
【取得可能スキルリスト】 〈所持SP:0〉
・時空系魔法LV.3 (必要SP:20)




