第103話 やめて! 雪菜の女子力はもうゼロよ!!
クッソ重い目を開ければ、木の天井が目に入る。
「知らない天井だ」
このネタ言うの何回目だっけ?
本当に見覚えがないから口から自然と出たわけだけど。
王国と聖国でも言ってたよな。帝国でもこれだと、1国で1回言えという謎ノルマが発生するのか? イヤだぞ。同じ鉄板ネタは間隔を空けないとダレてくるんだ。見てる人が白けた空気になったらネタを振った人は死ぬ。精神的に。
「ユキナ!? 起きたか!」
「ん? おーリル、おっはー」
何とか上半身を起こし、声のした方向を見れば、リルがこっちに向かって突撃し――ちょっと待てデジャブ!! リルさん!? やめて! リリィのロケットダイブでも病み上がりの体に負担だったのに、リルにそれされたら死んじゃう!! あっ、体が思うように動かな――避けられな――ちょ、誰かお助けーーー!!(思考加速中。ここまで2秒)
「良かったユキナー!!」
「げぼぉおおっっっ!!!??」
リル の ロケットずつき !
防御ダウン の 雪菜ちゃん に クリティカルヒット!
効果 は ばつぐんだ!
雪菜ちゃん に 9999のダメージ!
雪菜ちゃん は 女子力 を 落とした。
雪菜ちゃん から 涙 が 落ちた。
雪菜ちゃん が 意識 を 手放した。
GAME OVER !
「……? ユキナ? ユ、ユキナー!」
……リル、起きたらシメル。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『おぉ雪菜よ! 死んでしまうとは情けない』
「そのメガネごと油圧プレス機で潰すぞ?」
『発想が怖い!?』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ご無事ですかユキナ様?」
「ステラ……うん、無事。美少女の膝枕で元気一杯」
本日2度目の起床。
このパターンは初めてだな。
目を開ければ、今度は天井ではなくステラの顔があった。感触からして膝枕されているのが分かる。これが思春期男子なら、一生分の幸運を使い切ってでも体験したいシチュエーションだろうなー。
あーしっかし、すっげー嫌な夢を見た気がする。
例のクソメガネ神が白色のキリスト風衣装を着てウザかったような……あと少しでプレス機の餌食にできたのに。
「今、何時頃?」
「もうすぐ夕方ですね」
うぐぉ……超寝てたじゃん。
休憩無しでバカみたいに作業していたとはいえ、こんな時間帯まで寝たの初めてだわ。体内時計が狂いそう。
「で? チミは誰だね? 見覚えあるけど」
「プリミラでっす」
実はステラ以外に私のことを覗き込んでいた幼女が1人。
あの子供たちの中でも年少で、大きなクリクリ目が特徴の子だ。そうか、プリミラっていうのか。何か独特の雰囲気がある子だな。
「ユキナ様が目を覚めるまで、あの子たちが交代交代で様子を見に来ていたのですよ。皆さん、ユキナ様に感謝しているんです」
「そう……あんがとね」
「はいぃっ!」
うん。やっぱ子供は元気が1番だな。
「あ、そういや昼飯は――」
「私が屋台のものを買っておきました」
「さすがステラ。……ふぅ、あーよいしょっと!」
バキバキに凝った体をほぐしながら起き上がる。
今、私がいるのは大まかな区切りとして作った1階にある女子部屋だな。扉も何も付けてないからプライバシーもクソも無いけど。
ちなみに隣が大人用の部屋(未来の孤児院長&スタッフさん用)で、そのさらに隣が男子部屋だな。
私が作ったのは外装だけだから中身なんて無いスッカラカン状態だけど、扉さえあればすぐに部屋割りができるようにしてある。といっても個人の部屋じゃなく、あくまで同性同士が集まるための小さな部屋ってだけなんだけどね。
やっぱ必要だと思うんだよね。ほら、お風呂も無いから体を拭くためのスペースの問題とか。同性同士じゃなきゃしにくい話し合いとか。
1階にあるのだと他は大部屋と調理室ぐらいだ。リビング&キッチンもいう。この2つは区切られておらず繋がっている。
尚、寝る場所もここだ。
余程のことがないと孤児院は雑魚寝が基本だし。
2階も作ったけど――ぶっちゃけ、階段が無い。そこまで作る気力も時間も無かった。なので2階へ上り下りできるのは明日以降となりますってね。今はただ階段を作るためのスペースと、その上の天井に穴が開いているだけ。階段は丈夫に作らなきゃだし、子供用の工夫も必要だ。事故、ダメ、ゼッタイ。
(あとで窓も設置して貰わなきゃ。それ以外も)
今は適当に開け閉めできる蓋で塞いでいるから冬の冷たい風は入ってこないけど、業者に依頼して設置してもらわな。
……窓っていくらぐらいだ? あとで考えるか。
それと必要なのが明かりを点ける安い魔道具とか、キッチンに必要な器具とかだな。この辺は継続的に使えるようお金との兼ね合いなどもあるから、詳しい人に相談するのが良いだろう。ギルマスに聞けば信用できる人も紹介してくれるはず。というか、しなかったら股間を蹴り上げてやる。
そんなこんなで、ヨタヨタしながらリビングに到着。
すると、そこには――
「リルさん、何度も言うけど疲れてる人にぶつかりに行くのは良くないよ。白目剥いてて……死んじゃったのかと思ったんだから」
「ハイ」
「ユキナさんの呻き声がこっちにまで聞こえてきて、ビックリしたもん」
「ハイ」
「今のみすぼらしい姿のボクらが、ユキナさんの仲間であるリルさんに言うのは納得できないかもしれないけどね、もう少し落ち着きを持とうよ。リルさんにも感謝はしているけど、こういうのは……年の近いボクらが言うしかないし」
「ゴメンナサイ。モウ、シマセン」
正座をさせられ、目から光が消えたリルがいた。
ご丁寧に首から『私は疲労困憊状態のユキナ様に頭突きをしました』と書かれた木の板をぶら下げている。
「………………何コレ?」
「見ての通りです。反省させています」
「ステラ怒ってた! 笑ったままで怒ってたでっす!」
「当然です。皆さんと一緒に屋台の食べものを食べていたら、ユキナ様の断末魔とリルの悲鳴が聞こえ、慌てて駆け寄ってみればどうです? 驚いた表情のリルと、もう……その……女性として、あんまりな顔で気を失ったユキナ様が……」
「ステラさん? 断末魔って何? 私、生きてるよ? ギリギリだけど生き残ったよ? それと、あんまりな顔ってどゆこと?」
「白目で、よだれダラダラで、ひっどかったでっす!!」
「おっとぉ……? 知らない間に女子力が想像以上に落ちてるな」
ステラから女性としてあんまりな顔認定された気絶顔とは一体? 少なくともプリミラの証言通りなら確かに酷いな。
「それで、私がユキナ様の面倒を見る間、皆さんにはリルをしっかり叱ってもらうよう頼んでおいたんです」
「その結果が……アレか」
子供たちはリルに対して嫌悪感を持っている訳じゃ無さそうだけど、懇切丁寧に、私がやって来ても気付かないぐらい集中して説教しているからか、リルの目からハイライトが完全に消えてる。
野生児のリルはこういう精神的にくる類いのアレコレはキツイんだろうな。私とか怒ったことはあってもシュンとするだけで、大したことはなかったし。
本当なら罰として夕飯抜きにするぐらいはしようと思っていたけど、
「……」
ハイライトの消えたリルと目線が合う。
奈落の底に引きずり込まれそうなその瞳と。
「よし、許そう」
ここで「晩御飯抜きね」など言った日には、リルがどうなるのか予想が付かない。というか、予想したくない。
さすがの私もそこまで鬼になれませんよ。
~あとがき劇場~
アロハ神「よっすー! 元気にしてたKA? うん? 元気ない感じ?」
メガネ神「例の少女に、プレス機で押しつぶされそうになる夢を見てね。まだ、動悸が……」
アロハ神「お祓いでも行ったRA? 世界観違うけど」




