第106話 心優しき悪人
新作短編の評価がすごすぎてヤバい。めっちゃ感想来た。
※最後の方は三人称です。
さて、報告が終わればあとは帰るだけだ。
ギルマスとの話を終えて冒険者ギルドの1階へ下りれば、何だかんだで見知った顔がちらほらある。
精力的にダンジョンを攻略し、大量の素材を提供する私は今や帝都の有名人だ。最初のように絡んでくるバカはもういない。
目立つのは今でも嫌いだが、全ては新・孤児院で待ってる子供たちのため。
成長期の子供の世話は本当に大変なのよ! 特に食費!!
アイテムボックスの容量すごいのとか隠す暇なんてないの!
「ユキナさんも、すっかり有名になったね」
「あ、レイブンさん」
人混みの中から、帝国での主要キャラ的扱いになったレイブンさんが出てきた。
『集いし光』の件から関わる頻度が多いんだよね。
「……好きで有名になったんちゃうわ」
「……知ってる。全部あの子たちのためだ。キミは、本当にすごいよ」
「いつまでも後悔しっぱなしの顔するぐらいなら行動に移したら?」
「移してるさ。あの“オサイセンバコ”ってのに余ったお金とか入れている」
“オサイセンバコ”ってのは、お賽銭箱の用途別バージョンだ。
新・孤児院の入り口付近に後付けで設置したもので、形はほとんどお賽銭箱なんだけど、お金を入れると滑り台の要領で孤児院の中に入ってくる仕組み。
『恵まれない子にアナタ方の金銭を!』がキャッチコピー。
私が有名になるのに比例して入ってくるお金も徐々に増えている。私が良く皮肉を口にするのもあって、大人たちの罪悪感を刺激する形だ。
ちなみに、“オサイセンバコ”にイタズラしようとしたクソガキには激辛麻婆豆腐をプレゼントし、盗人には全治1ヶ月パンチをプレゼントした。両方とも泣いて喜んだぜぇ?(暗黒)
「話が逸れたけど、ユキナさんに確認したいことがあって」
「確認したいこと?」
レイブンさんは周りを気にしながら小声で尋ねる。
「(……中層に辿り着いてしばらく経つけど、その、大丈夫か? 変な魔物とか、見たりしてないか?)」
「(ああ、そのこと)」
レイブンさんは危惧している訳か。
現在も中層で起こっている異常――『集いし光』が壊滅した原因が未だ健在で、ダンジョン地下50層にまで到達した私が遭遇しないかを。
………………
「(……今のところは大丈夫です)」
「(そうか。『集いし光』が壊滅したのを切っ掛けに、中層に行く冒険者はいなくなったから、この数ヶ月で原因がどうなったか分からなくてな。……ユキナさん。キミだけは絶対に帰ってきてくれ。キミまでもしものことがあれば、あの子たちはもう二度と立ち直れなくなってしまう)」
「(……死ぬ気はありませんよ)」
「(……『集いし光』が壊滅したのは地下68層だ。そこへは絶対に行かないでくれ。ギルマスも何か考えがあるみたいだから、それまでは絶対に!)」
「(……うっす)」
その言葉を最後に、冒険者ギルドを出る。
肩の重しが増した気がしながら。ちょっぴり罪悪感を持ちながら。
「ゴメンねー、レイブンさん」
私が、あの子たちを不幸にした原因を放置するはずがないんよ。
こっちには『ヘルプ』ってチートがあるんだから。
「地下68層には行かないよ。行くのは……地下55層だ」
ウソはついていないけど、本当のことも言ってない。
原因が階層を登っていることも含めて。
「絶対に――倒す!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ユキナさん! おかえりです!」
「あっ! ユキナ様おかえりなさい!」
「ただいまステラー。蒲焼きの素材ゲットしてきたぜー」
はい、着きました新・孤児院。
ギルマスへの脅s――ゲフンッ!――ギルドからのご厚意で窓がはめられたことで、より家らしくなっております。トイレその他もあるよ。
で、裏庭に気配がしたので見てみれば、大量の野菜を抱えるステラと子供たちが。収穫の真っ最中だったのね。
「おーおー、今回も大量だな」
「おかげさまで。保存の利かない余りそうなものは残して、明日の朝収穫して市場へ売りに行こうかと」
「孤児院産の青果物の需要も伸びてるし、今回もボロ儲けだぜ」
稼いだお金も貯まってきたな。
そろそろ新しい古着でも一着ずつ買い揃えるか。
「それにしても……」
ステラが裏庭を見て、その口元が引きつる。
「私のスキルながら、便利なものの恐ろしいですね」
「あー、うん。ユニークスキルの相性と組み合わせの結果がすごいね」
現在、新・孤児院の裏庭は……ジャングルみたいになっております。
(野菜や果物には困らないようにと、準備させたけど……まさか余って売れるだけの生産が可能とか予想外っすわ)
こんなことになった原因は、私が新・孤児院建設に忙殺されている間にステラにしてもらってた裏庭へのユニークスキル使用によるものだ。
『〈ユニークスキル:恵みの雨〉……恵みをもたらす力を持った雨を降らせることができる。範囲・量は魔力量に依存』
『〈ユニークスキル:豊穣たる大地〉……土を作物が育つのに理想的な状態に変化させる』
この2つのユニークスキルの相乗効果がエグかった。
ステラにしてもらったのは『豊穣たる大地』で土起こししてもらったあと、今ある分の野菜や果物の種、もしくはジャガイモなどを埋めてもらう。準備ができたら『恵みの雨』を裏庭に降らす、以上だ。
言葉にすれば簡単だけど、その効果はご覧の通り。
『恵みの雨』は発動すると上空に雲ができて、そこから雨が降るんだけど、結構魔力を持っていかれるようで今のステラにはキツイとのこと。
それでも「子供たちのためならば!!」と粉骨精神でがんばったら……数日でジャングルのできあがりだよ。ステラも自分の力に引いたよ。私のやらかし具合が感染したかと思ったよ。子供たちは大歓喜だったよ。
結果オーライだけど変な奴に目を付けられるかもって、しばらくは何を聞かれても知らんぷりするというのが決定した。
「そういえば、今日は『集いし光』のホーム跡地にみんなで献花しに行くって話だったな」
ホーム跡地は現在も冒険者ギルドの管理下にある。
子供たちが大きくなって、もしも買い戻したいと思ったら~と、そういうわけだ。大人になって責任とかお金の管理ができるようになったら、格安で売るつもりらしい。そのお金だって、その時までの維持管理費がほとんどだ。
10年後を目安に取り戻してほしいところ。
「はい。プリミラちゃんが献花用のお花を誰かにあげちゃったこと以外は問題なく終わったそうですよ?」
「誰かって誰やねん」
家族(故人)よりも知人ですらない他人にあげたのか?
あの子の感性は独特だし、話を聞いてみるか。
「プリミラいるー?」
裏口から新・孤児院へ入り、プリミラを探す。
「おー、ユキナ、おかえり。どうした?」
「ユッキーナおかえりでっす!!」
見れば、リビングにあるテーブルで文字の勉強をしてたらしいリルとプリミラを含む幼年組が揃っていた。
今更だが、リルは野生児だ。
文字? 数字? そんなことよりカレー!な残念娘だ。
龍の爺さんの願いはリルに外の世界を学んでほしいこと。
さすがに文字も数字も碌に知らないんじゃ話にもならんと、落ち着いた頃に幼年組に混じらせて文字や文法、足し算引き算を勉強させている。
もちろん最初は嫌がったけど、こればかりは心を鬼にしていかないと甘えが出そうだから厳しくしておくとステラとも話し合った。
まあ、その日の勉強をがんばったら次の日の食事の量が増えると囁けば、目をランランとさせ机にむかったんだけど。
この子チョロすぎないっすかね?
「何度も言うけどユ・キ・ナ!だよ。いい加減覚えて」
「はいー」
あ、これダメな返事だ。翌日には忘れてるわプリミラ。
「でさ? 今日プリミラの家族にあげる予定だった花を誰かにあげたって聞いたんだけど、誰かって誰よ?」
「お母さんっぽい人でっす!」
「ん? お母さんぽい? どゆこと?」
聞いたところによれば、プリミラのお母さんは口数の少ない落ち着いた女性だったようで、ホーム跡地に向かう最中、裏路地に似た雰囲気の人がいたからついつい近づいてしまったとか。
何やらその女性(?)は酷く悲しんでいたので、持っていた花を渡して元気になって!と言ってから返事も待たずに分かれたらしい。
「……お母さん、好きだった?」
「優しいっ! いつもプリミラのこと考えてたでっす!」
「そっかー。でも、1人で裏路地に行ったのは感心しないな。みんなも心配するだろうし、今度は気をつけるんだよ?」
「はいでっす!」
うむ。今度はちゃんと理解した時の返事だ。
何だろ? 上手く言葉にできないけど、今日はプリミラの好きなもの食べさせたい。よし、夕飯はハンバーグに決定だ。もちろんデミグラスソースで。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ほとんど人通りの無い裏路地。
その一角にポツンと、マントを羽織った人間がいた。
「……」
いつからこうして何もせず立ったままか。
手に持った貰い物を渡されてからだろうか。
その人物にとって、手に持つそれの存在が、やけに眩しく見えた。
「ここにおられましたか、顔の仮面様」
呼ばれた名称に反応して振り向く。
そこにいたのは自分の――正確には組織の部下だ。
「時間になってもお戻りにならないからと探して参りました。ここはまだ人目に付きます。移動しましょう。さ、お早く」
急かす部下にその人物――顔の仮面は重い足を進めようとし、しかし途中で止める。
「………………恩は――」
「はい?」
「……恩は、返すもの。それが、大きければ大きいほど」
「あの……」
「だよね?」
部下の男は戸惑った。
そもそも魔王教団幹部である顔の仮面が自主的に話をすること自体、とんでもなく珍しいことなのだ。その内容が脈絡の無いものなら尚更。
なので、自分の感性で答えるしかない。
「それは、そうでしょうね。我々の住む世界でも果たすべき義理と呼べるものもありますし、大恩ならば尚更かと……」
「……そう」
おかしな空気が周りに流れる中、顔の仮面は歩き出し、部下の前を通り過ぎる。慌てて部下もその後を追う。
「……最近、変わった子と会うな」
しばらく前に出会った謎の白い少女。
本来であれば組織に報告すべき事柄なのに、どうにも話したくなかった。あの時起きたあり得ないはずの現象も含めて。
そして、今日偶然にも出会った幼女。
『お母さんみたいな優しい人! 元気出してくださいでっす!!』
「……」
あの言葉が自分にどれだけ響いたのか、件の幼女には分からないだろう。
だが、自分のやるべきことは決まった。
顔の仮面はその手を握りしめる。
幼女から貰った花束――雪菜のいた世界で『エキナセア』と呼ばれる花によく似た品種を。
【エキナセア】
別名:ムラサキバレンギク
花言葉:「優しさ」「深い愛」「あなたの痛みを癒します」




