第82話 同郷の先輩と時越えの狼
いわゆる説明回。
・2024/07/13
一部修正
言い訳中ナウ。
「……話は分かった。ユニコーンたちに不快な思いをされたようで申し訳ない――いや、本当に駄馬と言ってもいいなアヤツら。なぜ聖獣の森からあんなものが生まれたのか、ワシでも理解できん。というより、したくないわい」
爺さんでも不快らしい。
森の主なのに駄馬共に関しては投げやりだった。
話の内容がアレなんで、純粋なステラと子供の狼っ子には一緒に転移していたのに睡眠中だったせいで空気と化してた松風の餌やりをお願いしておいた。
あんな下品な内容、とてもじゃないが言えません!
「それでは話してくれませんか。アナタのこと、そして……数百年前の転移者である剣二との関係を」
この爺さんが龍――それもエンシェント・ドラゴンなんて存在なのはいい。いや、本当は全然良くないんだけど。
でも、そんな爺さんを慕うリルと呼ばれた狼っ子、そして異世界転移者の先輩であり初代レーヴァテイン王国の国王でもあった剣二、この2人のことは聞かないといけないだろう。
「構わん。剣二からも同郷の者が来た際はよろしくと言われておる」
王国でのことといい、アフターフォローの手際がいいな剣二。
私も一息ついたら今後似たようなことするのもいいかも?
「ワシは大昔から生きてる龍での。同族はもうワシしか残っとらん。永い時間の中で、まあ、いろいろあり、この森で静かに暮らすこととした訳じゃ。ハッキリいってどれほど昔から生きているのかは、さすがに覚えていない」
「いや、生きてるって……アレで?」
狼っ子が「爺さま」と言っていた、世界樹(?)なる木と同化している龍らしきものを指さす。
「アレは体を仮死状態にすることで半永久的に意識を保てるようにしただけじゃ。それよりも、先程から質問してこないが人の形をしたワシが何なのか聞いてこないの。気にならないのか? 真っ先に聞いてくると思ったが……」
「分体でしょ。スキルを使って作られた仮初めの体」
ゲームだとアバターとも言われてるな。
ラノベで似たような設定があったわ。自我が別に芽生えるケースもあるけど、この爺さんは当人(当龍?)でしょ。
「……剣二と一緒でやけに理解が早いのー」
「多少は趣味が似てたっぽいんで。どっちかっていうと気になったのは姿と年齢が比例しているかってことぐらいかな」
「ああ、見た目のことか。若いイケイケな時代はとうに過ぎておったから、1番しっくりくる老人の姿にしたんじゃよ」
「あの木に養分吸われて干からびたわけじゃなかったのか」
「雪菜よ。それはさすがに失礼じゃぞ?」
さーせん。
「まあ、剣二と同じで裏表がないのはいいことじゃろうて」
「それそれ。いつ剣二と――私と同じ異世界転移者にあったの?」
剣二も聖獣の森に何か用事で来たってことだろ?
「ワシが剣二と初めて会ったのは彼が冒険者になって1年もしていない頃。その日、随分と森が騒がしいと思って様子を見に行けば、金目当てのクズをボロ雑巾のようにしている剣二たちがいたのじゃ。その時代、たまにくるそういう輩には困っておったからスッキリしたわい」
――私と似たことしてたんだな剣二。
当時は事情が違うとはいえ、初っぱなから聖獣の森で戦闘してたんかい。
あれ? 剣二たち……?
「剣二1人じゃなかったんですか? お仲間?」
「らしいぞ。名は確か……“アリス”と言っていたな。金髪碧眼の美しい少女だった。あのステラという子と違って気は強かったが」
――私と似た仲間がいたのか剣二。
てかすごい偶然だな。ここまで話の大筋は一緒やん。
異世界冒険のテンプレ踏んで美少女の仲間をゲットしていたのか……。んん? “アリス”? あれ、どっかで聞いた名前だな? どこだっけ?
「森に来た理由を尋ねたところ、奇病に掛かった重病人がいるとの話でな。薬の材料になる植物を探しに来たらしかった」
――私と似たような理由で森に来たんだな剣二。
「話を聞いている最中、アリスを狙って近くにいたユニコーンが集まってなあ。不穏なモノを感じ取ったのかユニコーンの生態を聞いてきたので教えたら『この駄馬共が! アリスから離れろ!』と軽くキレておった」
――私とキレた相手が一緒だな剣二。よくやった!
「ま、その後は比較的穏便に話し合って、この場所に招いて一夜を明かした。じゃが……くくくっ。ワシが森の主だと分かった瞬間に『これにはマリアナ海溝より深いわけがあるんですよ~』と言い訳を始めてな。その姿は雪菜と瓜二つじゃったぞ? 結局、“マリアナ海溝”が何かは最後まで分からなかったが」
――私と同じ言い訳の始め方だな剣二。
「世界樹を見て『東京タワーにケンカ売ってる』とも言っておった」
――私と……同じ感想だなぁ……
「ワシが龍だと知った時の反応も瓜二つじゃった」
――私と同じ…………って、ちょっと待てよおい!?
「さっきから私と剣二の経緯・反応・感想、9割方おんなじやないっっっすか!! 作り話ですよね? ねえ!?」
「本当じゃって。まるで剣二と再会したようで嬉しいわい」
それってつまり私と剣二の思考回路が一緒ってことじゃんか!
私は女で剣二は男だぞ! 異議を申し立てる!
「次に会ったのは数年後。……その時のことはワシと剣二の約束の件があるのでな、詳細は聞かんでくれ」
約束? 気になるところだけど……爺さんの表情から何か深いものを感じた。踏み入って聞くべきことはしない方がよさそう。
「でな? 3回目、実質最後の剣二との出会いがリルに関わってきての」
「え? そこから?」
予想以上に昔だよね? 数世紀は前のことっすよね?
「もう人間で言えばいいオッサンと呼ばれる年になった剣二が突然尋ねてきてのう……その腕に赤子のリルを抱えて――」
「ちょい待て爺さん」
いったん話をストップさせ、ステラと松風と共にいる狼っ子ことリルをまじまじ観察する。
……うん。どうみても子供だな。自称たぶん10歳らしいし?
「…………ボケたか爺さん?」
ヤベ、つい本音が。私は悪くないぞ。
「龍にボケなぞない。本当の話じゃ。どうしたのかと聞けば、ワシの持つ【時空系魔法】を頼って来たと。生まれて間もないリルという赤ん坊を、ワシの力で戦争のない平和な時代まで時を止めてくれと。亡くなったリルの両親の死に際の願いだったと……」
「【時空系魔法】で時を……? ちょっ、それって!?」
「そうじゃ。リルが生まれたのは剣二と同じ時代。赤子1人ぐらいだったら何とかなったで、10年前までの数百年間をリルは全ての時が止まった状態で生きてきた。本来なら雪菜と会うことなぞ絶対に不可能だった」
「剣二と同じ時代の……だからか」
ようやく納得がいった。
不思議だったんだ。聖獣の森は各国によって厳重に管理されているのに、どうやって小さな子供が入ることができたのか。
簡単な話だ。そもそも侵入していない。
国によって管理されるより前に剣二が連れてきたから。世間知らずに思えたのも当たり前だった。ここに来たのは赤ん坊の時で、10年も森で暮らしたんだから。
「あの狼っ子は、ある意味過去から来たことになるのか……」
つまりそれは、もうあの子のことを知る人物はこの森の外にはいない可能性が非常に高いってこと。
エルフのような長寿種族ならワンチャンあるかもしれないけど、望みは薄い。
【ヘルプ】の力ならあの子が生まれた場所も、親戚筋の子孫がいるならその人がどこにいるかも分かるだろう。
でも、何の意味もないんだろうなぁ……
時が動き出してからの10年間、聖獣の森で暮らしていた狼っ子。外に出たこともないんだろう。知っているのは森に住む数多の聖獣と龍の爺さん、それに時々来る調査隊を遠目で。狼っ子にとって、それが全てのはずだ。
今更、故郷や未来の親戚どうこうと言ったところでピンと来ないだろう。私だって「ああ、そうっすか」となる。
そのあとも細かいところを爺さんから聞いた。
剣二に赤子の狼っ子を託されてから、分体を使って数年おきに外で世界の情勢を調べたこと。100年ほど前に世界から戦争が消えた辺りで、狼っ子の時間を戻すタイミングを見計らったこと。そして10年前、各国が概ね平和で戦争の兆しも見えないことから、ついに狼っ子の時間を戻して育て始めたこと。
それからはただの孫好きの爺さんのように、「リル」と名前を呼ぶと笑顔になって可愛かっただ、数年前に捨てられてたボロ着をリルに着せるようになったやら、食べてる時が1番カワイイとか、ただ狼っ子がカワイイというだけの話を延々と続け始めた。
なので、適当に右から左に流しつつ情報を整理してみる。
(だとしたら、剣二はどうしてそんなことを……)
非常に遺憾だが、剣二と私の思考回路は似ている。
私に置き換えて考えるなら、何の理由もなく狼っ子をいつになるかも分からない未来に託す理由が思い浮かばない。考えられるとすれば、狼っ子の亡くなったという両親の願いとやらだけど……
(王族なら何か知ってるか?)
直接は知らないと思う。知っていたら旅の途中で聖獣の森付近に立ち寄った時のことを考えて、爺さんや狼っ子の話をしていたはず。だけど、全く情報が無いってのも考えられない。クラリスと再会した時に聞いておこう。ついでに例の隠し部屋も調べてみよう。
なら、最後に聞くべきは……
「なあ、爺さん」
「――その時の寝た体勢にキュンとしてしま……なんじゃい」
「狼っ子が戦った黒ずくめの男たちのこと、何か知ってる?」
「……アヤツらか。以前にも突然現れ、聖獣たちを狩っていったのじゃ。それも“ハンティングゲーム”と称して。森に住む聖獣を殺され、植物を根こそぎ奪っていく姿に怒りが沸いた。本体が自由なら消し炭にしているところじゃ」
分体の爺さんは様々なスキルは使えるけど、攻撃系のスキルや魔法は使うことができないそうだ。だからこそ歯痒かった。
でも、もっと歯痒い思いをする子がいた。――狼っ子だ。
それまで幸せに森で暮らしていた。たまに森に訪れる人も常識の範囲で植物を取り、聖獣に素材となる体の一部を譲ってもらうだけなので「そういうものなのか」と納得していた。
だが黒ずくめたちが現れ、森が荒らされ、聖獣が殺された。
当時の狼っ子は戦いなんてまるで知らなかった。知る必要がなかった。でも、奴らが現れてから必死に自分を鍛えて、メキメキと才能を開花させていったそうだ。全てはもう二度と同じ森の“仲間”を殺させないため。奴らを倒すため。
「止めようとは思った。だが、無理だった。あの子の覚悟は本物じゃ。自らの意思で行動するならワシには止められん」
戦う力が無い爺さんと違って、狼っ子には戦うための力も、才能も、鍛え上げるための時間もあった。
「アイツらはどこから? 私が見た限りじゃ警備は相当厳しかったはずですよ」
「……奴らが森を荒らした際、『時間は掛かったがついに協力者を得られた』と零しておった。つまりは、そういうことじゃろう。恐らく相当大きな組織が時間を掛けて準備してきた。森の奥で事をするのも自分たちの存在が他の者に露見するのを嫌がってじゃ。……そうなると、リルだけでなく雪菜たちの身も危ない」
警備のどこかに裏切り者がいると言う訳か。しかも大きな組織で、姿を見てしまった狼っ子・ステラ・私を始末したいと考えているかもしれない。私たちが何者かは知らなくても、自分たちのことが国に知られれば協力者も窮地に立たされる。それは避けたい。
だから殺しに来る。私たちが森を出ないよう警戒しながら確実に殺すため、精鋭や装備を充実させて。数日中に必ず。
(【ヘルプ】、黒ずくめたちの襲撃タイミングは?)
なら、先に襲撃する日にちや時間帯を知ってしまえばいい。
こういう時の【ヘルプ】の存在は間違いなくチートだ。
だが、
『〈次回襲撃詳細〉……現在“狩人の仮面”との話し合いg――ZAAAAAAAaaaaa……あrづyごぽ@phぐyf:お――ZAAAAAAAaaaaa……プツンッ! ………………スキル使用に関して外部からの干渉を確認。【ヘルプ】による回答は不可能と判断。申し訳ございません』
「これは……」
「ん? どうしたのじゃ?」
「…………爺さん、1番厄介な組織が幹部ごとお出ましみたいっすよ」
チートスキルである【ヘルプ】に干渉された。
そして唯一得られた情報が“狩人の仮面“というワード。
やっと思い出した。あの隊長と呼ばれてた奴が付けていた、顔の上半分を隠す仮面。蛇のオッサンの側近ポジだったロケットおっぱいと同じものだったんだ。
つまり、私らの命を狙ってくるだろう組織は、
「魔王教団『終末の闇』……」
どうやら今回、幹部との戦いは避けられないみたい。
雪菜「ここまで剣二と私が似てるなんて……ハッ! まさか、私は時空の歪みがどうちゃらこうちゃらで転生した、剣二の生まれ変わりじゃ!? つまり、私が残念じゃ無くて剣二が残念で、全ての元凶だったんじゃ!?」
ヘルプ「んなわけない。他人のせいにするのはやめましょう」




