第104話 聖女らしい交渉
本当なら昨日更新のはずが頭痛で今日に……
「ユキナさん、この度は本当にありがとうございます」
「「「「「ありがとうございます」」」」」でっす」
私の目の前で深々と――それこそ年長組は角度的に腰大丈夫?と聞きたくなるぐらい――頭を下げる子供たち。
リルの反応から私に気付いた瞬間にコレだ。
隣にいたプリミラとやらも急いで並んで頭を下げている。
ちなみに、リルは心の傷が響くのか茜色になってきた空を腐った目で眺めてる。ステラはその付き添いだ。根が良い子な野生児への精神攻撃は無視できないぐらいにはダメージが大きい模様。今後の常識教育が難しくなった瞬間でした丸。
「……気持ちは受け取っておくからさ、いい加減頭を上げなってば。現状に憤りを感じて見過ごせなかったから勝手にしただけで、別にお礼を言って欲しくて孤児院を作ったわけじゃないんだし」
「でも……」
「あ、そういえばステラにお金がどうこう聞いたらしいね? ダメだよ。今のキミらの状況は本来受けるべきだったことであって、むしろ遅れた分帝国が慰謝料支払ったって良いぐらいだよ」
マジで慰謝料――もとい、責任取って欲しいわ。
王国ではクラリスなどの王族と、聖国では教皇一派と仲良くなったけど、帝国の上の奴らとは仲良くしたくない。
この子たちがあんな酷い状況になるまで放置した奴らが目の前に来たら、一気に感情が振り切ってぶん殴っちゃう自信がある。
帝国側も色々言い訳するかもしれないけど、そんなこと知らん。
自分とこの貴族の暴挙も止めず、あまつさえ責任を取らせず、改善策も出さず、あんな姿になるまで放置した奴らなんざ関わりたくもない。
『オマエらが薄情で無能だったせいで子供たちが死にかけた』これが全てだ。
尚、このオマエらの中には帝国の市民&冒険者も含まれている。
賭けてもいいけど、これが王国や聖国で起こったことなら上の人間の判断がどうであれ、もう少しマシな状況になってたはずだ。ギルドとかで預かってる間に簡易の――それこそ寄せ集めのオンボロでもいいから家を作れば雨風寒さを防げた。『塵も積もれば山となる』という言葉があるように、全員でちょっとずつ何かを出し合い続ければ痩せ細ることだけは無かった。冬の間だけでも特例措置なり取って子供でも働けるようにしておけば、その賃金で必用なモノを買えた。
周りさえ良ければいくらでも改善できたんだ。
レイブンさんやギルドマスターはマシな部類だろうけど、あくまでそれだけ。
厳しい意見だし、私が地球の日本で生まれ育ったのもあるけど、子供たちの姿を見てその程度しかしようとしないなんて信じられない。
どうしても理屈より感情が先に来ちゃうよ。
(心の底からほっとけないって気持ちが出てくる、声を掛けずにいられない……古本屋の爺さんが言ったとおりだな)
かつての、暗かった頃の私に声を掛けた爺さんがそうだったらしい。
まさか異世界で実感することになるとは思わなかったけど。
懐かしいな。暗くて、ネガティブだった頃の私か……
確か……確か? ――あれ? 全然思い出せないぞ? ちょっと前までは普通に思い出せたと思うんだけど、やっぱ異世界の目白押しイベント&ハプニングで上書きされたっぽいな。実際、私もこの子たち程でないにしろ割と死にかけてるからな! こうして思い出すと本当に運が良かったな! しかもこっちに来てからがんばりすぎじゃね私!? 昨日は本気で過労死しそうな仕事量だったんだからな! あーもう! ちょっとムカついてきた!
こうなったらっ……!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「私が苦労した分の倍はギルドも苦労するべきなんだよ」
「そういう話に行き着くのかよ……」
こちら現場の雪菜ちゃんでーっす。
ただいま2度目の冒険者ギルド突撃を実行して対面していますのは、たった1日で随分と疲れ果てたご様子のギルドマスターであるゴルガーさん。
「声が漏れてるぞ。そして誰のせいだ誰の。一夜にして孤児院があった場所にデケぇ木の家が建ってたもんだから、街中が軽いパニックになってギルドが対処に追われ。聞き込みに言ったら、お仲間の金髪美少女にド正論と一緒に笑顔で毒吐かれて退散。こっちの気も知らずに市民からまた質問攻め。トドメにオメェさんがやって来て、メンタルブレイクからの要求だ。オレは今、胃薬が欲しい」
どうでもいいわ。私の苦労に比べちゃ軽い軽い。
「で? 金とか道具とか人材とか出すの? 出さないの? 出さないなら出さないで良いよ? その場合は心苦しいけど、王族と教皇に手紙送って最低限の支援と帝国への遠回しな抗議すんぞ? ゴルガーさんの立場微妙になるかもよ?」
「完全な脅しじゃねぇか。聖国はまだしも、何で王国の王族とのコネがあるんだよ? あそこの王族は金や金品に興味ないはずだが……」
「王女の友達で命の恩人。それが私」
「全部理解した」
困ったことがあれば是非!って言ってたからできるジョーカーだ。
「別にいっぺんに出せって言ってるんじゃないよ。無視してきた冒険者や市民からほんの少しずつ金を毟り取ってほしいんだって」
「そのセリフだけ聞くと完全に悪役だぞ?」
「ついでに、新・孤児院がいきなり建ったことに対する帝国の上の人間からのアレコレは当然対処してくれるでしょ? 私が帝国を去るまでの間に、信用できる人を孤児院長に任命してくれるでしょ? するよね? できるよね? しろ」
「何度も言うが脅しだぞ。オマエ本当に聖女か?」
文句は聖女認定したこの世界に言えや。
あと変なこと言うな。これで『称号:恐喝聖女』とか出たらどうすんの。
「とりま、窓・キッチン・トイレ関係はすぐ用意してほしいな」
「そう言われても……どこから金を抽出するか」
「あるじゃん。この部屋にいっぱい」
魔物の顔の剥製とか、実用性皆無のゴテゴテ装飾の剣とか。
「おい、まさか、歴代のギルドマスターが就任と同時に飾ってきたコレらのことを言ってるのか? どれも歴史があるもので……」
「王国・聖国のギルド長室はどちらもゴチャゴチャしてませんでしたが?」
ユーフィリアさんのギルド長室は鳥の置物と大きなお菓子入れぐらいしか私物は無かったし、1度だけ挨拶に行った冒険者ギルド聖都支部のギルマス(優しそうなお爺ちゃん)の部屋にもせんべい入れしかなかったというのに、この部屋の雑多さよ。
というか、金になりそうなモノあるじゃねか!! 昨日の時点で冷たい対応になった理由がこれだよ! 歴史的どうこうなんてドブに捨てろや!
「だけどな……」
「それとも――自宅のタンス裏にあるへそくりから出しますか?」
「なぜそれを知っている!!?」
ヘルプです。
「1つか2つ売るだけで済むギルドの備品と、ゴルガーさんの個人資産。どっちから出してもいいんですよ? ちなみに、私の口は酒場で一気に軽くなる傾向があります」
「丁度模様替えでもしようと考えてたんだ。今まで手を伸ばさなかった子供たちのためだ! ギルドは可能な限りの支援をしよう!! 先代ギルマスの顔が何だ! 他の職員への説明はオレがする!」
「アンタ結構俗物だろ」
適度にムチを入れないと無自覚に腐る奴だコイツ。
余談だが、先代ギルマスが老害化していた影響でうるさかったんで『出張ユキナちゃんお化け屋敷♪』を急遽開催することになった。見事先代さんは引きこもりになりました。日本のホラーはねちっこいのが多いからなー。とりあえず、『リ〇グ』は異世界でも偉大だったと言っておく。
そうして新・孤児院のアレコレや子供たちの生活基盤を整えていく内、あっという間に1ヶ月が過ぎていったんだ。
時系列としては、このあとが第91話の話となり、その次が次話となります。
少し短めですが、区切りの問題とテンポの悪い文章を削ったらこうなりました。お化け屋敷云々は閑話でやろうかな?




