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第87話 狩人の仮面

・2024/07/28

 一部修正


 最後に残った部隊は幹部と思わしき人物に5人の付き添いという形だ。他より遅れて来たのは情報収集のためか、はたまた部下を使い捨てにする奴なのか……

 罠地帯を更地にした攻撃の正体は謎だが、正面から堂々と戦う予定はない。少なくとも最初の内は。


「ふぅー! ふぅー!」


「リル、落ち着いて息を整えろ。勝てるもんも勝てないぞ」


「……うん。これで、全部、キまる……!」


 私とリルは聖獣の森の中央から離れ、幹部の進行方向数キロ先で待機している。ユニークスキルとかが無ければ気付かれない範囲だ。

 何よりリルが少し興奮状態なんで、時間ギリギリまでに落ち着かせたかった。


 気持ちは分からないでもない。

 事前に説明はしていたけど、今回戦うことになる魔王教団の幹部――狩人の仮面さえ倒すことができれば、しばらくの間は聖獣の森に手出しすることができないと思われるから。


 【ヘルプ】が上手く機能しないせいで魔王教団に幹部が何人いるのか知らんが、1人でも欠損が出れば人的大損害のはず。

 なら、ここで確実に首を取れば聖獣の森に直接手を下すのを躊躇わせることだって可能だ。


 それに状況次第だけど、幹部を倒せば【ヘルプ】が正常に機能して警備隊の中にいる協力者の情報が手に入るかもしれない。王国じゃ“雷の仮面”を(意図せず)倒したあとで事の詳細が分かった。そうすれば魔王教団はせっかくの協力者を失うこととなり、余計手出しできなくなる。



 つまり、聖獣の森の今後は私らの手に掛かっている。

 リルにはそのプレッシャーものし掛かっているんだろう。自分の育った森の未来が今夜決まるんだから。


(本当なら、子供にそんなん背負わせたくないけどなぁ……)


 森の中での戦闘でリルを外すことはできない。

 何より本人が蚊帳の外になることを認めないから。


「ステラ、スキルは問題なし?」


 私は『テレパシー』でステラと連絡を取る。


『はい。ユニークスキルはユキナ様とリルさんに対して発動されています』


「了解。大ケガ負った時は頼む。特にリル」


『了解いたしました。……あの、ユキナ様』


 そこでステラの言葉がいったん途切れる。


『……状況を理解していますから“無茶をしないで”とは言いません。たくさんキズだらけになってもいいです。私が責任を持って治します。だから、だから……! ――絶対に生きて帰ってきてください!! 約束ですよ!!』


「……ふふ。任せとけ。約束だ」


 学校行事の待ち合わせと集合時間以外で、約束を破ったことはない。

 リルと一緒に笑って帰ってきてやんよ。


 それから潜伏することしばらく。


 森の奥へ避難させた聖獣たちが戦闘に巻き込まれるかもしれん範囲まで、ついに幹部たちが来たっぽい。

 いや、聖獣たちからしたら十分過ぎるくらい安全圏内なんだけど、本気で戦ったらどこまで被害が出るか予想つかないんだよな。戦いながら長距離の追いかけっこに発展する場合もありえるし。


「いい、リル? ガチ戦闘になったら指示も出しにくいから、これだけ覚えて。私が幹部の相手、リルが他5人の相手。勝つこと前提に動いて状況見て自己判断。……そして、もしもの時は逃げろ。私が時間を稼ぐから」


 『テレパシー』の対象はリルに戻した。戦闘中に連係を取る時に大きなアドバンテージとなるからね。

 爺さんには空からの監視で負け戦になりそうなら、すぐ私らを迎える準備をするよう言った。

 負けちゃった時のことは……また考えよう。


「……ユキナ、シなない、よな?」


「なーに心配してんの? あったり前でしょ」


 私が死んだらステラが泣くっつーの。

 だけど、命がけの戦いの時は“もしも”を先に考えないと咄嗟に動けない。負けた時の優先順位トップは“リルを逃がす”だ。次点が“私と一緒に逃げる”。


「私のこと死なせたくないなら、自分の限界超えるぐらいでいろ」


「ゲンカイをコえる?」


 おっと、リルが知らない言葉だったか。

 あー何て説明しよ? えーと、えーと……


「今よりすごい女子力でがんばるってこと」


「分かった! 考えるより先に感じながらタオすんだな!」


「そうそ――ん?」


 あれ? 私の知ってる女子力と違うような……?

 私、女子力のこと何て説明したっけ?


「行こうユキナ! ゼッタイに勝つ!!」


「あ、はい――って、先に行くなアホ!?」


 リルがやる気十分で先陣を切ったので、慌てて追いかける。


「オマエが先に行っても意味ないだろが!」


「考えるより、先に体が動いた! 女子力!」


「それ女子力違う! リルのは脳筋!」


 あーもう! 結構走ったから幹部たちが【探知】の範囲に入っちゃった! 多分向こうも気付いてるよ!

 こうなったらやられる前にやってやらぁ!


「敵の位置確認! 『シューティングスター』!」


 【光系魔法LV.6】相当の技を『マルチプル』も使って発動する。


 瞬間、夜空から魔王教団のいる場所目掛けて数多の光が降り注いだ。

 それはまるで流れ星のようで、実際は殺意マシマシの数の暴力で、それが次々と魔王教団の幹部たちを襲う――はずだった。



 現実は、1つも届いていない。



(ちぃっ! 威力だけでなく手数もあるのか!?)


 光る矢だ。魔力で作られた無数の矢。

 それが地上から大量に放たれ、魔法を迎撃している。


『リル、幹部の武器は恐らく弓だ。直線に立つのだけは避けろ!』


『分かった! ジグザグ走り!』


 そしてとうとう、お互い目視できるだろう距離にまで近づいた。

 すでに魔法は打ち止めだ。地味に魔力喰うんだよアレ。



 幹部がどんな奴だと拝もうとして……異変に気付く。



(姿が……見えない?)


 そんなはずはない。

 現に『探知』では数十メートル先に複数の人間の反応がある。なのに、どこを見たって影も形もない。


 と、突然の【危機察知】!


「ぐえっ!?」


 咄嗟の判断で近くにいたリルの首根っこを掴んでその場から飛び退けば、何もないはずの空間からいくつものナイフが飛んできた!

 ナイフは私らがいた場所を空しく通り過ぎる。


「【ヘルプ】!」



『〈姿の見えない敵〉……幹部が迷彩魔道具を使用している』



 そんな魔道具あるの!? 光学迷彩かよ!?


『ユキナ! あそこから、匂いと音する! 見えないけど、何かいる! アイツらか!? 攻撃していいか!?』


『確実にいるからやっちまうぞ! 『バリアー』展開!』


 私らの前方――正確には幹部がいると思わしき場所の手前に『バリアー』を展開して攻撃の邪魔をする。幹部の力ならすぐに破壊されるかもしれないけど、数秒持てばいい。


「『加速』!」


 『加速』というスキルによって、リルがロケットみたいに飛び出す。

 しかも『立体起動』と『空間把握』によって木から木へと、予想外の動きで距離を詰めていた。同じ高速の移動でも、ただ木を盾にするようにして近づく私とはえらい違いだ。


 見えない敵も再び攻撃しようとして、私が張った障壁に邪魔される。

 ……ナイフ程度じゃ壊れねぇぞ『バリアー』は。


 ああ……だけどやっぱり、



「……装填。『戦技・障壁貫通矢』」



 パリィンッ!と、ガラスが割れるような音と共に邪魔をしていた『バリアー』が砕け、鋭く尖った矢がリルに肉薄する。

 その矢は直線に飛んでいたはずなのに、リルに近づいた途端、その軌道を不自然に変えて幼さが残る顔を狙い――


「――!? ガブッ!」


 当たる直前で顔を逸らして、そのまま矢を横から齧りついた!

 んでもって、そのまま噛み砕いた!?


「リルすごっ!?」


 驚いて目が点になるけど、ついに攻撃範囲に入った!



「「戦技……!」」



 私は取り出したハルバートで突く構えを、リルは腕を勢いよく突き出す構えを、それぞれ見えない敵に向ける。



「――『閃光槍』!」



「――『流天嵐爪』!」



 ハルバートからは中距離にまで届く光の槍が、リルの突き出した爪からは斬撃効果のある小型の竜巻が飛び出す。

 2つの攻撃は見えない敵がいるだろう場所へと吸い込まれていき……轟音を辺りに響かせた。


(手応えはあったけど、あの程度で倒せるわけないよな)


 粉塵と一緒に風に乗って、魔道具に使われるような不思議な色合いをした布切れが舞っている。あれが迷彩効果のある魔道具(成れの果て)か?


「ヤったか!?」


「あ、バカ! フラグ立てるな!」


 リルが戦闘中に絶対言ったらダメなセリフ歴代№1のものを言ってしまった! そのセリフ言ったら、確実に相手は無事なんだよ!!



「あぁ、いいな。オマエら。狩りでがありそうだ」



 粉塵が晴れて複数の人影が姿を現した。

 ほらあああああっ! だからフラグ立てちゃダメなのにいいいいい!


 そいつは攻撃を受けたばかりなのに、ケロッとしていた。


「初めまして、とでも言っておこうか」


 後ろに無表情の黒ずくめ5人を従えて、律儀に挨拶してくる。


「先程までの前哨戦で簡単に倒れてくれなくてオレは嬉しい。ここ数日の“飢え”も満たされるかもしれん」


 同じ幹部でも蛇のオッサンとは全く雰囲気が違う。


 弓が描かれた仮面のせいで表情は見えない。だけど、これから起こる戦いに歓喜しているのが分かる。


「では、改めて始めよう」


 服装は動きやすい、効率的に考えられた迷彩柄のデザインで、複数の道具が見え隠れしていた。

 何よりも目を引くのは、全長が1メートルもあろうかという大きさの剛弓だった。ただの弓というわけもなく、その形状から間違いなく魔道具だと窺える。たぶん私の『炎獄のハルバート』と同じく国宝級の品。


「ハンティングの本番を……!」


 幹部から漏れ出す殺気に、私は、


【数日前】


リル( ゜д゜)「ユキナがたまに言う、“女子力”て何だ?」


雪菜(;゜д゜) 「料理中に唐突だな。ん~と……女が考えずとも行動できるようになる極地というか、誰もが理想とする女性の象徴とい――ヤベッ!? 肉焦げた! あーだからさ、えっと、乙女のロードを妨げる奴をぶっ飛ばすパワーだよ!!(わたわた)」


リル( ゜∀゜)「なるほど分かったぞ!」


ステラ(;><)「分からないでください!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 女子力?それステラの事じゃね?
[良い点] 相変わらず、いざというときに、働かない、ヘルプさんですね。 フラグは、キチンと守ってくれる。 [一言] 女子力は、おっさんには、難しい。
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