第13話 ドワーフの鍛冶屋
・2023/04/23
全て書き直し。
生まれながらの格差に嫉妬と絶望の感情を抱いた翌日。
2回目の雑用依頼を受ける日がやってきた。
「鍛冶?」
「ええ。と言っても、やってもらうのはサポートですが」
現在いるのは冒険者ギルド、依頼ボード前。
こうして見ると、魔物の討伐依頼がほとんどだ。次に護衛依頼が多くて、たまに変わり種で捕獲依頼なんてのがある。
エミリーさんによると依頼受注期日が迫っているものは目立つ場所に置いたり、ギルド側から達成できそうな人に話を持ちかけるらしい。そりゃ困ってるのに誰も依頼を受けないんじゃ、何のための依頼だって話だ。
で、ちょうど依頼の書かれた木札をボードに引っかけようとしたエミリーさんから、とある雑用依頼を受けないかと言われたのだ。
それが『鍛冶屋でのサポート』依頼だった。
「先方によると、今日は特に忙しい日で人手が足りないにも関わらず、新人の子がケガで休むことになったので穴埋めをしたいと」
「エミリーさん、エミリーさん。私、これでも女の子。鍛冶なんて手伝いでも無理だって。鍛冶とかできそうに見えます?」
昨日、レーナさんの所でしたお手伝いよりさらにハードルが上がったぞ。
鍛冶ってあれでしょ? 筋肉付いたオッサンが職人顔で熱した鉄を槌で叩く作業でしょ? タイミングや力加減が僅かに狂うだけで失敗することもあるって聞くのに、それのサポート? 失敗する未来しか見えん。
「大丈夫ですよ。作業は炉に燃料を入れるものや、汚くなった水の処分とかでその手の専門知識は昨日同様いりません。……まぁ、熱いし大変なことは違いないんで本来なら男性冒険者に依頼したかったのですが――」
「ですが?」
「頼めそうな方が今日に限っておらず、先方の任せておきたい人――マジェラさんのことを考えると、男性より女性の方がいいかな~と」
「マジェラさん? 何、知り合い?」
「えぇ、悪い人ではないんですけど……ちょっと困った方であるのも事実で。女性の、それもドワーフの鍛冶屋なのですが」
「受けます!」
「早っ!? え、いいんですか。ダメで元々だったんですけど」
そりゃ受けるよ。
だってドワーフだよドワーフ。エルフに続いてファンタジーの超有名種族。これで猫耳の獣人とも会えればコンプリートだ。
早速依頼を正式に受けて目的地に向かうことに。
気になるのは去り際にエミリーさんが言っていた「大丈夫だと思いますが、刺激が強いので気を付けてー!」というセリフ。
依頼を受ける前の“困った方であるのも事実”なる地雷を予感させる発言も相まって今更ながら早まったかもと考えたけど、『困るような人との仕事』<『ドワーフに会いたい』という方式ができあがっているので後悔はない。
それよりも気になるのは1つだけ。
「果たして、この世界のドワーフは想像通りかいなか。そこが重要だ」
思い出すのは巨乳を超え、爆乳に差し迫っていた某エルフ。
彼女の存在は私の中のイメージにあった『エルフとはベジタリアンな貧乳である』という常識をことごとく破壊してのけた。
そして、これから会うドワーフのイメージは?
端的に言うと背の低い筋肉質なヒゲもじゃである――男性は。
対して女性は、褐色ロリっ娘なイメージがある。というかあってくれ。
だけど、先日の件から油断しないのが異世界に来て一皮剥けた雪菜ちゃん。
もう美青年の爽やか系ドワーフが来ようとも、ヒゲもじゃで男と区別が付かない肝っ玉母ちゃん系ドワーフが来ようとも、ペースに飲まれない。
さぁ、どこからでも掛かってこいや!!
「ガハハハ! オメぇさんが依頼を引き受けてくれた冒険者か! 安心しろ! 少しキツい分、飲み物は好きに飲んでいいし、休憩時間も取ってやる! このバカ娘の手伝いを頼んだぜ!」
「オヤッさん、バカ娘はねぇじゃないか! オレはもう2――」
「バッキャ野郎! いつも母ちゃんが注意してんのに、んな格好してんからオメェに付けた新人が暴走するんだろうが!! 挙げ句の果てにケガさせやがって半人前! ちったぁ反省しやがれ!」
「分かったよ、ったく。おいアンタ、オレはマジェラってもんだ。素人なのは理解してんから多少のことでとやかく言わねえが、マジメに仕事しなかったら許さねえぞ!」
「あ、はい。了解っす」
「声が小さい!! それと名前は名乗れ!」
「了解しました! 雪菜と申しますサー!!」
結論から言おう。
イメージ通り過ぎた。豪快なところも含めて。
方や褐色肌で背の低いヒゲもじゃ筋肉質のオッサン、方や褐色肌で気の強そうなロリ体系の女の子――というか、女性。
それでいて、職人気質というか声が大きいのでテンションに付いていけないのが今の私。リリィ以上に会ったことのないタイプの人たちだから、最近鳴りを潜めていたはずのコミュ障な雪菜ちゃんが頭の中で「呼んだ?」とひょっこり顔を出している。
「早速だけど付いてきな! 鍛冶に必要なものはそこに置いてある」
「分かりました」
コミュ障な自分を頭の奥に押し込んでいる間にも事態は進む。
マジェラさんに付いていけば、そこにはテレビでしか見たことのない鍛冶場があった。違うのは巨大な炉が魔道具らしい点ぐらいだ。
そして、エミリーさんが困っていたこと、オヤッさんとやらが呆れていたこと、私が見て見ぬ振りをし続けたことに触れる時が来た。
「目ぇ守るためのゴーグルと……手袋や腕や首に巻く布も必要だな。最初はオレが色々準備している間に炉へ燃料をいれる作業だ。火は付けたから、あとはこのランプが光るまで燃料を入れな。熱いがそこは気合いで我慢しろ」
「……マジェラさんは良いんですか? その、格好的に……」
「オレらドワーフは皮膚が強いから多少の熱さはへっちゃらだ!」
(そこじゃねーーーよ!)
どうにも無自覚というか、さっきの会話からして自覚させようにも本人が意識していないその格好は、ある意味レーナさんの爆乳より背徳的だった。
(何で上がタンクトップ1枚なのこの人!?)
改めてマジェラさんの格好を見てみよう!
下はポケットいっぱい工具いっぱいの分厚い作業着。目を守るゴーグルをおでこに掛け、首にはタオル、手にはこれまた作業用の分厚い手袋をしている。
で、上は――白いタンクトップ1枚だけだ!
しかも、ちょっとブカブカしてるの! あと絶対ノーブラ!
(何で変な方向に性癖が刺さりそうな格好をしてんのさ!?)
エロいんだよ! 率直に言って!
角度によっては大事な箇所が見えそうで目に毒なんじゃ! 確かに困った人だよ! さっきすれ違った別の女性ドワーフは普通の格好だったもん! この人だけだよこんな格好してるの!
「おい、どうした。何かわからねえことでもあんのか?」
「な、何でもないっす……」
ちょっと屈んだ姿勢で顔を覗き込むのやめてもらえませんかね!
タオル無かったら服の隙間から丸見えになるんだよ!
女の私でも目に毒すぎる。これが男だったら狼になるぞ? 酔っ払いとかに絡まれないのか? 一周回って心配になってきた。
「それじゃあ、作業開始! どんどん燃料入れろ!」
「はいー!」
それから言われたとおりに燃料を入れる作業に取りかかった。
舐めてた訳じゃないけどクッソ熱いわ。ある程度炉の温度が上がってくると火花が当たり前のように漏れ出てくるから、異世界に来る前のお肌弱々なままだったら皮膚が爛れちゃう。汗で日焼け止めクリームも流れるがな。
「よし、オレは一旦休憩に入る。くず鉄やゴミの掃除をし終えたらオマエも水分補給と休憩を入れろ。何だったら外へ出て風でも浴びてこい」
「はい!」
私の方が何度目かの休憩(主に熱さに対する不慣れ)をして、ようやくマジェラさんも休憩に入った。
一人称は「オレ」だし、私以上に口が悪い――てかワイルドだけど、小まめにコチラのことを気に掛けているし普通に良い人なんだろう。
……そういや、もう1つ気になることがあったんだ。
掃除を続けながらマジェラさんに聞いてみる。
半ば嫌な予感を覚えつつ。
「そういえば、私が今日来ることになった原因の新人さん? どうしてケガをしたんですか?」
普通なら鍛冶の事故で~と考えるところだが……案の定な答えが返ってきた。
「あぁアイツか。昨日はオヤッさんの誕生日だってんで浴びるように酒を飲んでいたんだがよ? その新人が悪酔いしやがってな。『いつもそんな格好をして、オレのこと誘ってんでしょ!』とか何とか言ってオレに襲い掛かってきたんで顎を蹴り上げてやったのさ! 全く、初代国王様も『酒は飲んでも飲まれるな』って教えてんのに、情けねえことだ。だっていうのに、オレの方がみんなから怒られたんだ」
どうしてオレが叱られるんだと、的外れなことをいうマジェラさん。
……マジで狼になった男に襲われてるじゃねーか!
返り討ちにしてるけど!
変に難産だったわ。