第23話 忘れた頃にやって来る地雷
「はぁ~、紅茶美味えぇ~~~」
時刻はすでに昼過ぎ。
人生で初となるオシャレな喫茶店でティーブレイクの真っ最中だ。
昼食のサンドイッチとケーキは非常に美味しかった。
ジャンクフードも嫌いじゃないけど、今時の女の子が食べたがるのも良く分かった。店の雰囲気も相まって女子力が上がったと錯覚する。
まぁ、そんなんで女子力が上がったら苦労しないけどね。
私も花より団子な女子だし。
花が似合うのはリリィみたいな子だ。異論は認めん。
そんなリリィは現在、お花摘み中。
私が「お? もしかしてトイレ?」と言ったら、「女の子はお花摘みって言わなきゃダメだよ!」と怒られてしまった。
こんなところでも女子力の差を見せつけられるとは思いもしなかった。
4つも年下なのに……年上の威厳もへったくれもないな。
(しかし、お金浮いて良かったなー)
2時間ほど前、チェルシーさんの代わりにガラガラをして見事目当てである2等を引き当てた私は、そのままの勢いで自身の分でガラガラをしてみることに。
1等だったよ。
店員さんはそんなバカな!とばかりに目を見開き、リリィは純粋に喜び、チェルシーさんからはドン引きされた。
店員とリリィの反応はともかく、チェルシーさんは何で私から距離取ろうとするかなぁ!? 2等当てたの私ぞ!
というわけで、当たった商品券をさっそく使って個人的に必要な家具を何個も買った。アドバイザーにはチェルシーさんを採用。ごねたけど私から数歩距離取った件を持ち出せばしぶしぶ承諾。意外とセンスのあったチェルシーさんによってお買い物は成功を収めた。
余談だが、別れ際にドン引きした件についてイジったところ「ユキナが私の立場だったら引かないの?」と聞かれ、「引くね」と即答してしまったので一瞬で話は閉会となった。だって客観的に見たら引く要素しかないんだもん。
それもこれも全部【幸運(大)】が悪いんだ。
戦闘行為やその他では実感しにくいのに、何の変哲もない日常回の時に仕事して。満遍なく働けや!
結論、私は悪くない。
そもそも本当にスキルのお陰か怪しい。
幸運より不幸な出来事が多いせいで、変な称号が付くぐらいだぞ? 今日に限って仕事したとか言われてもねえ……
むしろ実はリリィが幸運の女神で、その祈りによって幸運が倍増されたと言われた方が納得いく。完璧な推理だった。
ワトソンくん――もとい【ヘルプ】、どうよこの推理?
『〈永瀬雪菜の推理について〉……回答を拒否』
…………は?
「何でじゃ!?」
バンッ!とテーブルを叩いて立ち上がる私。
周囲の視線に気付き、再びイスに座るが……
「まさかの回答拒否っすか……!」
1番信用していたスキルに裏切られるとは、これ如何に?
ヘルプぅ。オマエの存在意義であるはずの質問に対する回答をしないってどうゆうことなん? ボイコットっすか? ストライキっすか?
サボり魔な【幸運(大)】の仲間にならないでくれよ。
労働条件見直すから戻って来て!
そんな感じでさらに数分。
今後取得予定だったスキルについて裏切り・仕事のサボりについて考えるという訳分からん思考をしている最中、それは聞こえてきた。
新たに入って来たお客同士の会話などわざわざ気に留める必要なんざないけど、ある固有名詞を聞いたからにはそうも言っていられない。
話を聞くに冒険者同士らしいが、その内容は――
「こうして会うのも久しぶりだな」
「ああ。オメエさんが長期依頼に行ってから随分立つからな。隣国まで足運んだってんだからご苦労なこった」
「その分、依頼達成の報酬は良かったからウハウハだよ。懐が重いっていう感覚は久しぶりだ。いつもなら数日で軽くなるからな」
「違えねえ!」
「ま、しばらくはノンビリ過ごすさ。武器の手入れも鍛冶屋に頼みたいし。リフレッシュしたら、新しく手に入れたスキルの試しでもするつもりだ」
「お? もう予定を決めてんのか?」
「早いことは悪いことじゃないしな。ちょうどいい依頼があるかにもよるけど、久しぶりにエクル村近くの森に行ってみようと思う」
――エクル村?
確か、私がこの世界に来て最初に立ち寄った村の名前だ。
あの日は山賊とエンカウントするわ、大爆発で吹き飛ぶわ散々な目にあったよなぁ。中学生が挑む異世界生活初日にしてはハードモードすぎた。
あれ? けど、あの村の近くの森って……
「……やめた方がいいぞ」
「何でだよ? あそこは危険な魔物もいないし、運が良ければ高値で売れる薬草なんかもあるじゃないか」
「その森な、かなりの広範囲が焼け野原みたくなっちまって、それどころじゃねえんだよ」
「…………はあ!?」
グフッ!?
「どういうことだよ!?」
「どうもこうもねえ。1週間以上前か? 森に採取系依頼で訪れていた冒険者たちが森の入り口に差し掛かった所で、とんでもねえ爆発音を聞いたらしい。何があったのかと、魔法使いのバフ効果でパーティー連中の速度上げて森に入ってみればさあ大変。そこら中で木々が燃えていたんだと」
ガフッ!?
「マ、マジか……」
「マジだ。幸いにも【水系魔法】が得意な奴がいたんで、すぐに消火活動をしたらしいが……全体の1割近くが見るも無残な姿になってたと」
ゲホッハ!?
「何があったんだ? 魔物か? 魔法使いか?」
「不明だ。それから数日してギルドから調査隊が出てな。別件でも近くに派遣する予定だったから、ついでに調べてくれたんだとさ。で、爆発音の大元だと思われる中心地付近に行ってみれば、そこにあったのは巨大なクレーター。その場所で何かが大爆発を引き起こし、その時巻き起こった爆炎が広範囲に渡って木に引火したっていうのがギルドからの公式発表だ。つい2、3日前だよ」
ビクンッ! ビクンッ!!
「そんなことがなあ……そういや別件って?」
「今言った森のすぐ近くにBランクのブラッディベアーが出たって話だ。幸いにも犠牲者が出る前に通りすがりのルーキーが倒したらしい。が、本来いないはずの場所に危険な魔物が出たってんで調査隊が~ってことよ」
「そうか。……ルーキーっていうのは?」
「うん? オレは毎回その場にいないんで、冒険者仲間から聞いただけなんだがな? 新しく冒険者になった若い女のことだ。つい先日Eランクに上がったばかりなんだが、ベテラン連中からも期待されてるってさ」
「ふうん。ブラッディベアーのことは資料でしか知らないが、そんな魔物を倒すなんて。それも若い女が。何歳ぐらいだろうな?」
「オレの予想じゃあ、25歳の腹筋の割れた女だ。自分の身長ぐらいの大剣を背負ってて、ブラッディベアーを一刀両断!ってよ」
「何でそんなに具体的なんだ?」
「ブラッディベアーの死体が真っ二つだったからだよ」
「…………どうしよ? そうとしか思えなくなってきた」
「冗談はさておき、本当にどんな女だろうな?」
………………
……あんたらの近くいる、精神を抉る口撃でテーブルに突っ伏して痙攣しています腹筋の“ふ”の字もない14歳ですが何か?
はぁ……リリィの癒しが欲しい。
――うん?
「いくら何でもリリィ遅くない?」
以前投稿した試験用の短編の最後の部分を改稿したものです。




