SS タレを求めて
お久しぶりです。
今年忙しすぎ!
タレ。
それは一般で複数の調味料を混ぜ合わせた液体を指し、万能なモノから専用なモノまで様々である。
焼き肉のタレしかり。
餃子のタレしかり。
スキヤキのタレしかり。
そして……蒲焼きのタレしかり。
以前食べたうな丼……あれは美味しかった。
脂の乗った身と合わさるタレによって、より旨味が増していた。
そのタレの材料は、砂糖・酒・みりん・醤油の4種類だけというのだから驚きだ。焼き肉のタレだと果汁やらスパイスやら入るのに、うな丼の――蒲焼きに使用するタレのシンプルさよ。
だからこそ、今、私は挫折を味わっている。
帝国で行われる一種のお祭りに向けて蒲焼きを作ってた私は――
「……蒲焼きのタレが、上手くいかねぇ!」
四つん這いに崩れ落ちた。
くそっ、何がスキル:黄金料理人だ。
どこまでもいってもスキルはスキル。私自身の料理の腕前は所詮上っ面だったのだと、テレビを賑わせた歴代の鉄人たちに叩き付けられた気分だ。
……なるほど。これが敗北か。
「ユキナ様が何に悩んでいるのか分かりません。いくつか試作品を試食いたしましたが、どれも美味しかったのですが……」
「ふゅひな、ふぁにはふふぁんなんら?」
私の目の前にあるキッチンにはジャイアント・オフュカスの蛇から切り取った身と、いくつものタレ、それらを合わせた完成品が並ぶ。
最高の蒲焼きを作ろうと専門店が使う焼くための台を自作し、炭火も購入。何度も練習して満足がいくようになってから作ったソレは、予想に反して私が求める出来にならなかった。
後ろで心配そうに見つめるステラとリルは十分美味しいと、祭りで出す分には絶対に売れると太鼓判を出してくれた。
だが、私自身が納得できねえんだ……!
「確かに美味しいよ? でもね? 何かが納得できないんだ」
原因の内、いくつかは判明している。
原因その1。ヘビの蒲焼きだから。
日本で蒲焼きといえばウナギだ。脂ノリノリで旨味が広がるニョロニョロだ。同じニョロニョロでもヘビではない。
食べてみた感じ、このヘビの肉は十分旨味がある。食べ応えもバツグンだ。しかし、ウナギほど脂が乗っているとは言えない。その差をタレによって補完しようとするも失敗に終わる。
原因その2。微妙に私の知るタレと違う。
料理を作っている最中なんかたまに忘れかけるけど、ここは異世界だ。
マヨネーズを含め、いくつもの調味料は転移者先輩の剣二に先を越される形で世に広まり、こうして当たり前のように使えるようになった。
だが、完全に同じではない。
何度も言うがここは異世界。転移して数ヶ月でナスっぽいものは“ナス”って断定したし、トマトらしきものも“トマト”とハッキリ言うようになったが、地球のものと比べると味や食感に違いがあったりする。
何が言いたいかと言えば、どれも似てるけど違うものなんだ。
そしてそれは調味料などいくつも工程を挟んだり、複数の食材を使用することでより大きくなる。
醤油も、原材料は大豆ではなく大豆に限りなく近い“何か”でしかないから、8~9割同じ味でも、残り1~2割は違うといった具合に。
「どうしようもない問題だけど、やっぱりどうにかしたい」
「しかし、やれることはやり尽くしたのですよね?」
「――ゴクン。う~ん? 意地って、やつか?」
「そう意地だ。日本人としてここで引くわけにはいかない」
私の中の悪魔が「もう十分だって。いい加減休んだらどうだ?」と呆れた顔で提案してきたが、天使の方が「美味しいもののために妥協してどうする!?」と鮮やかにチョークスリーパーを決め、悪魔の意識を奪った。
……私の中の天使がめっちゃ武闘派な件。
「一応、まだやれることはある」
帝国に来て落ち着いた頃、帝都に住む各要人の居場所についてヘルプで調べた時におもしろい人物が隠居していることが判明した。
その名は――
「私は、教えを請いに行く」
「へ? 誰にです?」
「かつて伝説の料理人だった男、タレ仙人の元へ!!」
いざ行かん。私の求める蒲焼きをこの手に掴むため!
「………………いえ本当に誰なのですかタレ仙人って!!?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「帰れ」
アポなしの初対面とはいえ、反応が氷河期レベルで冷てえ。
はい、やって来ましたのは帝都でも端っこの方にある、メッチャ物価の安い家ばかりが集まった地区。その1つ。スラム街ほどじゃないけど、帝都に住んでいる人でもギリギリの生活をしていたり、事情持ちの人物が隠れ住んだりしているとこ。
今回はその内、比較的綺麗な家にお住まいの元宮廷料理人にして“タレ仙人”の2つ名で知られた隠居中のご老人、ソルトさんを尋ねた。
結果はこの通りだがな!
「私にタレを教えてください」って頭下げてこれだ。
「そこをなんとか」
「どうやってワシのことを知ったかはどうでもいいが、オマエさんのようなケツの青い小娘に教える事なんざ1つもねぇ」
ケツの青い小娘ときたか。
……初めてですよ。ここまで私のことをコケにしたおバカさんは。
「私の戦闘力は53万ぞ?」
「だから何だ?」
「私はあと3回、変身を残している……!」
「それが料理にどう関係しやがる? 言ってみろ」
「……言ってみただけっす」
ダメだ。
取っ掛かりだけでもと思って全力のネタを振ったけど、冷たい反応とド正論しか帰ってこない。
むーん……
あくまでも私は教えを請いに来ただけでケンカしに来たんじゃない。
ここは一旦退散するか。
「今日は一旦帰ります。覚えてろよ! いや、本当に覚えてな!」
「オマエさんみたいの、忘れたくても忘れられるかボケ」
ムッカーーー!
人のこと言えた義理じゃないけど、口の悪いジジだな!
覚悟しろ!
明日からダンジョンから帰ってすぐ寄る毎日を送ってやる!
せめて普通に交渉ぐらいさせてよ!
翌日。
「お爺ちゃーん! 蒲焼きのタレについて教えて~♡」
「うっわ、キモいな」
「んだとゴラァッッッ!!?」
さらに翌日。
「師よ! 何卒、何卒、ワタクシめにタレのご教授を!」
「オマエ、暇なのか?」
「暇じゃねーよ。ダンジョン帰りだよ。お疲れだよ」
そのまたさらに翌日。
『「私は~大マジメであります~。是非とも~お話を~」』
「近所迷惑だからそのメガホンみたいのはやめろ『――ピシャ!』」
「ああぁあっ!? せめて、せめてドアは開けてよぉ!」
ダンジョンを攻略し、夕飯前に新・孤児院へ帰ってからタレ仙人を尋ねるという自分でもしつけぇなーと思う毎日を過ごすこと1週間。
ついに転機が訪れた。
「まず最初に言うぞ。しつこいって。帝国の貴族連中でももう少し間を開くってのに、1週間も来やがって」
「どうしても引けなかったんです。あ、どうぞこれを。何だかんだで迷惑をおかけした分です。つまらぬものですが……」
「2軒隣に住んどる婆さんが趣味で作ってる饅頭じゃねーかよ。ワシと距離を縮める前に近所の連中と距離を縮めてどうする?」
んなこと言われましても……
4日目辺りのメガホン使ったので顔見知りになったとしか。
「はぁ……とりあえず入れ」
「お邪魔しまーす」
1週間かけてようやくお邪魔することになったタレ仙人の家は、やはりというか外側よりもずっと綺麗で清潔感があった。
何より、様々な調理器具が揃ってる。
「おー、何か良いなこういうの」
「そうか?」
「見たことない調理器具もあるし、実は結構お金持ってるでしょ」
大きな魔道具の冷蔵庫もあるし、予想以上に料理してるよこの人。
「貯めていた給料と退職金でな。今じゃ貴族連中に作ってたような高級のものではなく、庶民的な値段で出来る美味いものを作りながら余生を過ごしている最中だ。これはこれで楽しい」
分かるわー。
爺さん婆さんが庭で育てた野菜を食べている姿とか、老後のスローライフの1つの形として想像したんだよな。
……どっかの神様のせいで老後があるか分からんけど!
不老でもできるスローライフってこの世界にありますかね!?
「それで? タレについて教わりたいと言うことだが、新しい孤児院の経営者だか院長代理だかが何でそんなことを……」
「あれ? 私のこと知ってるの?」
「オマエさんのような目立つ容姿の小娘が何度も尋ねたら、空いた時間に調べるぐらいする。……予想以上に有名だったがな」
「いやぁ、実はかくかくしかじかって感じでして……」
ここでようやく事情の説明をすることができた。
日本のことは遠い故郷の島国ってことに変換したりして。
「なるほど。なまじスキルが上位で味が分かり、完成品の味も知っとるから尚更デキに納得できなくなってしまったか」
「仲間内や子供たちに料理を作る者としてのプライドもありますし、食への追求が変態レベルだった故郷の出身としても、納得のいく蒲焼きを作ってみんなの目や口から光線を出したいんです」
「最後の目や口から光線云々は置いといて、う~む……ワシに散々あしらわれてもめげず、覚悟の決まった目をし続ける。料理の味ではなく、ワシが作ったという事実をブランドとして食べる連中が気に食わずに予定より早めの退職をしたが、余生を過ごしている間におもしろい奴が出てきたな。よし! オマエさんにタレの何たるかを教えてやる! 感謝しろよ? 普通の奴だったら金を要求してもいいぐらいなんだぞ?」
「え? 普通にお金払うつもりだったんすけど」
「変なところで律儀だな。孤児院のガキの話はワシの耳にも届いてる。思うところはあったのにワシは何も行動しなかったんだ。その分だよ」
「分かった。では、改めて……よろしくお願いします!」
「おう」
ついにスタート位置に立てた。
目指すぜ最高の蒲焼き!
「オマエさんが知りたいのはワシの1番得意としたタレだったな。まず結論から言えば、テレで最も重要なものは黄金比だ」
「黄金比!?」
いきなりプロっぽい意見が出たぞ!
「その黄金比を極めるのに必要なのは――」
「必要なのは……!?」
「――タレの声を、聞くことさ」
「なんて???」
何? この爺さん、妖精の声とか聞こえちゃうタイプ?
後に、「タレの声を聞く」ってのは比喩表現で、実際は使用する食材ごとに違う黄金比を料理人の感で割り出すこと、タレを作る際の調味料1つ1つの要素を第六感で感じ入ることを指していることを知った訳だけど……
これが原因でステラから頻繁に頭や耳を心配されることになるとは……
聞こえる気したもん。
タレから「ほんの数滴、醤油を足せ!」って声が。
~あとがき~
タレ仙人「ところで……目や口から光線って結局何だ?」
雪菜「私の故郷じゃ、本当に美味しい料理を食べると目や口から光が溢れ出るんですよ。美味しさの表現として。急に過去回想からのオヤジギャグしたり、空の彼方まで飛んでいったり、他にも女性だったら急に裸になったり……」
タレ仙人「何ソレこわ」
皆様からの感想お待ちしております!




