第20話 VSマッドバッド(後編)
・2023/06/15
戦闘シーンを大幅修正。
「ギラン、さん……」
ギランさんがやられた。
先の2人と違って、僅かに動いてることから意識はあるんだろうけど、とても戦闘を続行できる状態でないのは分かる。
「キイ、キッキキィ……」
直前で放った私の魔法を余裕で回避したマッドバッドは、わざわざ私に見えやすい位置でその表情をニヤつかせている。
もう1度思うが……甘かった。
アイツはこっちに隙を作るために、わざと意識を失った2人を攻撃したんだ。
知能が高いとかの問題じゃない。
ブラッディベアーなんかよりも遥かにクソったれな存在だ。
「テメェ……!」
絶対許さん!
「『フレア』! 『スプラッシュ』!」
もう連携とか私1人だからできないし、魔力の節約とか言っていたらコイツを倒すことなんかできやない。なら思いつくのは全部やる。
失敗を恐れずに試せるものは全部試す。
『ウィンドカッター』より遅いし、森で使うのは躊躇われた【炎系魔法】の最初に学ぶ『フレア』。それを魔力を多く乗せて放った。普通なら避けられて終わりだろう。だから思いつきだけど、より高温になってるはずの『フレア』にあとから放った『スプラッシュ』を当てる。
すると、一瞬だけど高温の炎に強力な水がぶつかったことで霧みたいな煙が発生した。それが広がり視界が悪くなった時を狙い、
「『ウィンドカッター』! 『ウィンドカッター』! 『ウィンドカッター』!」
マッドバッドがいそうな方向へ魔法を連打!
こんな時ぐらい活躍しろよ【幸運(大)】!
「キッ!? キイィィィィィッ!!」
煙の奥から響く悲鳴のような鳴き声。
視界が開けた先にいたのは胴の一部から血を流し、忌ま忌ましさを隠せない目つきでこちらを睨むマッドバッドの姿だった。
いよっしゃあああ! 初のヒット!
ざまあみやがれってんだ!
あーそれにしても、手数が少ないのがキツイ。
本当ならスキルレベルの1番高い【炎系魔法】を自由に使えれば、勝率は上がると思うけど、何度も言うように森が火事になっちまう。
そも、そんな攻撃をしたらギランさんたちまで巻き込むし。
【生存本能】の効果で魔法の威力がアップしている状態で下手に【炎系魔法】を使ったら、ギランさんたちが山賊の末路を辿ることになる。
助けたいのに止めを刺すとか矛盾しまくりだろっての。
ああ、もう!
どうして魔法の練習もっとしなかったんだ私!?
基本はスキルのレベルとイメージが噛み合っていればできるみたいな説明だったけど、実際にやればそれだけじゃないのも分かる。たぶん練習に練習を重ねて、少しずつ感覚を覚えていくのもすごく大切なんだ。イメージしたら魔法がその通りに!なんてフワフワな世界観じゃなかったよこの世界! 山賊やブラッディベアーの時は本当に火事場の馬鹿力的なのが働いてたんだ!
こんなことなら一昨日の時点でどこまでイメージ通りにやれるか、もっと検証しておけばよかった!私のおバカ!
そんなこと思っていたら向こうに変化があった。
一瞬だけ傷のついた胴体を見るマッドバッド。
その奴の目が徐々に細められていく……
「ギイイイイイイイイイイイイイイイッ!!」
「うわ、危なっ!?」
あの野郎キレたのか、翼からメチャクチャに風の刃飛ばしてきた!
半分は私を狙っているけど、残りは見当違いの方向に行って地面を削っている。
どう見てもキレてますね!
一応私には【防御力上昇(極大)】のスキルがあるとはいえ、避けれるものは避けた方がいい。いざという時のためだ。まだ勝負の行方が分からない以上、隠せるものは隠した方がいい。だから必死に風の刃を避ける。
――っつーか、鬱陶しいわ!
こちとら戦闘ド素人なんだぞ! さっきから避けるので精いっぱいだよ! 避けながら攻撃魔法使うなんて器用なマネできるか!?
簡単にキレやがって。カルシウム取れ!
「う~ん……重力魔法で軽くして、風を起こしてこっちも飛ぶ? ダメだ。上手く制御できないって分かる。マジでどうし――わぷ」
マッドバッドの攻撃を避けながらどうやって勝つか考えてる最中だ。
目に砂埃が大量に入った。
「目が! 目があああ~~~!?」
ぐぅおおおおおお~。クッソ痛てえ~~~!
まさか強烈な光以外で某大佐のモノマネする羽目になるとは!
けど、急にどうして?
まさかアイツ、このためにわざと地面に向けて風の刃を連発していた? 土ぼこりを風に乗せて私の視界を奪うために?
私がしたことの意趣返しで!?
マズい!? すぐに【水系魔法】で水を作って目を洗う。
まだちょい視界が安定しないけど、何とか見えるようになった。
あれ? そういや風の刃による攻撃が収まってる。あれ!? マッドバッドの奴いつの間にかいなくなってんじゃん!
逃げた? ――って、そんなわけねえよな。
すぐに居場所を突き止めないと……
「【探知】オン!」
居場所を見つけるだけならこれほど便利なスキルはない。さあ、一体どこに隠れて…………っ!
反応はあった。……私の後ろだ。
「しまっ――!?」
「キイイイイイイイイイイイイイイ――」
油断した。全てはこのためか! 私の視界を一時的に奪ってから背後に回り込んでの超音波攻撃。さっきまでと同じような位置にいたら目が見えなくても攻撃されかねないから、あたふたしている間に移動していた!?
ダメだ。もうアイツは超音波攻撃をしている。
私も3人のように耳から血を流して倒れることになるんだ!
数瞬後に来るであろう痛みに耐えようとする。
…………
………………?
「……ん?」
「キイ?」
え? 全然痛くない。何ともないんですけど?
頭に?マークを浮かべて首を傾げる。
向こうも首(?)を傾げる。
………………
「……『ウィンドカッター』!」
「キィィイイ!?」
空気をぶち壊す一撃! シンとなっていた中でいきなり放った魔法をギリギリのところで回避に成功したマッドバッド。
あー、クソ! おしい!
そのまま『ウィンドカッター』による連続攻撃の振出しに戻りながら、今起こった事を考える。
アイツの超音波は確かに私に届いたはずだ。なのにまるで何ともない。一体何が原因なんだ?
ヘルプ分かる?
『〈超音波攻撃が効かない理由〉……【スキル:耳栓(大)】の効果』
【耳栓(大)】?
それって、昨日の夜にギランさんの安眠妨害音波攻撃のいびきがうるさすぎて取得したスキルじゃん。え? あれのお陰なの!?
「ギランさん……」
偶然とはいえ、あの人のお陰で無事だったのか……
うん。余計負けるわけにはいかなくなったな。
けどこのままじゃ、いつまで経っても勝負がつかない。
私の魔力も感覚からそろそろ考えて使わなきゃいけない量になってきた。魔力が尽きたら目まいとか起こして戦うどころじゃなくなるし……
……まてよ?
さっきはダメだと思った案、条件次第ではいけそうなんじゃ?
やる価値はありそうだな。
「『フラッシュ』!」
さっきまではギランさんの邪魔になるかもと使わなかった、目潰しの【光系魔法】を発動する。今の私じゃ一瞬目を閉じちゃうぐらいの光量しか出せないけど、その間に【土系魔法】をわざと中途半端に発動させて周囲の地面に細工をする。
「キイイッ!」
半端な目潰しからすぐに回復したマッドバッドは、何もしていない(ように見える)私に向かって風の刃を飛ばしてきた。
だからその攻撃を大きく避けて、地面に当たる瞬間――
「『ウィンド』!!」
その地面に強い風を叩き付けた。
周囲がサラサラの土に変化していたところへマッドバッドの攻撃が当たり、飛び散った大量の砂埃。それを強風で宙に巻き上げた。
「ギイィィィィィ!?」
予想外の範囲にまで巻き上げられた砂埃が大きな目に入ったのか、苦しそうにフラフラする様子を上から見てほくそ笑む私。
さっきの意趣返し成功だ!
すかさず【風系魔法】で風を起こして位置を微調整。マッドバッドの真上に到達したところで【重力魔法】で軽くなっていた体重を元に戻す。
ナイフを構え、自然落下する私の体。
そのままの勢いで――真下にいたマッドバッドの背中にナイフを突き刺す!
「ギィガッ!」
「つ~かま~えた♡」
解体用のナイフが深々と背中に突き刺さる感触を不快に感じつつも、ようやくゼロ距離にまでコイツに接近できたことを喜ぶ。
死ぬまで離さないぞ♪
当然必死になって振り下ろそうとしているけど、そう簡単に落ちてやんない。このナイフって多目的用の返しが付いているから、根元まで本気で刺すとすごい抜けにくい構造になっているんだ。あとは私のナイフを持つ腕の筋力次第だけど、【攻撃力上昇】の補正で腕が疲れることも痺れることもせずナイフを離さない。
もう残りの魔力がギリギリなんだ。この一撃で決めてみせる。
高威力の魔法で、使った時の感覚を思い出せる必殺の一撃!
「ゼロ距離『バーナーブレード』!!」
「――――ッ!!?」
手に現れた炎の剣がマッドバッドの背中を貫いた。
声にならない断末魔を上げて落ちていく巨体。
「うわっ!」
地面へ落下した瞬間に放り出された私は、目から光を失ったマッドバッドの死体を確認してようやく大きく息を吐くことができた。
「か、勝った~~~」
緊張の糸が一気に解けたからか、その場にペタンと座り込む。
ド素人の戦闘にしちゃ穴だらけの部分が多いけど、いい点数にはなったと思う。誰が何を言おうが勝てば問題ない。
「そうだ。あの3人も何とかしないと」
確か回復薬は携帯してあったよね?
先に意識のあるギランさんを何とかするか。
本人も言っているように素人丸出しの戦闘でしたが、ほとんど経験なんてない状態で高位の魔物に勝ったことを考えれば十分すごいです。




