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第84話 自然の光

・2024/07/13

 一部修正


「外って……フシギ、だなー」


 タオルで汗を拭いていると、リルが呟いた。


「不思議って、何がです?」


「知らないこと、いっぱい。リルは、ブキも、戦いかたも、何もかも……初めて、だった。ユキナの作るリョウリ、すごくオイシかった。だから、森の外、気になる。見たいモノ、たくさんだ」


「そうですね。私も、初めてのことで世界はいっぱいですから。これからユキナ様とご一緒に他の国を回って、たくさん見て、経験して、自分の糧にするのです」


「……リルは森の外に広がる世界に興味あるのか?」


 それは、リルにとって大きな前進だったのかもしれん。

 本人はただ漠然と思い浮かんだことを口にしているだけかもしれないが、ずっと森の中での暮らしが当たり前だった子供が森の外に興味を持つということは、言った本人が思っている以上にすごいことだ。


「ある、けど……コワい」


「まあ、そうだよなー」


 それが普通だ。リルは何もおかしくない。

 むしろ、その考えに行き着いたことは成長している証拠だ。


 “興味”と“恐怖”はコインの表裏みたく、常に一緒にある感情。知りたいけどそこに行き着くまでが怖い、その気持ちは私だって経験した。



 レンタルビデオ屋の『18禁』のれんの奥で。



 当時、小学4年生だった私。特に何か借りようとは思わなかったけど、興味本位でTS〇TAYAの中を見学。そこそこ楽しむ。

 そこに突如として現れた謎ののれん!

 何故18歳未満は禁止なのか、純情な10歳だった――純粋無垢な10歳だった私! は不思議で仕方なかった。

 葛藤すること数分、周囲に人がいないのを入念に確認し「ちょっと覗くだけなら事故だよね~」とごまかしつつ、のれんの奥へ顔を突っ込んだ。



 気付いたら家に帰ってたよ。



 はい。やけに肌色が多かった記憶しかございません。

 次の日の学校で『奇声を上げながら爆走する白い女』の怪談が話題になり、全員が私のことガン見してたけど、きっと人違いだろう。

 知らんと言ったら知らん。言い切ったもん勝ちだ。


「難しい話はあとにしよ。まずはメシだメシ」


「昨日の茶色いのか!?」


 リルが飛び起きた。お目々に星がキラキラと輝いてる!

 だが、現実はいつも非情だ。


「残念。ストックしたのはオメェが全部食べた。もう無い」


 ビキッ!と石化したように固まるリル(約10歳)。瞳孔開いたまま目から光が無くなっていく。

 どんだけカレー食べれないことに絶望してんのさ!?


「リルさん、どうされたんですか!? 今すぐ治療を!」


「無駄だステラ。リルは……不治の病だ」


 食いしん坊キャラという名の。


「……別の同じぐらい美味しい料理あるんだけど……食べる?」


「食べる!!」


 目に輝きが戻った。復活早っ!? てか、チョロい!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 夜。世話になってるお礼に、龍の爺さんへ家をプレゼント。


「つーわけで、数十分ほどその中にいてください。……許可無く出たら処す。中に明かりとお菓子は用意したんで適当に過ごして」


「どういうわけなんじゃ!?」


 【土系魔法】で作った一軒建ての平屋『ドラゴンホイホイ』。

 建物自体は薄い黄色で、屋根は明るい赤のペンキで塗装した。外には植木(長方形のやつ。その辺に生えてた草を適当に移植)を、玄関には靴についた汚れを落とすための足拭きマットをセット。外観が寂しいので水色に塗った窓(偽物)を取り付けてみました。ちなみにこの窓、押しても引いても開きません




 日本人だったら顔を引きつらせる家だよねー。

 はい。嫌がらせ100%ですが、何か?




「爺さんのデリカシーが足りないのが原因なんじゃい」


 日中、訓練をして汗をかいた私たち。

 午前だけではなんだと、午後には私とステラで模擬戦をした。基本ステラは防御したり新スキルの調整をするぐらいだったが、近いうちに起こるだろう魔王教団との戦いでは“せめてサポートだけでも万全にしたい”と本気で自分を高めようとしていた。


 実際、ステラは防御・補助特化のスキル構成だ。

 戦闘では私とリルしか戦闘要員がいないから、すごく助かる。特にリルはケガとかたくさんしそうだしね。


 そんなこんなで疲れ果て、汗まみれになるとやっぱり臭いとか気になるのが女子。昨日は早い段階でベッドに入ったから、水浴びするどころか体を拭くこともできずにいたんで気持ち悪い。今日はもう湖でさっぱりして寝たい!


 てなわけで準備してたら爺さんは、



「ワシのことは気にせずリルと仲良く水浴びするといい」



 ――って言いましたとさ。


「アホか! アンタが気にしなくても私らが気にすんだよ! 子供以外に乙女の肌を見せてたまるかってんだ!!」


 このジジイ、ナチュラルに堂々覗き見しようとしてたよ!


「ほら、さっさと入れ! 私たちが着替えるまで出てくんな! せめてもの情けで粘着シートは付けなかったんだから感謝しろ!」


「粘着シートって何じゃ!? これ家じゃよね!?」



「 と っ と と 入 れ !! 」



 嫌がる爺さんを無理矢理押し込み、ドアにデカいカンヌキを掛ける。鍵付きドアは作れなかったけど、これで十分っしょ。


「ユキナー、シタクできたぞー! ……あれ? 爺さまは?」


「プレゼントした家の様子見るってさ。私らが水浴びを終える頃には出てくるよ」


「そうか、分かった!」


 どっかからか「分からんでくれ、リルよ!?」と聞こえた気がしたが、きっと気のせい。リルが爺さんのいる家を見ながら獣耳をピクピクさせてるんで、湖の方まで押していく。

 リルー? 今キミが聞いているのは幻聴だよー?



 そして、ようやく水浴びタイムだ!



「ッハーーー! さっぱりするー!」


「気持ちいいですねぇ」


 お互いに桶で汲んだ水を頭から被る。

 私もステラも裸だが気にしない。リリィとの洗いっこや長期依頼で一緒になった女性冒険者との体拭きで、裸を見るのも見られるのも慣れたからな。異世界転移して初めてのシャワーで赤面していた頃が懐かしい。


「みっずあっびっだーーー!!」



――ドッボォオオオオオオオオオンッ!!



 私らと同じくスッポンポンになったリルが湖に勢いよくダイブ!

 大量の水が顔面に直撃! ステラは「わぷっ」だけで済んでいるけど、ちょうど息吸うところだった私は「ゴボヘッ!?」となる!


「ゴッホゴッホ! リ~~~ル~~~!」


「アハハ! ユキナ、変なカオ!」


「もうリルさん、水浴びで飛び込んじゃダメですよ?」


 許せん! 仕返しなのだーーー!

 ボディソープ用意! シャンプー用意! 突撃&拘束!


「わー!? 何するー!」


「このやろコイツめ、倍返しだぜ。……ふっふっふー、初めて見た時からずっと気になってたんだ。オメェ、普段から水浴びとかあんまりせずに適当に済ませてるだろ? 子供なのに肌は荒れてるし、髪がボサボサすぎるんだよ! 徹底洗浄してやる!」


 最低限の綺麗さは必要だ。あと、少し匂いがキツいんだよ!


 幸いにもこの湖はかなりの浄化作用があるらしく(爺さん談)、生物もいないため洗剤系を垂れ流しても平気だと言っていた。

 ボディソープもシャンプーも全部使い切る勢いで洗い尽くしてくれようぞ! モフモフのフワフワを我が手にぃ!!


「まずは徹底的に表面の汚れを落としましょう~。ワシャワッシャ~っと」


「アハハハ! くすぐったいぞ! やめてーーー!」


 ボディソープを付けたスポンジがすごい勢いで汚れていく!

 新品なのに!? 全部洗い終わった頃には劇的ビフォーでアフターなことになってそうだ。


「こうなりゃヤケだ。使い潰す気で――ん?」


 洗ってる最中、違和感を感じる。すかさず違和感のある場所を確認。


「リル、ちょっと失礼。すぐ終わる」


「何だ? お腹か足に何か、ついてるのか?」


 私の方に体を向けさせ、ある一点を確認。……で、






「!!!!!???」






 ここでビックリ仰天の新事実が!


「ステラ隊長!! 大変でありますぅ!!」


「はい? た、隊長? ユキナ様、一体どうしたので……」


 何で今まで気付かなかったのか……

 そう。リルは、リルは……!




「リルは女の子でした!! チ〇コがありません!!」




 カワイイ象さんがどこにもいない! 最初から無かったんだ!


「な、何を言っているのですかユキナ様ぁ!? ち、ちん……その、アレだなんて、もう少し言葉をお選びください!」


 顔を赤くしてワタワタするステラ。そうは言ってもなぁ……


「えっとー、じゃあ……お〇んちん?」


「丁寧に言えばいいというものではありません!」


 ステラは純情だなー。

 リルくらいの年齢までのチ〇コだったら、まだギリで可愛らしく思えるじゃん? 私なんて聖国の地下室で培養液オークのを見ちまったんだぞ? あれに比べたら微笑ましいもんだって。


「? ? ? チン〇無いと、何か大変なのか?」


「別に。強いて言うなら……女の子なんだし、少しでも綺麗にしといた方がいいってこと。つーことで洗浄再開じゃ!」


「わぁあーーー!?」


 驚いたことはあったけど……やっぱ洗いっこは楽しいな。

 ……リリィ、元気だといいなぁ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――てなわけで、爺さんはギルティ!」


「だから! どういうわけなんじゃって!?」


 そりゃ、リルが女の子なのに綺麗にする努力を怠った罪だよ? 龍だからか、その辺の論理感が足りないなー。


「うわぁ、うわあー♪ リルさんの尻尾、モフモフですねぇ。ユキナ様が夢中になるのも分かります。こう、いつまでも触っていたいと言いますか……」


「………………」


 近くでは目を輝かせるステラと、逆に目から輝きが失われつつあるモフモフのフワフワになったリルが座り込んでいる。


 念入りに洗い、櫛とドライヤーで乾かしたリルは想像以上のモフモフに生まれ変わったのだ。

 洗いに洗い全ての汚れを落として、飽きるまでモフられたリル本人は精根尽きたように真っ白になったけどね。


 うむ。良いモフであった。

 耳も中々だが、やはり尻尾のモフモフがモフモフでモフフフフフ……

 ハッ!? 一瞬意識がモフモフに飲まれるところした!


「にしても、随分暗くなったな。警戒のためにもまだ寝るのは早いだろうし、何か明かりになる物でも出すか」


 モフな思考を切り替えるため、明かりについて考える。

 実際、月と湖から出る淡い光だけだとまだ暗いんよ。


「心配はいらん。昨日は早い段階で皆寝てしまったので見れていなかったが、明かりならそろそろ点く頃じゃ」


「そろそろ点くって……」


 どこにそんな光源があるんだと聞こうとして――すぐに分かった。



 周りの至る所に生えている花が一斉に光り出したから。



「これって、もしかして全部“月光花”!?」


「キレイですね。夜にユキナ様と見たいと思ったまま忘れていましたが……これ程までに多いと、もう言葉もありませんね」


「爺さま、リルのために植えた、言っていた!」


 ステラが私の隣に立ち、リルが爺さんに抱きつく。

 そして4人でその光景を見る。月明かりに照らされ、大量に光る花々と、淡く光る湖、その光を受け止める世界樹(プラス爺さんの本体)を。


 ふと、爺さんと抱きついているリルを見て、昨日感じたどこかで見たことがあるような光景の正体が分かった。



(あぁ、そっか。古本屋の爺さんと……私だ)



 初めて会って、しばらくしてから心を開いて、それで一緒にいるだけで安心するようになって……救われた。

 あの2人の心の近さと親密さを見て、私と古本屋の爺さんを無意識に重ねてたんだろうなぁ……


 気付けば、目から頬を温かいものが流れていた。


「ユキナ様? 泣いておられるのですか?」


「いや、うん。懐かしいことを思い出しちゃって」



 今更だけど後悔する。

 せめて、古本屋の爺さんにだけはお別れを言いたかったって。



 せめて、これだけは伝えたい。

 アナタと出会えて、私は幸せですって。



「……リル、爺さんのことは……好き?」


「ん? もちろん! 大好きだぞ!」


「……そっか。そうだよね」


 壊しちゃいけないんだ。殺させてなるもんか。


 みんなで乗り越えて、またこの光景を見るんだ。




「……何1つ奪わせないぞ、魔王教団」





雪菜「どう? 私の幼き日の興味と恐怖の体験談は?」


ヘルプ「リル関連のいい話を台無しにしたこと謝れ」




『ゴ〇ブリホイホイ』で探索したらダメだぞ! 作者との約束だ!


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