第100話 ダンジョン④ + 異世界でありふれた悲劇
先週は夏風邪でダウンしてました。
『蜘蛛屋敷』の方も更新してます。
王のダンジョン、地下20階。
そこで本日最後の戦いが終わろうとしていた。
「チャージ!」
「ギャウ!?」
炎獄のハルバードに魔力を込める。
狙いは盾を構えたシールド・ゴブリンという魔物。亜種ゴブリンって奴だな。
どうでもいいけど、その頑丈そうな盾とか腰に差してる剣ってどこで手に入れたん? ……何々ヘルプさん? え? 最初から? どんな生態やねん。
「4番バッター雪菜ちゃん! 今、バット(ハルバード)を振るったー!!」
炎獄のハルバードを豪快にフルスイング。
狙いは亜種ゴブリン――の持っている盾そのもの。
「ギャ、ゴッ!?」
ジェット噴射するハルバードの一撃を盾で防御した亜種ゴブリン。
盾は大きく凹みはしたものの、その頑丈さで持ち主を守った。
一瞬、口元をニヤリと歪める亜種ゴブリン。
その体はジェット噴射するハルバードの勢いによって僅かに浮き上がり、
――ゴジャッ!!
そのまますぐ後ろにあった頑丈な扉に叩き付けられ潰れた。
うっわ……自分の持ってた盾と扉の間に挟まって潰れたトマトみたく……なんまいだぶなんまいだぶ。からの、えんがっちょ。
あー、うん。あれだ。
悪は去った。今日も女冒険者の貞操は守られた。以上!
「う~ん……地下20階のボスまでは私にとって雑魚だけど、さすがに単純な力任せの攻略は通じなくなってきたな」
どこからか「思いっきり力任せで壁のシミにしてたじゃんか!?」と剣二のツッコミが時を超えて聞こえた気がするけど違うねん。
最初に出会い頭で魔法をぶっ放したんだけど、あの亜種ゴブリンが持っていた盾が想像以上に硬かったから防がれたんだよ。
たぶんソロかコンビでダンジョンに挑んだ実力が普通の冒険者はここが1つの難関になるんじゃないかなー? 今回私は2撃目にハルバードを使って力尽くで倒したけど、たぶんあの亜種ゴブリンって腰に差していた剣も使えるだろうし、1人が正面から挑んでもう1人が後ろに回り込むスタイルを取っても剣と盾両方を使って対処出来たんだろうな。
そうなると地下10階ボスのゴーレムって想像以上に優しい仕様だったのかも。
如何にも弱点ですって主張しているコアが上半身に剥き出しであったからね。初心者はどう隙を突いてコアを破壊するかが課題という。
ま、私は力任せに全身粉々に吹っ飛ばしたんだけど。
敢えて言おう――“暴力は全てを解決する!!”
うん。間違っても正義の味方側が言ったらいけない言葉だな。
ちなみに、私が隙をつくでもなく亜種ゴブリンの盾を狙ったのは理由がある。
単純に対処するだけなら魔法で何も問題なかったんだ。
規模の大きい炎で丸焼きにする。氷漬けの氷像にしてしまう。足下からの土槍で串刺しにする。風魔法で浮かせてバランスを崩したところを突く。パッと思いついただけでもこんだけある。
だが思い出して欲しい。
ここはまだまだ上層。中層までにどれだけ早く、効率的に辿り着くかもダンジョンに挑む冒険者にとっての課題になる。
そこで余計な手間と時間を掛けず、最低限の魔力消費だけ亜種ゴブリンを倒すにはどうすればいいのか考えてみた。
最初に思いついたのは、真下から土槍で串刺しにする方法。
これはこれで確実なんだけど、僅かにタイムロスが発生する。
というのも、真正面から魔法を放つならともかく相手の真下から魔法を発動するのって、最初に発動場所の指定をしなくちゃいけないから面倒なんだ。しかも僅かでも相手が異変に気付いたら急所を外してくる可能性もあるから魔法の構築・発動は瞬時にしなくちゃダメで、素早く仕留めようと思えばその分消費魔力も僅かに上がる。
このことはレーヴァテイン王国にいた頃、宮廷魔道士なんて職に就いていたニコラさん教わったことの1つだ。
一定水準以上の実力者は魔法行使の兆候などをスキルを持っていなくても察知したり、直感で事前回避するから注意が必要。真下からの土系魔法の攻撃は便利だけど、あくまで手札の1つに留めておくべきだとも。
なので別の方法を考え――ふと思った。
あれ? 盾は頑丈そうだけど、亜種ゴブリン本体は普通のゴブリンと防御力にそんな差は無さそうだな、と。
あれ? 後ろの扉を背に盾を構えているけど、扉との距離が近いし、その扉は随分頑丈な作りに見えるなー、と。
思いついたら即行動。
敢えて亜種ゴブリンが盾を構えられるよう大ぶりの一撃を入れてみた。
吹き飛ばす、というよりも押し出すように。
体が浮きやすいようわざと少し下方向からの攻撃を。
結果が目の前の惨状よ。
よし、攻略法『サンドイッチ』と名付けよう。
ここに来るまでで随分時間掛かったし、いい加減帰ろう。帰ってメシ食って風呂入って寝よう。
余談だが、後日ステラと朝食のサンドイッチを食べている時にこの時のことを思い出したので話したところ、「何でこのタイミングで聞かせるんですか……?」と静かにキレられた。近くにいたリルが耳をぺたんと折りたたみ震えてた。私は即土下座した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふいぃ~疲れた~やっと外だよ~」
あれからまた走ってダンジョンの出入り口まで戻ってきた。
調べた限りだと地下30階と31階の間の地点に出入り口付近へと戻ることが出来る転移陣的なモノがあるらしいけど、そこまで到達してないから20階層分の移動をまたする羽目になったよ。ダンジョン初心者に厳しいぜ。
帰る途中で地下20階に行くまでの間に出会った何組もの冒険者と再び会ったけど、最低限の挨拶だけでゆっくり視線を逸らされた。解せぬ。
とりあえず受付の方で帰還報告はしておいたのであとは宿屋に向かうだけだ。
せっかくだからレイブンさんがまだいたら挨拶だけでもしておこうと思ったけど、どうやら今日は早退したらしくすでにいない模様。残念。
ゲートを潜ってさぁ宿屋へ!と足を進めれば予想外の人物が。
「リル?」
「ん。ユキナ、お疲れ」
なぜかリルがポツンと1人で立っていた。
どうやらゲートを潜って帰ろうとする私を待っていたみたいだけど……
「何かあった? ステラは?」
どうもリルのテンションが低い。
基本、子供特有の元気さを見慣れているだけに違和感がすごいある。
一瞬、魔王教団関連でステラの身に何かあったのかと嫌な想像がよぎったけど、私には称号:絆の救世主があるから、2人の身にもしもがあれば気付くはず。リルも急を要するような切羽詰まった雰囲気じゃないしね。じゃあ一体どうしたのって話だけど。
「うん。ちょっと。……こっち」
「…………あ! ちょい待ちっての!?」
とぼとぼと歩きだすリル。
その後ろを慌てて追い掛ける。
数多くの店を過ぎ、ギルドを過ぎ、宿屋のある地域まで過ぎて、いい加減どこに行こうとしているのか聞こうとして――目的地に着いたらしい。
「え? ここ?」
帝都の外れに近い場所にある、ぶっちゃけスラム街一歩手前みたいな場所だった。どんどん人がいなくなって辺りが汚ったねーと思ってたら……
「! ユキナ様……」
ステラ発見。
特にケガしている様子もない。代わりにどうにも苦しそうな、もしくは悲しそうな顔をしていた。
「お、ステラ。ちーっす。一体どうしたのさ? リルは元気ない……し……」
ステラに近づき、壁とステラの影になって気付かなかったものが目に入り――大体の事情を把握した。あー、確かにコレは2人にはキツイわ。私でさえ一気に気持ちがマリアナ海溝並みに沈んだもん。
「「「………………」」」
そこにいたのは男女合わせ数人の子供たち。
着ている服はそこまですり減っていないけど、着ている本人たちの体同様に汚れている。その体も子供にしては痩せ細っており、正直見ているだけで辛い。何よりも目が半分死んでいる。完全に死んでいるよりはマシだけど、スラム街で意外と逞しく生きている子供の目でないことは確かだろう。
こういうのは現代日本で生きてきた私も疎いけど、ここ数ヶ月の間で何かがあったんだと予想ができる。普通の生活から一転、ドン底に落とされた子の目だ。
「……ステラ、この子たちは?」
「私も、まだ詳しくは……。ただ、少しだけ話せて分かったことは、数ヶ月前までダンジョンの中層を主な活動拠点にしていた大規模冒険者パーティーの子供たちだということです。そして、パーティー全員がダンジョンで全滅したらしいとも……」
……私は天を仰いだ。
なるほどね。ここで繋がってくるのか。
まるで物語の登場人物がフラグを回収したような気分だ。
ただし、内容は心から胸くそ悪いけど。
「……恨みますよ、レイブンさん」
アンタが言ってた全滅した大規模冒険者パーティーって、十中八九この子たちの親じゃん。この子たちの現状知っていんのかよ?
祝100話でやる内容じゃねえ……
しゃーないんですよ。4章の前編、実際に書いてみたら予定とどんどんズレていくんです。
それはそれとして、感想が無いと寂しいですね……




