第101話 現実的な問題
1週間足が痛いのは堪えますね……
ガリガリの子供たちを見つけてから、何やかんやで数十分後。
最低限その場でしなくてはいけない用事を済ませ、ステラには1度も使う機会の無かったいくつかのユニークスキルの使用を、リルには年の近い子供だからこそできるだろう話し相手をしてもらっている。
ぶっちゃけステラはまだしも、リルだけハードル高いなーと思ったりしたけど、当のリル本人が「何かしたい」と願ったために仕事を振った形だ。やっぱり同年代の子たちが死んだ目になっているのは優しいリルとしても我慢できなかったんだろうな。ホント良い子に育ってくれてたわ。龍の爺さんもだけど、剣二もあの世で嬉し泣きしてそうだな。いや、知らんけども。
そんな2人ががんばっている中で私が何してるかって?
とある野郎の元へ向かって走ってるんだよ……!(迫真)
思えば私ってどこの国の首都でも走ってるよねー。
王都では誘拐犯からリリィを助けるために爆走。
聖都では事故で死にかけのステラを助けるために大爆走。
東京ではバスの中に忘れた傘を回収するため必死の追走。
で、今回だ。たぶん今後も走るでしょう。
そうしてついに目的地――もとい目的の人物を発見。
場所は冒険者ギルド。その酒場。
ソイツは仕事仲間らしい男たちと談笑していた。
「ハッハッハ! そいつはぁ疲れただろうな!」
「ま、生きの良い冒険者は歓迎だぞ?」
「しかし、あの獣人の子供と一緒にいた女がねー」
「なぁ? 他にはどうだったんだ? 特に武器の性能とか」
「ノーコメントだ。すぐに分かる程度のことならまだしも、それ以上の情報を第3者が他人に教えるのはマナー違反だって知ってるだろうに……とにかく、今日はもう上がるぞ。早めに帰って妻に夕飯の量を多くしてもらう……ん、だ……」
と、向こうもこちらに気付いたらしい。
ソイツを――案内人のレイブンさんを見つけてニッコリ笑う。
「元気そうで何よりですね~レ~イブ~ンさ~ん?」
ゆっくり、ゆっくり、近づいていく。
「ユ、ユキナさん? どうか、しました……か?」
たぶん元・冒険者としての警報でも鳴っているのだろう。レイブンさんの顔色が悪い。そして、その認識は正しい。
「あぁいえ、ね? ダンジョンで中層は危ないから気をつけろみたいな話があったじゃないですかー?」
「し、したね」
「その時、全滅したパーティーの話もしたじゃん?」
「うん。したね……」
「良い奴らだったって、悲しんでましたよね?」
「してました。それが、なにk――」
たぶん、レイブンさんにも言い分があるんだろう。
それでも我慢できないので行動に移す。
「――その子供たちが住む所も金も無くてガリガリってどういうことじゃああああああああああああああいっっっ!!」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」
「「「レ、レイブーン!?」」」
私の足がレイブンさんのゴールデンボールを見事に蹴り上げた。
汚ねえ悲鳴がギルド内に響いたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
場所は変わってギルド長室。
お茶の用意をした秘書さんも出て行き、ただいま3人でお話中。
「で? いい訳はあるか」
「反省はしてるけど後悔はしていません(キリッ!)」
「反省もしとけ、バカ野郎」
「ユキナさん、今後オレの息子が機能しなかったらどうする気です?」
「私は一向に構わん!!(キリッ)」
「そこは心配しとけよこの野郎が。……さっきから何でキメ顔なんだ?」
本当に自分のしたことに後悔してないからっすよ。
今この部屋にいるのは納得するまで出る気はないぞって気迫の私、内股でちょい涙目のレイブンさん、そして冒険者ギルド帝都支部のギルドマスターであるゴルガーさんの3人である。
てか、相変わらずこの世界のオッサンってゴツい名前だな。
んだよ、ゴルガーって。幼少時とか苦労しないの? 何で親も親でウルトラ〇ンに出てくる怪獣みたいな名前を我が子に付けるんだか。
いや、現時点では似合ってるよ?
なんやねんあの腕の太さ。私の胴回りと同じっておかしいだろ。
「……以前、王都のギルマスから魔道具で聞いたが、オマエはギルドで騒ぎを起こすのがお決まりなのか?」
「ちゃうねん」
レイブンさんの息子(意味深)に特攻を掛けたあと、詳しいことを話してもらおうとすれば「レイブンが何をしたー!」と怒って襲ってきた冒険者たち。私は私であの子たちのことで怒りにきていたから「来いやーーー!」とケンカを買ったわけだな。
おかげで少しクールダウンしたけど、続いて出て参りました額に怒りマークを付けたギルマスの登場に大人しく連行されることにした雪菜ちゃんでした、とそんな話で今ここにいる。
「というか、王都のギルマスから私のこと聞いたって?」
「そういう魔道具があるんだよ。使い勝手は良くないから滅多に使わないがな。しばらく前のギルマス同士の報告会の時に“トラブルメイカーの新人が入ったから注意してねー”って内容があったんだよ。オマエのことだろ、王国の冒険者ユキナ=ナガセ? 昨日の時点で報告は受けたが、早速トラブルを起こすとは予想外だったがな」
私の脳裏に“ねー”なギルマスことユーフィリアさんの顔が浮かぶ。
(ちゃんと根回しみたいなの出来たんだ……)
ちょい失礼かもしれないけど、そういうの不得意なイメージがあったわ。
イメージのユーフィリアさんが「ちゃんとギルマスとしての仕事はできますー!」とプンプンしていた。いや、勝手にイメージが怒るなし……
「それで? 何を怒ってる。騒いでた時に吐いていたセリフからおおよその予想は出来るが、改めてオマエさんの口から聞きたい」
ひとまず、私からの意見が聞きたいらしいゴルガーさん。
レイブンさんもそうだけど、このひとも基本は良い人っぽいんだよな。
なのに、なんで……
「何で、ダンジョン中層で全滅した大規模冒険者パーティーの子供たちが、あんなになるまで放っておいたんだよ……!?」
「ユキナさん……」
「はぁ~……やはり、その件か。どうやって知った?」
「私の仲間が偶然見つけた」
私はここへ来る前のことを思い出す。
ガリガリに痩せてしまった子供たちの正体が、レイブンさんから聞かされたダンジョン中層で全滅したという冒険者たちの子供だとわかり、ひとまず子供たちの腹を満たすためあり合わせのものでお粥モドキを作りながらステラにダンジョンへ行っている間のことを聞いた。
経緯自体はそこまで複雑なものじゃない。
魔王教団に注意しながらも、買い出しと帝都にある店の下調べをしていたステラとリル。適当に昼食も終え、あとは帰るだけだったそうだが……
気配に敏感なリルが気付いてしまったそうだ。
ステラに買ってもらった屋台の食べ物を羨ましそうに見つめる自分と同じぐらいの、それでいてやけに痩せた子供の姿を。
子供の方はリルに見つかった途端に逃げたが、好奇心――とは違う心配な気持ちからリルが追い掛け、そのリルをステラが追い掛けた。
そうして辿り着いて見つけたのが、あの子供たち。
「私だってさ、こういう世の中なんだからあの子たちみたいな子がどうやったって出ちゃうのは、しゃーないって分かってんのよ。聖国にいた頃だって、事故や事件で親を亡くした子に会って話をしたこともあるし。だから、そこまでは良いのよ。そこまでだったら」
「……聖国の聖女様は優しいねぇ。ちゃんと現実との折り合いを付けた上で優しさがある。たまにいる理想だけのアホとは大違いだ」
「……その反応、やっぱりある程度は事情知ってんのかよ」
あー、やっぱ聖国でのこともある程度は情報が入ってるのか。まぁ当たり前だわな。アルビノの特徴持っているのは異世界で私だけだし。
隣に座っているレイブンさんがギョッと目を見開いて「聖女? え、聖女ぉおおおっ!?」と驚いてるのはお約束のパターンだな。
ま、私が聖女だと知っているのはどうでもいい。
「もう面倒だから単刀直入に聞くね」
私が怒っているのは別のことだ。
「何でそれまで子供たちの住んでいたギルドホームが無くなってんだ? 何で子供たちを保護すべき孤児院が取り壊されているんだ? 何で……何で、あの子たちの状況知ってて誰も助けてやらないんだよ!!」
『〈ヘルプよりお知らせ〉……熟練度が一定に達しました。スキル:威圧(中)を習得しました』
私は殺気を押えられてるか? 答えは“否”だろう。
部屋の中がピリピリしている。レイブンさんは顔を青ざめて、正面のゴルガーさんも表情こそ変えていないが汗を流してる。
聖獣の森に住むユニコーン共に1度怒り狂った経験が無けりゃ、目の前のテーブルに拳を振り下ろしていたかもしれない。
「………………オレも、ギルマスとして何とかしてやりたい気持ちはあった。オレだって、あの子たちの親には、『集いし光』の冒険者たちには世話をしたことも世話をされたこともあるんだ。普通だったらとっくに手を伸ばしてる」
『集いし光』というのは件の大規模冒険者パーティーの名だ。
ずっと昔からある“冒険者をしながらの安定収入”を目的とした帝国で唯一大規模のパーティー。決して無茶はせず、現時点で最もパーティーに適した狩り場で生計を立てていたらしい。先程、ヘルプで確認したことだ。
ちなみに、ホーム――彼ら『集いし光』の活動拠点と、そういった子供たちのためにあるはずの孤児院が無い理由もヘルプに聞いた。
くそったれな回答だったよ。
あとで知らせるステラがどう思うか……
「じゃあ、何でそうしないんだよ」
「単純に人数が多い。ホームも孤児院も無い以上、完全に1から面倒を見なくちゃならねぇ。これが1人か2人だったら、とっくにギルドか信用できるもんに預けてる。援助金だって国も渋りはすれど出すさ。だが、実際の人数は12人。それもほぼ同世代でまだ子供だ。しかも、全員が兄弟のように育った仲のな」
「……分かるよ。仲間が見つけた時も、ほとんど無意識でお互いがお互いを守ろうとしてたらしいから」
問題の1つは、あの子たち同士が決して他人ではない関係である。これにつきるんだろう。
“見捨てる”とか“別々に生きる”って選択肢が無い。
皮肉な話、道徳観念もしっかり教育されてたから盗みなどの行為もせず、歩いて行ける距離にある安全な場所で食べられるものを少しだけ取って暮らしていたらしい。お金が欲しくても、子供に任せられる仕事なんてそうそう無い。雨風をしのげる場所もマトモに無く
「オレらだって……生活がある。仮に施しをしても12人で分ければ1人当たりは小さくなる。ダンジョンで命掛けて素材や肉類を提供するにも、持って帰れるものに限度があるし、自分たちの時間や労力を消費することには変わらない。アイテムボックスのスキルを持っている奴は大抵貴族のお抱えになっているから協力の要請も難しい。一部の善人が無いよりマシだろうと施しをして、どれだけ足しなる? その施しを分けることが出来なかった奴にどんな顔をすればいい? 仮にオレが2人ぐらいギルドで保護しようとして、残りの10人はどうなる? オレは想像するのも嫌だぞ」
助ける側のジレンマだな。
助けたくないわけじゃないけど、現実的に厳しい。
しかもゴルガーさんの今言ったのは実際に行うと最悪だな。根が良いからこそ、選ばれなかった子の自分を見る顔を想像するだけで良心がガリガリ削られていくんだろう。私だってちょい想像しただけで胃の辺りがキュッてなるもん。
「国――帝国には相談した?」
「そこまで面倒みきれないそうだ」
「帝都以外、いっそ他の国の孤児院へバラバラに移すとかは?」
「もう連絡した。帝国にある孤児院はどこもカツカツで、下手に人数を増やせねえ。他国へ人数をバラして送るのも現実的ではあったが……」
「が……?」
「当のあの子たちが一緒じゃなきゃヤダってよ。会える時に会えないなんて、と泣き出す始末だ。もう両親の時のように、信じて待っていたのに2度と会えないかもしれないってのが心の傷になってやがる」
「トラウマか……」
何十人もの大所帯が帰らずに自分たちだけになったら、そりゃ残された同じ境遇の子と離ればなれになりたくないよなー。
てか、それでいくとギルドで2人まで保護するって例えとか絶対に無理じゃん。選ばれた側も拒否るのが目に見える。
「……オレも、最初の頃は何とかしようとしたんだ」
いつの間にか俯いていたレイブンさんがポツリと零す。
「だけど、オレができることなんて焼け石に水だ。他の国と違って、帝国には他人を気遣える余裕のある奴は少ないんだ。今回の件だと帝都にいる全員が協力し合えば何とかなったかもしれないけど……みんな、そこまでやる余裕は心も金もどっちでも無いんだ。オレも何だかんだと言って自分の家庭を守ることが1番なんだよ」
「そっか」
レイブンさんも何とかしようとしてた側だったか。
息子(意味深)の件は後日謝ろう。
けどそうなると、結局最初に決めたとおりになるのか。
ステラとリルの笑顔のためには仕方ないけどさ。
「そういう訳だ。オメェさんも思うことはあるだろうg――」
「あ、もう私の中で全力で助けるの決定なんでそれ以上はいいです」
「「………………ん?」」
何言ってるのん?と言いたげな2人に本当の現実を教えてやる。
「溜めておいたチートってのはね、こんな時に使うのが正解なんですよ」
さ~って、ラノベ系の最強主人公みたいな活躍しますか!
目指せ! “え? 私、なんかやっちゃいました?”シーン!!
作者個人は件のシーンは嫌いだったり(え?




